東京都知事杯第14回東京都女子学童軟式野球大会エリエール・トーナメントは7月13日、奥戸総合スポーツセンター野球場(奥戸野球場)で決勝が行われ、オール江東女子がオール葛飾アイリスを破り、大会初制覇を果たした。葛飾と江東はともに、8月14日から岡山県で行われるNPBガールズトーナメント2025への出場が決まっている。
(写真&文=鈴木秀樹)
※記録は編集部
■決勝
◇奥戸総合スポーツセンター野球場
オール葛飾アイリス
1000=1
146x=11
オール江東女子
※4回コールド
【葛】橋本、米山、橋本-嵯峨
【江】小林-高澤
三塁打/橋本(葛)
二塁打/米山(葛)
序盤の攻防が流れを左右
あるいは、まったく逆の結果もありえたのかもしれない。
序盤の攻防が明暗を分けた。
1回表、オール葛飾アイリスは先頭の秋山莉花が四球で出塁する。一死後に三番・橋本珠莉が右中間を破る長打を放ったが、一気に本塁を狙うもタッチアウト(=下写真)。先制したものの、追加点は奪えなかった。
その裏、オール江東女子は先頭の佐藤紫が右前打を放つと、その後は四球、三振、四球、三振。二死満塁で迎えた六番・高澤はるか主将がカウント2-2から粘って四球を選び、同点とした(=下写真)。しかし、その後は続かず3者残塁と、こちらも同点どまりだった。
2回、葛飾は先頭の五番・米山愛莉が右中間二塁打。四球と盗塁で一死二、三塁としたが、あと1本が出ず、無得点に終わった。一方の江東は、その裏に好機をものにした。簡単に二死となって打順が先頭に返ると、佐藤の内野安打を足掛かりに力石果穂、小林咲葵、清水せいら、石坂樹苺まで5連打(=下写真㊤㊦)。さらに敵失も加わり、この回4点を勝ち越すことに成功した。
3回にも二死満塁のピンチをゼロでしのいだ江東は、その裏、安打はすべてシングルながら、打者11人の猛攻(=下写真)で6点を加え試合の大勢を決する。回を追って調子を上げてきたエース・小林は、投ゴロ、三振、三振で締め、4回10点差のコールド決着となった。
―優勝―
オール江東女子
[江東区]
監督だけがガチガチ
「とにかく、選手の家族の一体感や、選手たちが普段プレーする地元チームの協力がすごいんです」
長江彰孝監督の言葉を裏付けるかのような大きな歓声が、三塁側応援席を包んだ。応援席を埋め尽くした、選手の父母や祖父母、深川レッドソックスやニュー愛宕といった、地元チームの仲間たちによるものだ。
「僕はもう、昨日の晩からソワソワしちゃって、きょうも6時過ぎに、会場一番乗りですよ」
指揮官の興奮は冷めやらない。
「でも、選手たちは思った以上に、いつもどおりで。こんなに良い球場で試合なんて、ふつう緊張するものだと思うんですが、ウチの選手は、グラウンドに入ると、普段どおりに鬼ごっこはするわ、芝生で寝転ぶわで…。僕ひとりが、緊張でガチガチでしたね」
それは試合中も変わらなかった。
「僕はずっと、最悪のケースを想定していました。2アウトからのチャンスでは、ここで終わってしまったら、とか、相手のチャンスでは、ここで打たれてしまったら、とか…。走塁ミスなどもありましたが、選手たちはそれを引きずることもなく。すべてが良い方に出たんです」
そうなのだ。この日のオール江東は、驚くほどに泰然としたプレーで、試合を支配していた。面白いように打線がつながり、大量のリードを手にしてからは、なおさらだ。
「試合の前、ブルペンではよくなかったんです」とは完投勝利の小林。「でも、みんなが点を取ってくれて、最近は打ててなかったんだけど、自分もヒットを打つことができて、それでピッチングも良くなってきて…」
もちろん、それらが偶然の連続なのかといえば、そうではない。
2回の大量得点のきっかけは、前日に練習したプレーからだった。
「ランエンドヒットですね。『やることがあるかもしれないぞ』って言って、昨日、練習したんですよね。そしたら、あの場面でうまくいった」
この試合で、オール江東打線が放った11安打は、すべて単打。
「大きい当たりは出なくても、みんなでつないで、走って。それがオール江東の野球です。あと、みんな笑顔で、野球を楽しむこと」と高澤主将。「優勝までは考えていなかったけど、この大会では厳しい試合も勝って、自信をつけることができました」
東京代表として、全国の舞台へ。長江監督が表情を引き締めた。
「今年は守って打てる、そんな選手がそろったチームではあるんです。なんとか初戦を勝ちたい。そうすれば…」
真夏の大舞台に思いをはせる指揮官に、すっかり昼食モードの選手たちが声をかけた。
「監督、きょうは泣かないんですかー!?」
―準優勝―
オール葛飾アイリス
[葛飾区]
NPBガールズで雪辱だ!!
準決勝で快投を見せ、チームを全国大会出場に導いたオール葛飾アイリスのエース・橋本が、この日はコントロールに泣いた。
紙一重だった。1回二死、あと1つストライクが入っていれば…。もちろん、この場面は江東の打者・高澤主将の粘り勝ちではあったのだが、あまりに大きい1球だった。
攻撃面もしかり、だ。二死からの得点で波に乗った相手に対し、葛飾はあと1本が出ず、徐々に元気もなくなっていった。積極的な打撃も裏目に出る形で、序盤は制球に苦しんでいた相手投手の立ち直りをアシストする結果にもなってしまったのだった。
「いや、きょうは力負けですよ。結果的に、手も足も出なかった」
葛飾・西村光輝監督は選手同士も仲の良い、江東の選手らを笑顔で祝福した。
その一方で、ここまで大量得点で勝ち上がってきた葛飾だけに、きっかけさえあれば、打線は爆発していたはず。やはり、好機で1本出ていれば…の思いは強かったようで、あらためて「これが野球なんですよね…」とかみしめるようにつぶやいた。
しかし、悔やんでいる暇はない。こちらも全国大会出場は決めているのだ。
「もちろんです。むしろ、これからですからね」
8月の岡山では、ひと回り成長したチームの姿を見ることができそうだ。