2006年10月末──。いまから19年前、「プレーヤーの真の力になる」という経営理念そのものを社名としたフィールドフォースは、東京都足立区で産声を上げた。
創業当初は、主にスポーツ量販店のプライベートブランド商品OEM(他社製品の委託製造)を行っていたフィールドフォースだが、ほどなく、自社ブランドでの用品製造をスタートする。
ほぼ同時に発売された、記念すべき、ふたつの自社オリジナル商品第1弾は、フィールドフォースというブランドを象徴するにふさわしい、レジェンド商品となった。
気軽に持ち運びできるネットを!
「フィールドフォース」ブランドで世に送り出された第1弾製品のひとつは、FBN-2016Nと型番がつけられた、打撃練習用防球ネットだった。
それまで、バッティング練習に使う防球ネットといえば、2m×2mといった大きさの、ガッチリ溶接されたスチール製の頑丈なフレームにネットが張られ、そのネットの真ん中を円形にくり抜き、その丸い部分に、吹き流し状の集球袋(ネット)を付けた形が一般的だった。
しかし、この防球ネットを使えるのは、現実的には、専用のグラウンドを持つクラブなどに限られる。硬式ボールでの使用を前提に設計されているため、強度は申し分ないが、とにかく大きく、重いのだ。中にはキャスター付きで、「移動型」と名がついたものもあるが、それもせいぜい、グラウンド内で数mから十数mの距離を動かして使うことしか想定されていない。
当時、専務だった吉村尚記は常々、防球ネットについて、こんなことを考えていた。
「溶接された完成形のネットは、とにかく大きく、重い。もっと気軽に持ち運べる形にできないだろうか。それに、中心部だけが集球面になっているネットでは、その真ん中に打ち返す練習しかできない。ネット全面に打ち返すことができるものは作れないか」
コスト面についても、思うところがあった。
「この重さと大きさでは、宅配便で送ることもできない。運ぶにはおそらく、トラックをチャーターする必要があるだろう。そのための人員も。これでは、運搬費だけで商品代より高くついてしまう……」
こうした問題点を、吉村は「軟式ボール専用」と割り切ることでクリアした。フレームは溶接ではなく、パイプに凹凸を付けた組み立て式とし、フレーム用の金属パイプとネットに使う縄を、ともに硬式ボール用よりも細いものに。結果的に、この変更によって、分解した状態ならば、宅配便で届けられる段ボール箱に収まるサイズとなり、より軽量に仕上げることができたのだった。
集球面については、平面のネットに足をつけた形の、旧来のデザインではなく、フレーム全体を後ろから支える支柱をつけ、横から見ると縦長の三角形のような形にすることで自立させ、ネット全体に奥行きを持たせることで浅い袋状とし、全面でボールを受け止めることができる設計とした。
発案から試作を経て、完成まで、わずか1カ月。
「中国の工場とのやり取りだったんですが、とにかく早く作り上げたかったので、試作品はFedExで送ってもらって」
好きな言葉に、孫子が残したとされる「巧遅拙速に如かず」。現在も変わらない、フィールドフォースのスピード感は、こんな吉村の性分によるところが大きい。
こうして気軽に持ち運び、使う場所で組み立てて使用できるバッティングネットが完成した。
ちなみに、フィールドフォースの商品に付けられた型番は、すべて法則がある。FBN-2016Nを例に挙げると、「F」はフィールドフォース、「B」はバッティング、「N」はネット。数字の2016は「高さ2メートル、幅1.6メートル」のサイズを表している。最後の「N」はノーマルの意味だ。
少年野球の練習の定番に! 穴あきボールの誕生
もうひとつ、FBN-2016Nのリリースと時を同じくして発売した商品がある。FBB-20(20は「20個入り」の意味)、蛍光イエローの「穴あきボール」である。
フィールドフォースが創業した当時は、折しも、全国各地の公園における「ボール遊び禁止」、「野球禁止」が大きな話題となった時期であり、普段、学校の校庭を使うチーム練習でも軟式ボールを思いきり打つことができない、あるいは、大会における試合前の練習でも、実球を使ったフリー打撃は禁止される、といった事例が増えていた。
いずれも理由は「危険だから」。もはや、かつて放課後にグラブとバット、ボールをもって仲間たちと「空き地」に集まり、野球に興じた、そんな牧歌的な風景はない。決して広くないスペースに、子供からお年寄りまで(中にはベビーカーで幼児を連れた夫婦もいるだろう)様々な人たちが集う、公共施設としての「公園」では、自由に野球をすることもかなわないのだ。
そんな制約が多い環境下、学童野球の選手たちは、どこで、どんな練習をすればよいのか……。
「思い浮かんだのは、ゴルフでした」
吉村が回想する。
ゴルフでは、自宅などでの練習用に、プラスチック製などの練習用ボールがある。野球でも、同じような環境を作り出せないものか──。ただ、野球用に同じプラスチック製のボールを作るとすると、硬くて人に当たればそれなりに痛いし、なにより、すぐに割れてしまう……。
そうした思案の末に誕生したのが、「穴あきボール」だった。
ポリエチレンに発泡素材のEVA樹脂を調合することで、「柔らか」で「軽く」、「耐久性もあり」、さらに穴あきにすることで「飛ばない」ボールを作り出すことに成功したのだ。軟式の実球とはもちろん異なるが、バットで打ったときの「打感」もそこそこある。また、これも実球と同じとはいかないものの、単に素振りをするよりも、ずっと実践的な打撃練習ができる。加えて、手軽であるがゆえに、パートナーである投げ手(あるいはトスの上げ手)の負担が少なく、実球を使った練習以上のペースで「数をこなす」練習ができるという利点もあった。
快進撃は量販店の一角から始まった
こうして製品化されたFBN-2016NとFBB-20。当時はまだ、インターネットを使った通販は、さほど普及しておらず(2000年にオンライン書店として日本でサービスを始めたAmazonがその後ストアを増やし、「Amazonプライム」を始めたのは2007年、Appleが日本で販売した最初のスマートフォン「iPhone 3G」をリリースしたのは2008年のことだ)、販路は、かねてからプライベートブランドのOEMなどで付き合いがあり、さらに、このフィールドフォース商品の価値を認めてくれた、「スポーツオーソリティ」店舗での販売に限られていた。
どちらの商品も、当初はさほど注目されなかった。フィールドフォース商品の「かゆいところに手が届く」感覚は、実際に使用してこそ。商品棚での陳列、つまり商品の外観だけでは、アピールポイントもユーザーには届きづらい。箱入りで売っていたFBB-20などは、化粧箱の外からボールに触れ、その柔らかさを実感できるように、箱の側面を丸く切り抜くなど、パッケージデザインも見直しながら、販売を続けた。
苦戦からのスタートではあったが、スポーツオーソリティが全国の店舗で扱ってくれたことは大きく、爆発的ではないものの、その使い勝手の良さは徐々に認知され始めた。
やはり、使えば分かるのだ。口コミはもちろん、実際に使用する別チームの練習風景を見た少年野球指導者たちは「なんだ、あれは」ということになる。そうして、2商品は販売数を伸ばしていったのだった。
現在、社長となった吉村が振り返る。
「このふたつを商品化したことで、会社の将来に光が見えた気がしたんですよね。迷いがなくなったんです。この方向で行けば、間違いないだろうと」
変わらない穴あきボール 進化し派生商品を生むバッティングネット
フィールドフォース商品の「礎」となった、FBN-2016NとFBB-20。FBN-2016Nは、改良を加えた「FBN-2016N2」として、FBB-20はフィールドフォースのロゴが刻印された以外はまったく変わることなく(これはフィールドフォースの商品としてはきわめて珍しい)、現在もベストセラーとして、商品ラインアップに堂々と君臨している。
2商品のヒットで自信を深めた吉村も、
「正直、ここまでの成果を期待していたかといえば、そうではなかったんですけどね。想像以上でした」
と当時を振り返る。
事実、この2商品は、誕生から19年の間で、少年野球チームの練習風景を変えた、といっても過言ではない。持ち運びできるバッティングネットも、蛍光カラーの穴あきボールも、いまや、どの河川敷でも見かけないことはない。大げさに言えば、少年野球に「新たな練習法」をもたらしたのだ。
優れた商品が開発者、あるいは作者の手を離れ、ひとり歩きを始めるように人気を博し、そこにユーザーの発信力や創意工夫も加わることで、さらに爆発的ヒットに発展する……というケースがまれにある。FBB-20などは、その好例といえるだろう。
「そうですね……。一昨年、足立区から移転した、この柏の葉本社も、考えてみたら『穴あきボール御殿』なのかもしれません。ははっ」
FBN-2016Nの進化形で、FBN-2016ARというバッティングネットがある。型番末尾の「AR」はオート・リターンの意味。集球ネットの下部に、傾斜をつけられるシートがついており、傾斜を転がったボールが底に開けられた穴から落ちることで、一カ所に集まる構造になっている。これを使えば、いままでトスを上げていたパートナーが、打ち終えたボールを拾い集めることなく、数少ないボールでも打撃練習を続けられることになる。
この仕組みは、バッティングマシン、トスマシンなどと組み合わせた「オートリターン」シリーズへと引き継がれてゆく。また、バッティングネットもスチールフレームのものだけではなく、衝撃を自らの柔軟性で受けとめる、グラスファイバー製フレームを採用したもの、ネット自体に、より衝撃吸収性の高い素材を使用したものが登場するなど、こちらも続々と、異なるアイデアを加えた次世代商品が生まれている。
進化はさらに続く
当初「家のガレージのスペースでできる」練習を目指して作り始めた練習用ギアたちは、「家の中でも練習できる」ものへと変化を遂げ、さらに、パートナーなしでも「ひとりで」練習できるものまで登場。「省スペースで最大限の効果を」という開発コンセプトのもと、そのラインアップは現在も日々、「巧遅拙速に如かず」のスピード感で、進化を続けている。