ティースタンドにセットしたボールを打つ、いわゆる「置きティー」は野球を始めたばかりの少年野球選手から、プロ野球選手までが取り組む、バッティングの基本練習。フィールドフォースのティー打撃用ラインアップに、新たに加わった「バーティカルティー」は、ワンランク上の練習ができる、新発想のティースタンドだ。
レジェンドトレーナーが来社!
9月某日──。フィールドフォース本社の商品開発室では、長身痩躯、長髪の渋い男性と談笑する社長・吉村尚記の姿があった。会話の相手は、NPB球団初の「コンディショニングコーチ」立花龍司さん。日本の野球界で初めて「コンディショニング」の重要性を説き、トレーニングの在り方を激変させた、革命児だ。現在もトレーニングジムのプロデュース、大学、社会人野球チームのコーチをするなど、多方面でご活躍中。その立花さんがフィールドフォースの商品や取り組みに関心を持たれ、今回の訪問となったのだった。
立花さんは「するスポーツ」「見るスポーツ」とともに「支えるスポーツ」も大切、と言い、フィールドフォースのものづくりやサービスを評価。同じ野球人として、ともに「これまでにない」道を進み続けてきた者同士の共感もあるのか、これまでの会社の歴史から、まだ世に出ていない開発中の商品説明まで、吉村との会話は止まらない様子だ。
大谷選手のバッティングフォームって!?
ほどなく、立花さんが今年4月に上梓された『大谷翔平のバッティング解剖図鑑』(エクスナレッジ)の話題に。体の使い方やトレーニングはもちろん、動作解析にも造詣が深い立花さんがドジャース・大谷翔平選手のバッティングを分かりやすく解説した良書だ。立花さんは実際に大谷選手の打撃フォームを説明した上で、現在は一般的に「緩やかなアッパースウィングがベスト」とされているのだと教えてくれた。
同書によると、大谷選手のスウィングは日本ハム時代とドジャース入団後で大きく変わっており、最大の違いは主運動が「水平回転」メインから「垂直回転」メインになったこと(この2つはどちらかだけが正しいという関係ではない、とも)。「垂直回転」とは、体軸に対して、腕やバットを90度の角度で振ることで、これにより「大谷選手は」「正しいアッパースウィングになり、振り幅も大きくなった」のだという。
同書で、立花さんは伝統的な日米の教え方の違いについても言及している。「わきを締めて、ボールに対して最短距離でバットを出す」という、長く日本で主流の教えは、飛距離よりもミート率を求める、つまりチームの勝利を優先する教えであり、対して「ボールを遠くへかっ飛ばす」ことを大切にするアメリカの教えも、どちらが正しく、どちらが間違っているわけではない、と解説している。
多様なスウィングに対応するティースタンドが登場
前置きが長くなったが、フィールドフォースが9月に満を持して発売した「バーティカルティー」FBT-600VTLは、一般的な「置きティー」で、そんな一歩踏み込んだ練習法に応える商品だ。
コの字型になった上部フレームは、空いた一辺の両端に筒状のラバーが付けられ、そのラバーでボールを挟み込んで保持する仕組みになっている。そして、フレーム自体もネジ留めで自由に角度調整ができるようになっており、どんな角度のスウィングに対しても、挟みこみラバーを90度にセットすることが可能。多様なスウィングに対応できるのが特徴のティースタンドなのだ。
一般的なティースタンドを使った練習では「ティー台にボールをセットし、自分で理想のスウィングをイメージしながらボールを打つ」という練習だが、FBT-600VTLを使った場合は「理想のスウィングをイメージしながらFBT-600VTLを調節してボールをセットし、打ちながらスウィングの精度も確認できる」といったところだろうか。
「商品を開発するときに、心がけていることがあるんです」
吉村が言う。
「説明がなくても、商品を使ってみるだけで、そのトレーニングに必要な動きが自然とできていたり、おのずとその効果が分かる、ということです」。FBT-600VTLは、本体を調節し、ボールをセットした段階で、必要とされる動きが明確になる。分かりやすくはあるが、その分、通常の置きティーに比べると、使う側にとっては、一段、高いレベルが要求される練習でもある。
「置きティー」バリエーションにも歴史あり
「パートナー不要、省スペースで最大限の練習効果を!」をコンセプトに、練習ギアの開発、販売を続けるフィールドフォースにとって、ティーバッティングは大きなテーマのひとつ。数種類あるティースタンドだけではなく、スウィングパートナー(⇒進化が止まらない!スウィングパートナーが魅力的なリニューアル!)などもそのバリエーションだ。
いまは廃番となった商品だが、スウィングパートナー・バックスピン FBT-300/301という商品があった。ボールをゴム製のボール受けにはめ込み、上からつるす形のティースタンドだ。なぜボールをつるす形にしたのかといえば、理由は明白で、ボールの芯より下を打つことでバックスピンをかけ、飛距離を出そうというバッティングのため。通常のティースタンドでは、芯の下を打とうとすると、どうしてもボール受け部分を叩くことになってしまうため、ストレスに感じることも多かったのだ。
これもまた、目的がはっきりした商品ではあり、使ってみれば、その意図するところはおのずと明らかになっている。
よく見る置きティーの光景は、コーチがパートナーとなってボールをセットし、そのボールを打つたびにコーチがアドバイスを送る、というもの。これは通常の置きティーの場合、練習自体がシンプルであるがゆえに、目的や、目的の達成度の評価などが、使う側にゆだねられているからに他ならない。
すべてを受け入れ、前進あるのみ
ティーバッティングひとつを取ってみても、そのためのギアにはかなりの開発の歴史と、商品のバリエーションがあるフィールドフォース。これはもちろん、「プレーヤーの真の力になる」ためであり、「パートナー不要、省スペースで最大限の練習効果を!」というコンセプトを常に考えているから、でもある。
「ほかにも、理由はあるんですよ」と吉村。「バッティングの理論や方法論、練習法などって、次から次へと新しいものが出てきますよね。流行もある」
そうなのだ。前出の立花さんの著書にもある通り、どれかが正しく、ほかは間違っている、というようなものではないのがバッティング理論。その時々で好成績を残している選手の方法論が正しいとされる、結果論的な部分も大きいのだ。
「フィールドフォースは、そのどれをも否定するつもりはありません。あえていうなら、ユーザーそれぞれが、その中で自分に合ったものを見つけてくれればいい。そのためにも、フィールドフォースは、どんどん新しいものをつくり出し、世に問うていこうと思っているんです」
そうしておそらく、今後も次々とティーバッティングを改革する商品が生まれてくるのだ、きっと。