【2024注目の逸材❺】
まつなが・まお松永眞生
※プレー動画➡こちら
【所属】多賀少年野球クラブ/滋賀
【学年】6年
【ポジション】投手兼遊撃手兼中堅手
【主な打順】二番、三番
【投打】右投右打
【身長体重】145㎝47㎏
【好きなプロ野球選手】柳田悠岐(ソフトバンク)
※2024年2月4日現在
【2024注目の逸材❻】
なかい・こうし中居昂士
※プレー動画➡こちら
【所属】多賀少年野球クラブ/滋賀
【学年】6年
【ポジション】投手兼三塁手
【主な打順】三番、四番
【投打】右投左打
【身長体重】150㎝49㎏
【好きなプロ野球選手】則本昂大(楽天)
※2024年2月4日現在
まずは夏の全国大会、年末はNPB12球団ジュニアトーナメントで活躍する。そして数年から10年先には、国内最高峰の舞台、プロ野球へ。
新年度を前にした新6年生が描く夢は、おおよそがこういうストーリー。どれもこれも「超」のつく難関で、一般的には夢のまた夢の世界だ。
けれども、多賀少年野球クラブ(以降、多賀)が誇る双璧の二刀流コンビが口にすると、やけにリアルに響く。一つひとつを実現していきそうな可能性を秘めている。それだけの過程を踏んでおり、努力を欠かしていないせいもあるだろう。
ともに昨夏の全日本学童大会マクドナルド・トーナメントで全国デビューを果たした。チームは初戦の2回戦で4対5の惜敗も、中居昂士(下写真左)は二番・一塁、松永眞生(同右)は三番・中堅でスタメン出場し、それぞれクリーンヒットを放っている。
反則クラスの打球
その後の新チームで「反則級」と言いたくなるようなド迫力の打撃を連発しているのが右打ちの松永眞生だ。
ファウルでも、あまりの打球の速さに、三塁側ベンチは大人でも身構えていないと危うい。身長150㎝にも満たない5年生がまた、なぜそんなにも遠くへ打球を飛ばせるのか――。昨年11月の交流大会では1試合3発、1日2試合で計4発のサク越えアーチで度肝を抜いた。
きれいな一本足からバットヘッドが猛スピードで走り出す
「ホームランはフェンスを越えていくのが20本くらい。ランニングも入れたら30本くらいかな…」
話す側からチームメートたちの横やりが入った。
「もっと打っとるやろ!」「ウソやん、そんな少ないわけないやろ!」
それでも松永は他人事のように言う。
「…数えてないからわからない。ホームランはうれしいっちゃ、うれしいけど、次の打者に回す感じで打席に入ってるからヒットでもいいし、ホームランを何本打ちたいとかもないです」
人一倍、バットを振っている自負はあるという。平日は毎日、マシンが自動的に吐き出すシャトルを打ち込んでいる。
「家の庭にめっちゃデカいネットがあるから、そこに投げて跳ね返りを捕る感じの守備練習も毎日。あと週に2、3日はそのネットに向かってピッチングの投げ込みもしています。全部一人で? はい」
無類のパンチ力が最大の魅力。状況によっては当然のようにバントも軽打もある
祖父が野球、父はバスケットボール、母はバレーボール、2人兄弟の年子の兄はスイミングと、家族はそれぞれ異なるスポーツが専門。次男坊の松永は1年生から野球を始めた。
「野球のチームに入ったら、バアバ(祖母)が『オモチャを買ってあげる』と言うので始めました。野球では守備が一番好き。ソフトバンクの柳田選手みたいに強肩になりたいです」
マウンドに立てば、真上から振り下ろす右腕から100㎞に迫る速球を投じる。遊撃を守れば、捕球から送球までの板についた動作から、一塁へ矢のような送球を披露する。
バットだけではなく、右腕の振りも強くて鋭い
「2年生の12月に多賀に来てから、内野のフィールディングとかも教えてもらって、できるようになりました。楽しくて元気で強いチームでやりたいと思って、多賀に来ました(移籍)」
今では攻守走、あらゆる局面のどういうプレーでも落ち着き払っている。頭と体での学びに加え、失敗を含む経験が大きく作用しているようだ。
「去年の全国では、ボクが二塁ランナーで2ランスクイズを決められんかったり…。今年はみんなで全国優勝したい。そのためにはコツコツと練習して、守備や走塁のミスをなくすことだと思います」
往復3~4時間の通い
6年生にもなれば、誰でも実戦でストライクボールを投げられる。これは多賀の伝統的のひとつで、球数制限ルールができる前から継投が当たり前だった。要するに、投手は何枚でもいるのが常。
その中でも、2024年の文句なしのエースはこの右腕、中居昂士だろう。5年秋の時点で最速は100㎞を超えている。
大きく足を上げるダイナミックなフォームは、指導者の助言やプロ選手のマネからではなく、いろいろと自分でやりながら染みついたのだという。
「ヒザをできるだけ高く上げて、できるだけ踏み込めるように意識しています」
投手を始めたのは3年生あたり。打撃も非凡ゆえ、外野と捕手以外はどこでも守ってきたが「一番やりたいのは? ピッチャーです!」と即答する。全力投球の一本槍でない。状況を読み、打者も観察しながら投球を組み立てるあたりも、いかにも多賀のエースだ。
日々の鍛錬の成果だろう、下半身の踏ん張りも効いて右腕が振られていく
「ピンチの場面とか、最終回の最後に空振り三振が取れると気持ちいいい。そういう場面では追い込んだら、いつも空振りを狙っています」
姉2人に兄、妹の5人きょうだいの次男坊。兄に続いて1年生で地元・京都市の野球チームに入り、4年生の春に隣県の多賀へ移籍してきた。
「多賀に入ってから、野球がめっちゃ面白くなりました。いろんなことがわかってきて、どんどんできるようになってきて…」
けん制球のターンや首振りのパターンとタイミング、クイック投法や前後左右に送球するフィールディング…。教えられた一つひとつを反復し、自分のものとして今日があるのだろう。
重心を軸足に乗せての、すり足ステップからバットが鋭く振り出される
自宅から多賀町のチームの拠点までは高速道を使っても1時間強。一般道で渋滞にハマれば往復で4時間かかることもあるという。週末はどうしても父母の運転に頼らざるを得ない。それゆえ、平日の火曜から金曜までは自主練習に励んでいる。
「月曜は休み。あとの日は走りに行ったり、打ったり、守ったり、投げたり。お兄ちゃんかお父さんがいたら、ティー打撃の後に普通に投げてもらって打つ。サボりたいときもあるけど、うまくなりたいと思っているから、毎日やってます」
新年に入って打球の飛距離もさらに増しているという
全国に名を馳せるチームは今や100人を軽く超える大所帯。それでも中居は5年生からレギュラーに。そして昨夏の全国大会では左前タイムリーに中越え二塁打も放ったが、苦い記憶しかないという。
「全国は応援もめっちゃすごいし、なんかドキドキして、自分のプレーがぜんぜんできんかったです」
消化不良の解消も含め、今夏にかける思いは並大抵ではない。「今年もまずは全国出場。そして全国1位、優勝が目標です。みんなとどんどん喋るようにしていけば、緊張せずに思い切って自分のプレーができると思います」
切磋琢磨する環境
松永と中居は、互いをライバル視しているわけではないが「チーム内でも誰にも負けたくない!」と口をそろえる。また、ともに移籍組で、平日は自由参加のチーム練習より自主練習を優先して、黙々と己を磨いている点でも共通している。
率いる“カリスマ”こと辻正人監督は、どの時代でも最善を模索し続ける求道者。選手を新たに迎え入れることも、逆に外のチームへ送り出すことも、それが本人たちの望みであるならば何ら拒まないという。平日練習にあまり顔を見せないというだけで、咎めるなどもありえない。
「松永も中居も相当に伸びてますよ。家で相当にやっているんでしょうね。打球の飛距離も投げる球のスピードもどんどん上がっている」(同監督)
迎える新年度の最初の山は、5月初旬までの全日本学童県予選。実のある努力を重ねながら切磋琢磨する双璧コンビの存在は、身内にはどこまでも頼もしく、チーム外のライバルには底知れぬ脅威となることだろう。
多賀は2016年に全国スポーツ少年団交流大会で優勝。2018年と19年に全日本学童を連覇している。
(動画&写真&文=大久保克哉)