全日本学童大会の1回戦は、組合せの関係で11チームがシード。全53チームが出そろうのは、7会場で16試合を行う2回戦となる。中でも注目を集めたのは、常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)と豊上ジュニアーズ(千葉)の一戦だ。常磐は大会最多24回目の出場で、2010年に初優勝。豊上は過去に銅メダルが2回、1年前の全国8強メンバーら複数のタレントを擁する。守りが安定しているのは常磐で、打力が突き抜けているのが豊上。迎えた対決は、常磐が得意とする接戦となり、緊張の糸が張ったままの6イニングだった。
(写真&文=大久保克哉)
先攻の常磐はベンチ入り23人で6年生12人(上)。後攻の豊上はベンチ入り18人で6年生14人(下)
■2回戦/見附市野球場
[福島]2年ぶり24回目
常磐軟式野球スポーツ少年団
000010=1
10100 X=2
豊上ジュニアーズ
[千葉]2年連続6回目
【常】奥山、西本-上遠野
【豊】中尾、山﨑-神林
本塁打/神林(豊)
二塁打/鈴木(豊)、齋藤(常)
元王者の利と術中
「1年に1回くらいは、力以上の試合やんなきゃダメなんだよ! それが今日だよ、やれっから!」
4回終了後の給水タイム。一塁側のベンチ内でナインをそう鼓舞していたのは、常磐軟式野球スポーツ少年団の天井正之監督(=上写真)だった。
同監督は1984年の創設時のメンバーで、6年時にはチーム初の全国出場(全国スポーツ少年団軟式野球交流大会)を果たしている。そのOB監督の野太い声には、しかと自信が宿っていた。また聞いている選手たちの顔からも、その気が十分に感じられた。
彼らの先攻で始まった試合は、この時点で0対2とビハインド。だが、それまでの内容は悲観するものではなく、得意の接戦に持ち込めていた。
苦しさをより感じていたのはむしろ、猛打を誇る相手側だったのかもしれない。豊上ジュニアーズの髙野範哉監督(=下写真)の試合後の第一声も、こうだった。
「ウチが負けるとしたら、こういう試合展開なんですよね」
要するに豊上とすれば、もっと大きくリードする展開を、現実的な理想として描いていたと思われる。春先に練習試合をした際には、常磐の投手陣を打ちまくって大勝していたこともある。
双方のシートノック前には、豊上・髙野監督が一塁側ベンチへ歩み寄って常磐・天井監督と軽く談笑(上)。試合開始30分前には、大会本部席前でメンバー表を交換(下)
ただし、今度の対決は、ガチンコの夏の夢舞台だ。魔物が住んでいるのは、本家・高校野球の甲子園とは限らない。「小学生の甲子園」でも初戦の難しさを口にする名将は多く、実際にいつもの力を出せないまま消えていく有力チームもままある。
そういう意味では、前日に同球場での1回戦第1試合に勝利(1対0)していた、常磐に利があった。一方、この2回戦から登場の豊上は当然、前日の常磐の戦いを視察したはずだが、メンバー表の交換で少なからず面食らったことだろう。なぜなら、常磐の先発投手、背番号5の奥山煌都は前日に出場していなかったからだ。
見附市運動公園野球場は、ブルペンが壁に覆われて外から見えない。常磐の奥山はそこで肩をつくっていた(上)。1回戦に先発して4回無失点の西本主将(下)は、2回戦はラスト2回を完全投球することに
1回戦の常磐は、西本魁人主将と佐藤瑛介の右本格派2枚で完封リレー。西本主将は4回を被安打3、佐藤瑛はラスト2回をパーフェクト投球で締めた。だが、2回戦の先発のマウンドに立ったのは、通常は遊撃を守る奥山。身体の線が細い軟投派で、この起用はとっておきの秘策だった。
「キラト(奥山)の先発は予定通り。豊上の打線にマッチするかなと思って、ずっと練習と準備をさせてきたので」(天井監督)
豊上は1年前の全国8強メンバーの3人が、いずれも世代屈指の強打者に成長し、NPBジュニアにも内定していた。福井陽大(=上写真)は前年から不動の一番打者で、ミート力が秀逸。右打ちの三番・神林駿采と、左打ちの四番・中尾栄道は、ともに逆方向へもサク越えするパワーがあり、神林にはとんでもない脚力と肩が、中尾には左サイドスローから100㎞超の速球もある。
また下位打線もしぶとく、どこからでもビッグイニングをつくれる上に、昨秋の関東大会で最速103㎞を投じた左腕・山﨑柚樹もいる。こうしたことから、今大会の優勝候補筆頭に豊上を推す声も多かった。
力と技のせめぎ合い
2回戦の大注目カードは、序盤から動きがあったがゲームセットの瞬間まで、手に汗を握る内容だった。
1回裏、豊上は無死一、二塁で送りバントが決まらずにアウトを増やしてしまう。そして四番打者が放った鋭いゴロ打球は、内野併殺コース。だが、守る常磐に投げミスがあって3アウト目を奪えず、二走の生還を許してしまった。
1回裏、いきなり連続四球の常磐・奥山だが、指揮官からドリンクを手渡されて(上)立ち直る。一死一、二塁のピンチも脱したかに思えたが、バックにミスが出て先制を許す(下)
豊上の先発・中尾(=下写真)には、1点リードでも十分に見えた。常磐打線を力でねじ伏せ、4回までに許した走者は、四球の1人だけだった。
「目の前のバッターに集中して、打ち取ることだけを考えて投げました。オーバースローでコントロールがつかないところがあったので、そこは修正したい」(中尾)
対する常磐の先発・奥山も、持ち味を存分に発揮。打者をねじ伏せる力はないが、打ち取るだけの球速の幅と正確性に、粘りもあった。ミス絡みで先制された直後には二塁打を許すも、後続を二直に。マスクをかぶる上遠野晃大とのコンビで、2回には二盗を阻み(=上写真)、3回には一発けん制で二走をアウトに。
千葉大会決勝では18安打15得点(4回コールド)という豊上打線を、3回まで4安打2点に抑えたのだ。先発の役目を果たした奥山を、天井監督は「よく投げましたよ」と労った。だが、試合全体を振り返るなかで、こうも語った。
「ホームランを打たれるまでは、うまく低めに投げられていたんですけど、あの打者にはフルカウントから高めに行っちゃいましたね。それを逃してくれなかった…」
その一発が生まれたのは3回裏で、打ったのは豊上の三番・神林。左中間へ文句なしのサク越えソロアーチ(=下写真)で、スコアは2対0となった。
勝負の終盤も押し切る
4回の給水タイム。常磐のベンチでは冒頭のような指揮官の檄のほかに、初代監督で天井監督の恩師でもある大平清美団長(=下写真)から、こういう声掛けも聞かれた。
「いいか、5回、6回が勝負だよ!」
そして再開直後の5回表、二番手で登板した豊上の本格派左腕・山﨑に、常磐打線が食らいついた。
一死から六番・四家蒼陽が、振り逃げから一塁ヘッドスライディングで生きると、続く西本主将が逆方向へのテキサス安打(=上写真)で一、二塁に。そして二死となった後、九番・齋藤慶季が左中間へ二塁打(=下写真)を放ち、1点を返した。
「絶対にランナーを返してやろうという気持ちで打席に立ちました」(齋藤)
だが、マウンドの豊上の背番号1は、失点しても表情も球威も制球力も変わらなかった。続く6回表には、バックのミスから二死三塁と一打同点のピンチになるも、最後の打者を二飛に打ち取って、3回戦進出を決めた。
「少し緊張したけど、準備をしてきたし、ちゃんと投げられたので良かったです」(山﨑)
注目の一戦は、2対1で決着。得意の土俵に相手を引きずり込んだのは常磐だったが、そこで押し切ったのは豊上だった。
失点や味方のミスで動じなかった豊上の二番手・山﨑(上)。最後の打者の二飛を見届けると、うれしさのあまり? マウンド付近で転倒して苦笑い(下)
〇豊上ジュニアーズ・髙野範哉監督「3対0くらいかなと思ってたけど、相手もしっかりしていて、余計な点はくれなかったですね。ミスして1点返された後、またミスで同点という展開になりそうな中で、(二番手の)山﨑が乱れなくてよかったです。大会1試合目で、こういう相手に接戦で勝てたのは大きいですね」
●常磐軟式野球スポーツ少年団・天井正之監督「豊上は今日しか叩けねぇと思っていたし、実際に初戦の硬さがあったからイケるかなという気持ちもあって、やったかなと思ったんですけど。初回に併殺を取れなかったのと、期待の打者たちがね…。もっと自分のこと信じて頑張んなきゃ、ウチらみたいなチームは上に行けないんですよ」
―Pickup Hero―
“飛ばないボール”も何の!! 失った流れも引き戻した主将のV弾
かんばやし・しゅんと
神林駿采
[豊上6年/捕手]
勝つには勝った豊上ジュニアーズだが、散発4安打の2得点。相手も2安打に終わったこの試合では、全国常連チームの間で「飛ばないボール」と言われれいるメーカーの、J号球が使用されていた。
髙野範哉監督は「やっぱり飛ばないし、こっちも向こうもヒットが出なかった」と、渋かった初戦を振り返った。だが両軍を通じて1人だけ、そのボールを特設フェンスの向こうにまで、かっ飛ばした打者がいた。
それが豊上の主将、神林駿采だ。1点リードの3回表、一死一塁で右打席に立つと、3ボールから1ストライクとなるまでの間に、二塁へ進んでいた走者がけん制死。二死無走者となってカウントも3-2となり、守る相手に大きく流れが傾きそうな雲行きだった。
しかし、神林は三塁線へ鋭いファウルの後、内角高めのボールを学童用の複合型バットで一閃。「当たった瞬間にイッたと思いました」と語る打球は、左中間のフェンスを軽々と超えていった。嫌な流れを打ち払ったこの一発が、結果として勝利も呼ぶ決勝アーチに。
試合後は記者の求めに応じて、記念のホームランボールと写真に収まった(=下写真)が、喜びよりも反省が口をついた。
「初回はボクのミス(送りバントを決めれず、追い込まれて三飛)で1点しか取れなかったから、ホームランを打ったことで満足せずに、明日以降は同じミスをやらないようにして全国制覇に向かいたい」
全国舞台に来ても、変わらず頼もしいままの背番号10だった。
―Good Loser―
対強力打線への“隠し球”。大役を全う
おくやま・きらと
奥山煌都
[常磐6年/遊撃手兼投手]
全国常連チームの生え抜き選手の一人。瞳が澄んでおり、不思議と下級生の時代から、記者のカメラレンズの向こうで印象的な表情を見せてくれるのが彼だった。
2年前の「小学生の甲子園」は、プレーはできなかったがメンバー入り。堅守を伝統とするチームにあって、最上級生で正遊撃手となり、秋の新人戦は最高位となる東北王者となった。
身体は成長期を迎える前で、華奢ながら身のこなしは文句なし。打球処理の一連の動きは基本に忠実で、一塁への送球も決して弱くない。
そんな奥山煌都が、全国屈指の強打を誇るV候補を打破するべく“隠し球”となり、2回戦で電撃的に先発登板を果たした。
「相手も強くて緊張したんですけど、自分のピッチングができて良かったです」
おそらく、打たれることも前提としつつ、逃げ腰のピッチングではなかった。緩急を使いながら丁寧にボールをコーナーに集め、強力打線に連打を許さなかった。3回を投げて2失点(自責点1)と、大役を果たした。それでも勝利には結びつかず、試合後は右肩をアイシングしながら号泣。
「今日も勝ちたかったです…全国は楽しくて、2年ぶりに戻ってきて1勝できたのは良かったです」
2回戦屈指の好カード、勝負を決めたのが豊上の主砲なら、勝負をおもしろくしたのは常磐の先発右腕だった。