牛島野球スポーツ少年団(秋田)の吉田敏雄監督が77歳、戸尾ファイターズ(長崎)の松本大三郎監督が73歳。合わせて「150歳」となる、ベテラン監督同士の対決が夢舞台で実現した。全日本学童大会の3回戦は8月15日、3会場で8試合を行い、ベスト8が出そろった。当メディアのリポートは、一進一退の好勝負となった「150歳対決」、新潟市のみどりの森の運動公園野球場の第1試合からスタートしよう。
(写真&文=鈴木秀樹)
■3回戦/みどりと森球場
◇8月15日▽第1試合
[長崎]2年連続10回目
戸尾ファイターズ
000201=3
10003 X=4
牛島野球スポーツ少年団
[秋田]28年ぶり5回目
【戸】大田屋、佐保-藤永
【牛】東海林、渡辺-齊藤、東海林
三塁打/佐保(戸)
二塁打/渡辺2、奈良(牛)
【評】朝から降り出した強い雨により、試合は当初予定された午前8時半から4時間半遅れ、午後1時過ぎにプレーボールがかかった。戸尾は初回、先頭の佐保壱晟が左中間三塁打を放つも、次打者の右邪飛でタッチアップから先制のホームを狙い刺されるなど、無得点に終わった。一方の牛島はその裏、先頭の伊藤駿が右前打を放ち盗塁、渡辺想真主将の中越え適時二塁打で先制。戸尾は4回に田川綾人(5年)の中前打と、林大翔の左前打などでチャンスメークし、敵失で同点に追いつくと、大田屋遼の中前適時打で勝ち越しに成功した。しかし、牛島は5回、先頭の七番・奈良大翔の左翼線二塁打で好機を得ると、敵失で再び追いつき、伊藤駿の適時打と東海林大志のスクイズで2点リード。最終6回、70球の球数制限を迎えた先発・東海林から渡辺主将へとマウンドをつなぎ、戸尾の反撃を藤永将生の適時打(公式記録は敵失)による1点でしのぎ、逃げ切ってベスト8進出を決めた。(了)
大雨により、土と天然芝のみどりの森球場は他会場に遅れて13時開始に。1回表、守る牛島は右翼手・五十嵐陽翔の本塁好返球で相手の先制を阻む(下)。走者は三塁打の戸尾・佐保
4回表、戸尾は石崎の左前打(上)など3安打と敵失で同点、大田屋の中前打で2対1と逆転する(下)
5回裏、牛島は奈良の二塁打(上)と敵失で2対2に。さらに無死一、二塁から伊藤駿の中前打(下)で1点勝ち越し
5回裏に再逆転した牛島は、なおも一死二、三塁でスクイズ。東海林は片手で伸ばしたバットに白球を当て(上)、三走・五十嵐が生還(下)。これが決勝点に
―Pickup Hero―
3連戦すべて規定の70球に。元王者の115㎞右腕
しょうじ・たいし
東海林大志
[牛島6年/投手]
1986年の第6回大会で優勝している牛島野球スポーツ少年団。率いる吉田敏雄監督(=下写真)はV当時、背番号のないコーチの1人としてチームに在籍していた。その後、「30」番を背負い、1997年の第17回大会には監督として出場(初戦の2回戦で敗退)。
「ピッチャーを中心に、守りを大切にする」‘(同監督)という野球スタイルは、当時と変わっていない。今大会でその中心となっているのが、背番号1のエース・東海林大志だ。
1回戦から3試合連続で先発。桑島スポーツ少年団野球部(徳島)との1回戦は5回1/3を72球、志賀学童野球クラブ(石川)との2回戦では5回2/3を71球、そしてこの一戦でも5回1/3を70球とフル回転。
「打ち取ることを優先に、リズムに気をつけて、6~7割の力で投げることを心掛けています」という右腕は、それでいて「最近、計測した時は球速115㎞くらいでした」と、底知れぬパワーを持つが、それをひけらかすことなく、テンポよく、軽快に投球を続ける。
「あまり緊張することもありません」というエースの姿勢が影響するのか、牛島ナインは皆、肩の力を抜き、リラックスしてみえる。打席では、どの選手も、ほとんど力感を感じさせない構えから、鋭い打球を連発する。攻守ともに、動きに力みがなく、軽快に楽しんでいる様子が印象的だ。
この3回戦では、初回のピンチを切り抜け、その後、即座に先制点を奪うと、その後一旦は逆転されながらも、好打と積極的な走塁で流れを引き戻し、再逆転。決勝点となったのは、東海林が腕一本で成功させたスクイズバントによる4点目だった。
「緊張もある中で、打撃はだんだんと調子が上がってきた。本来の力を出せているんじゃないでしょうか」と、吉田監督はチーム全体の手応えを語った。
―Good Loser―
7人が初球ストライクを振って一時逆転
とのお
戸尾ファイターズ
[長崎]
敗れた戸尾・松本大三郎監督(=下写真)は「いやぁ、やられちゃいました」と言いながら球場の外に出てきた。「やっぱり、そう簡単に勝たせてはもらえないですねぇ。ミスもあったからな…。やはり、ミスしたほうが負ける」
今回が10回目の大会出場と、今では大会常連のチーム。これまでの最高成績は2003年と2010年に記録したベスト8。「今回もなんとかそこ(8強)まで勝ち上がって、長曽根(ストロングス・大阪)さんと試合したいと思っていたんですけどね」と松本監督。その口調にはしかし、悔しさよりも、すがすがしさが漂う。
4回には、戸尾らしい怒濤の攻撃で、一旦は逆転、応援席を沸かせるなど、持ち味もしっかり出し、戦いきったとの思いからだろう。
「選手たちは頑張ってくれました」と奮闘のナインをたたえ、「相手ピッチャーが素晴らしかった」と、牛島先発の東海林投手をほめた。「彼をもう少し、早いうちに交代させられたら…」とも加えたが、これは本意ではないだろう。「同じ状況がもう一度あったら? やっぱり、同じように打たせると思いますけどね」。指揮官はそういって、笑顔を見せるのだった。
逆転した4回の攻撃を振り返ると、先頭の三番・田川綾人(5年=上写真)から西啓之介、林大翔、石崎翔太、藤永将生、大田屋遼、梅崎星空までの7人が、それぞれ4球目、2球目、初球、3球目、初球、初球、2球目と、すべてファーストストライクを振っての逆転劇。超積極的に、畳みかける攻撃は戸尾最大の武器だ。
松本監督が再び、ニカッと笑う。
「待つ野球は、あまり好きではないんですよね」
6回表は西(上)と藤永(下)の中前打で再び1点差に迫った
試合前も、試合中も、試合後も、選手たちは賑やか。「練習のときから、小学生らしく、元気にプレーしてくれてます。もちろん、プレーに対する厳しさも、教えているつもりですが」。この日も雨で試合開始が遅れ、長い待機を強いられたベンチでも、選手に声を掛けて回るなど、明るい松本監督のキャラクターも、チームづくりの根幹だ。
チーム10度目の大舞台で躍動した戸尾ナインは、悔しい結果にも笑顔を残し、球場を後にした。