高円宮賜杯第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは8月18日、HARD OFF ECOスタジアム新潟で決勝を行い閉幕。長曽根ストロングス(大阪)が、伊勢田ファイターズ(京都)を8対4で破り、4年ぶり8回目の優勝を果たした。「小学生の甲子園」とも称される、正真正銘の全国大会での優勝3回以上は長曽根のみ。孤高の記録を更新したVメンバー全員の、喜びのコメントもお届けしよう。
(写真=福地和男、鈴木秀樹、大久保克哉)
(文=鈴木秀樹)
■準決勝/エコスタ新潟
◇8月18日▽11時40分開始
[大阪]3年ぶり18回目
長曽根ストロングス
25010=8
00310=4
伊勢田ファイターズ
[京都]2年ぶり2回目
【長】谷脇、森川、谷脇-岩﨑
【伊】藤本、松倉、臼田-夏山
本塁打/藤本、夏山(伊)
二塁打/苧原、森川2、岩﨑(長)
【評】長曽根は1回表、先頭の岩﨑海斗が四球で出塁。盗塁と暴投で三進し、森川壱誠主将の内野ゴロの間にかえって先制。二死から四番・苧原祐次郎が右越えのエンタイトル二塁打を放つと、続く吉見憲眞(5年)の適時打で、この回2点を先取。2回にも坪田健吾の安打、岩﨑の適時打、さらに森川主将の左翼二塁打、苧原の適時内野安打など、打者一巡の猛攻で5点を追加した。一方の伊勢田は3回、幸尚哉(5年)の左前打に続き、三番・藤本理暉、四番・夏山淳主将が連続でサク越えの本塁打を放ち、3点を返した。4回には臼田塁人の安打、幸の右前適時打でさらに1点を加えたが、反撃もここまで。4回にも1点を加えた長曽根が逃げ切って、史上最多を更新する8度目の優勝を達成した。(了)
1回表、長曽根は一死三塁から森川主将の二ゴロ(上)で先制。さらに苧原の二塁打(下)と吉見(5年)の中前タイムリーで加点
2回表、長曽根は坪田健吾がエンドラン(上)を決めて無死二、三塁に。そして適時失策で3対0となったところで、伊勢田ベンチがタイム(下)
2回表、3対0とした長曽根はなお、岩﨑が2点タイムリー(上)。続く森川主将の二塁打(下)と、苧原の内野安打で7対0に
3回裏、伊勢田は藤本が2ラン(上)、夏山主将(下)もソロアーチで続いた
4回裏、伊勢田は臼田の中前打(上)から二死満塁とし、幸(5年)の右前タイムリーで4点差に迫る
4回裏、あわや同点満塁弾という大飛球を長曽根の右翼手・谷脇が捕球(上)。5回裏は4点差を守り抜いて優勝を決めた(下)
―Champion of 45th―
「やっぱり根性」金字塔
優勝
=4年ぶり8回目
ながそね
長曽根ストロングス
[大阪]
【戦いの軌跡】
1回戦〇4対0宗方(大分)
2回戦〇6対0東中野山(新潟)
3回戦〇4対3不動(東京)
準々決〇4対2牛島(秋田)
準決勝〇5対4旭(新潟)
決 勝〇8対4伊勢田(京都)
戦いを終えた長曽根ストロングス・熊田耐樹監督の表情は穏やかだった。「スター選手がいない。力では劣る」と言い続けたチームが全員でつかんだ賜杯は、これまでとはひと味違うものだったはずだ。
「(これまでの優勝と比べて)厳しかったねぇ。なぜ勝てたのかと言われれば、そうですねぇ…。偉そうなことは言われへんけども、やはり指導者たちがしっかり引っ張って、子どもたちがそれに全力で応えてくれたということや思いますよ。子どもたちが本当に頑張ってくれた。ほめてやってほしい」
前人未到の8度目V。偉業を達成した指揮官は、自らが選んだ短い言葉が、説明になっているのかを確かめるように繰り返して、付け加えた。
「やっぱり根性。大事やと思うんです。昭和の野球や言われますけどね」
「今回は無理や」
人事を尽くして天命を待つ、という言葉がある。
長曽根ベンチの辞書には、一体、その一文があるのだろうか。熊田監督も辻本茂樹ヘッドコーチも、近藤竜コーチも、運を天に任せる場面は一瞬たりともないのではないか。
大会前から、熊田監督が「ヤマ」だと言っていた、不動パイレーツ(東京)との3回戦の試合直前に、熊田監督は「ゆうべはとにかく考えた。寝ずに考えた」と打ち明けた(そのあとには自ら「ウソやで。ちゃんと寝たけどな」というノリツッコミを入れていたが)。
今大会、長曽根は1回戦と2回戦は同じオーダーだったが、3回戦以降、すべての試合で打順を細かく変えていた。あらゆる可能性を考え、できる準備をすべてした上で、勝負の瞬間まで、打つべき手を可能な限り打つのが、長曽根の戦い方だ。
例を挙げれば、準々決勝まで七番だった苧原祐次郎(=上写真)を、準決勝と決勝では四番に置き、決勝では見事、その苧原が初回と2回の得点に絡んでいる。また、森川壱誠主将(=下写真)は試合後に、こんなふうに振り返っている。
「伊勢田のエース(藤本)はすごいピッチャー。前に練習試合で対戦したときには、ぜんぜん打てる気がしなかった。でも、今日は監督がしっかりと対策を立ててきてくれたので、僕たちはそれを信じて、自信を持って対戦できました」
自分たちの試合の直前、直後であろうが、見られるときは自らバックネット裏に移動し、次戦の相手チームを観察する。そして、その日の試合後には、目に焼き付けた次戦の対戦相手を想定し、翌日に向けて練習をする。相手エースと同じスピードを再現し、打撃投手を務めるのは、腕に覚えのある選手の父親だ。
試合中も同じで、気を抜く瞬間はない。常にそのときの最善を考え、指示を送る。そのため、長曽根のベンチには絶えず、熊田監督の声が響いている。試合中にも、選手たちに本気の怒声を浴びせる(もう少し穏やかに言ってくれたら、こちらもヒヤヒヤせずに済むのだが)。
体格にも恵まれた4年生・岡林は、準決勝では打線の五番に
そして選手たちも、全力でそれに応える。選手たちのメンタルを支えるのは、これまでに途方もない時間を費やし、厳しい練習を通して手にした自信だ。
熊田監督が大会前から口にしていた、「今回は無理やと思うわ」という言葉は、決していわゆる“三味線”の類ではなく、正直な思いだったはずだ。それでも、その中で、考えうるすべての準備を行い、当日まで選手たちの調子を見極めて戦術を練り、戦い続けた。そうして全員で一戦ずつ勝利を重ね、手にした金メダルなのだ。これが冒頭の、「指導者が引っ張り、子どもたちが応える」という説明につながるのだろう。
三塁守備も打撃も巧みな吉見(上)、勝負強い打撃が光った山田蒼(下)は、ともに5年生
V10も現実味!?
ついに、前人未到の8度目の大会制覇を達成した。さらにこの先を考えるなら、今大会を通じ、攻守で大活躍だった吉見憲眞、大会序盤の活躍が光った北原優響は5年生、指名打者として準決勝ではクリーンアップの一角を務め、貴重なタイムリーを放った岡林優志はまだ4年生と、今後が楽しみな選手も多い。
「そうやね。来年は今年よりも期待できると思うよ」
以前、熊田監督は冗談めかし、「10回(の全国制覇)まで行かれへんかなぁ」と言っていたが、その言葉がぐっと現実味を帯びた気もする、今回の優勝劇だった。
-V戦士“喜び”の声-
※丸数字は背番号
⑩森川壱誠(6年)「1回に2点、2回に5点。今日はこの7点がすごいデカかったと思います。準決勝で3点差を逆転して、勝ち切れたのもよかった。みんなで力を合わせて優勝できて、うれしいです!」
⓪北原優響(5年)「1回戦から決勝まで、どの試合もみんな、全力で声を掛け合って戦えたのがよかった。自分も絶対、最後まであきらめないと思って戦いました。優勝できて最高です」
①坪田健吾(6年)「6年生7人がひとつになって戦えました。ずっと厳しい練習に取り組んで、ここで優勝することを目指してきたんです。優勝できて本当によかったです」
②岩﨑海斗(6年)「自分は1回戦でちょっとダメだったけど、その後はずっと打撃の調子が良かったです。チームとしては守備も良かったし、打線もよくつながった。キャッチャーとしては、ピッチャーが投げやすいようにリードできたと思います」
③山田蒼(5年)「勝つことができてうれしかった。昨日は負けてたけど、最後まであきらめないところがよかった。今日は追い上げられても負けない気持ちを持ってプレーできた。これからはサク越えホームランがいっぱい打てる選手になりたいです」
④谷脇蒼(6年)「今日は結構、ピッチングの調子が良かった。昨日よりコントロールよく投げられました。大会ではだんだん調子が上がって、良い感じで投げられました。これからは今よりも、もっとコントロールが良いピッチャーになりたい」
⑤苧原祐次郎(6年)「打撃の調子は、まあまあ良かった。スローボールも、ちゃんとためて打つことができました。今日はアウトコースに張って、ヒットを打てた。これからは長打が打てる選手になりたいです」
⑥月田拓斗(6年)「勝つことだけ考えて、打席に入りました。これからはバッティングが良い選手になりたい。今年の長曽根は、仲間を応援できる選手が多くて、試合していても楽しかったです」
⑦吉見憲眞(5年)「接戦が多かったので、逆転勝ちとかして、優勝できてうれしい。これからも楽しんでプレーし、活躍できる選手になりたい。守備も打撃も、両方頑張ります」
⑧畑中零生(6年)「チャンスでは緊張したけど、ランナーをかえしたい気持ちで打ちました。人生で3番目くらいに楽しかった。1番はこうして仲間と一緒にいるとき、2番目は、野球してるときです。甲子園に行って、みんなに知ってもらえるような活躍がしたいです」
⑨山田雄大(5年)「優勝できて最高です! みんな、チャンスでランナーをかえすバッティングができていたのがすごいと思いました。自分はベンチだったけど、声を出してチームを引っ張れたと思います。来年も来れるので2連覇を狙います!」
⑫岡林優志(4年)「自分は決勝は打撃の調子があまり良くなかったので、それが悔しいです。これから、バッティングがもっとすごい選手になりたい」
⑬辻井恭悟(5年)「サヨナラ勝ちがあったり、厳しい試合で勝てて、楽しい大会でした。自分はランナーコーチだったけど、その仕事はちゃんとできました。来年も優勝します!」
⑭川添瑠希(5年)「優勝はうれしいです。先輩たちが活躍して、逆転勝ちしたりしたのがカッコよかった。自分は5年生なので、これからは守って打てる選手になって、来年活躍したいです」
⑮釜池大耀(5年)「大会中ずっと、声を出し続けて、チームを盛り上げることができた。ボクも先輩たちみたいに、全国で活躍できるような選手になりたいです」
⑯山瀬晴(5年)「この大会で球速が100㎞を超えて、101㎞を出すことができました。これからはもっと球が速くて、三振を取れる、すごいピッチャーになりたいです」
⑰茂友悠人(5年)「6年生の先輩たちみたいに、もっとヒットやホームランが打てるようになりたい。来年はレギュラーを取れるように頑張って、連覇します!」
⑱吉岡望叶(5年)「6年生のみんながカッコよかった。バッティングでは今よりも打てるように、外野の守備ももっとノックを受けたり、練習を頑張って、いい選手になりたい」
⑲坂田淳司郎(5年)「みんな楽しんで試合していたし、よく打ったと思います。自分は守備は好きではないんだけど、打っていくぞ!っていう野球が好きなので、こんなふうに戦えたらいいなと思いました」
⑳奥西悠真(5年)「この大会は絶対に勝って、8度目の優勝をするんだってみんなで話して、優勝することができました。すごくうれしかったです。来年も相手に点を取られないで勝てるように、打ち込んだりノックを受けたり、練習をたくさんします」
㉑日本松龍(5年)「緊張感がある試合が多くて、ドキドキしました。自分はサードを守っているので、来年は守備もバッティングも頑張って、連覇したいです!」
―Good Looser-
夢舞台の歩みを象徴した1本。最終回、代打で初球をライトへ
わかやま・かいと
若山桧人
[伊勢田6年/投手]
(取材&文=大久保克哉)
「この回で終わりです」
試合時間が既定の90分に達し、新たなイニング(6回)には入らない旨が両軍に伝えられたのは5回裏。4点を追う伊勢田ファイターズの攻撃中だった。
先頭が倒れ、続く5年生の栗山雄吾が初球をファウルしたところで、相手投手が交代。すると伊勢田の幸智之監督もベンチを出てきて、代打を告げた。
背番号7の若山桧人。2回戦の6回表に無死満塁から代打で登場し、左中間へ2点二塁打を放っていた6年生だ。出番はそれ以来となる。
「負けている状況だったので、自分がヒットとかで塁に出てチームを勢いづけようと思いました」
全国では最後となるだろう打席、それも代打でまさかの初球攻撃。当メディア3人のカメラもその瞬間を収めきれず…
2回ほどしっかりと素振りをしてから左打席に入ると、初球(カウントは1ストライク)を迷わずスイング。低いライナーが一、二塁間を破ってから弾んだ。一塁ベース上で静かに拳を突き上げた若山は、ベンチへ“デスターシャ”のポーズを向けて声を発してから、うれしそうに笑った。
「忘れられない1本(ヒット)になりました」
自然体の構えでボールを懐まで呼び込み、素直なスイングで確実にミートする。ほぼ間違いなく、全国大会の最後になるだろう打席。それも代打の1球目で、これだけのパフォーマンスを発揮できる6年生が、なぜ、ずっとベンチスタートだったのか――。
試合後の取材で明らかになったのは、ヒジの故障だった。若山の本職は投手で、90㎞台の後半を投げるが、この数カ月はほぼノースロー。バットを振れるまでに回復しており、指名打者という選択肢もあったが、エース左腕の藤本理暉は三番の中軸打者でもあり外せない。あるいは、投げる頻度の低い一塁守備なら、何とかこなせたかもしれないが、幸監督は大会開幕前にこう明言していた。
「子どもの未来と可能性を全国大会でつぶす気はないです」
実際、若山の出番は代打の2打席と1度の代走のみ。器の大きな大人によって、行く末の長い少年は守られたのだ。もちろん、葛藤もあったと指揮官は打ち明ける。
「若山自身も、この数カ月間はジレンマも抱えてたと思います。またこの子は、1年生からずっと一緒にやってきましたので、ホントは全国でも投げさせてやりたかったし、何とか打席に立たせてやりたいな、と」
若山に続いて浅貝瑛斗も代打で登場。遊ゴロに終わるも、これで6年生7人全員がファイナルでプレーしたことに
そのまま4点差を跳ね返せずに敗れても、逆転サヨナラで勝つにしても、「最後の攻撃」になる。それを審判団から告げられたとき、背番号30は迷いなく動いて若山を打席に送ったのだ。ただし、既定90分までのタイムリミットについては、後半戦に入っても頭になかったという。
「そこ(経過時間)はもう、ぜんぜん関係なしでしたね。焦っても、あの子たちはそんなに器用にできないですし、時間に追われて自分のプレーを忘れるくらいやったら、しっかりと自分のプレーを噛みしめてやってほしいなと思ってたので」(幸監督)
そして若山は、土壇場でも自分の打撃で出塁した。それが得点に結びつくことはなく、チームは敗れたが、銀メダルを首から下げた顔は実に晴れやかだった。夏休みと全国舞台の一番の思い出を問うと、後輩たちへの想いまで口にした。
「やっぱり、みんなと一緒に6日間、ずっといられたということが一番良かったと思います。5年生たちには前年度優勝枠(来年の全国出場権)をあげることはできなかったけど、来年も頑張って全国に来て、ボクたちの分まで優勝してほしいです」
※準優勝チームの横顔とインサイドストーリーを追って公開します