昨年12月に発売された「バントガード」FBGD-100TNKを皮切りに、着々と製品化への道のりが進む「ものづくり大国 日本再生プロジェクト」。ゴルフクラブのグリップで広く知られる株式会社IOMIC(本社:大阪市)とは、7月、フィールドフォース社長・吉村尚記の呼び掛けをきっかけに本社訪問を受けて以降、同社がグリップの素材として使用している、エラストマー樹脂を野球用品に生かせないかどうかを話し合っていて…。
ん!? このグラブは…

1月のある日、東京・足立区のグラブ工房から、千葉・柏市のフィールドフォース本社に、ひとつのグラブが持ち込まれた。レッドとブラック…最近多い、ツートンカラーのグラブだ。
…と思いきや、よく見ると、レッドの部分は通常の牛革製ながら、黒い部分はドット状の凹凸がある、ゴムのような素材が使われている。
このゴムのような素材は「エストラマー」という樹脂で、IOMICから提供を受けたもの。これを手にした吉村は「うん、うん…」と左手のグラブの装着感を確かめ、軟式ボールを右手で持つと、パシン、パシンとボールをたたきつけて感触を確かめ、「これはいい!」と快哉の声を上げたのだった。
IOMIC・北川本部長が来社

IOMICの北川直樹・営業本部長をフィールドフォース本社に迎えたのは7月半ばのこと。吉村がインスタグラムで呼びかけた「ものづくり大国 日本再生プロジェクト」に北川本部長が早速、反応。メールでのやり取りもそこそこに、この日の来社につながったのだった。
IOMICは、それまでゴム(ラバー)製がほとんどであった、ゴルフグラブのグリップにエストラマーという樹脂素材を用い、ゴルフ界に革命をもたらした。エストラマーに独自の改良を加え、新たに開発された新素材「IOMAX」を使ったゴルフグリップは、現在、松山英樹選手をはじめ、名だたるプロゴルファーが愛用する。ゴルフ界では広く知られた、トップブランドといっていい。
すでに商品化された野球用品もあるが…

すでに野球用にも、IOMICの新素材はバットのグリップとして製品化されている。
エストラマーはゴムと同じような弾性を持ちながら、撥水性能を有し、光線などによる劣化も極めて少ないという特性を持つ。バットのグリップで使った場合の利点は、素材自体のグリップ力が高いため、松ヤニなどの滑り止め材が不要であること、雨に強いことなどが挙げられる。
フィールドフォースを訪問した動機について、北川さんは「新しいバットのグリップを、といったようなことを考えていたわけではありません。具体的に何か商品が頭にあったわけではなく、吉村社長のインスタグラムを拝見して、ただ一緒に、これまでにないものづくりができたら、ということでお伺いしたんです」と説明。「実は私が、個人的に野球が大好き、っていうのもあるんですが…」
バットグリップなど、既存製品などの枠組みには捉われない、自由な発想で商品開発ができれば…と言うのだった。
この素材をグラブに!

そうした北川本部長の申し出に対して、吉村が提案したのは「この素材をグラブの捕球面に使えないですかね」というもの。「ゴムでできた軟式球で使うことを考えると、グリップ力がとにかくすごい。これを捕球面に使えたら、『落とさないグラブ』ができるんじゃないかと思うんです」
北川本部長が反応した。「それができたら…すごい。面白いですね」
フィールドフォースでは、かつて同じ発想で製品化したグラブがある。「Stage1」「Stage1 evolution」と名付けられた、現在の「グリーングラブ」が生まれる前のスターター向けグラブだ。
「Stage1」は素材に牛の床革(皮の表層をすいた内側の革)を使用したもの。通常の牛革製よりも柔らかいことに加え、毛羽のある捕球面がうまくグリップ感を生み出していた。「evolution」はさらに、その捕球面にシリコンのドットを貼り付け、よりグリップを強くしたものだった。
いずれもグリップ感という意味では悪くなかったものの、床革のメンテナンス性の悪さと耐久性の低さ、加えてシリコンドットが取れてしまったり、シリコン自体の劣化が激しかったり…といった欠点があったため、長く使うには厳しく、廃番となったのだった。
このグラブが「突破口」になるのか!?
こうしたやり取りを経て、北川本部長から再度の訪問を受けた際には、シート状に加工されたエラストマーの提供を受け、皮革と同じように裁断、縫製し、今回の試作品を作成したのだった。
エストラマーを使用した今回の試作品は、「Stage1」「Stage1 evolution」の欠点や問題点をすべてクリアしていた。試作品は牛革を使用したが、「現在、グリーングラブで使っている豚革との相性はどうかなど、まだ試してみたい点はありますが、なんだか『突破口』が見えた気がするんですよね…」
吉村はそう言った。

製作に当たったグラブ工房の篠原智明工房長は「革と異素材MIXのグラブ製作は初めての経験でしたから、正直、不安はありましたが、とにかく形にすることができて、ホッとしています」と振り返る。「見た目がチープにならず、効果的な位置に樹脂を配置する…。実際に学童チームを訪問してグラブを見せてもらい、学童選手に共通する使い方の癖を参考にしたりもしました」。グラブ職人ならではの感性も、しっかりと盛り込まれているのだ。
この試作品では、グラブに手を入れたときに手のひらが当たる「平裏」の部分にもエストラマーを使用しているが、「これは私のアイデアなんです」と篠原工房長。「IOMICさんの素材を使ったバット用のグリップテープは以前、個人的に使ったことがあったんです。今回、サンプルを作る中でも感じたんですが、手が少し汗ばんだ状態で樹脂に触れると、手に張り付く感じが強くなり、よりグリップ力を感じるんです。これは積極的に取り入れるべきではないかと」。加えて、差し込んだそれぞれの指が、グラブの中でしっかりとグリップしている感覚も、これまでにないものではある。
再び吉村──。
「グラブって、かなりの部分、“こういうもの”というイメージが出来上がってしまっていると思いませんか? でも、実のところ、ほかの用具に比べても、厳しい規制や決まりがあるわけではないし、もっと自由でもいいんじゃないか──と、ずっと考えていたんです。このグラブは、この試作品をスタートに、多方面に進化の可能性を持っている気がするんです」
さらに続けた。
「やっぱり、スターター向けのグラブということになるでしょうが、これなら“捕って楽しい”グラブになるはずです。裁断と縫製をしっかりすることで、捕球面がしっかり立体的に仕上がっています。新素材を使用する位置や面積も工夫の余地があるし、もうポケットの位置を少し変えて作ることもできそう。この試作品は平裏もエストラマーを使っていますが、汗をかく夏場には、使い心地も変わってくるでしょう」
◇ ◇
新素材を使うとなれば、値段も気になるところではあるが、「そこまでは上がらないはず。常識的な値段で収まると思いますよ」と吉村は話す。
「できたら、ゴールデンウイークあたりまでに発売できないかなあ」。これまでの常識に一石を投じるグラブの登場が待ち遠しい。「キャッチボールが楽しくなる。そんなグラブができたら最高じゃないですか」