【2024注目の逸材】
わだ・りおと和田凌音
[神奈川/6年]平戸イーグルス
※プレー動画➡こちら
【ポジション】投手、右翼手
【主な打順】五番
【投打】左投左打
【身長体重】159㎝42㎏
【好きなプロ野球選手】山本由伸(ドジャース)、村上宗隆(ヤクルト)
※2024年5月26日現在
東京に次ぐ全国2位の大激戦区。687チームが加盟する神奈川で、頂点に立つのは容易なことではない。
全日本学童マクドナルド・トーナメントの予選となれば、競争倍率は全国1位に跳ね上がる。1051チームが加盟する東京は本大会出場3枠(開催地枠含む)なのに対して、神奈川は大半の道府県同様に1枠しかないからだ。
2年前にその狭き門を突破して全国デビューした平戸イーグルスが、2年ぶりの大舞台へ順調に歩を進めてきている。昨秋の新人戦は、県大会を制して関東大会ベスト4まで進出した。
昨秋は県大会を制して関東4強。和田は右から4人目の長身選手
2024年は、2月15日で対外試合解禁(県のルール)となってから、黒星は関東大会優勝の船橋フェニックス(東京)と、同準優勝の西埼玉少年野球(埼玉)に喫したのみ。全日本学童の予選はまず3月に、24チーム加盟の横浜市戸塚区を突破。そして4月からGWにかけて、265チーム加盟の横浜市18区32代表による予選トーナメントをぶっちぎりで制している。
6年生はジャスト9人で、5年生が14人。粒ぞろいで攻守ともバランスがとれており、勝負強い。中でも投打でポテンシャルが際立つのが、左投左打の和田凌音だ。
クセのない自然体のフォームがまた、将来性を感じさせる
まず目につくのが、すらりと長いコンパスと小さな頭。打席でもマウンドでも、その恵まれた体をシンプルに操って高い出力を発揮する。カウントや状況によってスローボールも投じるが、何よりの武器であり魅力は、真っすぐに伸びていく快速球だ。
「三振を取りにいくより、ど真ん中でもいいので、ストレートで攻めていくことを意識しています」
全国区の強打者にも動じることなく、詰まらせたり、ポップフライを上げさせたり。対左打者にとりわけ自信があるようで、アウトコースへの角度のある快速球で奪う空振りも増えている。
力感がないのにグンと伸びていく速球が、打者を狂わせる。「球速は計ったことがありません」
昨秋の新チーム始動からの個人成績がまた圧巻だ。計16試合に登板、35イニングを投げて四死球が何とゼロ! そして防御率は0.86(5月26日現在)。
学童チームでここまで詳細に成績を管理しているのも驚きだ。担当する事務局長兼務の阿部将人ヘッドコーチは、和田の成長ぶりに目を細めている。
「以前は経験の少なさから精神的な脆さもあって、うまくいかずに四死球連発もありましたけど、最上級生になって落ち着きが出てきましたね。特に先頭打者に集中して入れているのが、安定感につながっていると思います」
「和田はマイペースで周りに感化されない。自分でやるべきことを淡々とこなしていくタイプ」(中村監督)
投手陣は3枚で、和田の役目は主に中継ぎか、抑え。先の横浜市大会は全5試合コールド勝ちしたことで、登板は2試合4イニング(無失点)に終わるも、これからの勝負所で存在感を増すことになるだろう。ほか2投手もハイレベルな上、ブルペンで和田が控えていることで、安心して思い切り腕が振れる側面もあるようだ。
“和製”R・ジョンソン!?
シルエットも投球フォームも、1990年代から2000年代のMLBで一時代を築いた左腕、ランディ・ジョンソン(ダイヤモンドバックスほか)を連想させる。大人たちからやはり、そういう指摘も受けることがあるそうだが、同投手にあまり関心がないという。
「ピッチャーは山本由伸選手(ドジャース)が好きです!」と、きっぱり。「バッターは村上宗隆選手(ヤクルト)。自分自身は打つほうが好きです」
今年に入って本塁打は6本。見た目のフォームに力感がないのに、打球がよく呼ぶ。チームで取り組む、インサイドアウトの素直なスイングが身についているからだろう。最近の公式戦では1試合2本塁打もマークしている。
体幹が強いのだろう、フルスイングでも頭の位置と目線はそのままだ
和田の住まいは横浜市ではなく、寒川町にある。父が野球経験者で、5歳上の兄が先に地元のチームで野球を始めた。弟の和田も就学前からそこに加わり、父子3人で自主練習もしてきたという。
「投げ方とかは小さいころから、お父さんに教えてもらってきました」
その後、地元の所属チームが部員不足から消滅。「強いところでやりたい!」と、4年生の春に平戸イーグルスにやってきた。戸塚区の活動拠点まで約20km。両親の手厚いサポートも受けて毎週末、通ってきている。
率いる中村大伸監督(=下写真)は、神奈川では知らぬ人はいないほどの有名人だ。
横浜商高時代に春夏連続で甲子園準優勝し、日体大を経て社会人・NTT東京でも巧打の外野手として活躍。1996年のアトランタ五輪では、日本代表の主将を務めて銀メダルに輝いている。小学生の目線に降りての技術指導はポイントも明快で、練習は効率的。試合では求めるものが高い分、コメントは辛口になることが多い。
「和田は投げる能力、打つ能力は相当に良いところまでレベルアップできている。でもまだまだ、経験しなきゃいけないこともあるし、波が激しくてプレーが軽いというか、雑な面もある…」
4月の東日本交流大会(ベスト8)の時点で、そういう評価だった左腕は以降、課題も着実に克服しつつある。また好投手を前にすると、淡白になりがちだったチームの打線も、上り調子でつながりが生まれている。
非登板時は右翼を守る。前後の守備範囲も広く、強肩でバッテリーを助ける
「将来の夢はプロ野球選手。今は全日本学童に出ることしか頭にありません」
最終予選の県大会は今週末の6月1日に開幕する。至難の神奈川の頂点まで、あと5勝。1回戦は川崎市営等々力球場で9時半にプレーボール予定だ。
(動画&写真&文=大久保克哉)