第47回東京都知事杯フィールドフォーストーナメントの最終日、準決勝2試合はいずれもコールドで決着した。ほぼワンサイドとなった展開の中で、レッドサンズの大熊一煕選手(6年)がサイクル安打の偉業を達成。敗れた2チームにもまた、特筆に値する働きや存在感を示したヒーローがそれぞれにいた。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
3位小山ドラゴンズ
3位
高島エイト
■準決勝1
◇7月15日
◇スリーボンドスタジアム八王子
小山ドラゴンズ
10042=7
8141 X=14
レッドサンズ
※5回コールド
【小】横山、中村、玉田-肥沼
【レ】大熊、門田、中田-杵淵、山本
本塁打/竹澤(レ)、大熊(レ)、中田(レ)
★大熊一煕(レッドサンズ6年)がサイクル安打を達成
1回表、横山の三塁打(上)と中村の左前打(下)で小山が先制
前日の準々決勝で終盤に逆転勝ちした勢いそのままに、小山ドラゴンズが幸先よく先制した。
1回表、三番・横山翔大主将の左越え三塁打と、続く中村優護の左前打で1点。だが、その裏のマウンドに上がった左腕の横山主将が、前日とは別人のように制球が乱れてしまった。3つ目の四死球が押し出しとなって1対1、なおも無死満塁のピンチが続く。
前年度王者のレッドサンズは、この大チャンスを逃さなかった。五番の5年生・門田亮介が右へ2点二塁打、続く竹澤律志主将はレフトの頭上へ鮮やかに打ち返す2ラン。さらに打順2巡目に入って、久保俊太(5年)と大熊一煕の連続三塁打で一気に8得点と、大勢をほぼ決めた。
レッドは竹澤主将の2ラン(上)や5年生・久保(中央)の適時三塁打などで初回に8点。2回も高橋勇人(下)の三塁打から加点
守る小山は打者13人に対して、5本の長打と5四死球も、無失策だった。マウンドの背番号10には果てしなく長い1イニングだったろうが、ベンチは決して降板させなかった。思い出されるのは、試合前の総監督の談話だ。
「負けることを怖がってはいけない。子どもたちは『他のチームは変化球を投げているのに、なんでウチはダメなんですか?』と言ったりするけど、それはココ(学童野球や目の前の試合)がすべてじゃないので。真っすぐを投げて打たれたら、それを上回る力を今後つけていけばいいんじゃないの、と。スタッフでも共通の認識を持ってやっています」(小関雅弘総監督=下写真中央)
屈辱回避から快挙が
小山は2回以降、中村、玉田晴咲の順で登板。いずれも相手打線の猛威にさらされたが、真っ向勝負を続けた。また懸命にリードする正捕手の肥沼健優は盗塁を2つ阻み、左翼の守備に回った主将は強烈な打球をキャッチする美技もあった。
レッド打線は毎回安打の毎回得点。3回には大熊と中田静香の連続本塁打などで13対1までリードを広げると、4回のマウンドには門田を送った。この5年生右腕が、10点差以上のリードを保てばコールド勝ちとなる。同日の決勝戦も踏まえた起用だったと思われるが、小山打線がそこから意地を見せた。
レッドは3回、大熊(上)と中田(下)が連続ホームラン
4回表、小山は一死から五番・玉田の左前打を皮切りに、梶川元那、加藤倖規と3連打で満塁となる。ここで右打席に立った八番・肥沼は、前日は一番で起用されており、幸運もあったがランニング本塁打を放っている強打者だ。
「バッティングの調子が悪くて、フライばっかり上げちゃってたので打順を下げられました。とにかく塁に出ること。打ちたいし、打たなきゃという打席でしたけど、ボール球を打たないのは当たり前なので」
こう振り返った肥沼が、押し出し四球を選ぶと後続も続いた。九番・佐古悠誓と一番・筑川櫂に連続タイムリーが生まれて8点差に。続く5回には肥沼と筑川のタイムリーでさらに2点を返している。
小山は4回表、加藤の右前打(上)など3連打に肥沼の押し出し(中央)、筑川の2点タイムリーなどで13対5に
奇しくも、小山が4回コールドを回避したこともあって、激レアな快挙が達成されることに。4回裏、レッドの大熊が第4打席で左へクリーンヒット。これで第1打席の二塁打に始まり、三塁打、本塁打も放っていたのでサイクル安打となった。
昨夏の全国舞台も経験している右強打者の大熊は決勝戦後、「チームも自分も持っている力は出し切れました」とコメントしている(「2024注目戦士」➡こちら )
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猛烈スイング!途中出場から4回コールド阻止へ、タイムリー
さこ・ゆうせい佐古悠誓
[小山6年/右翼手]
4回表の攻撃を迎えたときのスコアは1対13。10点差のコールド負けを回避するには、少なくともこのイニングに4点が必要だった。
3連打と押し出しでまず1点、なお一死満塁で佐古悠誓が右打席へ。
「フォアボールも頭にあったけど、流れ的に打たないとなと思っていました」
結果、体はやや泳ぎながらもヘッドを効かせたスイングで三遊間を破るタイムリーに(=下写真)。この後、2点タイムリーも生まれて計4点、辛くも延命した。
「この大会も試合にはあまり出てなくて。たまに代打とかあるけど、あまり打ててなくて。今日、久しぶりに打てたので良かったです」
こう振り返った背番号2、佐古が登場したのは1回裏だった。途中から右翼の守備へ。
3回の初打席は空振り三振(=下写真)も、迷いのないフルスイングが目を引いた。速球に振り負けず、ファウルも2球。守る側とすれば、強烈な打球を想定するマン振りだった。
これほどの打者が控えなのは、チームのハイレベルが要因にあるのだろう。2018年には東京第2代表として全日本学童に初出場。今大会は5年生5人を含む18人がメンバー登録されていた。
「良いスイングはいいんですけど、バットに当たらないから…」
自虐的に話す佐古だが、日々の素振りを欠かしていないという。もちろん、マン振りだ。また試合中はベンチにいても、準備をいつも欠かしていないと語る。
「すぐ出られるようにピッチャーにタイミングを合わせたり。あとはキャッチャーで出ることもあるので、自分たちのピッチャーの様子も見ながら、いろいろ考えています」
こういう6年生もベンチにいるからこその、銅メダルではなかったか。ガチガチに小さくまとまった小学生がその後、スケールアップしていくのは困難とも言われる。だが、その逆パターンから中・高と大化けしていく選手は数知れない。
「これからも野球をします!」
小6の夏、佐古が示したスケール感と真摯な姿勢は、自らの未来を明るく照らしているようでもあった。
■準決勝2
◇7月15日
◇スリーボンドスタジアム八王子
高島エイト
00001=1
3113 X=8
船橋フェニックスA
※5回コールド
【高】平野、鈴木-滝澤
【船】高橋、吉村-竹原
本塁打/吉村(船)
1回裏、船橋の五番・吉村が左中間へ先制3ランを放つ
新チーム始動から「都内無敗」の絶対王者、船橋フェニックスが完勝した。
打線に火をつけたのは、前日の準々決勝で好投していた一番・木村心大だ。同じく前日に好投していた高島エイトの左腕・平野竜都から、いきなり左越え二塁打を放って出バナを挫いた。
その後、一死二、三塁となって四番・濱谷隆太は空振り三振。どことなく嫌なムードを、続く吉村駿里がひと振りで一掃した。カウント1-1からの3球目、バットで捉えた打球はあっという間に左中間を破っていく。これが先制のランニング3ランとなった。
高島は直後の2回表、3四球で二死満塁とするも、あと1本が出ない。5回には敵失絡みで1点を返したが、バットによるタイムリーはついに生まれなかった。
船橋は2回、松本の左前打で二走・高橋が生還(上)。3回は濱谷の三塁打(下)と吉村の二塁打で1点
船橋打線は終始、よくつながった。
2回には松本一が左前タイムリー、3回には濱谷と吉村の連続長打で加点する。4回には一番・木村が送りバント、二走の直井翔眞が三盗を決めるなど、あまりない形でチャンスを広げると、三番・竹原煌翔から六番・長谷川慎主将までの4連打などで8対0とした。
投げては先発の高橋康佑が4回1安打無失点。5回は救援した吉村が2安打1失点で、決勝進出を決めた。
4回は木村の犠打(上)などで好機を広げた船橋が、竹原(下)からの4連打で3点
「正直、今のところのチーム力通りのスコアじゃないかなと思います。でも、ウチもピッャー陣がだいぶ成長してくれましたし、彼らが卒団するまでもうちょっと頑張ろうと思います」と、高島の藤井誠一監督。1カ月前の全日本学童予選の対戦時(1対12)より、得点差も縮まっている。
高島は3回、一番・岡部が左前打から二盗(上)。二番手・鈴木(下)の球威も大会を通じて際立った
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味方も欺く!? 痛快ムードメーカー
なかざと・そうすけ仲里奏亮
[高島6年/一塁手]
アウトにならなければ走ってもOKという、暗黙の掟が高島エイトにはあるという。つまるところ、「成功率100%でないなら、ノーサインでは走るな!(走れない)」という真っ当なものだ。
一塁手の仲里奏亮が痛快なのは、ノーサインで走りながら、掟を守っていること。前日の準々決勝でも二盗を1つ。そしてこの準決勝では第1打席、4球連続ファウルで粘った末に一塁へ歩くと、次打者の4球目で好スタートを切り、まんまと二塁を陥れてみせた(=下写真)。
「ちょっと危なかったんですけど、全力ダッシュでギリギリでセーフになれました。絶対にみんなのためにチャンスを広げるというつもりで、走れたら走る」
相手バッテリーを油断させるには十分の、横にも大きい身体。一塁に出ても、けん制球はほぼない。それを逆手に取り、黒縁のメガネの奥から相手の所作やボールのやりとりを観察し、大胆にスタートを切ってみせる。
「勝手にバンバン走るんですけど、アイツはアウトにならないんですよね(笑)。正直に言うと、何を考えているのか分かりづらい子ではあります」
藤井誠一監督は冗談めかしつつ、今大会で仲里の成長もはっきりと見て取ったという。虚を突く走塁だけではない。鋭い打球も連発していたのだ。
準決勝の2打席目は一塁ゴロに終わるも、直前にはライト線へ鋭いファウル(=上写真)。準々決勝は球足の速いセンター返しに、左中間を深々と破るタイムリー三塁打も放っていた。
「4年生からだと、ホームランは通算で20から30本くらいだと思います」
さらには指揮官も認めるムードメーカーでもあり、守る一塁からの声掛けは当然。攻守交代時には、ベンチ前で大きな声やアクションで仲間を鼓舞する姿も印象的だった。
「今後は誰よりも強い力を手に入れて、船橋フェニックスに勝ちたいです」と、学童王座決定戦でのリベンジを誓っている。