東西の都の王者対決となった準決勝の第2試合。レッドサンズ(東京)の124㎞左腕と、新家スターズ(大阪)の強力打線とが、どう交わるのか――。予想された真っ向勝負はやや遅れて始まり、ワンサイドに近い内容となりましたが、やはり、敗軍にも特筆するべきものがありました。
(写真=福地和男)
(文=大久保克哉)
■準決勝/大田第2試合
[東京]3年連続4回目
レッドサンズ
000010=1
11210×=5
新家スターズ
[大阪]2年連続3回目
【レ】北川、藤森一-増田
【新】山本、貴志、山本-宮本、梅本
本塁打/山田(新)=大会2号
レッドの藤森一は自己最速タイとなる124㎞を複数回マークした
1年前の準々決勝を、両軍は小野路球場でそれぞれ戦っている。第1試合で特別延長の末にサヨナラ負けしたのがレッドで、続く第2試合でシーソーゲームを制したのが新家だった。
新家は翌日の準決勝で惜敗するが、千代松剛史監督は直後から「東京のスーパースターの子」を意識してきたという。それが準々決勝の球場で見たレッドの当時5年生、左投左打の藤森一生だった。一番・左翼で先発して二塁打1本の1打点、4回から救援すると6年生顔負けのスピードボールと度胸を披露していた。
「来年は全国に出たら、あの子が脅威になるんやろうなと思いましたし、今年の5月にウチが全国を決めてからは、あのレッドサンズの藤森クンからどう点を取るか、というのも大きな課題やったんです」(千代松監督)
長身の本格派サウスポーの対策、110㎞以上のスピードボールの対策は当然。さらには最悪も想定して「打てないなら足で」(同監督)と、二盗、三盗の練習も相当に積んできたという。
強面でいてその実、頭の回転が速くて賢い新家・千代松監督。どんなに勝っても批判を口にしない
一方、本人の預かり知らぬところで、1年も前からマークされてきたレッド・藤森一のほうは予想以上(期待通り?)に進化してきた。最速120㎞をマークするなど度肝を抜く豪速球で押しまくり、全国予選を含めて6月から東京二冠の原動力に。
迎えた東西の都の王者対決は、スタメンから興味深いものとなった。レッドの先発投手はエース左腕の藤森一ではなく(右翼で先発)、進境著しい右腕の北川瑞季だった。
レッドの先発・北川は3回戦(対兵庫・北ナニワ)でも好救援。7月の都知事杯MVPから上り調子できていた
対する新家は肩透かしを食らうどころか、「スーパースターの温存」はまったくの想定内だったという。以下は試合後の千代松監督の談話の一部だ。
「相手は昨日(準決勝)も右の子から藤森クンという継投やったし、今日ももしかしたらと思うてました。なので、ウチが先制して逃げ切らんとな、と」
1回表、レッドが二死二塁で打席に四番・増田球太を迎えたとき、千代松監督が即座に申告敬遠をしたのも、相手の先制を何としても阻むためだったという。
「ウチがリードされた状態で、120㎞を投げるスーパースターが出てきたらマズイな、と思いましたので」(同監督)
1回表、新家は二死二塁のピンチで四番・増田を申告敬遠(写真)。後続を内野ゴロに打ち取り、無失点で切り抜けた
敬遠策が実り、1回表を0点に抑えた新家は直後、猛然と1点を先取しにいった。
まずは一番・宮本一希が、右中間へ二塁打。続く小松勇瑛は右直で一死も、三番・貴志奏斗主将の3球目に宮本が三盗に成功する。バントの構えで盗塁をアシストした主将は直後の4球目、定位置で守る内野へ確実にゴロを転がして1点をもぎ取った。
ピンチを脱した新家は1回裏、先頭の宮本が右中間二塁打から三盗(上)、三番・貴志主将がゴロを転がして先制(下)
「ウチは2、3点は取れるという頭があったので、あそこは前進守備を敷きませんでした」(門田憲治監督)
上位打線が特に強力なレッドは、2回戦では13安打16得点している。また、この準決勝の相手先発は、大半が90㎞台のボールで1回表に早くも1安打していた。従って、初回の1失点やむなし、の守備シフトも決して間違いではなかっただろう。
それより、1点はこうして奪うのだという、野球の本質を理解した上での新家の流れるような攻め手と精度の高さこそ、称えられるべき。2回途中からマウンドに上がり、3点を奪われることになる(自責点0)藤森一も、試合後にこう語っている。
「自分たち関東のチームは、長打単打で1点でも多く取る、という野球。でも関西は1点にこだわって、走者を三塁に進めて叩きつけるとか、そういう頭を使った野球も素晴らしいと思います」
2回途中で救援したレッドの藤森一(上)は、一死二、三塁のピンチも内野ゴロで三走憤死(下)などこの回は無失点で切り抜けたが…
さて試合のほうは、欲しかった先制点を早々に奪った新家のペースで、そのまま進んでいった。
2回には5年生の山田拓澄が左打席からサク越えソロ。3回には藤森一の121㎞を五番・梅本陽翔が中前へ打ち返すと、敵失や重盗などを絡めてリードを4点に。4回には宮本が122㎞を左前打すると、足技と小技で敵失や野選を誘ってまた加点。
2回裏、新家の5年生・山本(上)が右へソロ本塁打。ハイタッチで迎えた次打者・上中涼太も二塁打(下)で続き、相手エースを引っ張り出すことに
「あの5点目が大きかったですね。4点差なら、スーパースターの藤森クンに満塁ホームランを打たれて同点というのもあり得ますから」(千代松監督)
外角を中心にコースを突いてくる新家の右腕・山本琥太郎を前に、4回まで散発2安打のレッド打線。バットの芯でとらえた打球が、なかなかヒットにならないのは新家の守備が堅くて広いからでもあった。持ち前の長打力で外野手の間を初めて抜いたのは5回だった。
4回裏、新家は宮本が左前打(上)から二盗と悪送球で三進。さらに小松の投ゴロで間一髪、タッチをかいくぐっての生還(下)で5対0に
代打の藤原煌大が左中間へ目の覚めるような打球を放ち、二塁ベース上で力強く拳を振り上げる。続く代打・竹森康喜の二ゴロで一死三塁とすると、新家はタイムをとって内野の定位置シフトを確認。再開後、九番・小笠原快の三ゴロでレッドがようやく1点を返したが、以降もついにバットから快音が聞かれなかった。
遅まきながらレッドは5回に反撃。代打・藤原の二塁打(上)から一死三塁として、九番・小笠原の三ゴロ(下)で1点を返す
〇千代松剛史監督「ホンマに疲れました。5点リードしても安全とはぜんぜん思うてなかったです。(序盤は細かい継投は)正直、2対1とか1対0になると思うてたことと、70球の球数制限もあるので、この大会で絶好調の山本を相手の主力打者にぶつけようという意図で。でも、山本がコントロールが良くてどんどん打ち取って展開が早かったので、3回からそのまま投げさせました」
新家の先発・山本は途中2/3だけ貴志主将の救援を仰いだが、あとは無四球(申告敬遠除く)の被安打2、1失点の快投
―GOOD LOSER ―
オール日替わり打線で銅
6年生12人は完全燃焼
[東京]
レッドサンズ
【戦いの軌跡】
1回戦〇4対0里庄町(岡山)
2回戦〇16対2足柄(神奈川)
3回戦〇4対3北ナニワ(兵庫)
準々決〇5対0甲斐(山梨)
準決勝●1対5新家(大阪)
全国で唯一の4ケタ、1051チームが登録する東京都のチャンピオン。準決勝は消化不良気味の完敗に近い形で終わり、ナインは泣きじゃくったものの、堂々たる銅メダルではないだろうか。
6年生12人の中で唯一、4年生から全国大会を経験している藤森一生主将は「今年こそ笑って終わりたい」と、予選の段階から繰り返してきた。昨夏は準々決勝でサヨナラ負け。そのマウンドで味わった悔しさを一人、心に秘めてこの1年は己を磨き抜いてきた。さらに新年からは、チームを主将として引っ張ってきた。
「世代No.1」とメディアに持ち上げられ、小学生にはありえない120㎞の豪速球を投じて注目の的となっても、言動は謙虚なまま。1年前の悔恨とリーダーの責任感に加え、日本一への野望が12歳の少年の心をも育んできたのだろう。
「自分が今の6年の代に降りてきてまだ数カ月で、それまでは1個上の学年(現中1)でやっていたんですけど、みんなも一緒に全国制覇を狙って自分についてきてくれて…金メダル、銀メダルには届きませんでしたが、みんなと保護者のみなさんに感謝の気持ちで一杯です」
避けたかった涙で話した主将だが、その後の艶やかな表情は、ひとまずの完全燃焼を物語るようだった。正真正銘の「未来モンスター」は、己の手柄だけで手にした銅メダルではないということも強調していた。
低学年時から学年キャプテンを務めてきた藤森輝。準決勝は3打数無安打も、一番打者として粘って計20球も稼いだ
昨年は8強、そして今年は4強(3位)と、2年連続でチームを最高成績まで導いた門田憲治監督もこう語る。
「2年連続の全国でしたけど、藤森一以外は全部違うメンバーでしたし、彼を中心にみんな成長して、すごく強くなってここまで来たので、名誉なことというか、称えてあげたいと思います」
「銅」なぜなーぜ
成長を促した大きな要因は、指揮官の厳しくも愛のある選手起用だった。レッドサンズは学年単位の活動を基本としているが、6月に全国出場を決めてからは5年生も合流させ、競わせながら東京都知事杯で優勝。起用法は全国に来ても変わることがなく、1回戦から準決勝まで全5試合、スターティングオーダーが異なった。固定されていたのは打線の一番から四番だけで、あとは5年生2人も含めた中から直前の結果で違う顔ぶれに。
「正直、6年生12人のうち誰が出ても戦力はそんなに下がらない。でも、仲良く順番で交代する、というのでは競争も生まれないし意味がない。結果を残した子が出るという、全国大会でもそれができたのは、彼らが高いレベルまで上がってきてくれたからで、そこがうまく活かせたと思います」(門田監督)
東京予選決勝は四番に座った竹森康喜でさえ、全国ではベンチスタートも。厳しい体験も今後に活きることだろう
2回戦は2ケタ安打の2ケタ得点で大勝。一方的な展開の中で12人の6年生全員がプレーできたことは、指揮官に安堵を、選手には結束と喜びをもたらしたようだ。
「競争とは言っても、学童野球ですからね。全員を出してあげたいのが本心ですよ」と指揮官が吐露すれば、準々決勝からスタメンに食い込んできた小笠原快はこう語っている。
「僕は去年の12月にこのチームに入りました。(当時から)みんな守備力がすごかったんですけど、打撃は今ほどではなくて。ここまでみんな打てるようになったのは、ライバルがとても多くて自分自身も負けたくない気持ちが心の中にあったからだと思います」
準決勝、唯一の打点を挙げたのがこの小笠原で、得点したのが代打の切り札・藤原煌大だった。大会で3打数3安打目となった、5回表の二塁打をこう振り返る。
「ここで1点でも取らないと負けちゃうと思っていたので絶対に塁に出るという気持ちで打ちました。(それまでも)試合に出たくて出たくて、仕方なかったですけど、緊張する全国大会の中で、5年生もいっぱい打ってくれて、それもうれしかったです。(もちろん、自分が打ったときも?)はい! それもうれしかったです(笑)」
門田監督は下の息子がまだ3年生チームに。自身3度目の全国もあるか
地元・東京での大躍進とあって、準決勝の後には球場の外で大勢の応援・支援者らも前に、挨拶や儀式が延々と。その中で涙も見せた門田監督は、下の子が3年生チームにいる。
来年度以降の指導体制などはまだ何も決まっていないというが、今夏の大きな成功体験と繰り返されてきている対関西勢の同様の敗北(敗因と対策)とが、チームに還元されるのは間違いあるまい。
これだけ走られたのも初めてだろう。準決勝の前半は二盗三盗を許した正捕手・増田球太だが、終盤は二盗を2つ阻止
夢舞台のフィールドで貴重な経験を得た2人の5年生、中田静と大熊一煕は、世代を代表するバッターへと進化する可能性も秘める。言動においても手本となる「未来モンスター」と、まだしばらくプレーできるのは心強い限りだろう。