「省スペースで、パートナーいらず」の商品づくりを追い求めるフィールドフォース。だが、それだけにはとどまらない。プレーヤー個人向けの商品だけではなく、チームに向けた「痒いところに手が届く」商品も作り続けている。その発想と哲学に迫る第2弾。「ネット」に絞って紹介した前回に続き、その他のチーム向け便利ギアを見てみると──。
投球練習のための救世主「ダミーくん」
2006年の創業から数年経ち、個人用練習ギア「トスマシン・オートリターン」や、チーム向けのネット類など、いくつかのヒット商品が生まれるようになった頃、フィールドフォースの専務だった現社長・吉村尚記のもとには、チームユーザーから、様々な声が届くようになっていたという。
「こんな物が作れないか、なんていうリクエストもあれば、こんなことで悩んでいて…といった相談に近いものまで、内容は様々でした」
こうした声を拾い上げて、生まれてきた商品も数多い。
「例えば、『ダミーくん』なんかはそうですね」
投球練習の際、打席に置いておくことで、打者を意識した要求練習ができるという、黒いメッシュ素材の“仮想打者”だ。

「とくにピッチャーになって間もない子などは、ただキャッチャーに向かって投げるピッチング練習と、実際にバッターボックスに打者が入っての投球の違いに戸惑うものです。かなり感覚が違いますからね。『バッターがいると、ストライク入らなくなっちゃう子がいてね…』なんていう話は、少年野球では、あるあるですよね」
バッターがいるホームに向かって投げる練習は、実際の打者でなくても、それに代わる人形があればできるはず──。そうして生まれたダミーくんだが、発売してみると、学童チームに限らず、社会人、ひいてはプロにまでと、その需要は予想以上。改良を重ね、4代目となった現在も、人気が続くロングセラーとなっている。
ノッカー思いのボールケースを
「フリー打撃の時のバッティングピッチャーや、守備練習のノッカーが使う、ボールを入れておくカゴやネットも、要望は多かったですね」
吉村が振り返る。
「よくある風景は、ノッカーの足元に、ボールが入ったカゴが置いてあり、一球ごとにかがんでボールを取り出し、ノックする姿です。バッティングピッチャーも、かがんで何球かをつかみ、一球ずつ投げ、またかがんで…なんていう様子をよく見ます。まず、この『かがんでボールを取り出す』作業を何とかしたいと思ったんです」
そんな要望から生まれたのが「収納型ボールケース」FSBC-3B。
「2012年ころだったか、もう少し後か…。ちょうどその頃、キャンプブームというか、キャンプが一気に市民権を得たような時期があったんですよね。キャップ用品って、コンパクトにして持ち運べる、便利な商品が多い。売り場を見て回るだけで、ヒントをもらうことが多かったですね。FSBC-3Bもその一つです」

3本の支柱の上半分にネットが張られており、支柱を開くだけで、自立する三角形のボールケースが出来上がる。グラウンドまで持ち運び、使う場所で脚を広げればすぐに使える、利便性の高いボールケースだ。
「持ち運びの容易さを最優先したデザインです。これなら支柱をギュッとまとめるだけで、コンパクトになる。バットケースと似たようなサイズ感です。これなら自転車移動のときだって、気軽に持っていける」
吉村はうなずく。少年野球のチーム練習では、グラウンドまで自転車移動のチームも多い。「自転車移動のときにも持ち運べる」というサイズは、フィールドフォースの商品開発において、一つの基準となっている。
同じように、キャンプ用品からヒントを得て開発した商品には、フレームを「ポップアップテント」のように丸く折りたためるようにしたバッティングネット、「折りたたみ式バッティングネット」FBN-1819などがある(現在は廃番)。

選手には嫌われ者? 便利すぎる「吸水トンボ」
「かがまなくても作業できるシリーズ」の傑作商品の一つに、「吸水トンボ」FWT-1128がある。
誰しも経験があるであろう、雨の後の水たまりができたグラウンドを、プレーできる状態に復旧すべく、スポンジで水を吸い出す作業。指導者から選手から、ときには父母や大会役員まで、人員総出で行うこの作業の労力を軽減する目的で作られた商品だ。

トンボの柄の先にある、ローラー状のスポンジを使って水を楽々吸い取り、二股の柄を使って絞る。工程自体は当然は手作業と同じだが、立ったままできるため、作業はぐっと楽になる。こちらも発売以来、安定して売れている、新定番ともいえる商品だ。
「グラウンド復旧作業が簡単になるので、『すぐに練習できるようになってしまう』と、学生の選手たちには嫌われていると噂の商品なんです」と吉村は笑う。

「吸水トンボ」とほぼ同時に発売された、「ボール拾いトンボ」FBHT-127も同じ発想で作られた。こちらはトンボの柄の先に、ワイヤーで作られた円柱状のカゴがついており、それを転がすことで、カゴにボールが収納される仕組みとなっている。これだけで、面倒なボール拾いは随分と楽になる。
こちらも堅調に売れ続けているが、「もっと大量のボールを集めたい」という声もあり、FBHT-127とは別に、「ボール回収トンボ」FBK-115Tも開発され、こちらも人気商品となっている。

スーパーのカートを参考に…
「大量のボールを使う練習というと…」
吉村が思い出したように、続けた。
「スーパーによくある、カゴを載せて移動できるカートをヒントにして作った、これもありました」
と、ノートPCの画面に出したのは「折畳式ボールカート」FOBC-2P。

「まさに、スーパーのカートなんですが、そのままではカート自体がかさばりすぎて、持ち運びできませんし、置いておくにも場所をとる。これを折りたたみ式にして、持ち運んで運用できるようにしたんです」
大量のボールが運べ、使い勝手も良い。ただ、多量のボールを積載すると、土のグラウンドなどではタイヤが埋まってしまい、うまく動かなくなることも。
「それならと生まれたのが、大きなタイヤのついた、これです」

大きなバギータイプの車輪を付けたカートは「ボールキャリーカート」FBCT-100US。このタイプであれば地面や床の種類を選ばずに使用でき、フレームもより頑丈になり、多くのボールを運べるようになった。ただし、こちらはFOBC-2Pのように折り畳むことはできないので、用途に応じて使い分けたいところではある。
失敗作は、ひとつもありません!
こうして、ユーザーからの声も参考に、次々と誕生するチーム向けのアイデア商品。発売当初からヒットする商品もあれば、改良されながら売れ続けている商品もある一方、思ったほど人気が出ず、廃番になった商品も…。
「100点満点の商品はない」というのは吉村の信念だが、それでは逆に、「これは失敗だった」という低い点数の商品はなかったのか。
「ありませんね」
吉村が即答し、言葉を選ぶように続けた。
「本当にないんですよね…。なぜかって考えてみると、そもそも『万人受けする』商品を目指していない、っていうのがあります。誰にでもウケるものは、逆に考えれば、誰にでも思いつけるものでもあるわけで…」

万人受けよりも、それを望む誰かに、深く刺さる商品を。そうであった。フィールドフォースの商品開発テーマは『マニアックで独創的な商品を』なのだ。
だが、もちろん、それだけでは終わらない。今回、紹介した「収納型ボールケース」FSBC-3Bなどは、いまでは河川敷に行けば、当然のようにチームの練習風景の一部として存在する、「あって当たり前」の商品になっている。
穴あきボールしかり、各種トスマシンしかり。前回取り上げた、持ち運べるネット類もそうだろう。かつて「マニアックな商品」として世に出されたフィールドフォース製品の中には、いまでは類似品まで出回るほどの、いわばデファクト・スタンダードとして、広く受け入れられているものも少なくないのだ。中には、新たな練習スタイルを提示し、生み出している商品もある。
「マニアックな商品づくり。そこはこれからも、ブレずに続けていきたいですね」
と吉村。次に常識を覆してくれるのは、一体、どんな商品だろうか。