【2025注目の逸材】
しま・あおい
島 碧生
[福井/6年]
えちぜん
越前ニューヒーローズ
※プレー動画➡こちら

【ポジション】捕手、投手
【主な打順】二番
【投打】右投右打
【身長体重】162㎝51㎏
【好きなプロ野球選手】甲斐拓哉(巨人)、岡本和真(前巨人)
※2025年12月7日現在


デビューの全国で不戦敗も
6年生が9人そろわないチームも当たり前にある昨今。夏の全国舞台でも、我がもの顔でプレーする下級生が珍しくなくなった。
ただし、3年生のレギュラーで全国デビューし、適時打まで放つとなると“激レア”だろう。全日本学童大会マクドナルド・トーナメントを取材して15年になる筆者も、知るのは片手未満。その中のひとりが、越前ニューヒーローズの島碧生だ。


2022年の夏。新型コロナウイルスの感染終息が見通せないなかで開催された全国舞台で、当時3年の島は初戦の2回戦に九番・左翼のスタメンでデビューした(=上写真)。
「あのときはすごい緊張していました」と振り返るが、ガチガチの感じは戦前のノックからまるでなし。初回には特設フェンスの手前でフライを捕るなど無難に守りつつ、2回の第2打席では三遊間を破るタイムリー(=下写真)。続く3回戦では、犠打も決めている。


「(3年時の全国)大会の後に、いろんな人から『すごいね』とか言われたけど、やっぱり、今の中2の先輩たち(当時主力だった5年生)に全国に連れて行ってもらったと思っていたし、今でも感謝しています」
越前はチームとしても、2022年が全国初出場。そして翌23年に今夏と、伝統の夢舞台に3回出場している。コアな学童野球ファンならば知るところだが、えらくパンチも効いた“アグレッシブ野球”が伝統だ。

2023年の全国2回戦では前年Vの石川・中条ブルーインパルスを撃破。写真㊤の左端が当時4年生の島。写真㊦の捕手・向慶士郎(中条)は「2023注目選手⑦」で、現在は石川・星稜中で活躍中

3球で終わる攻撃もあれば、カウント3-0からのマン振りも。「好球必打」が各選手の骨の髄まで沁みている。だからベンチは、3ボールからの凡退も咎めないし、初球攻撃で倒れた次の打者へ「見ていけ!」なんて、場当たりな指示もない。その代わりに、学年や打順に関係なく、ストライク球をフルスイングで飛ばすための猛練習と指導がある。
結果、毎年のように世代を代表するような強打者を輩出。『肉を切らせて骨を断つ』ような打ち合いも十八番で、島の全国デビュー戦でもあった2022年の2回戦は、12対11で板柳ワイルドイーグルス(青森)を倒した。
またそれも超える、空前の大激闘が2023年の夏、京都・伊勢田ファイターズとの全国1回戦だ。越前は最終回の攻撃で、2対10と絶望的な状況から追いつき、延長サヨナラで勝利している(リポート➡こちら)。
神懸かり的な粘り腰。その起因は2022年の全国大会だったのかもしれない。越前は破竹の勢いでベスト8入りするも、体調不良者が出たことで聖地・神宮球場での準々決勝を戦わずして去り、帰郷したのだった(不戦敗)。

2022年8月30日、失意の越前ナインを訪問取材。写真㊤の左から3人目が当時3年生の島。写真㊦の左は当時4年生でレギュラーの橋本詠太(6年時は主将)

“スーパー”を生む土壌
「もうNo.1すね!!自分が携わってきた選手の中でも一番だし、特に打つほうに関してはぶっちぎりですね」
島をこう評するのは、福井商高時代に甲子園出場の実績もある納谷将史監督(=下写真)。3年前の全国は背番号28のコーチでベンチ入りしており、当初から島のこともよく知るひとりだ。
「元から能力の高い子でしたけど、賢いので状況に応じて求められていることもできる。めちゃくちゃ信頼しています」

高評価は身内に限らず、今年は東海や関西方面の名将たちからも「越前のキャッチャー」や「島」の名を聞くことが度々あった。
5年生で正捕手となった島は今夏、二番・捕手で全国舞台に戻ってきた。初戦の2回戦で、木屋瀬バンブーズ(福岡)と点取り合戦の末に敗退。8対10と“らしいスコア”の激戦において、島は2打席連続の二塁打など3安打2打点をマークしている。
勝利した木屋瀬は、準々決勝で旭スポーツ少年団(新潟)に敗北。その2カ月後の10月半ば、全国4強の旭スポ少も北信越大会(最終予選)で打倒し、「冬の神宮」に登場してきたのが越前だった。

12月6日から2日間、島は聖地・明治神宮野球場で眩いばかりに輝いた。2試合7打席で打率も出塁率も10割。左越えのエンタイトル二塁打があれば、逆方向への技ありヒットや申告敬遠も。
チームは準決勝で逆転サヨナラ弾で敗北(※後日、リポート予定)と、やはり劇画チックな散り際。それが越前の6年生たちは学童野球の幕引きとなったが、島は清々しい表情で総括している。
「負けた悔しさはあるけど、みんなも自分も打てたし、最後の大会で楽しかった。やっぱり、この神宮とか全国大会にいっぱい出て、いろんな経験ができて、楽しかった」



つくづく神宮でも絵になる。島が飛び抜けていたのは、打撃だけではなかった。捕手のスキルも間違いなく、世代屈指だった。
投手の指先からボールが離れた直後から、軌道が見えているかのように、どんなボールもピンポイントで捕球。動作にムダがなくてコンパクトなのは二塁送球時も同じで、極端に言えば、捕球と同時に投げるトップの体勢に入っているかのよう。そして投じた白球は一直線にベース上へ。
「肩は元から強いと言われています。キャッチャーの練習は、ステップとか握り替えとか、少しずつ分けて何度も繰り返してやってきました。堂下亮コーチと勝田博人コーチが、キャッチャー出身で教えてくれました」




経験と知識のある指導者ほど、あれもこれもと一度に次々と教えたがるもの。だが越前の指導は、選手個々の全容やゴールを見据えた上で、計画性をもって段階を踏んでいく。でなければ、島のようなハイパーな捕手が育つはずもない。
“スーパー”を育む未来
「アオイ(島)は指導者とチームに恵まれましたね。身内を褒めても仕方ないんですけど、指導陣は勉強熱心で知識もあって、『家では教えないでくれ』という話もされるほど。ボク自身も野球をやってきましたけど、比べものにならないくらいに教わってますね」
こう語るのは、島の父・左近さん。180㎝に迫る高身長で、現役時代は成美大(現福知山公立大)まで外野手としてプレーした。


長男の島に、次男の湊都(4年)、その下の長女と3人の子を愛する父は、躾には厳しい。が、息子らに野球を強制したことはなく、島が2年生で越前の門を叩いたのも、別のチームで野球をしていた従兄弟の影響だった。
「アオイが自分から『野球をやりたい』と言ってくれたおかげで、この4年間、親のボクも楽しい思いをさせてもらって。最後にまた神宮の素晴らしい舞台にまで。アオイ1人の力だけじゃないんですけど、ホントに子どもたちにも感謝ですね」(左近さん)
島は6年生の1年間だけでサク越え19本、ランニング本塁打も入れると29本のホームランを打っている。2年生からの通算は数えていないが、70本は下らないという。「バッティングは、中橋(大地)コーチに冬にずっと教えてもらってきたことが大きいと思います」





積雪の期間、週末は付きっ切りで打撃指導をしてきた中橋コーチは、島の魅力は「賢さ」と「意思の強さ」にあると指摘する。
「アオイは当てにいかなくても速いボールに振り負けないし、三振しないのも強み。ケガもしないので1箱100球のティー打撃でも硬式球で4箱5箱、軟式なら5箱6箱、打ち続けられる。動きを調整するいろんなドリルをやるんですけど、アオイは理屈を理解してやっているのが分かるし、実戦形式でも打席ごとに自分で勝手にテーマをもって打っている。注意しても、そこは変わらない(笑)」
そんな名コーチが、中学硬式チーム『越前丹生ボーイズ』を創設し、新年度から大会にも参戦する。同チームへ進むという島への期待を納谷監督は迷わずに言った。
「もちろん、将来はプロになってほしい。それだけの子だし、日本を代表するキャッチャーになってほしいですね」

越前の伝統を継ぐ下級生には、扇の要を守る4年生の弟・湊都もいる

本人も夢いっぱい、希望もいっぱい。気負いもなく、日常の会話のように口にする。
「将来の目標はプロ野球選手で、メジャー・リーグに行きたいと思っています」
(動画&写真&文=大久保克哉)