第45回全日本学童大会マクドナルド・トーナメントは、1回戦から決勝まで52試合を6日間で消化。当メディアの取材班は、そのうち32試合を現場で取材した。出場全53チームはカバーできず、「大会ベストプレーヤー」の選出には難がある。それでも個人成績を集計した上で、取材ストックから前途も有望な6年生をリストアップした。結果、18人に。では、その顔ぶれを『俊英カタログ』として、秀でた点やプレー写真とともに紹介しよう。前編は、とんでもない能力やプレーで人々をうならせた4選手と、投打二刀流で活躍した5選手だ。
(選考=編集部)
(写真=福地和男、大久保克哉、鈴木秀樹)
―鮮烈インパクト➊―
3戦2発で留まらぬセンセーション

かんばやし・しゅんと
神林駿采
[千葉・豊上ジュニアーズ]
6年/右投右打
決勝まで5連戦のつもりで新潟に乗り込んだものの、志半ばの準々決勝で終幕。それでも3試合、三番・捕手の背番号10、神林駿采が放ったインパクトは強烈だった。少なくとも3回は、スタンドや大人たちの驚嘆やため息を誘うプレーがあった。
まずは元王者の常磐軟式野球少年団(福島)との2回戦、両軍を通じて唯一となったフェンスオーバーだ。チームは自慢の打線が湿りがちのなか、1点リードの3回に左中間へ文句なしの一発。走者がけん制死で二死無走者となった直後であり、敵味方に及ぼした影響も大だった。また結果、このソロアーチが決勝弾となっている。
「ホームランを打ったことで満足せずに、全国制覇に向かいたい」
こう話した神林は、続く3回戦は2打数音なしも、持ち前の強肩を披露した。1対0で迎えた5回の守りで、先頭を四球で歩かせたものの、二盗を阻止。結局、チームは虎の子の1点を守り切った。迎えた準々決勝では、空砲となったものの、5対11で迎えた最終回に左方向へソロアーチ。
「一般用の複合型バット」が使用禁止となって迎えた今大会で、複数本塁打は2人のみ。投手もレベルが上がる全国大会でも、変わらなかったパンチ力はやはり、世代トップクラスだ。ただし、筆者を含む少なからずの大人たちが、より深くうなったのは2本目のアーチの前。第2打席だった。

イニング7失点で4対11と、大きく水をあけられた直後の3回裏。先頭で右打席に立った神林は、二塁手の方向へ平凡なゴロを打ってしまう。ところが、打ち終わりからぐんぐんと加速して一塁へ頭から飛び込み、セーフに。そして立ち上がると、仲間を鼓舞するように雄叫びをあげた。
主将の奮闘は、それで終わらない。とんでもない脚力で内野安打を勝ち取っただけに、相手バッテリーの警戒度はMAX。投手からのけん制が、3球連続を含めて都合5球を数えた。それでも神林はスタートを切り、二塁を陥れてみせた。
得点差(7点)とイニング(3回)からして、スタンドプレーに感じた向きもあるかもしれない。が、この選手のスピードと勝ち気は、リスクなんぞ凌駕。相手をかき回し、試合の流れを寄せたいとの思いも当然、あったことだろう。無死二塁から後続は内野ゴロ3つに終わるも、神林は塁を2つ進んで得点している。
敗北後は大地に片ヒザをつき、目頭を手で押さえた。仲間たちも大号泣。主将の責任感から取材には応じたが、内野安打と盗塁のことまで話を聞けるような状態ではなかった。
その後、神林はヤクルトジュニアに選出され、そこでも主将に。個々のレベルが最上級となる年末のNPBジュニアトーナメントでも、何かしらの閃光を放つのかもしれないし、壁に当たったとしても通過点に過ぎまい。ともあれ、2025年夏の夢舞台でのインパクトは、絶大にして断トツだった。
(大久保克哉)

―鮮烈インパクト❷―
「最強一番」打ちまくりの夏

たなか・りく
田中璃空
[東京・不動パイレーツ]
6年/右投左打
守れて、打てて、走れる。今年の不動パイレーツの強さを象徴していたのが、キャプテンの田中璃空だ。
遊撃の守備では、守備範囲の広さ、華麗なグラブさばきに正確な送球と、ほれぼれするほど。彼がいることで、二遊間と三遊間のヒットゾーンは一気に狭くなる。

打っても、今大会で「最強の一番打者」と呼んで過言でないほどの成績をたたき出した。4打数3安打2本塁打を記録した宮古ヤングパワーズ(岩手)との1回戦に始まり、3試合の合計は11打数8安打、3本塁打(今大会最多記録)、二塁打4本。打ちも打ったり、絶好調だった。
それゆえ、今大会では目にする機会が少なかったが、小技をこなす器用さもあり、相手のスキを巧みに突く走塁のうまさも特筆するレベル。3回戦で大阪代表に敗れた後はひとしきり泣いたが、「長曽根(ストロングス)は強かった」と相手を称え、前を向いた。
(鈴木秀樹)

―鮮烈インパクト❸―
走も投も“反則級”スピード

いしい・そうすけ
石井爽介
[福岡・木屋瀬バンブーズ]
6年/右投右打
8月の夢舞台が迫るなかで、編集部にも噂が聞こえてきた。
「福岡のチームに、120㎞を投げる子がいるらしい」
アプローチはすれど、コンタクトが取れないまま大会は開幕。ならば真偽をこの目で確かめようと、筆者は別会場で1回戦の2試合を取材してから、メインスタジアムの第3試合へ。福岡代表の木屋瀬バンブーズは、簗瀬スポーツ(栃木)と一進一退の好勝負を展開し、勝利した。
噂はほぼ真実だった。いや、期待以上のタレントだった。加えて、ナイスガイだった。背番号8の石井爽介。四番・中堅でスタメンに名を連ねた、この選手の成績と突き抜けたパフォーマンスについては、『注目戦士⑳』の記事と動画で紹介しているので、そちらを参照いただきたい(➡こちら)。

結局、全国初陣でマウンドに立つには立ったが、アクセル全開で右腕を振ることはできなかった。それでも“反則級”の球と足のスピードを、筆者は目の当たりにした。また、センターの守備でも意図したビッグプレーを披露。そしてやはり、こちらの超逸材も大会後、ソフトバンクジュニアに選出されている。
(大久保)

―鮮烈インパクト❹―
フィジカルどんだけ~!?

おやなぎ・ともたか
小柳有生
[新潟・旭スポーツ少年団]
6年/右投右打
驚きは、そのフィジカルだった。身長170㎝の高畑哲也監督が「私とちょうど同じくらい」と言うから、背丈はもう大人並。スパイクも小学生とは思えないほど大きいし、まだまだ重力に抗って伸びていくことだろう。
でも特筆したいのは、サイズ感ではない。マウンドでも打席でもパワフル。恵まれたリーチとコンパスを持て余さずに、大きな出力を生んでいたことだった。
「(球速の)最速は111㎞です。県大会の決勝で出しました(球場表示)。将来はメジャーリーガーになりたい」
そんな小柳有生が度肝を抜いたシーンは、準決勝の第1打席に始まる。簡単に二死となり、三番の小柳も2球で追い込まれたが、3球目をバスター打法でミートすると、白球は左中間の奥で一度跳ねてから、特設フェンスを越えていった。
バスター打法は一般的に、ミート率は上がるが飛距離は落ちる、とされている。それでも、あわやサク越えの大飛球を放つのだから、小柳のスイング力はハンパない。でも、敵も味方もビックリさせたのは、エンタイトル二塁打の後だった。
そのプレーは、公式記録では「PK(ピックオフ)や「ケ(けん制)」としか記されない。また二走の小柳は、塁間に誘い出されて挟殺プレーとなったので、決して褒められたことでもない。しかし、彼はアウトにならなかった。敵失ではなく、スーパーな身のこなしで生き残ったのだった。

1-6の二塁けん制で二・三塁間に誘い出された小柳は、三塁手へボールが渡ると急ターン。追走してくる三塁手をチラ見しながら、二塁方向へ逃げた。そして目の前の二塁手にボールが渡ると、走るスピードに乗ったまま右へ身をよじりながら、大きくジャンプ。これでグラブタッチをギリギリでかいくぐった(=上写真)。
さすがにバランスを失い、腹ばいで着地したが、這うようにして少し距離を詰めてから伸ばした左手で触塁。同じく体勢を崩していた、二塁手の再タッチよりも間一髪、早かった。対戦相手は、8回目の優勝を遂げることになる長曽根ストロングス(大阪)。持ち込んだランダウンプレーで走者を取り逃がしたなんて、もしかすると初めてだったかもしれない。
(大久保)

■二刀流5選手の成績


―投打二刀流➊―
完成度随一の左腕。散り際に一発も

ふじもと・りき
藤本理暉
[京都・伊勢田ファイターズ]
6年/左投左打
伊勢田ファイターズの幸智之監督は、野球トレーナーを生業とする。プロから小学生まで手広くサポートしているが、エース左腕・藤本理暉の投げ方には、一切の手を加えていないという。
「お父さんと、小さいころから積み上げてきたんだと思います。何か問題があるわけでもないし、ほとんど完成されていると思います」(同監督)
故意か否かは別として、全国大会でも投手を撮った写真のなかに、不適切なボールの握りが散見される。それも今夏に限ったことではないが。そこへいくと伊勢田のエースは、いつどの角度から撮影しても決まって、きれいなフォーシームを投げるための握りをしていた。

選手1人を「酷使しない」と明言していた幸監督は、1回戦から決勝まで全6試合で先発のマウンドに藤本を送った。そして無理に引っ張らず、早めのスイッチから勝負どころで再登板という継投策を多用。準々決勝では初回の2アウトを奪ったのみで4失点降板した藤本だが、続く準決勝は後半戦のピンチで何度もマウンドに上がり、相手の反撃を断った。
「打たれてもミスしても、取り返してくれる。みんなでカバーし合えた、良い大会やったと思います」
チームは準優勝。藤本が投じた290球は、今大会最多だった。打線では不動の三番で、準決勝を除く5試合ですべてヒットをマーク。「これからもピッチャーとバッター、両方でいきたいけど、今は打つほうが好き」
こう語る藤本にとって、メインスタジアムでの決勝で右中間へ放った2ランアーチはまた、特別な1本となったことだろう。
(大久保)
―投打二刀流❷―
全国デビューで5連続K

かがわ・かんた
香川幹大
[埼玉・西埼玉少年野球]
6年/左投左打
最速は120㎞を超えるという本格派の左腕。清水リトルモンキーズ(静岡)との1回戦で、1、2回をまたにかけて5者連続奪三振と鮮烈な全国大会デビューを果たした。
チームにとっても全国初陣は、5回途中まで71球を投じて無失点の9奪三振。打っては2打数2安打(1四球)と、一番打者としても文句なしの結果を残した。
「緊張したけど『抑えるしかない』と思って気合を入れました。全国大会は、やっぱり違います。応援も迫力があるし、相手打線は際どい球をカットするのがうまい」
仲間とかつかんだ全国1勝に笑顔を見せた。

続く2回戦は、10回目の全国となる戸尾ファイターズ(長崎)を相手に、3回1失点(自責0)と好投したものの、チームは敗れた。綿貫康監督は「今年は香川のチームでした。全国はやはり、簡単ではありませんでしたが、チーム史に残る1勝をもたらしてくれた」と、奮闘の左腕をねぎらった。
(鈴木)
―投打二刀流❸―
もっと見たかった“火の国”三刀流

のざき・はるみち
野崎晴路
[熊本・IBCレイカーズ]
4対4の5回裏、一死から2連打で勝ち越されたが、まだ1点。しかし、一拍の間(ま)を置いてから、審判団より「試合終了(タイムアップ)」が告げられた。
1回戦でサヨナラ負け。悔やまれたのは、不意の幕切れのせいばかりではない。2019年王者の東16丁目フリッパーズ(北海道)を相手に、ハイレベルな好勝負を展開。“火の国”から初めて全国にやってきたチームは、芯を食った鋭い打球を序盤から飛ばしていた。
いきなりの4点ビハインドから追い上げ、ついに5回表に同点に。5回裏の続きにプラス1イニング、“おかわり”したかったのは筆者だけではないだろう。敗軍で際立ったのは、三塁手兼投手で四番打者の『三刀流』、野崎晴路主将のポテンシャルと存在感だった。

1回、2回と走者がけん制で刺され、1回裏の守りでは四球も絡んで4失点。どこか地に足がついていない感じもあったが2回裏、先頭を三ゴロに仕留めて落ち着いた。遊撃手の正面に緩く転がるゴロを、迷わずに追って処理した野崎(三塁手)の守備力は、試合前のシートノックから目についた。基本どおりのアプローチとグラブさばきに、ステップを踏んでの強くて正確なスローイング。
3回にもゴロを2つさばいた野崎は、4回からマウンドへ。身体の軸が安定したフォームから、期待どおりの速球を投じて打者3人で料理。そして3点を追う5回表、二死満塁で打席に立つと、遊撃強襲タイムリーで2人を迎え入れる。四番の一撃に後続も続き、ついに4対4となった。
その後の顛末は冒頭のとおり。こうして書き起こしている今もまた、“おかわり”したくなってきた。
(大久保)
―投打二刀流❹―
2回に4失点で涙も、完投勝利

さほ・いっせい
佐保壱晟
[長崎・戸尾ファイターズ]
6年/右投左打
1回戦から3試合。いずれも、コントロール主体のリズムよい投球で試合をつくり、チームに貢献した。ハイライトは何といっても、強打の西埼玉少年野球(埼玉)を相手にした2回戦だ。
2回表に4点を先取されたが「リズムを崩してしまったけど、調子は悪くなかったので、気持ちを切り替えました」と、そこから見事に立て直した。3回を11球、4回と5回を10球で抑える省エネ投球。

また、一番打者として迎えた4回の攻撃では、先頭で四球を選び、打者一巡での逆転につなげた。そして6回も投げ切り、74球で完投勝利を挙げた。
「点を取られた時には泣いてたんですけどね。すぐにケロリ。分からんもんですね」と、松本大三郎監督。投手一本のタイプではないが、大舞台での好投は、貴重な経験になったはずだ。
(鈴木)
―投打二刀流❺―
“急こう配”の剛球で魅了

ねごろ・あきまさ
根来亮賢
[宮城・富谷ストロングスポーツ少年団]
6年/右投右打
47都道府県の王者が集う全国大会でも、これだけダイナミックかつ、整った右のオーバーハンドスローは、そうはお目にかかれない。今まさに右腕を振りださんとする瞬間のショット(=上写真)は、日本人メジャーリーガーのパイオニア、野茂英雄氏を彷彿とさせる気もする。
腰が折れず、蹴り足から頭までが1本のラインとなっていて前傾。それだけでも相当な重量とエネルギーだろうが、踏み出している足と股関節でしっかりと受け止めている。そして右腕が釣り針のように弧を描いている。これだけのタメと、腕のしなりが効いていれば、さぞ速いボールが投じられることだろう。
残念ながら、筆者は別会場で取材しており、現場で見ることはできなかった。けれども、大会主催者提供の試合動画で、相当な球の走り具合や角度を確認できる。

1回戦から3回戦まで、すべて救援登板して自責点はゼロ。打っては計6打数で3安打。右打席から逆方向への三塁打が2本あり、足の速さもなかなかだった。そして大会後、保護者の携帯電話を通じて、本人と話す機会に恵まれた。
「今まで経験してきた中でも一番大きな大会で、緊張もあってバッティングのほうは少しズレがありました。ホントの力は出せなかったけど、ロースコアの中で3本打てたことは良かったと思います」
球速は不明(未計測)。投球フォームのルーツは、低学年時代のヒジ肩の故障にあるという。通院しながら理学療法士の下で理想のメカニクスを学び、それを体現するべくフィジカルの改善にも着手。関節の可動域を広げるストレッチや、体幹の強化など、地味な努力もコツコツと重ねて今に至るそうだ。
「3回戦で負けた後は、後悔が大きかったです。もっとキャプテンとして、チームを鼓舞できていたら、結果も変わったかなと…。自分のピッチングに関しては、全国でも通用したので、そこは自信につながると思います」
好きなプロ選手は、投手なら同じ右腕の山本由伸(ドジャース)。「圧倒的なピッチング力に憧れています。ボクもプロ野球選手になることを目指しているので、もっと活躍していきたいです」
(大久保)