夏の東京No.1を決める東京都知事杯第48回東京都学童軟式野球大会フィールドフォース・トーナメントは7月27日、八王子市のスリーボンドベースボールパーク上柚木で決勝が行われ、不動パイレーツ(目黒)がフェニックス(台東)を下して優勝した。11年ぶり2回目のVとなった不動は、6月の全日本学童東京大会に続く「東京二冠」となり、決勝タイムリーを放った田中璃空主将がMVPに。さらに進んだ、上部大会のコントリビュートカップ関東学童(8月2、3日・茨城県)は準優勝で終えている。
(写真=大久保克哉)
(文=鈴木秀樹)
※記録は編集部、本塁打はランニング
優勝
=11年ぶり2回目
ふどう
不動パーレーツ
[目黒区]
準優勝
フェニックス
[台東区]
■決勝
◇7月27日
◇スリーボンドベースボールパーク上柚木
不動パイレーツ(目黒)
100030=4
000111=3
フェニックス(台東)
【不】木戸、岡田、山田-山田、竹中
【フ】姜、石川、梁-二村
本塁打/竹中(不)
三塁打/利根川貫、梁、鳥取(フ)
二塁打/田中(不)
【評】初回、不動パイレーツの三番・竹中崇が放った鋭いライナーがワンバウンドで相手野手の頭を越え、ランニング本塁打に(=上写真)。幸先よく先制した不動だが、以降は緩急巧みな投球のフェニックス先発・姜君翼を打ちあぐね、4回までゼロが続いた。
一方のフェニックスも、初回に先頭の二村紀ノ可が左中間へヒット(=上写真)、2回には利根川貫太が左越え三塁打と、走者は出すが得点できない。不動の右サイド・木戸恵悟を打ち崩せずにいたが、4回裏に3度目の正直となる。一死から四番・梁眞豪主将が中越え三塁打を放つと、続く鳥取拓史の中前打(=下写真)で、ついに1対1に追いついた。
しかし不動が5回表、二死三塁から敵失で勝ち越すと、一番・田中璃空主将の右前打(=上写真)で2点を上乗せ。フェニックスもあきらめず、その裏には酒井健(=下写真)の内野安打からチャンスメークし、1点を返してなおも二死二、三塁としたが、あと1本が出ず。
最終6回裏にも、鳥取の右中間三塁打(=上写真)と竹之内陽向の左犠飛(=下写真)で1点を返すなど、最後まで食らいついたフェニックスだが及ばず。不動が小刻みな継投で逃げ切り、第37回大会以来となる、11年ぶり2度目の大会制覇を果たした。
新年から「東京無双」で夏の全国へ
「実はウチ、気合が入ったチームに弱いんです。リベンジが懸かっていたりとか、そういうチームに」
優勝後、不動の田中和彦監督はホッとした様子で話した。
対戦相手のフェニックスは全日本学童大会予選を兼ねた台東区大会の決勝で惜敗しており、この都知事杯で雪辱を期していた。その舞台で大躍進し、勢いは最高潮。加えて、区勢初の決勝進出とあって、この日は地元から駆けつけたスタンドの大応援団が声援を送り(=下写真)、さらにチームを後押ししていた。
「それに加えて、フェニックスさんの先発は緩急の使い方がすごくうまかった」と田中監督。苦しんだ決勝は、それでも最後は猛追を振り切って勝った。
これで不動は2025年に入って、都大会は無敗。とにかく負けないチームになった。どこからでも長打が飛び出すパワフルな打線も当然、脅威ではあるが、決勝の5回表のように、競った場面で見せる、しぶとい攻撃こそが成長の証しだろう。
「4回まで相手投手を打ちあぐねていたので、『ヒザより上のボールを狙おう』と作戦を変えたんです。それを選手たちがきっちり実行し、点を取ることができました」(同監督)。
田中主将は「休憩(4回終了時のクーリングタイム)の間に、みんなと『ビッグイニングにしよう』って話していたんです。ゼロが続いていたけど大丈夫、って思っていました」と振り返った。
臨機応変でありながら、全員が同じ考えを共有し連動、取るべきときに1点を取る。そして5回裏のように、「1点OK」の場面ならば、無理をせずに抑えるべき場面できっちりと守る。この日はトータルで4安打と、6安打の相手より少なかった。それでも勝ち切れるところに、今年の強さがあるのだろう。
今大会で印象に残った戦いを訪ねると、田中主将は迷いなく答えた。
「高島戦は焦りました」
第40回、第45回大会で優勝経験もある高島エイトA(板橋)との準々決勝は、既定の90分を迎えた5回裏の時点で1対7の大量ビハインド。しかし、不動はそれまで3安打1点に抑えられていた打線が奮起し、5安打で6点を奪ってタイブレークに持ち込み、見事に勝利を収めた。「とにかく、気持ちで負けないようにしよう、って。あの試合で勝てたのは、自信になりました」(同主将)
決勝では最終6回裏無死、イニングの頭からマウンドに上がった岡田大耀を引っ張ることなく、走者を出すと、早々に捕手をしていた山田理聖(=上写真)に代えた場面も印象的だった。
「相手をリズムに乗せたくなかったんです。スピードがある山田ならば、相手も小技は使いにくい。実際、彼の速球には、向こうの打者も差し込まれ気味でしたからね」と田中監督。一方、登板を告げられた山田も「準備できていたわけじゃないけど、普通に投げられました。高島戦以来のマウンドだったけど、緊張もなかったです」。
勝負の分岐点を冷静に見極めた指揮官の判断と、その考えを即座に理解し、共有できるチーム力。僅差の勝負にはなったが、それが逆に、不動の強さを際立たせてもいた。
8月11日からの全国大会に照準を合わせてのチームづくりも、最終局面を迎えていた。一昨年準優勝、昨年は3位と、もはや全国区の評価はゆるぎない。今年のナインが目指すのは、先輩たちがたどり着けなかった頂、すなわち「全国制覇」だ。
台東区から新たなる風。躍進の「銀」
5回二死からの失点が勝敗を分けた接戦。フェニックス・大石剛士監督は選手にねぎらいの言葉を掛け、結果を悔やむ様子もなかった。
「あそこで畳みかけるんですから。やはり、不動さんは強かったです」
そして、続けた。
「あのピンチのとき、マウンドに選手を集めて、『1点は(取られても)いいよ。普段どおりで行こう』と声を掛けました(=下写真)。それでも、不動さんの打線の勢いを止めることはできなかった。ウチは逆に、焦りが出てしまいました。『ここしかない』場面でしっかり点を取ることができるのは、さすがのひと言です。かないませんよ」
試合後、応援席に向かって全員であいさつ。大石監督が「プレー面でもメンタル面でも、彼がチームをここまで引っ張ってくれた」と全幅の信頼を寄せる梁主将は、頭を深く下げたまま、しばらく動かなかった(=下写真)。
そして、頭を上げたときには元の笑顔に戻っており、落ち込む仲間たちに声を掛けて回っていた。
「やる気とか、諦めない気持ちとかの大切さを、この大会では強く感じました」と梁主将。その思いを強くしたのは、葛西ファイターズA(江戸川)との戦い。劣勢から逆転勝ちした3回戦だ。この試合をきっかけに、チームが変わったのを感じたという。「ひとつずつのプレーを落ち着いてする。そして、攻撃では相手のスキを突く。みんな、そういう意識が強くなったと思います」
決勝の4回裏、梁主将が同点劇の口火となる三塁打を放った
決勝で先発した姜(=下写真)は、出合い頭の失点こそあったものの、試合序盤から中盤にかけて不動打線を封じてみせた。「お父さんのアドバイスもあって、自分で考えながら、緩急をつけて投げるようにしているんです。バッターのタイミングをずらすイメージです」
投球全体について語った右腕は「決勝は最初、緊張したけど、落ち着いてからは自信を持って投げることができました」と胸を張った。
「以前と比べると、もう別のチームのようです」と大石監督が目を細める。「プレーの一つひとつに、選手たちの成長を感じます。大会前には、想像もしていなかった結果。選手たちに感謝ですね」
次の大舞台は、全日本学童予選と今大会の上位、計8チームが覇を競う「駒沢ジュニアベースボール大会」(8月24日から、駒沢硬式野球場)。次に会うときは、どんな試合を見せてくれるだろうか。
―One Point『こぼれ話』―
初ファイナルへ地元から大応援団
台東区代表として、初の都大会決勝進出。そのフェニックスの一塁側スタンドでは、地元から駆けつけた大応援団がナインに声援を送った。
中でも、大きな声を出していたのは足立学園高(足立区)の野球部員1、2年生たち。台東区出身の選手が在籍することはもちろん、野球部の塚本達也監督自身がフェニックスの出身。そうした縁で毎年、年明けに台東区で行われる「高校球児による野球教室」では、足立学園高ナインも講師役を務めており、彼らにとってフェニックスの選手たちは教え子でもあるのだ。
4回裏、反撃ののろしとなる三塁打を放った梁主将は「バッターボックスに入ったら、『お前が打たなきゃ誰が打つ!』って応援歌が聞こえて、オレが打たなきゃと思ったんです。(応援には)すごく力をもらいました」と感謝していた。
―Pickup Hero―
左越え三塁打も、途中交代に「不満」ゼロの理由
とねがわ・かんた
利根川貫太
[フェ6年/左翼手]
「攻撃はもう、子どもたちに『好きなようにやってこい!』と言うくらい。終盤で切羽詰まっていれば作戦もありますけど、前半戦はもう好きにガンガンいかせてます」(大石剛士監督=下写真)
鬱屈度は0%。全開の大きな窓を風が抜けていくときのような解放的なムードは、きっとそういう方針のせいだ。一死三塁の好機が4回までに2度あり、どちらも強攻して2回目に1対1の同点とした。
その1回目の好機をつくったのが、利根川貫太だった。申し訳ないことに写真に収められなかったが、お見事なジャストミート。白球はあっという間に左翼手の頭上を超えていき、三塁まで達した背番号7は塁上からガッツポーズを一塁側ベンチに向けた。
「自分では(頭を)越すとは思わずに走り出しました。昨日、コーチから『前で当てて押す』ということを教えてもらって、それをっ普通に発揮できたかなと思います」
個人的に特別な一打でもあったという。1回表、相手に先制の左越えランニング本塁打を許した(=下写真)が、レフトを守っていた利根川は自分を責める。
「(鋭いライナーが)ワンバンで自分の頭を越されたんですけど、相手のバットの性質とかをもっと見ておいて、前とか後ろ(位置取り)を考えればよかった…」
その分も挽回しようとして生まれたのが、2回裏の三塁打だった。第2打席は三ゴロに終わるも、コースに応じたスイングで逆方向へのファウルも。まだまだ打てそうな雰囲気を残しながら、5回表の守りからベンチへ。
不満も少しはあるのだろうと、水を向けると、まるで違う答えが返ってきた。
「まぁまぁまぁ、自分は守備が弱いんで。初回(本塁打)の後も、ポテンヒットで二塁まで行かれてしまったり。もっと自分の守備を強くして、これからの大会を全部勝っていきたいと思います」
開放的な風が吹いていると、真っすぐな子や克己心も育まれやすいのかもしれない。
(大久保克哉)