第44回全日本学童マクドナルド・トーナメント都大会の3位決定戦は、しらさぎが8対0の5回コールドで旗の台クラブを下し、1977年の創部以来初となる全国出場を決めた。昨秋の都新人戦で準Vの旗の台は、8月の阿波おどりカップに続いて9月のGasOneカップ出場も決まった。東京3枚目の全国切符を巡る戦いは、好対照なカラーがぶつかり合い、それぞれにヒーローも生まれた。
(写真&文=大久保克哉)
※決勝戦リポートは追って掲載します。全国展望チーム紹介「しらさぎ」➡こちら
※※記録は編集部、本塁打はランニング
3位=全日本学童初出場しらさぎ(江戸川区)
4位=GasOneカップへ
旗の台クラブ(品川区)
■3位決定戦
◇6月15日 ◇府中市民球場
旗の台クラブ
00000=0
11204x=8
しらさぎ
※5回コールド
【旗】井手、寺村-片山
【し】新井、田中-方波見大
本塁打/田中2(し)
全都道府県で唯一の4ケタ。1000チーム以上が加盟する東京都の全国出場枠は「2」。これに「開催地代表」が加わって計3枠となる。本大会の東京固定開催は今年度がラストになるため、「開催地代表」をかけた3位決定戦も、これで最後。あるいは当面はなし、ということになるのだろう。
ともあれ、今年はどちらが勝っても初の全日本学童大会出場となる。1967年創立の旗の台クラブは、東京予選での4強入りも初めて。1977年創立のしらさぎは、2016年と2022年の2度、3位決定戦で苦杯をなめている。
両軍とも東京界隈では知られた強豪だが、「小学生の甲子園」こと全日本学童にはまだ縁がない。またどちらが負けても、9月の上部大会の出場権は得るが、この決戦を勝ち切ることしか頭になかったはず。ちなみに現6年生たちは昨秋の新人戦の都準々決勝でも対戦し、11対1で旗の台が大勝している。
互いにミスから始まる
目には見えない独特の緊張感ゆえか、1回から双方の守りにミスが出た。そしてその得た走者を確実に生還させた、しらさぎのペースで試合は進んでいくことに。
しらさぎの先発・新井(上)は90㎞台半ばの速球を主体にゲームメイク。旗の台の先発・井手(下)は最速105㎞の速球で押していった
1回裏、しらさぎは敵失と四球に三番・石田波瑠の犠打で、一死二、三塁とする。さらに四番・新井葵葉も、高く弾む絶妙のバントを決めて1点を先制した。旗の台は直後の2回表、井手初紀と柳咲太朗(5年)の連打に、高橋大空の犠打で同じく一死二、三塁とする。ここで、守るしらさぎにビッグプレーが飛び出した。
旗の台の八番・二岡和暉が放った打球は、右翼線方向へフラフラと舞い上がった。ファウルか、テキサス安打か、という打球を右翼手の飯田琉羽空が猛チャージからダイレクト捕球。そして即座の強い本塁返球で、三走にタッチアップの企図を許さなかった。
1回裏、しらさぎは無死一、二塁から三番・石田(上)、四番・新井(中央)の連続バントで先制
すると、立ち上がりからストライク先行の投球をしてきた左腕の新井が後続を断ち、大ピンチを切り抜ける。流れは俄然、しらさぎへ。2回裏には八番・田中伊織のランニングソロで2対0。3回には一番・井手上季稜の左翼線三塁打を皮切りに、四球、バント、重盗などで4対0とした。
2回表、旗の台は井手と5年生・柳(上)の連打に高橋のバント(中央)で一死二、三塁に。そして二岡(下)が右翼線へ微妙な打球を放つも…
「ウチはスーパースターはいないので、全員で1点を取る。走塁とバントで1点ずつ、これがしらさぎ野球です」(坂野康弘監督)
どうも噛み合わず
一方の旗の台は、持ち前の打力で昨秋の新人戦は東京都準優勝。しらさぎからも2ケタ得点を奪っている。このリマッチは序盤からビハインドも、ムダに慌てる様子はなし。しかし、なかなか歯車が合わなかった。
しらさぎは2回表のピンチを右翼手・飯田の好プレー(上)などで切り抜ける。直後に八番・田中が右中間へ本塁打で2対0に
旗の台は3回途中から、本格派左腕の寺村陸主将が救援して力投。4回表には井手が2本目のクリーンヒットで出る。だが、続く5年生・柳の良い当たりのゴロは遊撃手の正面を突いて併殺に。5回表には代打・谷川新太が粘って四球を選ぶと、一番・梶原大誠の中前打で二死一、三塁とするも、続く徳重孝太郎のセンター返しは飛び過ぎてダイレクトで捕られてしまう。
しらさぎは3回裏、一番・井手上の三塁打(上)から小技と足技を絡めて2点。5回裏には一、三塁からの重盗で途中出場の三走・方波見太陽が生還(下)
どうも波に乗れない中、寺村主将はしらさぎ打線を力で封じてきたが、5回二死無走者からまさかの展開に。3連続四球にバックのミスも相次いで2点を失い、なお、二死三塁のピンチ。
攻めるしらさぎの打者は、2回に一発を放っている八番・田中。今度は右翼線へライナーを放つと、返球が本塁へ戻らぬうちに生還。田中の1試合2本目となるランニングホームランで8対0、ここにコールドゲームが成立した。
旗の台は救援した寺村主将(上)が109㎞をマーク。4回の守りでは中堅の徳重孝太郎が美技(中央)。5回表には梶原の中前打(下)などで好機をつくったが…
試合後は双方の選手に涙があった。
「子どもたちのおかげで、やっと今日はぐっすり眠れます」と、しらさぎの坂野監督は安堵の表情(※チーム紹介記事は全国展望で追って掲載します)。
5回裏、リードを6対0に広げたしらさぎはなお、田中の2本目の本塁打(2ラン)で勝負を決めた
敗れた旗の台・寺村俊監督は表彰式後、球場の外で5年生たちに思いを託す話の中で、大粒の涙がポロポロとこぼれた。
「序盤で1点、2点、返せていれば自分たちの野球は通用するんだと思って自信を持っていけたでしょうけど、コツコツとやられているうちにガマンし切れなくなって苦しい展開に…。5年生たちは新人戦もある中で、いつもベンチに入ってくれていたので感謝を伝えました。『ウチら(現6年生)にはまだ全国は早かったという結果なので、来年こそは行ってください!』という話もしました」
東京1051チームの中の4位だ。結果は大敗ながら、能力の高さと成長の跡も見えた一戦だった。負けた側から感傷に浸る前に、次の世代へ謝意と激励を伝えられる指揮官もそうはいまい。今後の徳島県での阿波おどりカップも、9月のGasOneカップも、東京代表として堂々と戦ってくれることだろう。寺村監督の来年度以降の去就は未定だが、3年生チームでは次男坊がプレーしている。
理を持って導く旗の台の指揮官。寺村監督の今年度最大の挑戦は終わったが…
〇しらさぎ・坂野康弘監督「8年前も一昨年も、この3位決定戦で負け。去年の新人戦は旗の台さんに負け。今日はどうにか勝つことができたのは、全員が主役で1点ずつ取っていくという、ウチのやりたかった野球ができたことにあると思います」
●旗の台クラブ・寺村俊監督「一番に目指していた大きな大会で結果が出なかった。これをしっかり受け止めて、何をすれば目指しているものが勝ち取れるのか考えよう! という話を試合後の選手にしました。まだ大きな大会があるのでモチベーションもまた上がってくると思います」
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投打に気合い十分、圧巻の2発で四番復帰も!?
たなか・いおり田中伊織
[しらさぎ6年/投手兼左翼手]
上位も下位も関係ない。しらさぎの打者は全員が、ひと握りからふた握りはバットを短く持っている。それでも十分に、長打も打てることを証明したのが、右投左打の八番・田中伊織だった。
2回裏、二死無走者から右中間を痛烈に破るライナーを放つと、打球はフェンスへと転々。一気にダイヤモンドを駆けて最後に本塁に滑り込むと、両手を高々と掲げて歓喜のベンチへ戻っていった(=下写真)。
「打った瞬間にホームまでイケると思って、うれしかったです。『気迫、勝利への執念!』で打ちました」
自らのモットーだという『』内の言葉は、帽子のひさしの裏にマジックで書き込んである。やはり、どの選手も一様に気迫に満ちていたチームの中で、田中のそれはパフォーマンスにつながるベストの塩梅だったようだ。
先発左腕の新井葵葉が4回を3安打無失点の好投。その後を受けて5回の頭から登板すると、最速104㎞の速球で早々に追い込み、2者連続で見逃し三振を奪う。
「もう先頭から、1人ずつ三振で抑えていくという気持ちでマウンドに立ちました。MAXは110㎞です」
リズムよく二死を奪ってから、与四球とヒットで一、三塁に。ここでベンチを出てきた坂野康弘監督から「もっと楽にいけ!」と指示されると、後続を中飛に打ち取ってピンチを切り抜けた。
「点差もあるし、もうココで決める! という気持ちで最後は投げました」
最大のハイライトは、その裏の攻撃だった。二死三塁で打席に立つと、高めの球をコンパクトに振り抜いて、右翼線を襲うランニングの2ランに。頭から本塁に飛び込むと同時に8点差となり、サヨナラコールド勝ちが決まった。
「最高にうれしかったです! 日ごろの練習も冬場のトレーニングも、みんなで一丸となってしっかり最後までやってきたことと、コーチ陣の愛のおかげで勝てたと思います」
左から坂野監督、村社研太郎コーチ、小林真也コーチ
元々は四番打者だが、結果が伴わなくなってきて八番へと降格。でも、この試合ではその打順にいたからこそ、フリーで打つだけの打席が2度も回ってきたとも言える。
「確かにそうですね。もう打つだけの場面だったので楽でした。全国では今まで通り、気迫と勝利への執念でまずは1勝。個人的には四番に戻れるように、しっかりバッティングにも専念します。70mのフェンスも越してみせます!」
フィールドを出れば、穏やかで快活な、どこにでもいる6年生。じりじりとした真夏の神宮の人工芝のグリーンには、青と赤のユニフォームと背番号13がより映えそうだ。
―Pickup Hero❷―
代打から執念の四球。流れを変えた背番号3
たにがわ・あらた谷川新太
[旗の台6年/一塁手]
守っては失策や四死球が失点に絡み、攻めては連打や良い当たりが得点に結びつかない。
どんなに強いチームでも、また学童より上のカテゴリーでも、こういう試合も時にはある。旗の台クラブはそれでも、都準Vの昨秋より進化した姿も随所に見て取れた一戦だった。
登板した2投手は明らかに球速を増していて、寺村陸主将は左腕にして自己最速を109㎞に更新。先発した井手初紀は打ってはクリーンヒット2本、一番・梶原大誠は振りがさらにシャープに。正捕手の片山龍和は送球動作にまた磨きが掛かっており、二盗阻止でピンチを脱する場面も。外野を守る徳重孝太郎は、投手を救う美技もあった。
ところが、スコアは0対4のまま、5回の攻撃も二死走者なし。いよいよ配色も濃くなる中で、体格の大きな6年生が立ち上がった。
背番号3、谷川新太だ。九番の代打で右打席に入ると、カウント3-1から相手投手と2球連続で力の勝負。いずれもファウルとなったが、フルスイングでタイミングは合っていた(=上写真)。
「何が何でも塁に出て、タイセイ(梶原)につなぎたいと思って打席に立ちました」
ついには根勝ちして四球で一塁に歩くと、続く梶原の中前打の間に三塁を陥れる激走もみせた(=上写真)。
寺村俊監督も試合後、その働きを認めた。
「谷川は元々、守備がダメでバッティングの良い子。キャラクターも良いし、一塁の守備もがんばってきて、一時はスタメンを取ったり。ただ、この大会はミスをしたほうが負けるという判断で、今のようなスタメンに。ちょっと流れを変えないといけないな、という展開で谷川が粘って存在感を示してくれたと思います」
チームは8月1日からは徳島県で、9月には埼玉県で、それぞれ都大会以上の大舞台に出場する。そのころには谷川が定位置を確保しているかもしれない。ポジション争いがチーム力をさらに底上げし、試合の流れを導くきっかけになることもあるだろう。
「今日は絶対に勝って全国を決めたかったけど、この負けた悔しさも全部ぶつけて、これからの大きな大会で優勝したいです。過去のことは過去のことなので絶対に次、がんばりたい!」
涙に暮れるナインが多い中で、背番号3が頼もしく決意を口にした。