夏の東京No.1を決める東京都知事杯第48回東京都学童軟式野球大会フィールドフォース・トーナメントは7月20日、八王子市の滝ガ原運動場野球場で準決勝が行われ、フェニックス(台東)と不動パイレーツ(目黒)が決勝進出を決めた。本村クラブ(港)とグレートベアー(武蔵村山)が3位。27日には同市のスリーボンドベースボールパーク上柚木で決勝が行われる。
(写真&文=鈴木秀樹)
※記録は編集部
■準決勝1
フェニックスが逆転サヨナラ!!
◇滝ガ原運動場野球場
▽第1試合
本村クラブ(港)
000003=3
000013x=4
フェニックス(台東)
【本】松下、佐藤、松下、佐藤-大村
【フ】姜、石川、梁-二村
二塁打/梁2(フ)露﨑、森久(本)
【評】終盤に大きく動いた激戦を制して、フェニックスが決勝進出を決めた。
本村クラブ・松下令主将(=上写真㊤)、フェニックス・姜君翼(=上写真㊦)の両先発が好投。ともに3回まで無四球のテンポ良い好投で試合が進む。フェニックスの遊撃・梁眞豪主将(=下写真㊤)が広い守備範囲と見事なグラブ使いで、安打性の当たりを軽々とさばけば、本村も一塁手・濱田義将がファウルフライをダイビングキャッチ(=下写真㊥)、4回裏には一死満塁のピンチを併殺で切り抜ける(=下写真㊦)など、バックも美技を連発して、スコアボードにゼロを並べた。
5回表、本村は先頭の七番・北野尊悠が中前打で出塁すると、続く佐藤春来が送りバントを決め、一死二塁。二死後、連続四球で二死満塁まで好機を広げたが、三番・大村孝誠が三塁線に放った鋭いライナーはフェニックスの三塁手・鳥取拓史に好捕され、先制ならず。その裏、フェニックスは一死から九番・酒井健が左前打で出塁すると、一番・二村紀ノ可の左前打で一気に三塁を狙った。これが本村守備陣のミスを誘い、三塁への送球はフェニックスの三塁側ベンチへ。酒井は本塁にかえり、ついに均衡が破れた(=下写真)。
しかし、これでは終わらない。最終6回表、本村は先頭の四番・露﨑陽斗が左越え二塁打を放つと、続く森久賢飛も左越え二塁打を放って、あっさり同点に。さらに一死二、三塁から佐藤が2点適時打を放ち(=下写真)、3対1とした。
そしてその裏、フェニックスの攻撃。先頭の四番・梁主将が右前打で二塁を陥れると、三振、四球、三ゴロで二死二、三塁とし、姜が三塁線を抜く2点適時打を放ち同点に。さらに姜の盗塁後、酒井が放った飛球がセンター前に落ち、再逆転のサヨナラ勝ちで決勝進出を決めた(=冒頭写真)。
諦めないようになった
「いやぁ、全部、選手のおかげです。素晴らしかった」
フェニックス・大石剛士監督が満面の笑顔を見せた。「本村さんの先発投手がすごく良かったので、後半勝負だとは思っていましたが…。よく最後まで、諦めずに戦ってくれました」
チーム史上初の都大会決勝進出。それどころか、ベスト4も台東区のチームとして初めてなのだという。「もう、地元は大騒ぎですよ」
この大会中、「チームが変わった」と感じた試合があるという。3回戦の葛西ファイターズA(江戸川)戦だ。
「3点差を追いついて、タイブレークの末に勝つことができました。あれ以来じゃないかな。最後まで、諦めるどころか、『まだいける』と、自信を持って戦うようになった。きょうも、まさにそんな展開でしたね」
チームの成長を実感しているのは、大石監督だけではない。「みんな、自信をつけている気がします。相手に流れを持っていかれそうな場面で、みんなで守ってくれたし、打ってくれた」と話す、梁主将だ。
守備に打撃に走塁に、気迫あふれるプレーでチームを引っ張るキャプテン。準決勝では最終回に、逆転劇のきっかけとなる二塁打を放ってみせた。
「僕が打たれて逆転された。絶対に、自分が打って取り返したいと思っていました」
そして試合を決める一打を放った酒井は、「一番につなぐこと、塁に出たら足を使うことを心がけています」と語るセンス抜群の九番打者。サヨナラ打と1試合3安打というダブルの初体験で殊勲者となり、「最高です」と喜んだ。
激戦を制し、さらに成長したフェニックスナイン。決勝ではどんな戦いを見せてくれるだろうか。
野球観が変わった!?
悔しい逆転サヨナラ負け。一度は逆転していたのだから、なおさらだ。選手たちは皆、肩を落としていた。
「よく戦った。ナイスゲームだよ」
本村クラブ・小掛義之監督は手をたたきながら、選手らに声を掛けた。
この都知事杯と全日本学童都大会の予選を兼ねる、港区の春季大会は開催時期が早い(決勝で高輪クラブに惜敗)。「その頃はまだ、『どこまで投げてくれるか…』という感じだったキャプテンが、この大会では全試合に先発し、しっかり試合をつくってくれました。投手陣が頼もしく育ってくれたのは、大きいですね」と選手らの成長を実感する。
その松下主将は、この試合でも好投。「強い相手と、いい勝負ができて、自信になりました。勝てたらもっとよかったけど…」。この日は一度、マウンドを降りながら、ピンチで再登板し、気合たっぷりの投球でチームを鼓舞した。
「チームは春から比べると、ツーアウトからでも、下位打線からでも、チャンスをつくって点を取れるようになったんじゃないかと思います」
大会での戦いを振り返る主将を、小掛監督はずっと笑顔で見守っている。
「この大会は、彼らが自分たちで出場を勝ち取ったもの。選手たちには、とにかく最後まで楽しもう、と言い続けていたんですよ」
指揮を執って10年目のベテラン監督にとっても、この大会は大きな経験となったという。
「いつも、試合では厳しく、ガ~ッと言ってしまうほうなんですが、この大会では僕も笑顔を心がけて。選手たちにも『怖い顔をしてたら教えてくれ』って」
ピンチもチャンスも、全員で野球を楽しむ──。そうして戦う中で、上位候補の国立ヤングスワローズA(国立)など、強敵を相手に勝利を重ねた。
「ずっと、負けてもともと、楽しんで来いと。そんな中で、僕自身にも気づきがあったというか。大げさですが、少し野球観が変わったかもしれません」
これまでも、東京23区大会で3位、全日本学童都大会で最高ベスト8など、実績のあるチームだが、小掛監督は「間違いなく、この大会はチームにとって、これまでにないほど、大きな経験になったと思います」と言い、うなずいた。
■準決勝2
5回裏、不動が猛攻でタイムアップ
▽第2試合
グレートベアー(武蔵村山)
00110=2
01105x=7
不動パイレーツ(目黒)
※5回時間切れ
【グ】笹川、稲塚、笹川-鈴木
【不】木戸、岡田-山田
本塁打/三宅(グ)
三塁打/笹川、佐々木(グ)、寺田(不)
二塁打/市原(不)
【評】大会屈指の左腕、グレートベアー・笹川隼人主将と、不動パイレーツの強力打線との対決が注目された一戦は、両軍ともに好守備を連発、締まった展開となった。
2回裏、不動は先頭の六番・山田理聖が四球を選ぶと、二盗、三盗を決め、九番・市原稜の右越え適時打で先制(=上写真㊤)。しかし、その当たりで三塁を狙った市原をグレートが中継と転送で刺し、失点を1にとどめた(=上写真㊦)。
すると3回表、一死からグレートの三宅奨斗が左越えのランニング本塁打を放ち、即座に同点とした(=下写真㊤)。さらに二番・笹川主将が右翼線を破る三塁打を放ったが、次打者の内野ゴロで本塁憤死。こちらも2点目は不動の好守備に阻まれた(=下写真㊦)。
その裏、不動は一番・田中璃空主将が右前打で出塁すると、盗塁とバントで三塁に進み、一死三塁。竹中崇がきっちりと右犠飛を放ち、再び1点を勝ち越した。直後の4回、グレートは先頭の六番・佐々木岳玖が右中間を破る三塁打を放つと、ボークで生還し、再び追いついた(=下写真)。
2対2で迎えた5回裏。不動は先頭の八番・上田廉(5年)が左前打を放つと、死球とバント野選で無死満塁に。ここで二番・寺田悠人が左中間に走者一掃の三塁打を放ち(=下写真)、一気に3点差に。竹中の内野安打でさらに1点、竹中が二盗、三盗を決め、暴投でこの回5点目のホームを踏んだところで制限時間に。不動が最終回の猛攻で決勝進出を勝ち取った。
東京二冠へ、より完成度UP
終わってみれば完勝。今年の不動パイレーツを象徴するような、細かさと大胆さを兼ね備えた、硬軟自在の攻撃で、好投手を攻略してみせた。
「粘り勝ちでしょうか。守備が良かった」と振り返った田中和彦監督がさらに続けた。
「実をいうと、選手たちには、ここから先は勝負よりも、自分たちの力をアピールする場だ、スーパープレーを見せてくれ、と送り出したんです」
プレッシャーなく、伸び伸びとプレーしてもらうのが狙い。指揮官は「全日本学童予選の決勝(対越中島ブレーブス・江東)でも同じことを言ったんですよね。『もう全国大会(出場)は決まってるんだから』って言って」と加えた。
守備では、茂庭大地と田中主将の二遊間が抜群のコンビネーションを見せ、安打性の当たりを単なる内野ゴロに。攻めては強打はもちろん、犠牲バントあり、確度の高いセーフティバントあり、犠飛もきっちり打ち上げるなど、スキのない野球はますます、その完成度を高めている。
「最後は、田中が小技でチャンスをつくって、寺田が大きなのを打ってかえす、良いパターンが出ました」(同監督)
大会屈指のサウスポー、グレートベアーの笹川隼人については「速いだけでなく、緩急の使い方が非常にうまく、みんな手こずっていたようですね」。それでも、好球必打で得点を重ねた。
今年の都大会では、無敗を続けている不動。その強さは、まだ底を見せていない。それだけではない。この日も好投手と対戦し、経験値をさらに高めている。
次はいよいよ、東京二冠がかかる決勝。どんな戦いを見せてくれるだろうか。
敗れても、収穫多し
終盤まで、王者に食らいつくしぶとさを見せたグレートベアーだったが、最後は引き離されての敗戦となった。
試合後、多くの選手が涙を流す姿を見ながら、戸田真人監督が試合を振り返る。
「絶対王者を相手に、諦めずに生き生きと戦ってくれました。しかし、何度か追いつきはしましたが、一度もリードを奪うことができなかった。そこかなあ」
戦いきった、すがすがしい笑顔だ。「この大会では1試合ごとに、選手たちが力をつけてくれたと思います」
チーム躍進の一番の立役者、笹川隼人主将は「全国予選(全日本学童)で優勝したチーム。やる前から意識してしまいました。名前に負けた感じです」と悔しそう。それでも、終盤まで肉薄した試合ぶりに、「みんな『打とう』『勝とう』っていう気持ちをひとつにして戦えた」と言い、「この大会は1回戦を勝って波に乗って、ここまで勝ち上がることができました。自信もつきました」と胸を張った。
もちろん、笹川主将だけではない。バックの守備や打撃も、勝ち上がるにつれ、頼もしさを増した。
この日、一時は同点となる本塁打を放った一番・三宅奨斗は「絶対に打ってやる、と思っていました。緩い球に合わせて、うまく打つことができました」と3回の打席を振り返り、「もう少しで勝てた試合でした…」と悔やんだ。
都大会銅メダルは、チーム史上初。「いい経験になりました。子どもたちに感謝ですね」と戸田監督。武蔵村山にグレートベアーあり。にぎやかなナインは、さわやかな存在感を残して会場を後にした。