学童野球チームの日本一を決める全国大会が、いよいよ今年も始まります。
47都道府県でそれぞれ、厳しい予選を突破されてきたチームのみなさんには、心から拍手を送りたい。本日8月15日、夕方からの開会式には、私も足を運ばせていただく予定ですが、その朝にこのコラムを書いています(※神奈川県学童軟式野球選手権大会の閉会式に参列後、すぐに向かいましたが間に合わず…)。
昨今、子どもたちのスポーツの全国大会は、大人主導の「勝利史上主義」の温床や元凶のように言われることがあります。また、野球以外の競技では「全国大会廃止」とのニュースも過去にありました。
私は思います。目標に向かって頑張ることは素晴らしい。何をどう「目標」にするのかは、個人やチームで異なるのは当然で、万人の唯一無二の目標や憧れが全国大会というわけではありません。ただし、目標は種々あると同時に、上下の方向にも幅があっていいのではないでしょうか。
要するに、そこへ向かって夢中で努力する子どもがいる限り、全国大会もあって然るべき。もっと言うと、チームの活動と親子の選択肢にも幅があるべきだと考えています。
日本一や全国出場など高い目標を掲げるチームから、成績や勝敗とは異なる目標や目的をもつチームまでが、全国各地で多様に共存共栄している。そして子どもたちは適宜、自分に合ったチームへとある程度まで自由に出入りできる。
そんなきれいごと無理に決まってるでしょ! そう思われるのも当然でしょう。野球界や学童野球界が抱える問題の多さや、根の深さや絡み具合を、私も知らないわけではありません。関わる大人たちのモラルが、そこまで成熟していないのも事実でしょう。しかし、「無理でしょ!」「変われないよ!」と考えていたら、物事は何も始まらない。前に進んでいけないのです。
どうせ本気でやったって、全国なんて無理に決まっている。6年生がこんなに少ないのに、あそこの強いチームに勝てるわけがない。どうせアイツが試合に出るから、オレはここで頑張ったって意味がない――。
そういうネガティブなマインドの人は、きっと今日の開会式に参加する51チームにはいないと思います。もちろん、この大舞台には立てなかったチームにも、真逆のポジティブな思考の人たちが大勢いるはず。
要は「考え方」で、心は豊かにも貧しくもなる。つい最近、たまたま手にした本がきっかけで私は今、それを強く感じています。つくづく腑に落ちています。
人生における成功とは、何でしょう。これも人によって、定義も基準も違うはずですが、金銭や物質的な豊かさも成功のひとつでしょう。では、私にとっての成功とは…心の豊かさ!
改めてこれを悟ったきっかけは、『人と仕事の方程式』(稲盛和夫著)という書籍でした。サウナ通いほどのヘビーな趣味(コラム第16回参照➡こちら)ではありませんが、私は時間とタイミングがあれば、ふらっと街の書店に入ることがあります。そして数ある本の中から、ピンときたタイトルの何冊かを買って帰ります。
抱える職務に加えて性格上の問題もあり、すべてを読破するわけではありません。正直、拾い読みで十分(私にとっては)という内容も少なくはない。でも、例の一冊は、失礼も承知で言えば「大当たり!」。どこまでも合点のいく内容で、時を忘れて読みふける自分がいました。
俗に言う「ハウツー本」の類い。いかに楽をして要領よく事を遂げるか的なマニュアル書には、私はまるで惹かれません。その一冊は啓発本、いや哲学書のほうが適切でしょうか。著者の稲盛和夫さんは故人で、日本を代表する実業家でした。私は昔から知っていましたが、その知名度や肩書から本を購入したのではありません。題名に興味をそそられたのです。
稲盛さんの方程式は、おおよそこういうものでした。「人生・仕事の結果=考え方×熱意×能力」。この理論は、私の人生や生き方にも多くがハマるものでした。では、私なりの解釈・定義と方程式を、野球に絡めながらまとめてみたいと思います。
私の方程式は「成功=心の豊かさ=能力×熱意×考え方」というもの。
「能力」とは先天的なもので、野球選手なら身長体重や身体能力など、生まれもったものがメイン。「熱意」とは後天的なもので、努力や継続性など。そして「考え方」とは、熱意のベースや尺度になるもので、マイナスもあるという点で「能力」と「熱意」とは大きく異なる。
では、計算式に基準値を与えてフォーマットに落とし込んでみましょう。「能力」と「熱意」が足を引っ張るということは基本的にないので、数値は0~100まで。となると「考え方」は、100からマイナス100までの幅になります。それでは、タイプの異なる選手Aと選手Bを仮定して、「心の豊かさ(=成功値)」を計算してみるとしましょう。
「成功=心の豊かさ=能力×熱意×考え方」
フィジカルに恵まれている選手A(能力80)は、日々の活躍から油断して練習の手を抜いているとします(熱意50)。一方、身体のサイズと機能は平均を少し下回る選手B(能力40)は、野球が大好きで、できる努力を毎日欠かしていないとします(熱意100)。「能力」と「熱意」を掛け合わせると、選手Aも選手Bも同じ「4000」という数値になりました。
能力が劣っていたとしても、熱意で追いついたり、逆転することもできる。答えから導かれたのは、そういうことです。
「成功値(心の豊かさ)」が同じ4000である。この現実を知った選手Aが「やってられるか!」と腐ってしまうと(熱意30)、数値はたちまちに下降する(2400)。活躍するチャンスや出番は、4000を維持する選手Bへと移っていくのかもしれません。
「熱意」を左右するのは「考え方」だと、当初に定義していました。選手Bを起用し始めた監督に対して、選手Aが「こんなチームでやってられない!」と飛び出してしまったとすると、考え方そのものがマイナスなので、心の豊かさもマイナスに。しかも、能力と熱意の数値の分だけ、負の方向へも大きく振れてしまう。心が貧しい選手Aの言動や存在はやがて、チームにとってもマイナス因子となって負の連鎖を巻き起こしていく…。
以上は、あくまでも書籍に基づく、私の意訳と仮定による理論です。要は、考え方ひとつで心は豊かにも貧しくもなるのだ、ということをみなさんにお伝えしたいのです。
人は苦境に立たされたり、結果が伴わなくなると、被害者妄想が生じたり、責任を周囲に転嫁したくなるものです。でも、そういうときにこそ、俯瞰しながら自分や物事を見つめ直して、あえてプラスの考えを持つことが大切ではないでしょうか。たとえ、それでも結果が伴わなかったとしても、考え方がプラスである限り、豊かな心へと近づいていける。あるいは、負の方向へ振れてしまっていた針の先を、正の側へと向け直すこともできるのです。
ちょっと難解でしたでしょうか。小学生の甲子園の開会式の壇上から、仮にこういう話をしていたら、ほとんどの人がポカーンか、「微妙!」などと言われてしまうかもしれません。でも、それでもいいのです。私自身は現に、心は豊かですから。自己満足? いえ、プラスの考え方です。
(吉村尚記)