「全国大会」と称する舞台が、学童野球では無数にある昨今だが、昭和から続く夢舞台、47都道府県の代表で日本一を決するチャンピオンシップ大会は、これしかない。「小学生の甲子園」とも称される、全日本学童大会マクドナルド・トーナメントだ。第45回大会の今年、関東地区では群馬県がトップを切って予選が行われた。結果は当メディアでも速報済だが、準決勝以降を改めて特報していこう。まずは5月3日にあった、準決勝の2試合とヒロイン&ヒーローから。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
※※3位決定戦と決勝も順次、公開します
■準決勝1
拮抗の前半戦から4回に明暗。上川が伊勢崎南を振り切る
◇5月3日 ◇上毛新聞敷島球場
▽第1試合
上川ジャガーズ(前橋)
120120=6
102000=3
伊勢崎南ホークス(伊勢崎)
【上】細野、冨田一、今井-横堀
【伊】吉野里、関口大-関口大、吉野里
本塁打/長谷川2(上)
二塁打/中里(伊)、横堀(上)
【評】前半戦は一進一退で拮抗した。先攻の上川ジャガーズ(=上写真)は、冨田一平主将が左翼線への先頭打者ヒットから二盗に成功。そして三番・細野良太のテキサス安打で三進、内野併殺崩れで先制のホームを踏んだ。対する伊勢崎南ホークス(=下写真)もその裏、すぐにやり返す。二番・中里銀次の左中間二塁打からバッテリーミスで一死三塁とし、三番・関口大愛の二ゴロで1対1に。
以降も互いに譲らない。2回表、六番・長谷川蒼生の右越え本塁打(=冒頭写真)で2対1とした上川は、なおも四球や犠打で二死二塁として、冨田一主将の中前打で2点差に。伊勢崎は3回裏、一番・栗原新岬主将が内野強襲安打から二盗を決め、続く中里の中前打で1点。さらに関口大も内野安打で二死一、三塁とすると、一走が飛び出して守備陣の転送を誘う間に、三走の中里が同点のホームを踏んだ。
伊勢崎南の二番・中里は、第3打席でバント安打(上)を決めて3打数3安打1打点。上川の六番・長谷川は2打席連続のランニングホームラン。写真下は右中間を破った2本目
明暗が分かれたのは、3対3で迎えた4回の攻防だった。上川は長谷川が右中間へ2本目の勝ち越しソロ(=上写真)。その裏の守りは失策に始まり、暴投や四球で一死一、二塁のピンチとなる。攻める伊勢崎は、八番・五十嵐祐介が右打席から逆方向へきれいに打ち返す(=下写真)。しかし、上川の右翼手・武居颯大(5年)が、落ち着いた処理でライトゴロに。さらに送球を受けた一塁手の酒井智奈美が、即座の本塁転送で、三塁を蹴っていた二走を挟殺プレーからタッチアウトに。
併殺でピンチを脱した上川は、直後の5回表に細野と横堀旭(5年)のタイムリーで6対3と突き放す。投げては三番手の今井優音(5年)が、5回裏二死二、三塁のピンチから登板してのパーフェクトリリーフで決勝進出を決めた。
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流れを呼んだ本塁転送。四番女子は夏のガールズトーナメントへ
酒井智奈美
[上川6年/一塁手]
高校生と中学生の兄2人も野球をしているという。妹の酒井智奈美は、上川ジャガーズで堂々と四番を張っている。体幹が安定しており、男子が投じるボールにもスイングが力負けしていない。
準決勝の第1打席、併殺崩れで先制の打点を挙げた遊ゴロも、強い当たりだった。翌日の決勝では、第1打席に中前へクリーンヒットを放っている。
2日間の重要な2試合で、彼女が最も輝いたのは、4対3で迎えた準決勝の4回裏の守りだった。一死二、三塁で一打同点というピンチで、まずはライトゴロを決める。一塁手の酒井は、右翼手からの送球を受けて2アウトとするや、迷わず本塁へ転送し、一気に生還を狙った二走を挟殺してみせた。
「ああいう練習はあまりしていないけど、打球がライトに飛んだ瞬間に、(本塁に転送する)判断をしました。お兄ちゃんたちの野球を小さいころから見てきたので、自然に覚えたことも多いと思います」
学童野球でも、全国レベルになると珍しくはないプレー。それでも、ワンミスで同点という場面できっちりと併殺を奪ったことで、はっきりと流れを引き寄せた。酒井がこの域までくるにもやはり、相応の失敗も重ねていたと指揮官は指摘する。
「ランナー二塁からの内野ゴロで、一塁でアウトを奪っただけでホームに投げられず(気付かず)、失点というのが何度かありましたね」(石原武士監督)
決勝の守りでは、いきなりのケアレスミスで相手に先制点のきっかけを与えてしまい、チームも敗北。だが、翌日の5月5日、県女子大会の決勝で、うっ憤を晴らした。
市選抜チームの前橋ガールズで三番・捕手を務める酒井は、初回に先制2ランなど、6対4の勝利に貢献。大会4連覇を達成した前橋ガールズは、8月14日に岡山県で初開催されるNPBガールズトーナメント2025に出場する。
■準決勝2
投打の歯車かみ合う。新里がオール東に完勝
◇5月3日 ◇上毛新聞敷島球場
▽第2試合
オール東 大利根(前橋)
000000=0
11010 X=3
新里スターズ(桐生)
【オ】日高将、眞塩、髙橋-菅原
【新】中村、坂田-加藤
三塁打/柴田(オ)、塚本(新)、菅原(オ)
二塁打/塚本、加藤(新)
【評】新里スターズが、打たせて取る守りと手堅い攻撃を実らせ、決勝進出を決めた。オール東 大利根は1回表、三番の5年生・柴田大晴が左中間へ三塁打を放つ(=下写真)も、得点に結びつかず。ピンチを脱した新里はその裏、一番・松島宏樹がバントヒットから二盗、三盗を決めて三番・岩田彗真(5年)のスクイズで先制。さらに2回裏、五番・塚本大也の中越え三塁打と、続く常木朝陽主将の右犠飛で2対0とした。
ストライク先行の新里の先発・中村銀我(=上写真)に対して、オール東は2回以降も毎回のように走者を出すものの、あと1本が生まれない。主導権をキープする新里は4回裏、塚本と七番・加藤瑠心の二塁打で中押し。3点リードのまま6回表から登板した二番手の左腕・坂田迅(5年=下写真)は二死から、オール東の四番・菅原蒼穹に右越え三塁打を許すも、後続を断って完封リレーを完成させた。
完封勝ちの新里は無失策。敗れたオール東(下)もバッテリーミスを除けば、野手はノーエラーで内外野ともよく鍛えられていた
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三塁打、二塁打、単打。2試合で3安打に、いぶし銀の守り
塚本大也
[新里6年/二塁手]
「バッティングが持ち味です。全国大会でも、どんなピッチャーにも対応するバッティングをしたいです」
新里スターズの五番・塚本大也は、今大会優勝後のインタビューで、晴れやかな笑顔でそう言った。一様にシャープなスイングで、快音をよく発する打線にあって、この右打者は思い切りの良さとパワーで際立っていた。
準決勝では中越え三塁打に、左中間二塁打。第3打席は警戒され、深く守る左翼手に飛球を捕られたが、定位置なら頭上を超えていたかもしれない。
翌日の決勝も左中間にタイムリーを1本(単打=上写真)。2試合で5打数3安打と、持ち味を存分に発揮した。一方、守るセカンドでも再三の守備機会があり、ノーミスゆえに目立たなかったが、どこまでも冷静で堅実だった。
チームにとっても、とりわけ効いたのは決勝の1回表の守り。一死一塁から地面を叩いたゴロ打球は、目線くらいまで上がって二塁手の方向へ。前身してきた塚本は、これをハーフバウンドでグラブに収めてから、一塁送球でアウトに(=下写真)。
「僕はショーバン(捕球)が得意なので、ホントはショーバンで捕りにいったんですけど、間に合わなくて(笑)」
結果として、中高生でもファンブルしがちな上がり際で捕球することに。しかも目の前を横切る走者で視界を一度遮られたが、慌てることなく柔軟なハンドリングでカバー。これも練習の賜物だろう。
チームはその地味なファインプレーで二死を奪ったことで、1回表の失点を免れ、すぐさま先制することに。要するに、塚本が優勝までの流れを導いたと言えなくもないが、当人はこう言って五十路の記者を諫めたのだった。
「でも、ボクは打つほうが好きです。みんなで声を掛け合ってきたことが、打線の好調につながって勝てたと思います」