全日本学童マクドナルド・トーナメント東京予選と、都知事杯フィールドフォース・トーナメントの上位チームが集い、あらためて頂上を競う「東京都スポーツ文化事業団理事長杯駒沢ジュニアベースボール大会 第17回東京都学童王座決定戦」は8月24、30、31日に東京都世田谷区の駒沢硬式野球場で行われた。決勝では大会3連覇のかかる不動パイレーツ(目黒)と国立ヤングスワローズA(国立)が激突。最終回の大逆転劇で不動が勝利を収め、3年連続6回目の優勝を果たした。
(写真=大久保克哉/文=鈴木秀樹)
※記録は編集部、本塁打はランニング
■決勝
◇8月31日◇駒沢硬式野球場
不動パイレーツ
000103=4
020000=2
国立ヤングスワローズA
【不】山田、木戸-岡本、山田
【国】山崎、谷津、宮下瞬-濱田
三塁打/田中、山田、茂庭(不)吉川(国)
【評】国立は2回、先頭の四番・吉川陽壱主将が右翼線を破る三塁打を放つと、続く清水升爲のスクイズで先制、さらにこの打球が悪送球を誘い、清水も二塁へ。その後一死三塁とし、濱田藍のスクイズで2点目を奪った。追う不動は4回、四球の寺田悠人を一塁に置き、四番・山田理聖が右翼線を破る適時打。しかし、三塁を回った山田が走塁死し、追加点はならず。しかし、不動は1対2で迎えた最終6回表、竹中崇と山田の連打に四球が加わり、茂庭大地、北條佑樹がバントを決めるなど、機動力も絡めて3点を奪い逆転、その裏の国立の攻撃をゼロで抑え、厳しい戦いを制し、都大会3冠を達成した。
優勝:不動パイレーツ
打線は爆発せずとも、巧みに攻め勝つ“不動流”
初回に先頭の田中璃空主将が中越え三塁打を放つ(=下写真㊤)も、次打者の投ゴロでホームを狙い走塁死(=下写真㊦)。2回にも先頭の山田理聖が安打で出塁したが、二死二塁からの遊飛で帰塁できず、併殺で攻撃終了となった。
1度ならず2度までも、先制の好機を生かせず、わずか半月前の全国大会での悔しい敗戦から立ち直れていないのか──とも思わせた不動パイレーツだったが、そうではなかった。
「すぐに切り替えて、この駒沢王座で優勝し、都大会3冠を達成することが、本当の自分たちの強さを示す唯一の道だと、選手たちと話し合ったんです」と田中和彦監督。
優勝することになる長曽根ストロングス(大阪)に敗れた全国大会3回戦は、いわば“相撲に勝って勝負に負けた”試合内容。しかし、ここまで、内容でも結果でも勝ちにこだわることで進化してきた、今年の不動だけに、ここでは何としても結果を出したい。序盤のちぐはぐな攻撃は、いわば気合が入りすぎたゆえの空回りだったということなのだろう。
決勝はスピードのある山田が先発のマウンドに
相手は国立ヤングスワローズ。全日本学童予選では準々決勝でぶつかり、最終回に逆転し、なんとか勝利を収めた強敵だ。田中監督が付け加える。
「ピッチャーの山崎(央月)君をはじめ、国立さんの選手たちも、以前戦ったときと比べても、ものすごく力をつけているのが分かります。その状況下でも勝ち切ることが、自分たちの力を証明するためには必要なんだ、と話したんですよ」
こだわってきた、勝つためのスタイル
序盤に許した2点が重くのしかかる展開の中、反撃は4回の1点にとどまっていたが、最終6回、ついに不動打線が本来の力を発揮した。この回は長打こそなかったものの、単打とバント、四球に足を絡めて3得点。4つの盗塁のうち、2つは三盗だ。
相手のスキを突く盗塁で流れをぐっと引き寄せて畳みかける、年明け以降、不動がこだわってきた「負けない」ための気持ちの強さが前面に出た逆転劇だった。
3回からは木戸恵悟がマウンドに上がった
「全国大会は、4回時間切れで負けたんですよね。選手たちには『あの悔しさを思い出せ』と。あのときは5回、6回、戦うことすらできなかったんだぞ、と。今日は6回までできるんだ、ここで逆転しないでどうする、そんな言葉を掛け続けて、選手たちがそれに応えてくれたんですよ」
そう話す田中監督も笑顔だ。「これからは、受験でチームを抜ける選手も出てくる。このメンバーで戦えるのもわずかなんだから、楽しんで来い、とも言ったんです。彼らにとって、良い思い出になってくれたらいいんですが」。
6回表には竹中と山田㊤の連打で、竹中が同点のホームを踏んだ㊦
もちろん、気持ちを前面に押し出した戦いの裏には、冷静な計算もあった。
好投を続けていた国立の先発・山崎は、序盤から不動の積極的な攻撃にも助けられ、4回終了時点で43球と、球数制限の70球までは余裕のある完投ペース。「ただ、中盤から終盤に差し掛かり、ストライクとボールがはっきりしてきてはいたんです」と田中監督。「だから、選手たちには、怪しいボールに手を出して、相手投手を助けるなと。むしろ、見逃し三振OKと伝えたんです」。
6回表一死一、三塁から北條が勝ち越しのスクイズを決める ㊤
結果、相手エースに5回は20球以上を投げさせた。そして6回には無死のまま、投手交代を余儀なくさせたのだった。
全国大会を経て…
決勝で3打数3安打、大会を通して打撃好調だった山田は「全国大会では調子が良くなくて、あまり打てなかった。ここで結果を出すことができてうれしいです」と笑顔。最終回に逆転の口火となる安打を放つなど、勝負強い打撃が光った竹中は「楽しかった。準決勝のレッドサンズ(文京区)戦もヒヤヒヤで、いろんな感情が詰まった試合の連続でした。全国大会でも、長曽根さんに負けたのは悔しかったけど、その前に1回戦の宮古ヤングパワーズ(岩手)、2回戦の湧別マリナーズ(北海道北)で対戦したピッチャーも、すごく良かったんです。いい経験ができたと思っています」と、真夏の大舞台を振り返った。田中主将は「全国大会では、気持ちで負けてた。今日の決勝では、気持ちで負けることなく、最終回に逆転勝ちできた。みんな、少し成長したのかな」と、うなずいた。
劣勢をはねのけて手にした、最後の一冠。大舞台での悔しい経験を糧に、再び前進を始めた、不動ナインのさらなる成長の兆しを感じさせる戦いだった。
準優勝:国立ヤングスワローズA
チームの歴史つくり走り続ける
準決勝では、全日本学童準優勝の越中島ブレーブス(江東)と1点を争う接戦の末に、谷津綾和のサヨナラ打で3対2の勝利を収めた国立ヤングスワローズ。試合後、谷津は「集中して打ちました。勝ててよかった。次こそ不動に勝たないと」と力を込めた。
◇ ◇ ◇
この大会、駒沢学童王座決定戦は、全日本学童東京都予選と、都知事杯学童のベスト4、合わせて8チームが出場するのが基本形。しかし、今年は不動が両大会ともに優勝し二冠を達成。また、全日本学童予選4位の船橋フェニックス(世田谷)は上部大会と日程が重なり出場できないことから、2枠が空席となっており、全日本学童予選ベスト8の国立は「連盟推薦」の形で出場を果たしたのだった。
出場が決まり、第一に目指したのは当然、全日本学童予選で惜敗を喫した不動パイレーツとの再戦だった。「意識しすぎって言われるけど、仕方ないじゃないですか」と国立・杉本敬司監督が笑う。
「不動さんは本当に強い。それでも、もう一度戦い、勝ちたい。これ以上の目標が、あるわけがない」。国立にとっては、約束の一戦だったのだ。
こちらも大きく成長
エースの山崎央月(=上写真)は準決勝に続き、この日も好投。「全日本(都予選)で負けてから、不動とは、みんな仲は良いんだけど、ずっとライバルと思ってきたんです」と話す右腕は、「今日は絶対に勝ってやるって思って投げたんだけど…」。
6回、球数制限により降板後、チームは逆転された。
2回裏、吉川主将の三塁打㊤がチーム唯一の安打に。三走・吉川主将は清水のスクイズで先制のホームへ㊥4回一死三塁、国立はスクイズを外して不動の三走・山田をタッチアウトに㊦
悔しい惜敗。しかし実のところ、国立の安打は先制点につながった、吉川陽壱主将の三塁打1本のみ。1安打で2点を奪い、山崎を中心とした守りで、計8安打の不動を最後まで追い詰めたのだった。まるで試合巧者の不動のお株を奪うような戦いぶり。
「泥くさく点を取って、いけるかな、と思ったんですけどねぇ」と杉本監督が振り返る。チーム唯一の安打を放った吉川主将は「以前は試合中も、劣勢でみんなの気持ちが下がったら、そのまま負けてしまっていたんだけど、最近はそれがなくなりました」とチームの成長を実感している。
スコアを見れば、2ヵ月半前と同じ逆転負け。2対1から、最終回の失点により勝負が決まったところまで同じだ。それでも、実際の戦いぶりは違っている。不動も国立も、同じように成長し、レベルアップを遂げて繰り広げた勝負が、くしくも同じ展開で決着したということなのだ。
「不動さんは、去年が全国3位で、その前は全国準優勝。そんな、これまでの先輩たちが積み上げてきた、チームの伝統みたいなものがある。それがウチとの差なのかな、と感じています。僕らはまだこれから。というか、今年のこのチームからなんです」と杉本監督。逆にいえば、今年の国立はここまで、チームの新たな歴史をつくってきたともいえる。
「まだ大会があるので、この先もみんなで頑張りたい」と吉川主将。今年の国立ナインが歩む道なき道は、まだ続くのだ。
◇ ◇ ◇
■1回戦
◇8月24日◇駒沢硬式野球場
▽第1試合
ひばりが丘ヤンキース(西東京)
00022=4
4311 2x=11
不動パイレーツ(目黒)
※5回コールド
【ひ】広池、福田-大沢
【不】岡田、高浦、木戸-山田
本塁打/木戸、寺田、竹中(不)小池(ひ)
三塁打/田中、岡田(不)久保木(ひ)
二塁打/竹中、茂庭、斉藤(不)
【評】不動は1回裏、先頭の田中璃空主将の中前打を皮切りに二番・寺田悠人が右前打、三番・竹中崇が左越え二塁打、五番・茂庭大地が左中間二塁打、六番・木戸恵悟が左越え本塁打と、連打で4点を先取。2回にも田中主将の三塁打に続き寺田、竹中が連続本塁打を放つなど、ひばりが丘を一気に突き放した。ひばりが丘は4回に広池快晴の安打に続いて小池春太が左翼への本塁打を放ち2点、5回にも久保木響飛の右中間適時三塁打、井上綾大主将の右前適時打で2点と反撃したが及ばず、5回7点差コールドで勝負が決した。
▽第2試合
レッドサンズ(文京)
004011=6
310000=4
グレートベアー(武蔵村山)
【レ】田代、門田、田代、中澤-中澤、田代
【グ】笹川、稲塚、三宅-鈴木
本塁打/門田(レ)
三塁打/三宅、笹川(グ)奥田(レ)
【評】グレートベアーは初回、先頭の三宅奨斗が右越え三塁打を放つと二番・笹川隼人主将、三番・稲塚來己も安打で続き、五番・佐々木岳玖も適時打を放つなど、3点を先取。2回にも笹川主将と稲塚の適時打で1点を加えた。これを追うレッドサンズは3回、2四球に続いて二番・井口凱斐から門田亮介主将、中澤諒陽、田代航志郎までの4連打など、打者10人の猛攻で一気に4点を挙げて追いついた。レッドは5回に門田主将の右中間本塁打で勝ち越すと、6回にも奥田司の三塁打と佐々木咲太朗の適時打で1点を追加し、グレートベアーを振り切って勝利を挙げた。グレートベアーは先発し好投の笹川主将が利き手の左人差し指を負傷し3回表途中で降板したのが響いた。
▽第3試合
本村クラブ(港)
000001=1
13000x=4
越中島ブレーブス(江東)
【本】松下、佐藤-大村
【越】石原、宮川、一木-長島穂
本塁打/長島光(越)
二塁打/長島穂(越)森久(本)
【評】越中島は初回、二番・栗田洵主将が四球を選ぶと、続く長島穂岳が左翼に適時二塁打を放って先制。2回にも長島光毅が右翼線を破る3ランを放ち、リードを広げた。投げては先発の石原杏嗣から宮川智久、さらに一木嶺へとつなぎ、5回まで無失点。本村は3回からリリーフの佐藤春来が越中島打線に追加点を許さず、打線も最終6回二死一塁から森久賢飛が中越え適時二塁打を放って一矢報いたが、反撃もそこまで。越中島が快勝で初戦をものにした。
▽第4試合
フェニックス(台東)
00111=3
2711x=11
国立ヤングスワローズA(国立)
※5回コールド
【フ】姜、石川、梁-二村
【国】山崎、谷津、相澤-濱田
本塁打/小林倫(国)梁(フ)
三塁打/清水(国)
二塁打/山崎(国)竹之内、姜(フ)
【評】国立は初回、先頭の宮下瞬、三番・山崎央月の安打で好機を作り、濱田藍のスクイズなどで2点を先取すると、2回には谷津綾和、今泉昇の連打に始まり、清水升爲の右中間三塁打、山崎の右中間二塁打、濱田の左前打、小林倫太朗の左中間への本塁打など、11人の猛攻で7点を加えた。一方、1、2回をゼロで終えたフェニックスは、3回に竹之内陽向の左中間二塁打と東良磨の適時打で1点、4回にも利根川貫太の右前打と姜君翼の右中間二塁打で1点を挙げて4回10点差コールドを免れ、5回には梁眞豪主将が左翼へ本塁打を放って反撃したが、その後も着実に加点した国立が5回コールド勝ちを収めた。
■準決勝
◇8月30日◇駒沢硬式野球場
▽第1試合
不動パイレーツ
031001=5
003001=4
レッドサンズ
【不】木戸、岡田-山田
【レ】田代、門田、中澤-中澤、田代
本塁打/門田(レ)山田(不)
三塁打/門田(レ)
【評】不動は2回、四番・山田理聖の中前打からバント悪送球、さらにバント野選で先制点を奪うと北條佑樹が中前に運んで、この回3得点。3回にも山田の適時内野安打で1点を加えた。レッドサンズは3回裏に二死一、二塁から門田亮介主将が左中間を破る3ラン本塁打を放って反撃を開始。しかし、最終6回には不動が山田の右中間本塁打で5点目。レッドサンズも山本新一郎と藤田航士郎の連打から塁を埋め、押し出し四球で1点を奪い、なお二死満塁と、一打逆転の場面が続いたが、不動が辛くも逃げ切った。
▽第2試合
越中島ブレーブス
000020=2
00200 1x=3
国立ヤングスワローズA
【越】石原、宮川、一木-長島穂
【国】山崎、谷津-濱田
本塁打/山崎(国)
二塁打/宮下瞬(国)長島光、一木、宮地(越)
【評】両チームとも、初回から走者を出しながら、あと一本が出ない展開。それでも、国立は3回に宮下瞬の中前打と山崎央月の左中間本塁打で2点を先取。越中島も5回に二死一、二塁から一木嶺が左翼線に2点適時二塁打を放って同点とした。越中島は最終6回、敵失と宮地佑典の左翼への二塁打で一死二、三塁の絶好機を得たが、ここで国立ベンチは申告敬遠。一死満塁とすると、スクイズを外して三走を刺し、さらに三振でピンチを切り抜けた。その裏、連続四球で好機を得ると、こちらも一死二、三塁から本塁死で二死となったが、七番・谷津綾和が左前打を放ち、サヨナラ勝ちで激戦に終止符を打った。