年末の「NPBジュニアトーナメント KONAMI CUP 2025」に向けて、出場16チームは実戦中心のチームづくりに入っている。対戦相手は全国区の強豪や地域選抜チーム、中学生チームと多様で、在京球団同士のテストマッチもよくある。10月中旬には、東京・稲城市のジャイアンツタウンスタジアムで、読売ジャイアンツジュニア(以降、巨人Jr.)と東京ヤクルトスワローズジュニア(以降、ヤクルトJr.)の練習試合が午前と午後に行われた。両軍の対決は今季2回目で、ヤクルトJr.が連勝している。
(写真&文=鈴木秀樹)
ヤクルトJr.が2勝!でも前日は…

▽第1試合
ヤクルトJr.
001116=9
110000=2
巨人Jr.
【S】新井、中尾、田代-神林
【G】木村、丸山-松尾
【評】1回、巨人Jr.が一番・荒武晄大(谷端ジュニアスポーツ少年団)の内野安打から好機を広げ先制。2回にも熊井健隼(深川ジャイアンツ)の二塁打を足掛かりに1点を加えた。しかし、ヤクルトJr.は3回に新井一翔(西埼玉少年野球)と福井陽大(豊上ジュニアーズ)の連続内野安打で1点を返すと、4回には四番・小林昊聖(扇ターキーズ)の左中間ランニング本塁打で同点に。5回、神林駿采(豊上ジュニアーズ)の右中間二塁打から勝ち越し点を奪い、6回には小林と福井が三塁打、田代航志郎(レッドサンズ)も二塁打を放つなど、打者10人7安打の猛攻で6点を挙げ快勝した。

▽第2試合
巨人Jr.
000000=0
00100 X=1
ヤクルトJr.
【G】山崎-篠田
【S】五十嵐、栁澤-東海林
【戦評】巨人Jr.は先発の山崎央月(国立ヤングスワローズ)が完投。ヤクルトJr.は先発の五十嵐悠人(足利ウェストクラブ)から、栁澤勇莉(旗の台クラブ)へのリレー。ともに投手陣が好投してバックも無失策と譲らない。引き締まった好ゲームは、1対0で決着した。安打数は巨人Jr.が3、ヤクルトJr.が2。ヤクルトJr.の神林駿采が3回に放った左翼線を抜く当たりがランニング本塁打となり、これが唯一の得点となった。
G三軍コーチに就任。
西村監督7年目が集大成に

巨人Jr.は活動開始から1ヵ月少々で、すでに10試合以上のテストマッチを行ったという。今季は従来以上に練習もしっかりとこなしており、「チームらしくなってきました」と西村健太朗監督が話す。
「去年は申し訳ないのですが、黒田(響生)コーチにすべて任せきりになってしまったんです。今年はコーチの役割分担もできて、ポジションごとの練習もしっかりできている。打撃や走塁も、ちゃんとできています」
練習試合は1日2試合、時には土日で4試合に。選手たちが自身をアピールするのは当然だが、指揮官はどういう狙いをもって戦っているのだろうか。
「大会本番での、いろんな場面を想定するようにしています。投手陣は連投こそありませんが、先発候補にはある程度、長いイニングを投げてもらうこともある。あるいは、たとえば途中出場の選手がいかに平常心で、いつも通りにプレーできるか。それが勝負を分けることもありますからね」
ヤクルトJr.には連敗も、前日はロッテJr.に連勝していたという。「相手が違うとはいえ、今日はこの結果。紙一重なんですよね」と、急造チームの難しさも吐露する。それでも西村監督には、ジュニアチームを率いて6年という経験がある。また通年スクール(ジャイアンツアカデミー)のコーチも長らく務めているだけに、今どきの小学生への理解も深い。最終的に、勝負強いチームに仕上がってくることだろう。
第1試合は一番の荒武が2安打(上) 第2試合は山崎が完投した(下)

ヤクルトJrとの第2試合で先発した山崎央月は、2安打1失点完投。敗れはしたものの、テンポの良さとコーナーへの投げ分けが光った。5イニングを投げたのも、今季のチームでは初だった。
「ジュニアの試合はレベルが高くて、少しでも甘いところにボールが行くと、打たれてしまう。だから高低も、コースもすべて使って、タイミングもずらしたりして投げるんです。すごくいい経験ができていると思います」(山﨑)
試合での反省を次に生かしながら、投球の幅を広げているようだ。ちなみに、この日の1失点は「外野に(大会本番同様の特設)フェンスがあれば、ホームランにはなっていなかったでしょうね」と西村監督からフォローが入っていた。

キャプテンを務めるのは、捕手の篠田凌(用賀ベアーズ)。「みんな慣れてきて、すごくうるさいけど、試合では声が出ません(笑)」と、チーム状況を明るく打ち明ける。Gのユニフォームに袖を通して日は浅いが、捕手として視野が広がり、カバーリングなど新たなことも身についてきたという。
仲間もハイレベルな上に、指導陣は元プロ選手。そんな環境を与えられて満足しているだけではなく、何でも吸収しようとの意欲が主将からはうかがえる。
「ジャイアンツJr.では1試合1試合が、すごく貴重な時間だと感じています。監督やコーチの言うことを全部ノートに書いて、家に帰って読んでいます。友達とも教えあったりしてます。すべて身につけたいんです」 
取材日は試合後、巨人軍の選手たちが使っている施設でそのまま練習した。
ケージを使ってのフリー打撃と同時に、打球を見極めての走塁練習。ファウルゾーンでもバント練習と、真新しいスタジアムの全面に散ったリトルG戦士が汗を流した。またフリー打撃では、選手の父親たちも外野で守りながら、息子たちの成長を見守っていた。
なお、西村監督は巨人三軍の投手コーチ、大田泰示コーチは同二軍打撃コーチの就任がこのほど発表され、ジャイアンツタウンでの秋季練習にも参加している。「今年のジャイアンツジュニアは、現体制のまま大会までいきます」と西村監督は明言。年末のトーナメントが就任7年目間の集大成となる。

攻守に安定感の燕Jr.
早くも軸が固まる!?

巨人Jr.とは逆に、前日は西武Jr.との練習試合で連敗していたヤクルトJr.。この日は、そのうっぷんを晴らすかのような試合ぶりで巨人Jr.に連勝した。
「もちろん、この点差がそのまま、実力というわけではありませんからね」と話すのは、現役では西武Jr.の星野智樹監督と並んで最長8年目の指揮となる度会博文監督。
「ジュニアチームは、本当に難しい。これまで、『今年は行ける』と思ったチームが予選敗退だったこともありますし、ボクが監督で初めて優勝した2019年大会のチームなんて、練習試合ではまったく勝てていなかったんですから」
それでも今年は、例年以上に仕上がりが早いようだ。巨人Jr.との第1試合では、終盤に打線が見事なつながりを見せて快勝。ロースコアゲームになった第2試合は、頼れるキャプテン・神林駿采の一発で試合を決め、接戦での勝負強さも感じさせた。
四番・小林は、第1試合で本塁打と三塁打(上) 第2試合は主将の神林が決勝のランニング本塁打(下)

神林主将は、ここまでのチーム状況についてこう語る。
「この2か月間でチームはかなり変わったと思います。守備がすごく良くなっている。カットプレーなんかももちろんですし、チーム全体の連係が良くなった」
早くも攻守の要となっているように見受けられるが、当初は戸惑いもあったようだ。
「ボク自身、こんなスゴいチームでプレーするのは初めてなので、キャプテンに指名されたときは『まさか!』と思いました。みんなレベル高い選手で、なんて声を掛ければいいのか、って…」
それでも、さすがは夏の全国ベスト8の豊上ジュニアーズ(千葉)を率いた主将だ。「最初に豊上のキャプテンを任されたときほどの緊張じゃなかったし、とにかく声を出していこう、と」

そんな主将にとって心強いのは、同じ所属チームの仲間2人がいることだ。巨人Jr.との第1試合では福井陽大(=上写真)が二番、中尾栄道が六番に。そして神林は八番に入り、3人とも3打数2安打と、緊張感が漂うなかで打線に火をつける働きを見せた。
この"豊上トリオ”に負けじと存在感を放ったのは、主に三番か四番を任されている左のスラッガー、小林昊聖だ。四番に座った第1試合では、第2打席に左方向へ本塁打、続く第3打線は右翼線に三塁打を放った。「自分が打線を引っ張る、という気持ちで打席に入っています。このチームの練習で、以前よりも力がついた気がします。何より、選手みんな仲が良くて、楽しいんです」(小林)
「投手起用はまだこれから」(度会監督)というヤクルトJr.だが、野手陣は核となる選手を中心に安定。チームの形が徐々に固まってきているようだ。