第44回全日本学童マクドナルド・トーナメント千葉大会の決勝は、豊上ジュニアーズが常盤平ボーイズに2対1で勝利し、2年ぶり5回目の全国出場を決めた。1点を争うロースコアの接戦となる中で、互いにミスを挽回する好プレーも連発。千葉459チームの王者を決めるにふさわしいファイナルだった。
(写真&文=大久保克哉)
※全国展望チーム紹介「豊上ジュニアーズ」は追って掲載します
優勝=2年ぶり5回目豊上ジュニアーズ(柏市)
準優勝=関東学童大会へ
常盤平ボーイズ(松戸市)
■決勝
◇6月22日
◇中田スポーツセンター野球場
常盤平ボーイズ
000010=1
10100X=2
豊上ジュニアーズ
【常】山内、牛方-宮村
【豊】桐原-岡田
試合前の相手チームのシートノックに前向きな声掛け。豊上(下)が加盟する柏市発祥の伝統が、県大会にも及びつつあった
昨年度はこの大会を制した八日市場中央スポーツ少年団が、初出場の全国でベスト4入り。千葉県のレベルがあらためて証明された。
その昨年の決勝同様(リポート➡こちら)、今年も県王者を決するファイナルは序盤から緊迫した。互いに守りではミスを補って、おつりもくるような好プレーを応酬。最後の最後まで、どちらに転ぶかわからない好勝負となった。
1勝1敗、手の内知る同士
また双方の活動拠点、松戸市と柏市とは隣接しており、低学年から毎年2、3試合は手合わせをしているという間柄。2週間前には他大会の予選で対戦し、常盤平ボーイズが6対4で豊上ジュニアーズを破っている。さらにその前、昨秋の新人戦では県準決勝で対決し、豊上が8対1でコールド勝ちしている。
要するに、新チームになってからは1勝1敗のタイ。戦力も手の内も知り尽くす同士ゆえの接戦だったのかもしれない。雌雄を決するべく3度目の対峙には、1枚の全国切符が掛かっていた。
指揮官同士もよく知る間柄。上は豊上・髙野監督、下は常盤平・田口監督
「今年のウチは運動神経のある子がまったくいないので、常盤平が羨ましいといつも言ってたんですよ。ウチは4年生までは1勝もできなかった相手ですから。すごい選手が集まっている」
これは豊上・髙野範哉監督の弁。確かに戦前のシートノックでは、常盤平の選手たちの体格や強肩が際立っていた。そしてバットスイングもやはり、力強かった。
1回表、連続四死球で一死一、二塁から、四番・宮村龍晴が放った打球も強烈だった。しかし、上空へは上がらずに、飛んだ方向も二塁ベース寄りにいた野手のほぼ正面。豊上の二塁手・坪倉凛之丞は、それをポロリとするも、すぐさま拾いながら二塁ベースを踏み、さらに一塁転送で併殺を奪ってみせた。
「相手の四番はホントに良いバッターで、打球も速くてちょっと焦っちゃったけど、練習してきた成果でダブルプレーを取れたので良かったです」
こう振り返った坪倉は、138㎝と小兵ながらその後も好守を連発。また攻撃においては、つなぎ役の九番の役目を十二分に果たしていくことになる。
豊上はエース桐原(上)が立ち上がりでピンチを招くも無失点、以降はストライク先行で打たせて取っていく。1回裏には四番・加藤が先制三塁打(下)
常盤平は今年度から認められた「指名打者」を採用。先発のマウンドには5年生の右本格派、山内寛大を送り出した。
「順番はいろいろですが、3投手で1試合を投げ切る形ができています」と、常盤平の田口良伸監督。5年生右腕は簡単に2つのアウトを奪い、起用に応える立ち上がりに見えた。だが、そこからバックにミスが出て先制点を献上してしまう。
1回裏、豊上は敵失と二盗で二死二塁から、四番の加藤朝陽が右打席から右越えの先制三塁打。打つしかないという場面で打つ。これぞ四番の仕事だが、試合後は意外なコメントだった。
「前の試合でも同じような打球を捕られていたので、打った瞬間に抜けるという自信はなかったです。逆方向を狙った? そういうわけでもなくて、タイミングがちょっと遅れただけで…でもバットの芯でミートはできました」
常盤平の先発・山内(5年)は来年は怪物クラスに?(上)。1回裏に先制されるも、直後に正捕手・宮村の二盗阻止で救われる(下)
豊上ナインは前夜、9時あたりまで室内練習場で打ち込んだという。その成果もあったのかもしれない。ただし、これ以降は双方が打撃よりも、守備でしのぎ合うこととなる。
双方の右翼手がビッグプレー
常盤平は右翼手の藤井勇太が2回、3回とビッグプレーを連発した(※詳細は最下部「グッドルーサー」参照」。左腕の牛方陽斗主将が登板した3回には、犠飛で豊上に2点目を許したものの、右中間への飛球を藤井がスライディングキャッチしたことで、痛手は最小限に。そして牛方主将は以降、1安打投球で打線の援護を待った。
2回裏、豊上は二死一、二塁から一番・福井陽大(5年)が右前へ弾き返す(下)も、常盤平の右翼手・藤井が本塁好返球で二走・石井をタッチアウトに(下)
一方の豊上は、やや変則の左腕・桐原慶が、打たせて取ってアウトを重ねていく。常盤平の特に上位打線は、ファーストストライクを確実に強振して鋭い打球を飛ばした。中にはヒットもあったが、打球の強さも災いした併殺が続いてしまった。
そして豊上のほうも、右翼手の遠藤龍之丞が魅せた。
3回裏、豊上は一死一、三塁から五番・高橋嶺斗が右飛(上)。タッチアップで三走・桐原が生還して2対0に(下)
4回表、常盤平はクリーンアップの打球がすべてライトへ。最初の1本はクリーンヒット、次の1本は右翼手の遠藤が前進して飛球を好捕。その次も前に落ちそうな飛球をギリギリでグラブに収めた遠藤が、即座の一塁送球でハーフエーから戻る走者も刺して併殺となった。
常盤平は4回表、先頭の牛方主将が右前打(上)。一死後、山口裕大は逆方向へ流し打つも(中央)、豊上・遠藤がギリギリでダイレクト好捕からの一塁転送で併殺に(下)
さらに5回表、豊上が試合3つ目の併殺を奪う。無死一塁からの遊ゴロが二塁悪送球となり、一、三塁の大ピンチとなったところで、髙野監督がタイムを取ってマウンドへ。「変な顔すんな!」と、まず一喝されたのは、送球ミスから表情が凍り付いていたという遊撃手の石井岳だった。指揮官は感情任せではなく、具体的な指示も忘れなかった。
「三塁ランナーは無死して、一塁ランナーだけいると思え! 三塁ランナーをかえしても2対1だから」
5回表、常盤平は狩野叶真の左前打(上=写真は第1打席)と敵失で無死一、三塁に。守る豊上は髙野監督の指示通り(中央)、続く上野龍貴の遊ゴロで1点と引き換えにアウトを2つ奪った(下)
再開直後、常盤平の鋭い打球はまたも大地を跳ねて、遊撃手のほぼ正面へ。今度は6-4-3の併殺が決まる。そして指揮官の予言通り、2対1のまま5回の守りを終えた。
「監督に『気持ちが落ちてる』と言われて、次は声を出して頑張ろうと。すぐに次の打球が来たので、今度は落ち着いて取って投げようと思いました」(石井)
マウンドの桐原は6回にも二死三塁と一打同点のピンチを招いたものの、左邪飛で3アウト目を奪って完投、胴上げ投手となった。
「3回くらいから、もう最後まで投げ切るぞと思いながら投げていました。過去に完封も1回だけありますけど、今日が今までで一番のベストピッチです。みんなが守備でちゃんとアウトを取ってくれたおかげです」(桐原)
1点を追う常盤平は6回表、一番・中川が中前打(上)。二死までに三進するも、最後は豊上のエースが左邪飛に打ち取って試合終了(下)
豊上は全国8強入りした2022年以来、2年ぶり5回目の優勝。昨年度は3年生以下を指導していた髙野監督が、トップチームに復帰して即座の県王座返り咲き。閉会式後はグラウンド脇の公園内で、指導陣から6年生までが次々と胴上げさて千葉の夏空に舞った。
〇豊上ジュニアーズ・髙野範哉監督「今年はホントに難しいと思っていたので、選手たちがよく頑張りました。お互いに打つしかないチーム。ロースコアで進んだのがウチとしては大きかったかも。桐原がよく投げてくれたと思います」
※全国展望チーム紹介「豊上ジュニアーズ」は近日中に公開します
●常盤平ボーイズ・田口良伸監督「もうちょっと打てるかなと思ったんですけど、向こうの桐原クンに良いピッチングされてしまいました。ウチは打てないと勝てないので。結局、ちょっとしたミスも得点に絡めてくる、豊上さんの野球のうまさかな…というところですね」
―Pickup Hero―
意図した粘りが奏功、止めたバットが決勝犠飛に
たかはし・れいと高橋嶺斗
[豊上6年/左翼手]
本音をあまり隠さない指揮官の言葉は時に、選手には辛らつに響く。
「今年は打つしかないんですよ。毎年やってきた細かいことができないから。中軸に足がなくて動けないし、ゴロ・ゴーでもバッターが空振りしちゃうわで…」(髙野範哉監督)
そうは言ってもやはり、高橋嶺斗は豊上の五番バッターだった。1回裏には二死三塁から四球を選んでから二塁へ走る。タイミングも明らかなアウトで普通に刺されてしまい、ベンチで大目玉までは食らわなかったが「怒られました。途中で止まって挟まれれば良かったので」。
挽回したのは3回裏の打席だ。2本のヒットで一死一、三塁で右打席に立つと、カウント1-1から3球連続でファウル。三走を確実にかえすためのゴロ打ちを意識したスイングに見えたが、狙いは違ったという。
「カットしてフォアボールで満塁をつくろうとしてたんですけど、結果的に右中間に打球が飛んでしまって残念でした…」
いやいや、その飛球で三走がタッチアップから生還(=下写真)。これが決勝点となったのだから、「残念」はない気もするが。結果オーライで納得しない打者だからこそ、千葉の盟主のクリーンアップの一角を任されているのかもしれない。
今大会では昨年準Vの強豪・磯辺シャークスとの2回戦で満塁本塁打。続く準決勝は3打数3安打と、立て続けにヒーローとなってきた。
「満塁ホームランはビデオで確認したら、外野の芝と内野の土の境目でボールが跳ねて抜けていったので、ラッキーでした。全国では70mのフェンスを超すホームランを打ちたいです」
さらに取り上げたくなる優良なコメントも残しているが、それは全国展望記事にて。実直なこの6年生なら、それまで待ってくれることだろう。
―Good Loser―
「立派なチームです…」指揮官も認めた努力と成長
ときわだいら
常盤平ボーイズ
[松戸市/東葛地区]
全日本学童の県予選での決勝進出は、チームとして初めてのことだった。対戦相手は勝手知るチームで、2週間前の対決では勝利していた。とはいえ、戦う舞台も設定も異なれば、そうそう同じようにはいかないのがスポーツであり、野球のおもしろさのひとつでもあるだろう。
試合開始時刻の1時間前にはフィールドでキャッチボールを始めるなど、準備は万端。選手もベンチも応援する保護者や関係者らも、常盤平ボーイズは戦前から気合いが漲っているように見えた。
シートノックから、ハッスルプレーと笑顔で大いに盛り上げたのは、ホットコーナーの川上琉輝だ。「常にムードが沈まないように、積極的に声を出すことも意識しています」と語る三塁手は、1回裏の先頭打者のゴロに始まり、計4つの守備機会をすべてノーミスでこなした。その都度、仲間にアウトカウントを伝える顔が、自然とほころんでいた(=下写真上)。
「2回戦からずっとノーヒットでしたけど、今日はチームに貢献できるように打ちたいと思っていて。お父さんからもいつも『積極的にいけ!』と言われれいるので、思い切り振りました」
打線では九番の川上は、3回の第1打席で初球を左翼線に運ぶ二塁打(=上写真下)。後続の内野ゴロで三塁まで進んだが、本塁は踏めなかった。
このイニングもそうだったように、決勝では頼みの打線がなかなかつながらず。強力なスイング、鋭い打球も逆に災いしての3併殺が、結果として響いてしまった。だが、おそらく、どの打者も狙いが絞れているからこそのフルスイングと果敢な姿勢は、さすがファイナリストだった。
全員でつかんだ「銀」
「今日は内野守備には最高のグラウンドコンディションでした」とは敵軍の将。確かに、深夜までたっぷりと降った雨を吸ったグラウンドはしかし、ぬかるみすら当初から見当たらず。きれいに真っ平な土の上で跳ねた打球が、高く上がることや不規則に変わることはなかった。
守備ではエラーも出たものの、同一の選手の複数ミスはなし。そしてそれ以上に好プレーが際立った。右翼手の藤井勇太(=下写真)は1回裏、味方のミスから二死二塁というピンチで、打ち上がった飛球をわずかに捕り逃してしまう。記録は三塁打でも「自分では捕れたはずでした」。
藤井は2回裏、二死一、二塁からの右前打を処理して本塁へ好返球。一気に生還を狙った二走を憤死させた(=上写真下)。3回裏の一死一、三塁のピンチでは右中間の打球をスライディングキャッチ。三走のタッチアップは防げなかったが、抜けていれば本塁打コースという打球をダイレクトで捕球したことで、イニング最少失点で終えることができた。
「次のプレーとか、チームのことを考えて、勝負をかけました。みんなで協力して、ベンチのメンバーも頑張ってくれて、全員で勝ち取った2位だと思います」(藤井)
二番・二塁の欠かせぬレギュラーだった荒野湊大(=下写真)は1週間前に左腕を負傷。三角巾で腕を吊りながら試合前はバント練習に加わり、攻撃中は一塁ベースコーチから仲間を声で後押していた。
「最初に点を取られたけど、こっちも絶対に取れると思って頑張ってきましたが、負けちゃってちょっと残念です。でもこのチームは、みんながプレーでも協力できる良いチームだと思います」(荒野)
代わって二塁で出場していた背番号4、上野龍貴(=下写真)は5回裏、ライナーをダイビングキャッチする美技を披露。敗戦直後は声が震え、言葉に詰まった指揮官も、これには「控えの子が良いプレーをしてくれました」と労った。
「千葉県No.1を目指すと、チームとしても個人個人でもみんな努力して頑張ってきたので、立派なチームだとボクは思っています。この子たちはホントに…すごい成長したなと思っています」(田口良伸監督)
全国初出場はならずも、県No.2として関東学童大会出場を決めた。この大会は8月17日から2日間、群馬県沼田市で開催される。
「打線はその日の調子や相手ピッチャーとの相性もあったりするので、ディフェンス面をもうちょっと鍛えて臨みたいと思います」(田口監督)
県決勝に続いて、関東学童も初めての体験。千葉の盟主となりつつある隣町のチャンピオンも、きっと同じような経過を辿って今がある。常盤平が肩を並べる時代も、いずれやってくるのかもしれない。