全日本学童大会

【特報最終版】2023夏の夢舞台を総括

【特報最終版】2023夏の夢舞台を総括

2023.09.21

 1981年の第1回大会から数えて43回目の今夏。高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、大阪・新家スターズの初優勝で閉幕した。開幕1カ月前から、およそ2カ月半にわたって特報してきた当コーナーもこれがラスト。記録面を含めて大会を総括し、また来年の夢舞台に備えたい。高校野球の甲子園の比ではない難関。学童野球の全国出場は「一生の宝」にもなり得る栄誉である。 (写真・文=大久保克哉) ※個人の記録一覧は最下部、タップで拡大できます 10年前と変わらぬ構図  新家スターズが全国の登録9842チーム(2022年度)の頂点に輝いた。1回戦から決勝まで全6試合、大きなビハインドや厳しい劣勢がないままの戴冠だった。大阪勢の優勝は2年ぶり13回目。こちらもぶっちぎりの記録となる。 「学童野球の監督は、どんなに勝っても謙虚に、謙虚に、ですわ」  新家・千代松剛史監督は冗談めかして笑ったが、戦術面も含めて攻守走のすべてが鍛え抜かれていて穴がなかった。とりわけ光ったのが、どの打順からでも得点できる攻撃力だ。 初Vの新家(大阪)は6試合で21盗塁。走者は梅本陽翔。タッチする遊撃手は大会3本塁打の不動(東京)の小原快斗  力の差があれば、打ちまくる。戦力拮抗なら、打って出ると犠打ではなく、足技で無死または一死三塁の状況をつくり、確実に1点を重ねていく。こうした野球は全国大会では珍しくないが、今夏は太刀打ちできる相手がいなかった。  ベスト8のうち5チーム、ベスト4のうち3チームまでを関東勢が占めた。これは前年を超える史上最高の「大躍進」だった。しかし、関西勢を中心とする手練れの野球を凌駕した、とはお世辞にも言えない。  準優勝の不動パイレーツ(東京第2代表)は、今大会最多の6本塁打。3位のレッドサンズ(東京)の藤森一生は、最速124㎞をマークするなど突出した個の能力があった。しかし、王者の地盤を揺るがすにはいたらず。むしろ、戦術面や試合運びの点で差を見せつけられてしまった。 レッド(東京)の124㎞左腕・藤森一生は銅メダルの原動力になった  こうした西と東の構図や格差は、少なくとも10年前から大きく変わっていないのが実情だろう。今夏はまた、戦術にも長ける有力チームが序盤戦で消えたことが、新家独走の一因になったとも思われる。  多賀少年野球クラブ(滋賀)、常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)、中条ブルーインパルス(石川)と、過去のV経験組がそろって2回戦で敗退してしまった。 2021年準Vの北名古屋(愛知)は順調に初戦突破も、続く2回戦で涙  今年の常磐は伝統の堅守に打力も備えていた。0対1で敗れた2回戦では、終盤に同点スクイズもありえた場面で強攻も無得点。「今年はバッティングをがんばってきたので、仕留めてくれると信じていました」と天井正之監督は潔かった。  好機を迎えてのタイムで、呼び寄せた打者・走者と交わした笑顔が信頼を物語っているようだった(下写真)。期待に応えられなかった6年生たちも、野球人生はまだこれからだ。 合併や統合から全国へ  今大会からベンチ入り登録選手の数が25人(従来20人)に増えたが、この枠を満たしたのは6チーム(11.8%)に過ぎなかった。また、6年生が9人以上いたのは25チーム(49%)で過半数割れと、選手減少の余波がこうしたところにも見て取れた。 大会最少の選手13人で3回戦まで進出した香川・丸亀城東。写真右から日本貴浩監督(右)、正捕手の長男・廉人(中央)、3年生で正遊撃手の次男・賢伸(左)  山梨県は小学校単位のチーム編成が伝統だが、立ち行かない地域も出ているという。甲斐市では約半数の5校(チーム)が統合して「甲斐ジュニアベースボールクラブ」として3年前に船出。今夏は6年生18人(大会最多)で全国8強まで躍進した。「試合中はどんどん会話をしなさいと言っています」と小澤大生監督。指示待ちではない選手たちのハイスキルが光り、2回戦では2021年準Vの北名古屋ドリームス(愛知)も下してみせた。 50m走7秒フラット。甲斐(山梨)の九番・向井光来は、犠打もヒットにしてしまうスピードが際立った  「笑顔でやらなければ、良いプレーもできない」と和田久雄監督が語る菱・境野フューチャーズ(群馬)は、子ども会が母体の2チームが2011年に合併して誕生。「子どもたちの未来が明るく輝くように」(同監督)と、3年前から現チーム名に。全国初陣では8安打11盗塁(三盗3)の10得点で勝利。「二盗はサインです。凡フライでも二塁まで全力走とか、走塁面は力を入れてきました」と、成果が表れた内容に指揮官も満ち足りた表情で語った。 53や88など、菱・境野の選手は背番号も好きな番号を自由に  長野県の野沢浅間キングス(下写真)は、全国出場実績のある浅間スポーツ少年団と野沢少年野球クラブとの統合初年度で、いきなり全国1勝。6年生14人で鍛えられた外野守備やスイング力、戸塚大介監督の落ち着いた采配も印象的だった。 「ウチは子どもに考えさせる野球をふだんからやっているので、大人がああだこうだ言わなくても、きっかけさえ与えてあげればできる子たちなんです」(同監督)...

【インサイド・ルポ❸壮絶バトル】逆転サヨナラ弾と九州男児の誉れ

【インサイド・ルポ❸壮絶バトル】逆転サヨナ...

2023.09.20

 巨大トーナメント序盤戦の壮絶なバトル。ここを順当に勝ち抜き、ベスト4にもほぼ手を掛けながら、一気に奈落の底へ落ちていったチームがある。でも、その1敗と引き換えに、彼らは永遠の誇りを手にしたのかもしれない。インサイド・ルポ❷の続編をお届けしよう。 (写真・文=大久保克哉) ※前編のインサイド・ルポ❷→こちら   ―2011JSC Champion ― 6年生9人の精鋭と名将 メダルにも劣らぬ「誇り」 [長崎]6年ぶり4回目 はさみこうのす 波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ 【戦いの軌跡】 2回戦〇13対3横堀(秋田) 3回戦〇8対2越前(福井) 準々決●1対2八日市場(千葉)  マナーとモラルの問題  攻撃も守備も関係ないし、敵も味方もない。マウンドの投手がセットに入ると、ベンチ上のスタンドが一斉に静まる。鳴り物も手拍子も声も、ストップする応援席があった。 「ウチが攻撃のときは選手が打席に入るまでは急いで一生懸命に応援して、あとはプレーに集中してもらおう、ということです」  意図を説明してくれたのは長崎から6年ぶりに出場してきた波佐見鴻ノ巣少年野球クラブの父母会、宮﨑正和会長だ。今年は千葉県予選でもそういう取り組みが徹底されたが、九州の長崎県でも同様の応援マナーが推奨され、広まっているという。  今夏の全国大会はどうだったか。応援に関する規制や注意は、特に見聞きしなかった。そうした中で、攻撃の応援というよりは守る相手チームの小学生を威嚇するかのように、大の男たちがダミ声やドラ声を次々と発する応援席も散見された。だからといって、波佐見の父母会はやり返したり、応援スタイルを変えることはなかった。 自軍の攻撃中も打者がバットを構えるあたりから、一切の音を発しなかった波佐見の応援席。「プレーに集中してもらおう、と」(宮﨑父母会長) 「結局はマナーとかモラルの問題ですよね。県大会だからやらない、全国大会は禁止されてないからやる、とかそういうことではなくて。賛否もあると思いますけど、ウチはとにかく、ピッチャーとバッターに目の前の勝負に集中してほしい、ということです」  私見をクールに語ったのは、波佐見の村川和法監督だ。現在の応援スタイルはこの初夏からで、試合中に審判団から「投手がモーションに入ったら、もう少し静かにしてください」と注意されたのがきっかけだという。 「練習をがんばってきた子どもたちが懸命に戦っているのに、そんなこと(応援)で注意されたり、試合が止まるなんてイヤですもんね。応援マナーについては、父母会のみなさんに厳しく言っています」 焼き物と野球の町から...

【インサイド・ルポ❷壮絶バトル】マンガも超えた!?大逆転劇と必然

【インサイド・ルポ❷壮絶バトル】マンガも超...

2023.09.15

 真夏の6日間で消化する、51チームによる巨大トーナメント。序盤戦は例年、激しいつぶし合いとなる。心身がフレッシュな分だけ、互いに一歩も譲らぬ好勝負も生まれやすい。今夏はさらに、マンガでも描き切れないような大逆転劇、筋書きのないドラマがあった。主人公は1年前、チーム内のコロナ感染で無念の棄権を経験している6年生たちだった。 (写真&文=大久保克哉) ―From 2022 Best8 ― 12点取られて13点取る! 空前の同点劇にサヨナラ [福井]2年連続2回目 えちぜん 越前ニューヒーローズ 【戦いの軌跡】 1回戦〇13対12伊勢田(京都) 2回戦〇2対1中条(石川) 3回戦●2対8波佐見(長崎) 越前の全国初陣は1年前の2回戦(神宮)。12対11で勝利している  10点取られたら、11点取り返す――。言うのは簡単。そうした野球を理想に掲げるチームは、カテゴリーや地域を問わず、あちこちにある。またそういうチームにあっては「積極的にいけよ!」といった怒声もよく聞かれる。  一方、そうした野球を限りなく体現した学童チームがあった。福井県から2年連続で全日本学童大会に出場してきた越前ニューヒーローズだ。彼らは何かにつけて特異だった。 「好球必打」の極致  超アグレッシブな「好球必打」が真骨頂。昨夏は初球ストライクをフルスイングしての3連続二塁打もあった。あっけなく数球で終わる攻撃もあったが、2人目3人目の打者に「状況を考えて、少しは見たり粘れよ!」といった、指導陣の本末転倒な声掛けは皆無。当時、5年生で六番を打っていた日比野虎徹はこう話していた。 「甘いボールが来たら、(0ストライク)3ボールからでも打っていいと監督に言われています」  そうして2勝を挙げてベスト8まで進んだ1年前だが、人類を蝕んだ新型コロナウイルスと感染防止のルールには抗えなかった。準々決勝の朝に一部選手のウイルス感染が判明し、不戦敗に(※関連記事→こちら)。 「感染は誰のせいでもない。でも、最後の勝ち負けまで、子どもらに味わわせてやれんかったのが悔しいです」(田中智行監督) 三番・中橋は1年前(写真上右)の3回戦で決勝の逆転3ラン(写真左は今夏)。四番・米澤は1年前の2回戦で満塁アーチ(写真下左)を放っていた(写真右は今夏)  当時の6年生2人は卒団したものの、残るメンバーは1年の間にまた著しく成長し、夏の神宮(開会式)に戻ってきた。2年生2人を入れて総勢16人。スタメンの4人は下級生で、うち1人は3年生と、戦力の構成も前年に近い。それでも主将の山本颯真捕手に、中橋開地と米澤翔夢の左右大砲コンビは、6年生世代を代表するようなタレントとなっていた。  その彼らのすさまじい打撃力を、どこよりも知っていたのが昨夏の王者、中条ブルーインパルス(石川)だった。隣県のチーム同士で元から交流があり、新チームになってからも何度か手合わせをしてきた。直近の戦いは結果としてノーガードの打ち合いの末に、越前が勝利。...

【インサイド・ルポ❶】初出場組、それぞれの「最後の夏」

【インサイド・ルポ❶】初出場組、それぞれの...

2023.09.12

 学童野球では、息子や娘とともにチームを卒業する父親監督が圧倒的に多い。一方、この夏を自ら最後の全国采配と決めていた名将がいて、20年以上続いてきた組織の消滅を前に夢舞台で1勝を挙げたチームもある。奇しくも初出場組の、それぞれの「最後の夏」を追った。 (写真&文=大久保克哉) ―The Last Summer❶ ― 恩師に白星は贈れずも、 心に響いた8人の想い [石川]初出場 たちの 館野学童野球クラブ 【戦いの軌跡】 1回戦●2対8新家(大阪) 全国1回戦を戦い終えたナインは指揮官と一人ひとりハイタッチしてダグアウトへ  学童女子の全国大会、NPBガールズトーナメントは今夏、石川県が舞台となった。同県では2月から女子選抜チーム「輝プリンセス」のメンバーを公募。野々市市の館野学童野球クラブには、昨秋の県新人戦準Vにも貢献したマドンナ左腕の山本愛葉がいたが、3月の時点で「館野のみんなと全国(全日本学童大会)に出ることしか考えていません」と、選抜入りをきっぱりと否定した。 切なる想いを共有  その山本ら6年生8人は、新人戦の県決勝で敗れた中条ブルーインパルス(前年度優勝枠で全日本学童出場)へのリベンジの想いを募らせていた。「夏の全国大会に出て、中条に勝って優勝したい!」と語ったのは、高田慶吾主将だけではなかった。 「監督に全国でも勝利をプレゼントしたい」。チーム初安打に2回まで好投した山本だが想い叶わず、涙に暮れた  そして6月半ば、全日本学童の石川大会を制して全国切符を手中に。チームは2016年の全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で準優勝という実績があるが、全日本学童出場は今夏が初。意気上がる選手たちだったがその後、指揮官からの突然の告白で静まり返ってしまう。  すでにスタッフ間では決定事項となっており、一部の保護者らも知るところとなっていたが、約20年のコーチを経て2016年からチームを率いてきた山本義明監督が「今年度限りの退任」を選手に発表したのだ。 「ピックリしました。良いところは褒めてくれて、悪かったらそこを教えてくださる。優しい監督です」(中村颯真捕手) 「悲しかった! これまでいろいろお世話になってきた山本監督に、みんなで全国でも勝利をプレゼントしたいと思います」(山本) さらなる発奮材料  さらなる発奮材料を得た6年生たちは、夏休みに入ると平日は20時近くまで、合同で自主練習をするように。7月末に県内で開催された、NPBガールズトーナメント(輝プリンセスはベスト8)には誰も足を運ばなかったという。  迎えた8月初旬の東京、伝統の全国大会1回戦。相手は優勝候補の新家スターズ(大阪)だったが、1回表に二番・山本が100㎞を中前打するなど、誰も気後れしていなかった。 「相手がどこだろうと、絶対に気持ちで負けずに絶対に勝とう! とみんなで話していました」(高田主将)...

【夢舞台を彩った俊英❷】15の金の卵

【夢舞台を彩った俊英❷】15の金の卵

2023.09.07

 本番で力を発揮するのも実力――。スポーツにはこうした格言もあるが、「小学生の甲子園」に重ねるのは時期尚早かもしれない。準々決勝までは複数会場で同時進行とあって、全50試合をつぶさに取材できたわけでないが、公式記録も網羅しつつ、15の「金の卵」たちを学童野球メディアがピックアップ。第1弾の「二刀流」と合わせて20戦士の紹介となるが、前途有望な俊英はまだまだいたことも付記しておきたい。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―Golden egg❶― 2発目ソロで8打席連続H かねはら・じょう 金原 跳 [岩手・洋野ベースボールクラブ] 6年/右投左打/三塁手 写真提供/洋野ベースボールクラブ  今大会の2発を含めて通算45本塁打。156㎝48㎏の「東北の未来モンスター」が、右へ左へ中央へと打ちまくった。 「3年前(当時、控え二塁手)も岩手で優勝したんですけど、全国大会はコロナ禍で中止になってしまって。その先輩たちの分もみんなでがんばりました」  2回戦で何と5打数5安打、それも本塁打1本に二塁打3本と、あわやサイクルヒットだった。続く3回戦でチームは敗れたが、神宮のライトへ先頭打者アーチ(上写真)。  その一発で、1回戦の第2打席(遊撃内野安打)から8打席連続安打。過去の自己最多6連続も超えると、第2打席は申告敬遠で9打席連続出塁に。第3打席の内野ゴロで「連続記録」は終わるも、最終第4打席は中前打でトータル11打数9安打の打率8割超という、とんでもない数字を残した。  それらは果たして、大会新記録なのか否か――40年超の伝統と由緒のある夢舞台で、こういう記録面のアプローチができないのは残念。ともあれ、2つ上の兄と父との自主練習も欠かさないという金原跳は、中学でも高校でもジャンプアップしていくことだろう。地元の岩手から巣立っている、偉大な現役のスターたちの背中を追うように。 「打球の飛距離より、速さが自分の持ち味です。大谷翔平選手(エンゼルス)のようなすごいバッターになりたいです」   ―Golden egg❷― 「オール5」の万能プレーヤー みやもと・かずき 宮本一希 [大阪・新家スターズ] 6年/右投右打/捕手  初優勝の大功労者は通知表で言えば「オール5」。昨今、珍しくなってきた万能タイプとして突き抜けた存在だった。...

【夢舞台を彩った俊英❶】投打『二刀流』5戦士

【夢舞台を彩った俊英❶】投打『二刀流』5戦士

2023.09.04

 多くの野球人にとって、学童時代は通過点に過ぎない。それでも、難関の夏の全国大会を目指して努力し、実際にそこへやってきて輝いたことは一生の誇りにもなるだろう。今夏の夢舞台を彩った俊英のうち、まずは投打の二刀流で躍動した「主役級」の5戦士をピックアップした。 (写真=福地和男) (動画・文=大久保克哉)     ―投打二刀流❶― 3度目全国で124㎞の衝撃 ふじもり・かずき 藤森一生 [東京・レッドサンズ] 6年/左投左打  優勝を遂げた新家スターズ(大阪)の貴志奏斗主将が、実は2回戦から体調不良に陥っていたことは既報の通り(関連記事→こちら)。準決勝(5対1で勝利)から回復したが、その要因は対戦相手にあったのではないか、と語るのは千代松剛史監督だ。 「あの試合は貴志もほかの子も、いつも以上にアドレナリンが出ていたと思うんですよ。あの東京のレッドサンズの藤森(一生)クンという、素晴らしい投手とやるために練習してきたところもありますから。『病は気から』とも言いますけど、もし、準決勝が違う相手との対戦やったら、貴志の体調も戻っていなかったかもしれないですね」  V監督からも、結果としてこれだけの賛辞を受ける東京王者のエースは間違いなく、2023年夏の主役だった、と言っていいだろう。4年生から3年連続の全国出場で、登板は2年連続だった。最後の大一番を前に涙の敗退となったが、前評判や注目度の高さにつぶされることなく、パフォーマンスを存分に発揮した。  投げては準決勝で自己最速タイの124㎞/hをマーク(球場表示)。どの試合でもアベレージで120㎞前後と、無類のスピードボールで押しまくり、奪三振数はイニング数を上回った。打っても打率6割超、準々決勝では右へサク越えソロを放っている。  炎天下の連戦とあって体力温存が優先されたのだろう、5試合で盗塁は1。それでも、50mを6秒84で走る足で稼いだヒットもあり、3回戦では前の走者を追い越してしまいそうな猛スピードでの、一塁からの長駆生還もあった(下写真)。 「金メダルには届かなかったけど、キャプテンの自分についてきてくれたみんなと、協力してくれた保護者のみなさんに感謝しています。野球人生がこれで終わるわけではないので、中・高のすべての大会で活躍したいです」  165㎝51㎏のサイズでこれだけのハイパフォーマンスに、殊勝な言動も珍しい。世代を代表する左腕にとっても、今夏は通過点のひとつだろうが、これだけの6年生と次に出会えるのはいつのことか。3年、いや5年は現れないかもしれない、スーパー未来モンスターだった。 3月のWBC準決勝での周東佑京(ソフトバンク)を思わせるような、一塁からの激走もあった   ―投打二刀流❷― 69球完封&最多タイ3HR あべ・せいま 阿部成真 [東京・不動パイレーツ] 6年/右投左打...

【レポ⓫優勝チーム】無双王者の学童野球版「整い」

【レポ⓫優勝チーム】無双王者の学童野球版「整い」

2023.08.30

 昨夏の全日本学童大会で準決勝敗退から2日後。2022年8月15日に始動した新チームが、翌23年8月11日に同大会を初制覇。新家スターズ(大阪)は361日間、一度たりとも試合に敗れることがなかった。正真正銘のチャンピオン、無双の強さの要因は何なのか。6試合の戦いぶりやコメント、チーム成績から迫った。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―2023 CHAMPION ― すべて「整う」王道野球 1年不敗、全国初Vで幕  [大阪] しんげ 新家スターズ 【戦いの軌跡】 1回戦〇8対2館野(石川) 2回戦〇19対2茎崎(茨城) 3回戦〇7対1宮崎鷹黒(宮崎) 準々決〇4対1大里(沖縄) 準決勝〇5対1レッド(東京) 決 勝〇6対2不動(東京) ※下の表はタップで拡大 ハイレベルな攻守走  一番・捕手の宮本一希は、6試合で打率.625に二塁打7本。企図した8盗塁の成功率10割で、その半分は三盗。これらはすべて、チームの最高成績だった。マスクをかぶっては、相手の盗塁企図が4つしかなかったが、半分の2つを阻んでいる。  一芸に秀でて快挙を遂げるようなスーパーモンスターではないものの、攻守走のいずれも高い次元にあるという点では世代屈指。また、その均等な超ハイクラスこそ、今年の新家スターズのカラーを象徴していた。 時にマウンドにも立った城村颯斗は遊撃守備も秀逸。チーム唯一の犠打を決勝で決めて追加点へつなげた  チーム成績を見ても、本塁打を量産したり、三振の山を築くような絶対的な大黒柱がいたわけではないのがわかる。1試合平均で2ケタに迫る安打と8得点を上回る成績は驚異。17安打19得点の2回戦1試合を除いても、8.2安打の6得点平均はまずまずの数字だ。  四死球が20以上でも、犠打は1つのみ。そして三盗を含む盗塁が20を超えるのは、無死または一死三塁という得点率が最も高い状況をいかにつくれていたかを物語る。現に準決勝は5点のうち3点、決勝も6点のうち3点はこの状況から生まれた。 投手交代に伴う守備変更でも不変の堅守。一塁手・上中涼太は三塁を守ってもノーミスだった...

【レポ❿準優勝チーム】学童でも開花「エンジョイ・ベースボール」

【レポ❿準優勝チーム】学童でも開花「エンジ...

2023.08.29

「エンジョイ・ベースボール」が花を咲かせたと言ってもいいだろう。不動パイレーツの学習能力は抜けていた。戦いながら進化し、より結束し、気付けば東京の2番手から全国で2番目の高みで輝いた。変に気負わず、ヘタに気取らず、自らも考えてプレーした夢舞台の一週間。慶應義塾高(神奈川)、慶大の硬式野球部出身の指揮官は、選手のパフォーマンスや成長を促す引き出しにも長けていた。 ※優勝チームのリポートは追って掲載します (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ―Second Place ― 戦いながら成長した夏。 東京2位から全国「銀」 [東京] 不動パイレーツ 【戦いの軌跡】 1回戦〇4対0弓削(熊本) 2回戦〇1対0常磐(福島) 3回戦〇7対0菱・境野(群馬) 準々決〇12対2簗瀬(栃木) 準決勝〇4対0八日市場(千葉) 決 勝●2対6新家(大阪)  おしゃれで洗練された街、目黒区。東京の住みたい度ランキングなどは上位の常連で、各界の著名人らもゆったりと暮らしている。スタイリッシュな店舗に利便性も高い商業施設、自然の緑もふんだんで、「どの世代にもやさしい街」というフレーズも耳にする。ただし、それは「野球」が特別ではないことを意味してもいる。  区立・不動小学校を主な拠点とする、不動パイレーツに割り当てられた活動時間は原則、土日合わせて4時間のみ。東京23区でも、他県・他市に隣接しない内陸側にあるチームの多くは似たり寄ったりだろう。  劣悪とまでは言わないが、「学童野球」には誠に恵まれない環境。でもそれを言い訳にせず、「全国優勝」(永井大貴主将)を目標に臨んだ全日本学童大会で、2019年のベスト4を上回る準優勝。これは43回の大会史における、東京勢の最高成績となる。 土壌は大人の意識改革から 「見ての通り、特別に大きい子もいませんし、ちょっと気を抜くと普通の弱っちいヤツらなんですよ」  永井丈史監督は大会中、このような発言も繰り返した。6年生9人に5年生11人は、23区内のチームとしては十分に多いが、通常は学年別に活動をしており、現6年生は代替わりの際に退団者も複数。少人数からのスタートだったという。 2回戦は2010年王者に辛勝。1回裏に小原の先制ソロ(写真)、これを永井主将-阿部の継投で守り抜いた  1年でここまで人も増えたのは、近年の好成績や知名度も理由だろう。さらには、在籍する選手の保護者たちの、熱意やサポートも見過ごせない。...

【レポ❿珠玉のストーリー】12歳の熱い365日「カナト、よくやった!」

【レポ❿珠玉のストーリー】12歳の熱い36...

2023.08.26

 スポーツは時に非情である。勝利の女神は必ずしも、正義に微笑まない。野球の神様も、子どもだからと手を差し延べたりしない。三歩も歩けば忘れるとか、適当にお茶を濁せると考えるのは大人だけで、子どもが重く引きずる出来事もある。目に見えない十字架を1年間も背負い、黄金のメダルに輝いた12歳のひとりの少年と、取り巻く周囲との珠玉のストーリー。 ※チームのインサイドルポは追って掲載します (写真=福地和男)(文=大久保克哉) 術中にハメたはずが…  捕球から送球までに短からぬ時間を要し、送球の精度と強さも心許ない。そんな小学生の野球ならでは、のトリックプレーがいくつかある。  たとえば、走者二、三塁からの攻撃。二走があえて塁間へ大きく飛び出し、バッテリーからの二塁送球を誘う。そしてその二塁送球の間に、三走が本塁を陥れる。  4年生以下の試合や、高学年でも市区町村大会の序盤戦であれば、ほぼ1点が入ることだろう。全国大会でも守備側の想定になければ、決まる可能性が高くなる。  しかし、この種のトリックプレーに対しても約束事を確認し、練習を重ねているチームもある。誰がどう動いて、いつどこにボールを渡して、どの走者をアウトにするのか――。そのひとつが、大阪の新家スターズだ。 「二、三塁で相手がやってきたら、まずは二塁に投げるフリ(偽投)。それで三塁ランナーを飛び出させてから、三塁に投げて挟殺する」(千代松剛史監督)  自らはそういうトリッキーな攻撃で1点を奪いにいくことはない。けれども、相手が仕掛けてきたら儲けもの。対応術を備えているので1点を阻むどころか、走者を減らしてアウトカウントを増やすことができるのだ。 1対1の対話も重視する千代松監督。時に非情な言葉も発するが、個々の内面まで熟知すればこそ。「どの子にもそんなの、できるわけないです」  その試合でも術中にハメたはずだった。二、三塁のピンチで、相手の二走が塁間中央へゆるゆると出たとき、守る新家はベンチも野手も慌てていなかった。  マウンドの投手はセットを外してから、二塁ベース方向へ距離を詰めながら偽投を入れて、三塁へ送球。そしてまんまと、三走を塁間で挟み込むことに成功した。  すべてが練習通りだった。だが、繰り返してきた練習とは異なる点がいくつかあった。やり直しがきかない本番。負けたら終わりのトーナメント戦だった。  舞台は全国大会の準決勝。2対1でリードの5回裏と、緊迫の勝負が大詰めを迎えようとしていた。何よりも練習時と決定的に違ったのは、大粒の雨が降り注いでいたことだった。台風接近に伴う豪雨で、すでに計22分間の中断もされていた。  そうした中で、投手が三塁に投じたボールが低かった。前のめりになって、それを地上スレスレでグラブに収めた三塁手は、立ち上がるや本塁へ送球。塁間にいた三走は、それを見て切り返す。ランダウンプレーだ――と思われたが、そうはならなかった。 2022年8月13日、全日本学童準決勝(駒沢)。決勝の逆転タイムリーエラーで涙した5年生・貴志の「長かった」1年がここから始まった  三塁手の送球が高く抜けて、ジャンプで届かなった捕手がボールを追いかけていく。その間に走者2人が生還。これで再逆転された新家は、直後の6回の攻撃で跳ね返せずに敗北した。 「オマエのせいや!」  それは1年前の2022年8月13日、駒沢公園硬式野球場だった。全日本学童大会の準決勝を終えた新家ナインは、ベンチ裏で激しく泣きじゃくった。屋根を叩く雨音もかき消す勢いで。首から下げた銅メダルに納得している顔はどこにもなかった。 「…雨で手が滑りました。ロジンとか持って対策しとったらアウトにできてたから、負けたのは暴投を放ったオレのせいやと思います。6年生に申し訳ない…」  ひときわ大きな嗚咽をもらしながら、途切れ途切れにそう話したのが、三塁手で当時5年生の貴志奏斗(きし・かなと)だった。 「正直、トリックプレーもあるかなと読んでたんですけど、ヨッシャー! と思ったら、まさか、ね。言い訳かもしれないけど、雨で手が濡れて…今日はミスもいくつかありまたし、やっぱり、すべてが整わんと全国制覇にはつながらんのかな。さっき、5年生にはハッキリ言いました。『やっぱりキャッチボールが大事や。守備のミス。この怖さを知って練習に生かして、また来年ここに戻ってこないと!』と。6年生はホンマにようやりましたわ」  報道陣に囲まれて話していた千代松監督は、輪が解けてもそこに残った筆者に、こう告げた。 「あの三塁の5年生、貴志は次のキャプテンやる子で、お父さんも社会人まで野球した立派な人や。もともと守備はしっかりしとるし、こんなところで泣いて終わるような子やないんです。だからさっき、お父さんもお母さんもみんないる前で、貴志に言ったんですよ。『オマエのエラーで負けたんや!』って。また来年、必ず戻ってきますから、みとってください!」 父と同級生の想い...

【レポ❾決勝/ヒーロー】新家が初V。無双の不敗ロード、ここに完結

【レポ❾決勝/ヒーロー】新家が初V。無双の...

2023.08.24

 無双の不敗王者が誕生した。2023年の日本一を決する決勝は、大阪の新家スターズが東京第2代表の不動パイレーツに6対2で勝利。全国9842チームの頂点に輝いた新家は、新チーム始動から練習試合も含めて1度も負けることなく初戴冠。まさしくキング・オブ・キングとなった。敗れた不動は東京勢初の優勝はならずも、最後まで食い下がっての銀メダルに胸を張った。 ※優勝・準優勝チームのインサイドルポ、新家スターズ主将のストーリーは追って掲載します (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ■決勝/大田スタジアム [東京]2年ぶり4回目 不動パイレーツ  100100=2  21030 X=6 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 【不】永井、阿部、永井-阿部、小原、阿部 【新】山本、貴志、山本-宮本、山本、宮本 本塁打/阿部(不)=大会3号   先制パンチ、鮮やかに  攻守走、すべてが鍛え抜かれていてそつがない。練習試合を含めて不敗を貫く新家は絶対的な安定感の下、日替わりヒーローを生みながら今大会を勝ち進んできた。2015年と19年の2度、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会で優勝に導いている千代松剛史監督のタクトに迷いはなく、どこまでも鋭敏かつ慎重だった。  一方の不動は、東京予選の決勝でレッドサンズに敗れて第2代表(※東京は出場3枠)ながら、今大会は戦うごとに成長がうかがえた。準決勝まで4試合で2失点。永井大貴主将と阿部成真の両右腕はコントールと駆け引きが出色で、投げるたびに球威も増している印象だった。三番・小原快斗は3本塁打、四番・阿部が2本塁打。慶應高(神奈川)、慶大の野球部出身の永井丈史監督には選手たちを乗せる引き出しも多く、4年前の最高成績ベスト4も超えてきた。 1回表、不動は中前打から二盗に成功した一番・岩崎(上)が、投ゴロの送球間に三進すると三番・小原の三ゴロ(下)で先制のホームイン  持ち味も歩みも異なる両軍による頂上決戦は、それぞれに真価も発揮する好勝負となった。そのきっかけをつくったのが、不動の一番・岩崎貴彦だ。  1回表、中前にクリーンヒットを放つと、次打者の3球目に二盗に成功。「あの盗塁はサインでした。けん制が多いのは知っていましたけど、ギャンブルスタートではなく、ホームに投げると判断してスタートしました」  こう振り返った二走・岩崎は、内野ゴロ2つの間に先制のホームを踏んでみせた。百戦錬磨とも言える大阪の王者に対して、これほどの鮮やかな先制パンチは今大会で初めてだった。  しかし、それで面食らってペースを乱すほど、新家は柔ではなかった。準々決勝でも2年連続出場の大里シャークス(沖縄)に1回表に先制されるも、すぐさま1対1に追いついている。決勝でも1回裏、敵失に小松勇瑛の中前打であっさり同点とすると、小松の二盗と内野ゴロ2つで2対1と逆転する。 新家は1回裏、無死三塁から二番・小松が中前に同点打(上)。さらに一死三塁から四番・山本の一ゴロ(下)で2対1と逆転する  2回の攻防も、手に汗握る展開に。先攻の不動は5年生の難波壱と、続く西槙越の連打で一死一、二塁とするも、新家の先発・山本琥太郎が冷静に後続を断つ。そしてその裏、新家は5年生・藤田凰介の内野安打や申告敬遠などで満塁とし、小松が四球を選んで3点目を奪う。こうしてじわりとリードを広げていくのが新家のパターンだったが、不動の四番打者が待った! をかけた。...

【レポ❽準決勝2/グッドルーザー】124㎞左腕も攻略、新家がV王手

【レポ❽準決勝2/グッドルーザー】124㎞...

2023.08.17

 東西の都の王者対決となった準決勝の第2試合。レッドサンズ(東京)の124㎞左腕と、新家スターズ(大阪)の強力打線とが、どう交わるのか――。予想された真っ向勝負はやや遅れて始まり、ワンサイドに近い内容となりましたが、やはり、敗軍にも特筆するべきものがありました。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ■準決勝/大田第2試合 [東京]3年連続4回目 レッドサンズ  000010=1  11210×=5 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 【レ】北川、藤森一-増田 【新】山本、貴志、山本-宮本、梅本 本塁打/山田(新)=大会2号 レッドの藤森一は自己最速タイとなる124㎞を複数回マークした  1年前の準々決勝を、両軍は小野路球場でそれぞれ戦っている。第1試合で特別延長の末にサヨナラ負けしたのがレッドで、続く第2試合でシーソーゲームを制したのが新家だった。  新家は翌日の準決勝で惜敗するが、千代松剛史監督は直後から「東京のスーパースターの子」を意識してきたという。それが準々決勝の球場で見たレッドの当時5年生、左投左打の藤森一生だった。一番・左翼で先発して二塁打1本の1打点、4回から救援すると6年生顔負けのスピードボールと度胸を披露していた。 「来年は全国に出たら、あの子が脅威になるんやろうなと思いましたし、今年の5月にウチが全国を決めてからは、あのレッドサンズの藤森クンからどう点を取るか、というのも大きな課題やったんです」(千代松監督)  長身の本格派サウスポーの対策、110㎞以上のスピードボールの対策は当然。さらには最悪も想定して「打てないなら足で」(同監督)と、二盗、三盗の練習も相当に積んできたという。 強面でいてその実、頭の回転が速くて賢い新家・千代松監督。どんなに勝っても批判を口にしない  一方、本人の預かり知らぬところで、1年も前からマークされてきたレッド・藤森一のほうは予想以上(期待通り?)に進化してきた。最速120㎞をマークするなど度肝を抜く豪速球で押しまくり、全国予選を含めて6月から東京二冠の原動力に。  迎えた東西の都の王者対決は、スタメンから興味深いものとなった。レッドの先発投手はエース左腕の藤森一ではなく(右翼で先発)、進境著しい右腕の北川瑞季だった。 レッドの先発・北川は3回戦(対兵庫・北ナニワ)でも好救援。7月の都知事杯MVPから上り調子できていた  対する新家は肩透かしを食らうどころか、「スーパースターの温存」はまったくの想定内だったという。以下は試合後の千代松監督の談話の一部だ。 「相手は昨日(準決勝)も右の子から藤森クンという継投やったし、今日ももしかしたらと思うてました。なので、ウチが先制して逃げ切らんとな、と」  1回表、レッドが二死二塁で打席に四番・増田球太を迎えたとき、千代松監督が即座に申告敬遠をしたのも、相手の先制を何としても阻むためだったという。 「ウチがリードされた状態で、120㎞を投げるスーパースターが出てきたらマズイな、と思いましたので」(同監督)...

【レポ❼準決勝1/グッドルーザー】阿部が無四球完封。不動が初の決勝へ

【レポ❼準決勝1/グッドルーザー】阿部が無...

2023.08.16

 初出場でしぶとく勝ち抜いている八日市場中央スポーツ少年団(千葉)に対して、出場4回目の不動パイレーツ(東京第2)は2019年の最高成績に並ぶ4強入り。準決勝の第1試合は、展開と勝敗がミスマッチという興味深いものとなり、敗軍にも特筆するべきものがありました。 (写真=福地和男) (文=大久保克哉) ■準決勝/大田第1試合  [千葉]初出場 八日市場中央スポーツ少年団  000000=0  10102 X=4 不動パイレーツ [東京]2年ぶり4回目 【八】富永、石井-伊藤 【不】阿部-小原 本塁打/小原(不)=大会3号 1回裏、不動は先頭の岩崎がフルカウントから左前打(上)。続く村上が中越えの二塁打(下)で先制  あと1球で敗北という土壇場で、富永孝太郎主将が逆転サヨナラ2ラン――。劇的な勝利で準決勝に進んだ八日市場は前日と同様、のっけから耐える時間が続いていた。  1回に先制され、3回に中押しされて0対2。それでも「ウチの展開でしたよね」と、宇野貴雄監督は試合後に語っている。「格上のチームに対しては、少ない点差でガマンしてガマンして、というのがウチの形ですから」  辛抱した先にチャンスが訪れ、それをものにして勝ってきたのだ。選手たちも根比べには自信があったことだろう。しかし、戦うたびに成長を感じさせる不動はどこまでも巧みで、流れを手放すことがなかった。 2回表、八日市場の七番・田中功明が右前へきれいに流し打つ(上)も、捕球した右翼手・平石が即座の一塁好送球でアウトに(下)  先発した背番号2の右腕、阿部成真が1回表を無失点で立ち上がるとその裏、あっという間に先制する。一番・岩崎貴彦が左前打から二盗を決めると、二番・村上陽音が中越えの適時二塁打。  さらに2回表の守備では平石琢音がライトゴロを決め、3回裏には三番・小原快斗が大会3本目となるサク越えソロでリードを2点に広げた。 2回裏、八日市場の中堅手・石毛大雅(4年)が大飛球を好捕(上)。不動は二死から岸樹吹が左二塁打(下)で流れを渡さない  八日市場は4回表、先頭の富永が左中間へ矢のような打球を放って悠々と二塁に達したが、後続が続かず。逆に5回裏の守りで珍しくミスも出て、二死二、三塁のピンチを招いてしまう。  宇野監督はすかさずタイムを取って内野陣をマウンドに集めた。ここを切り抜ければ逆転できる、というニュアンスの話もあったことだろう。  しかし、前打席でソロアーチの不動・小原のバットが、目論みを阻んだ。「昨日(準々決勝)はちょっと力み過ぎていたので、今日はリラックスして打席に」。外角高めの球を逆方向へ軽打し、走者2人を迎え入れて4対0とダメを押したのだった。 3回裏、不動の三番・小原が左へソロ本塁打...

【決勝戦★展望】選手監督コメント&見どころ

【決勝戦★展望】選手監督コメント&見どころ

2023.08.11

 2023年の学童野球の日本一は、東京の不動パイレーツか、大阪の新家スターズか――。双方の選手・監督のコメントとともに見どころをお伝えします。夏の夢舞台の大一番は8月11日、午前9時、大田スタジアムでプレーボール!  (写真=福地和男) (文=大久保克哉)   不動パイレーツ [東京]2年ぶり4回目 過去最高成績=ベスト4/2019年 ※今夏、更新 【戦いの軌跡】 1回戦 〇4対0弓削(熊本) 2回戦 〇1対0常磐(福島) 3回戦 〇7対0菱・境野(群馬) 準々決勝〇12対2簗瀬(栃木) 準決勝 〇4対0八日市場(千葉) ■永井丈史監督 「(準決勝勝利直後)個人的には今も落ち着いているので、勝ちたい強い気持ちは自然に出てくると思います。決勝もいつも通り。いつも通りのやるべきことをやる。声を出す、振るべきボールは振る、サインが出れば応じて動く。もうそれだけしかないですね。大きなことは言えません」   ■小原快斗内野手 「準々決勝でちょっと力んでいたので、準決勝はリラックスして打席に入った結果がホームラン(大会3本目)になったと思います。決勝も絶対に勝ちます!」   ■阿部成真捕手 「(準決勝で69球無四球完封勝利)決勝も投げたいです。ホームランも打ちたいです!」     新家スターズ [大阪]2年連続3回目...

【準決勝プレビュー】指揮官4人の意気込み

【準決勝プレビュー】指揮官4人の意気込み

2023.08.10

 大阪包囲網!? 決勝は43回史上初の東京ダービーに!? 本日8日10日、大田スタジアムでの準決勝を前に、4チームの各指揮官の声をお届けします! (取材&文=大久保克哉)  宇野貴雄監督 八日市場中央スポーツ少年団 [千葉]初出場 「全国に来ても、ここまで普段着の野球ができるとは思わなかったですね。子どもたちが『楽しい』と笑顔でやっているのが何より。保護者ももちろん楽しんでいます。苦しんでいるのはベンチの大人だけ(笑)。厳しい試合内容が多いですけど、やっぱり、千葉の459チーム(全国5番目)の思いもありますからね。もう特別なことはできませんし、ありませんから。これまでと同じで一戦一戦、まずは準決勝です」     永井丈史監督 不動パイレーツ [東京]2年ぶり4回目 「全国大会の緊張感のなかでも、子どもたちがちょっとずつ成長しているのがわかります。大人からではなくて、自分たちで盛り上げたり、良いプレーを心から称えたり。そういうところも見えてきているので、絆も深まっているんじゃないかなと思います。4年前(チーム最高成績のベスト4)に並ぶことはできましたけど、特に変わることもなく、今までどおりですね。とりあえず、まずは1個勝つこと。そんな(決勝を見据える)余裕もありませんので、がんばります」     千代松剛史監督 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 「1年前に全国ベスト4に終わってから、目標を全国優勝に置いてやってきたのは間違いないです。ただ、いざ大会に入れば、1つ1つですよ。そしてまずは、第1目標の去年と同じところまで来られたということで、ここから最終目標に向かいますけど、考え方は同じですね。まずは準決勝。相手のレッドサンズの球の速い子(藤森一生)は、去年の全国でも見ていて、来年は全国に出たら脅威になるんやろうなと思っていたんです。楽しみやね」     門田憲治監督 レッドサンズ [東京第1]3年連続4回目 「昨年は高く感じたベスト8の壁も超えることができました。準決勝は相手が優勝候補の筆頭ですし、長い歴史のなかでも大阪と東京では明らかに大阪が上なのはわかっています。ただ、優勝するには避けては通れない相手だと大会前から思っていましたし、これまでの試合でも途中で受け身になったりしながらも、全員で盛り返していくことができました。苦しい試合でも『こういう山を乗り越えないと、優勝なんて絶対ないよ!』と子どもたちに言い続けてきています。チーム一丸となってぶつかっていくだけです」

【レポ❻準々決勝】ベスト4の3枠が関東に! 写真ハイライト

【レポ❻準々決勝】ベスト4の3枠が関東に!...

2023.08.09

 夢舞台に昨年を超える“関東旋風”。ベスト4のうち、3チームまでが関東勢となりました。最終回二死からの逆転サヨナラ本塁打(上写真)など、劇的な幕切れもあった大田スタジアムでの準々決勝2試合から、ハイライトを写真でお届けします。 ※選手やチームの物語は追って掲載します  (取材&文=大久保克哉) ■準々決勝/大田第1試合 [長崎]6年ぶり4回目 波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ  100000=1  000002x=2 八日市場中央スポーツ少年団 [千葉]初出場 【波】下園、山口-杉本 【八】富永、石井ー伊藤 本塁打/富永(八) 八日市場中央は、持ち前の堅守と勝負強さを全国でも発揮して4強入り。5回から救援した石井陽向(下)は、2回を1安打無失点の好投で流れを呼んだ  0対1で迎えた最終6回裏、一死から5年生の椎名航平が右中間へ二塁打。「絶対に打ってやろうと思っていました」。この一打が二番・富永孝太郎主将の逆転サヨナラ弾の呼び水に   3回戦では猛打の越前(福井)に打ち勝ち、準々決勝ではしびれるようなロースコアゲームを演じた波佐見。野球も応援マナーも、2011の全国スポ少交流王者の片りんがうかがえた 遊撃守備では併殺も決めた庄崎愛大が1回表、右前打(上)で好機を広げる。そして2試合連続本塁打中の四番・山口陽大が、一死二、三塁から意図して内野にゴロを転がし先制する(下) 先発の下園蒼治朗(下)はすいすいとアウトを重ねて6回二死まで散発3安打無失点の快投も、球数が規定70球に達して降板。「最後までf投げ切りたかったです…」     ■準々決勝/大田第2試合 [栃木]初出場 簗瀬スポーツ  002000=2  23070×=12...

【レポ❺3回戦】8強をかけた戦い。写真ハイライト

【レポ❺3回戦】8強をかけた戦い。写真ハイライト

2023.08.08

 東京王者のレッドサンズが、1988年に初出場初優勝を遂げている北ナニワハヤテタイガースに逆転勝ち――。ベスト8をかけた3回戦8試合のうち、小野路公園野球場での2試合からハイライトを写真でお届けします。 ※選手やチームの物語は追って掲載します  (取材&文=大久保克哉) ■3回戦/小野路第1試合 [東京]3年連続4回目 レッドサンズ  000130=4  002001=3 北ナニワハヤテタイガース [兵庫]6年ぶり3回目 レッドサンズは2年連続の8強入り。5回表二死一、二塁から中越えの逆転二塁打を放った三番・宮野歩大(下)が、試合後は保護者らを前に「あと3つ勝って優勝します!」と宣言(上) 拙攻続きで無得点の嫌なムードを一蹴した七番・新井飛翔。4回表に右翼線へ適時二塁打を放つ(下)   北ナニワは森岡雄飛主将(上)が投打で奮闘。投げては3回まで無失点でゲームをつくり、打っては3回裏に先制の中前タイムリー。6回裏は四番・佐藤大士が123㎞を左前に運んで1点差まで詰め寄った(下) 広い外野守備や正確な中継プレー、三盗など走塁にも元王者らしさが見えたが石橋孝志監督(下写真右端)は「個々のモノが違うたな。上には上がおると言うてきたのに、ふだんの慢心が出てしまった」と手厳しかった   ■3回戦/小野路第2試合 [山梨]初出場 甲斐ジュニアベースボールクラブ  17304=15  00300=3 丸亀城東少年野球クラブ [香川]15年ぶり2回目 甲斐ジュニアは山梨・甲斐市の5チームが合併して3年目で全国初出場。前日の2回戦は強豪・北名古屋(愛知)を破り、3回戦は14安打15得点の圧勝で8強入り 1回表、三番・小川裕也のセーフティスクイズで先制(上)。2回表には一番・藤森涼大のタイムリー(下)など打者10人で7得点  ...

【レポ➍2回戦PM】大荒れの序盤戦。写真ハイライト

【レポ➍2回戦PM】大荒れの序盤戦。写真ハ...

2023.08.08

 最多出場23回の常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)に、2022年準Vの北名古屋ドリームス(愛知)までも散る――。大波乱となった2回戦のうち、神宮球場での午後の2試合からハイライトを写真でお届けします。 ※選手やチームの物語は追って掲載します  (取材&文=大久保克哉) ■2回戦/神宮第3試合 [群馬]初出場 菱・境野フューチャーズ  20611=10  20050=7 四箇郷少年野球クラブ [和歌山]25年ぶり3回目 菱・境野は3回表に、五番・越川丈が満塁走者一掃の3点二塁打(写真下)。「子どもたちの未来が明るく輝くように」(和田久雄監督)とのチーム名の由来通り、ハツラツとしたプレーで全国1勝、3回戦へ   四箇郷は1回裏、三番・髙橋楓麿が左へ同点2塁打(上)。4回裏には四番・上西翔彪主将の二塁打(下)を皮切りに打者10人で5得点の猛反撃     ■2回戦/神宮第4試合 [東京]2年ぶり4回目 不動パイレーツ  100000=1  000000=0 常磐軟式野球スポーツ少年団 [福島]2年連続23回目     不動はベンチ前で円陣を組まず、永井丈史監督が好守のナインを出迎える(上)。先発したエースの永井大貴主将(下)は球にキレがあり、5回3安打無失点の好投  ...

【レポ❸2回戦AM】波乱含み!?  写真ハイライト

【レポ❸2回戦AM】波乱含み!? 写真ハ...

2023.08.07

 昨夏王者の中条ブルーインパルス(石川)に、過去2度Vの多賀少年野球クラブ(滋賀)も散る――。2回戦が5会場で行われています。神宮球場での午前2試合からハイライトを写真でお届けします。 ※選手やチームの物語は追って掲載予定です  (取材&文=大久保克哉) ■2回戦/神宮第1試合 [前年度優勝/石川]2年連続4回目 中条ブルーインパルス  000100=1  02000×=2 越前ニューヒーローズ [福井]2年連続2回目 昨夏の準々決勝はコロナ感染で辞退した越前が全国に戻ってきた(上)。2回裏、二死満塁から一番・山本颯真主将が一塁線を襲う2点タイムリー(下)。これが決勝点に 中条は1回裏、5年生の三塁手・北翔輝の堅実なプレーによる併殺でピンチを脱する(上)。4回表には板倉汰知(写真下)と北の連続二塁打で1対2としたが…   ■2回戦/神宮第2試合 [長崎]6年ぶり4回目 波佐見鴻ノ巣少年野球クラブ  004045=13  000012=3 横堀マイティ・ノース [秋田]初出場 波佐見は3回二死から、下園蒼治朗と山口陽大(写真上)に一発が飛びだすなど4点先取で波に乗った。6年ぶり4回目の出場にして初勝利に村川和法監督(写真下・左端)は「1勝までが長かったですね」と目には光るものが 2023年に入っても「下級生が集まらなかったので」(小松宗矢監督)、年度限りでの活動停止を決めてから全国初出場を果たした横堀(下)。先発のエース・熊谷匠(上)が3回二死無走者からつかまったが、粘投が光った  

【レポ❷1回戦】V候補も順当に2回戦へ。写真ハイライト

【レポ❷1回戦】V候補も順当に2回戦へ。写...

2023.08.07

 高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月6日、5会場で1回戦を行いました。過去日本一のV候補、新家スターズ(大阪)と常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)、北名古屋ドリームス(愛知)、レッドサンズ(東京)らが順当に2回戦へ。駒沢公園硬式野球場、神宮球場の各2試合からハイライトを写真でお届けします。選手やチームの物語は後日、たっぷりと。 (取材&文=大久保克哉) ■1回戦/駒澤第1試合 [埼玉]初出場 泉ホワイトイーグルス  000000=0  30200 X=5 野沢浅間キングス [長野]初出場 ⇧球場表示の最速113kmに適時三塁打も。野沢のエース・小山翔空主将が攻守でけん引した ⇩「3安打では勝てませんね」(井上貴徳監督)。泉ホワイトは「楽しかったです」(髙橋隼太主将)と短い夏を笑顔で振り返り、新たな目標・ポップアスリートカップへ   ■1回戦/駒澤第2試合 [石川]初出場 館野学童野球クラブ  00020=0  00611x=8 新家スターズ [大阪]2年連続3回目 ⇧好守連発、ヒットに三塁コーチまで。恩師へ向けて大ハッスルしたナインを象徴していた館野・高田慶吾主将(中央) ⇩前日の開会式を体調不良で欠場の新家・千代松剛史監督の姿も無事に。因縁? の雨もあった駒沢球場で、徐々に突き放して白星発進。「大会6試合なら2試合くらいはこういうのもある」   ■1回戦/神宮第3試合 [青森]初出場 八戸ベースボールクラブ...

【開会式】51チーム、神宮で栄誉の大行進

【開会式】51チーム、神宮で栄誉の大行進

2023.08.05

 高円宮賜杯第43回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント(以は8月5日、明治神宮野球場で開会式を行いました。マスクの着用もほぼなく、コロナ禍以前の夢舞台がようやく戻ってきた感じです。同6日の競技第1日目を前に、出場51チームと入場行進の勇姿をお届けします。 (写真=大久保克哉) ちゅうじょう 中条ブルーインパルス [前年度優勝/石川]2年連続4回目   なかしべつ 中標津ホルスタイン野球少年団 [北海道北]初出場     ふかがわいちやん 深川一已バトルス [北海道南]初出場   はちのへ 八戸ベースボールクラブ [青森]初出場   ひろの 洋野ベースボールクラブ [岩手]初出場     おおさき 大崎ジュニアドラゴン...