【編集長コラム】第1回
次代を担う小学生、中学生の競技人口がここにきて激減。それも急坂を転がるように減り続けている――。こういう走り出しで『野球界の危機』と題した連載を、少年野球の専門誌で始めたのは2015年の春だった。難関の予選を経た夏の全国大会でも、6年生が9人に満たないチームが珍しくなくなり、下級生の活躍が非常に目立ち始めたころだ。
いち早く、声高に
「プロ野球の観客動員数がどんどん増えている中で、水を差すようなことをするんじゃねぇよ!」
連載当初は手厳しい叱責もあったが、屈するわけにはいかなかった。どんなに歴史が古かろうと、本場のアメリカで活躍するスターが現れようとも、現役のプレーヤー(学生)が減っては先細りが見えている。野球界を下支えする巨大なカテゴリー、小中学生のジュニア層がしぼんでくれば、自ずと地盤沈下が起こる。競争力やレベルの低下が、いずれ最高峰のプロ球界にも及ぶ。要するに、日本の野球界は知らぬうちに衰退へと舵を切っているのではないか。それなのに、専門誌が真っ先に声を挙げなくてどうするのだ、と。
同連載では「待ったなしの危機」にあることを、複数の統計データや現場の実情も交えて訴えた。他競技との比較や時代背景などを踏まえての考察も随所で展開した。
ジュニア層の競技者激減の理由を「少子化」で片づけようとする向きも当初は多かった。しかし、サッカーやバスケットボールをする小中学生は、同時期に微減や微増の傾向を示すデータもあった。中学校の軟式野球部員は、少子化の倍以上のペースで減り続け、2013年は総数でサッカー部に追い抜かれてしまった。日本スポーツ少年団(小学生)の団員数もやはり、2012年から野球が1位の座を追われるなど、ショッキングな現実を伝えてきた。
明るくエネルギッシュな甲斐清隆監督と、粘り強い選手12人でミラクルV。2014年の全日本学童王者・和気軟式野球クラブ(愛媛)は15年8月をもって活動に終止符
球界団結の進展も
あれから数年以上が過ぎた今、「競技人口の減少」は日本球界の火急の問題として、広く認識されている。そう思うのは筆者だけではないだろう。
ジュニア層ほどの「激減」ではないものの、人気の高校野球(硬式)にも累が及んでいる。全国の総部員数は、2014年から8年連続で減少(約4万人減)、加盟校数は球界再編問題が勃発した2005年を境に減少が続く(17年で約400減)。また、夏の甲子園出場をかけた都道府県大会では、部員不足(8人)による加盟校同士の連合チームが年々増えて2022年度は112となっている。
「子供たちのために」という現役プロや元スター選手らの言動が、近年は頻繁に報じられている。かつては温度差が激しかったNPBの12球団ジュニアトーナメントも、今では大半がチーム編成から本腰を入れている。各球団の子供向けの通年スクール「アカデミー」は、先駆者・巨人軍の秀逸なメソッドを母体として、広がりをみせていると聞く。
「コロナ禍」で足止めは食ったものの、ジュニア世代の指導者のライセンス制度が導入されるなど、管轄組織の垣根も超えた対話や活動、球界全体としての動きは活発化していると思われる。いまだに、学童球児の実数(正確な総人数)も把握できていないが、全カテゴリーを通じた競技者登録システムが近年のうちに完成・稼働するという話もある。かつてはバラバラで自己完結していた球界内の各団体やカテゴリーが、縦横のつながりを持ち始めていることは大きな進展だろう。
では、ここ数年のジュニア層の推移はどうなっているのだろう。次回は現場の実情や声も踏まえつつ、そこに迫ってみたい。
(大久保克哉)