【編集長コラム】第2回
WBC優勝! 侍ジャパン世界一の祝賀ムードや、開幕目前のプロ野球ペナントレースに、大詰めを迎えているセンバツ甲子園。野球が国民レベルで盛り上がっているのに、水など差したくない。そんな意図もさらさらないので逡巡してきたが、いつまでも触れないわけにもいくまい。
何ともショッキングな現実が、このほど明らかとなっている。ついに、なのか。やはり、と言うべきか――。
初めて「大台」を割る
日本の野球界で最も多くのチームが加盟する組織、全日本軟式野球連盟(JSBB)の学童野球チーム数が「1万」の大台を割ってしまった(2022年度)。1975年の統計開始以来、「1万」を切るのは初めてのこと。2000年度から2011年度までは14000台で推移してきたが以降は概ね、減少の度合いを強めながら今日にいたる。
厳密には、減少に転じたは2007年度で、当時はそれでも14968チームあった。それが15年連続の漸減で、昨年度はついに桁が1つ減って9842チームに。少子化に加えてコロナ禍の影響も色濃いのだろうが、15年間で5000ものチームを失った事実を球界は真摯に受け止めなければいけないだろう。
保身ばかりのご長老も
学童野球の現場に出ていても、酷な現実にぶち当たることがある。昨夏の全国大会では、下級生の人数不足で翌年度から活動を休止するというチームに複数出会った。同様の理由による休止や解散が各地で後を絶たず、合併に合併を繰り返す延命策も珍しくない。こうした中で、子供の奪い合いや退団・移籍を巡るチーム同士、大人同士のトラブルも多発しているという。
数年前がウソのように、週末のフィールドから大人の怒声や罵声が聞かれなくなってきている。だが、野球界の巨大な裾野を構成する最小単位、市区町村の域まで入り込むと、目や耳を覆いたくなる惨状にも出くわす。
バッテリーすら「捕る・投げる」がまともにできないのに大会に参加して、まるで野球らしくない内容とスコアで沈黙するチーム。区域では名の通るベテラン監督や、甲子園出場など選手として実績のある指導者が試合中はふんぞり返り、高圧的な言動で選手を逐一やり込めたり、審判にも食ってかかったり。多くはないが2023年になっても、そういう光景を目にしている。
最小単位の管轄組織は現実に背を向け、「資金難(人手不足)とボランティア」を盾に改革やデジタル化にも無頓着。試合スコア(公式記録)を正しく残せない役員・審判員もザラで、正式な試合記録が昔から存在していない。従来の慣習やシガラミにとわれて近隣や他の組織と反目したり、己の肩書きや既得権益を守ることにばかり腐心する長老組も少なくない、と聞く。
非・野球人が増すばかり
国民の大多数が巨人軍の選手を知っている、という時代は遠い昭和のこと。野球少年・野球少女はやがて高校生となり、成人し、多くは人の子の親にもなるだろう。むろん、野球とノータッチの少年・少女も同様である。
ということは、野球を知らない・興味がないという親子。一口に言えば「非・野球人」が、この先もどんどん割合を増していく、と考えられる。
日本の野球界は今現在も、野球人(経験者とその身内)だけで大半のことが回っているように思われる。全体とすれば、それでもまだ十分過ぎる経済効果や訴求力があり、世の大きな関心事となり得ている。一方、人気や知名度や縦社会に染まり、祀り上げられることでの弊害も見過ごせない。世の流れに無頓着(不勉強)で、人の声にも耳を傾けられない。そして、土着した経験則と固定観念が是非もなく受け継がれていく。このご時世にあっても体罰や暴言で処分される指導者が根絶しないのは、そうしたロジックが働いているせいもあるだろう。
WBCでもMVPに輝いた大谷翔平選手(エンゼルス)のような世界的なスーパースターが、プロから誕生している。学生球界は、昔ながらの体育会系のゴリゴリで勝ちに徹するチームと、趣味のひとつという感覚でプレーするチームとの二極化が加速しているように見受けられる。前者には未来を夢見る選手が集中し、毎年のように上位の成績を収めるが、ひと握りの試合組を除くと放置されてしまうケースも多々。後者は前者に興味がなく、まるで交わろうとしない。そして両者の溝や無関心は、カテゴリーが下がるほど露骨に見て取れる。
負のイメージ払拭を
野球経験者同士、いわば身内で少ないパイ(選手)を奪い合ったり、飼い殺しにするような愚も看過はできまい。だがそれよりも、非・野球人を含む世間から野球に注がれる「負のイメージ」を払拭していかないことには、野球少年・野球少女はどこまでも減り続けてしまうのではなかろうか。
14年ぶりに世界一に返り咲いた侍ジャパンは野球の醍醐味を広く顕示し、「正のイメージ」を増幅してくれたはず。何をしても超人的でありながら、どこまでも屈託のない大谷選手の貢献度も計り知れない。野球に夢中になりだした少年時代を思い出した大人も多いのではないだろうか。子供には大谷選手のようなプレーはできなくても、同じように晴れ晴れと野球を楽しむことは簡単なはず。
ある人の講演によると、スイミングスクールに通う小学生の数は安定しており、今も昔も大きく増減していないという。同様に、親が二の足を踏むことなく、息子や娘を野球チームに入れることができるようになるには、どうしたらいいのか。このあたりに焦点を当てて、次回は少し踏み込んだ具体案を提起してみたい。
(大久保克哉)