【2023注目の逸材】
櫻井日陽
さくらい・ひなた
【所属】栃木・豊岡Jスターズ
【学年】6年
【ポジション】投手、捕手、三塁手
【主な打順】三番、四番
【投打】右投右打
【身長体重】151㎝47㎏
【好きなプロ野球選手】村上宗隆(ヤクルト)
※2023年4月24日現在
5年秋の県大会の球場表示で最速99km/h。現在は常時、110㎞/h前後と思われる
規格外。想定や予想をはるかに超えるものを目の当たりにしたとき、人は思わず声を挙げるものだ。
「オオ~ッ!!」
野球を見慣れている大人や相手ベンチの指導者さえも巻き込んで、そうしたどよめきを巻き起こす鉄砲肩の6年生が、栃木県の日光市にいる。
豊岡Jスターズの櫻井日陽だ。捕手と投手が本職だが、武器がより際立つのは三塁を守っているとき。あまり経験がないとあって、転がってくる打球へのアプローチや捕球体勢やステップなど、基礎動作には改善の余地あり。だが、そこからのギャップで人々はよりおののくのだ。地面を踏み締めながら振られた右腕から放たれ白球の、あまりのスピードやどこまでも真っすぐに進んでいきそうな軌道に。
現在は正捕手兼二番手投手の副主将。二塁送球も見せ場で、勝負どころではマウンドから剛速球を披露する
「小さいころからお父さんとボールで遊んだり、2年生でチームに入ってからは自主練で一緒によく遠投をしています。あとは専門の先生に体幹のトレーニングとか、体の使い方とかを教えてもらっています」
年長から1年生までは、地域のライオンズクラブが主催するスポンジボールの野球でルールや楽しさを知った。遠投の距離は5年生に進級したころが56mで、約1年後の現在は70m前後。学校でのソフトボール投げは5年生で44m、校内1位だったという。
父・将大コーチは、地元の鹿沼商工高まで主に投手としてプレーした。「遠投ができるほど球速も出るし、体の使い方なども自分なりに分かってくる」というのが経験則で、息子の投げ方(フォーム)そのものには、ほとんど手をつけていないという。
マウンドに立っても、明らかに人よりも速くて伸びのある球を投げている。計測はしていないが、コンスタントに110㎞/hは出ているのではないか。現在は正捕手で、イニング開始前の二塁送球を楽しみにしている人もチームの内外にいる。
外野の頭を超すパンチ力も秘める。本塁打も数えていないが、5年生の2月までに2ケタは超えているという
「ポジションはピッチャーが一番好きで、もっと好きなのはバッティングです。(理由?)ホームランとかサヨナラヒットを打ったときに、みんなから『良いバッティングだったね』とか言われるところです」
自宅の敷地には、ネットなどを張った祖父手作りの自主練習スペースがある。チームの平日練習や父との自主練習がない日は、一人でティー台のボールを打ち込んでいるという。
チームが吸収合併
個人の努力だけではどうにもならない、ということが人生にはある。櫻井は最上級生となる前に、仲間たちと悲運を受け入れた。所属してきたチームが春でなくなることが決まったのだ。
実はこの3月末まで、櫻井は南原・鬼怒川学童というチームの四番・エース兼主将で、父親が監督だった。昨年秋には県大会にも出場。しかし、その後にチームの選手が10人から8人に減り、練習試合も満足にできない状況に。そこで、最寄りの強豪・豊岡Jスターズに新年度から吸収合併される道をとった。
下原クラブと鬼怒川クラブの合併で鬼怒川ジャイアンツに。さらに南原ブルーインパルスと合併した南原・鬼怒川学童は、3月の県北大会(8強)をもって活動を停止
チームを預かる監督として、苦渋の決断をした将大コーチが語る。
「南原・鬼怒川学童はそれまでも合併を繰り返してきたチームで、愛着も名前を残したい気持ちもありましたけど、子供たちが野球をやる環境を守る、ということを最優先に。また(豊岡)Jスターズのほうも、快く話を聞いて受け入れてくれましたので、感謝しています」
選手層が厚くなり、競争が生まれた豊岡Jスターズは、この4月22日に全日本学童の最初の予選となる日光地区大会を制し、県大会出場を決めている。
「全体的に選手もチームも減っている日光市では絶対に負けないと思いますし、この先どこまで行けるか。櫻井はどこでも守れるし、どう使うかもポイントですね。性格も良くて、落ち着いて野球をしているなというのはすごく感じます」(渡邊修一監督)
「夢は高校で甲子園に出ることです」。それより先は考えずに日々、努力を重ねている
新年度に先駆けて、両チームは2月から合同練習をスタートしていた。3月には栃木県北大会へそれぞれ出場。豊岡は2回戦で敗れたが、控え選手2人を登録メンバーに借りて出場していた南原・鬼怒川学童は8強まで進出し、準々決勝敗退をもって単独チームとしての活動に終止符を打った。
「全国大会に出たいです」
吸収合併前から櫻井が個人として描いてきた今夏の目標を、今は新旧の仲間たち全員と共有しているという。
(大久保克哉)
3月の県北大会ベスト8の南原・鬼怒川学童(上)と、2回戦敗退の豊岡Jスターズ(下)。県下に名の通る2チームが合併し、目指すは全国舞台だ