第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント東京都予選会は6月7日、府中市民球場と郷土の森野球場で準々決勝と決勝を行った。結果、越中島ブレーブス(江東)と不動パイレーツ(目黒)が勝ち残り、8月の全国大会を決めた。越中島は9年ぶり2回目、不動は3年連続6回目。東京王者の座をかけた決勝は14日、府中市民球場で予定。また同日は、準決勝で敗退したレッドサンズ(文京)と船橋フェニックス(世田谷)が、9月のGasOneカップ出場をかけて3位決定戦を行う。
※記録は編集部。本塁打はすべてランニング。全試合の結果速報ではありません。
(写真&文=大久保克哉)
■準々決勝1
16安打4本塁打21得点。
前年Vの船橋、城北の“キセキ”阻む
◇郷土の森野球場
◇C面第1試合
船橋フェニックス(世田谷)
8166=21
0103=4
城北メッツ(北)
※4回コールド
【船】佐藤、田村-高橋
【城】藤田、高橋、諏訪、伊藤、南須原、林-冨山
本塁打/榎本、佐藤、長野、中司(船)
三塁打/藤森(城)、中司(船)、青鹿(城)
二塁打/佐々木、柴原(船)
1回表、船橋は九番・榎本が満塁本塁打(上)、一番・佐藤主将もソロ本塁打(下)など打者12人で8得点
2四死球と失策で、いきなり無死満塁のピンチを招いた城北メッツだが、先発右腕の藤田志が踏ん張る。船橋フェニックスの四番を早々に追い込んで空振り三振に。続く五番打者も1ストライクからのバントファウルで簡単に追い込んだ。船橋にはどことなく嫌なムードも漂ったが、右打席の佐々木暦望が一掃した。三塁線を強烈に破る2点二塁打で先制。さらに七番・桜井翠がスクイズバントを決めると、九番・榎本煌が逆方向へ満塁走者一掃の本塁打で7対0に。なおも一番・佐藤優一郎主将も左越えソロ、2回表には八番・長野隼也のタイムリーで9対0と、序盤で大勢を決した。
城北は2回裏、二死から南須原啓太主将がレフトへチーム初安打。ここで5年生の代打・藤森嵐太が左越えの特大三塁打(=下写真)を放って1点を返す。続く八番・青鹿斗真も、4球連続のファウルなど粘るも、ここはマウンドの船橋・佐藤主将が三振斬りで粘り勝つ。
船橋打線は大量リードでも慎重に攻め続けた。ボール球を確実に見逃し、塁に出れば相手のわずかなスキも突いて進塁する。そうして好機を広げつつ、3回には三番・中司慧太(=冒頭写真)の適時三塁打などで6点、4回には長野の2ラン(=上写真)や中司の3ランなどでダメを押した。そして3回からは田村悠が今大会初登板。阿部航己が代打、正田統真が代走と、控え選手たちも続々と登場しながら逃げ切った。
城北は4回裏、三番・伊藤民朗、四番・冨山桔平に、途中出場していた5年生の林光泰がいずれも左前打。そして二死満塁から八番・青鹿の打球が左翼手の頭上を襲い、3人を迎え入れたが、船橋は7-6-2の転送で打者走者を本塁タッチアウトに(=下写真)。これで試合終了となった。
―Pickup Team―
チーム史を塗り替える東京8強
「奇跡だけど燃え尽きるには早い」
じょうほく
城北メッツ
[北区]
「キセキを起こすぞ!」
城北メッツは選手もベンチの大人たちも、合言葉のように試合前から異口同音に発していた。全国最終予選で準々決勝まで駒を進めたのは今回が初めて。迎えた相手の船橋フェニックスは、昨秋の新人戦で都準V。3年連続の全国出場を期す強豪だった。
その明らかな格上に、結果として実力の差をみせつけられた。指揮官も悔いた立ち上がりの落球という凡ミスも、強敵の重圧が作用した面もあったのかもしれない。しかし、丸腰で正面突破を試みて、案の定の玉砕をするような戦いぶりではなかった。
「対船橋用ですね」
小松輝真監督(=上写真)がそう言って先発のマウンドに送り出した右腕・藤田志(=下写真)は、球速は並でも、ムダのない安定したフォームをしていた。「剛」の打線を、「柔」の投球と堅実な守備で手玉に取ろうとの意図がうかがえた。それが証拠に、先制点を奪われてからも指揮官は何度もこう発していた。
「打たせないと思ったらダメだよ!どっちにしろ打たれるんだから、打ってもらわないと!」
結局、1回表に8点を献上したが、セーフティスクイズを読んで本塁封殺も奪った。2回の無死一、二塁のピンチでは、決まらなかったがピックオフプレーも何度か。どちらのプレーも、個々の基礎能力に複数人の連係や意思疎通があればこそ、できるもの。要するに、ここまで勝ち上がってきたのも、決して運や勢いだけではないのだ。
序盤から大差ビハインドの中で、南須原啓太主将が2安打と気を吐いた
ベンチの指揮官の声はいつもよく通るが、どの場面でも怒気をまったく含んでいなかった。また、その大きな背中の30番を恐れてプレーしているような選手は、一人もいないように見受けられた。
「子どもたちに考えてやってもらったほうが、やっぱり強くなるので。いつ気付かせてあげるか、子どもたちがいつ本気でやるかっていうのを何となく見つつ、頑張ってもらおうかなと思って最近はやっています」
こう語る小松監督は、父親監督の時代も含めてチームを率いて10年超。3回表を終えて1対15と絶望的なスコアとなり、さすがに試合前と同じ言葉を吐く選手がいなくなった中でも、こう問い掛けていた。
「キセキを起こすのは、もうやめたのか!?」
1対21と、さらに絶望的となって迎えた4回裏には打線がつながり、4本の長短打で3点を返してみせた。
「僕は終わる瞬間まで20点取るつもりでいたんですけどね。まあ、何とか意地は少しでも見せられたかなと思います」(同監督)
試合が進むほどに沈黙するベンチで、最後まで声を張り上げてチームを鼓舞していたのは、5年生の背番号17、小松篤人(=上写真)だった。指揮官と同姓なのは、たまたまだという。
「ああいう子がいると、やっぱりぜんぜん変わりますね。子どもたちがベスト8まで来れたことがまず、奇跡なんですけど、学童野球はここで終わりじゃないので、燃え尽きるにはまだ早いかなと思っています」
変に気負わない指揮官と、6年生13人と5年生10人。まだまだ進化していきそうなチームだ。
■準々決勝2
敗北まで残り二死から大逆転。
ミラクル不動、ふたたび
◇郷土の森野球場
◇C面第2試合
001005=6
001100=2
国立ヤングスワローズA(国立)
【不】木戸、高浦、岡田-山田
【国】山崎、長嶋、濱田、宮下-岩本、山崎、岩本
本塁打/竹中、間壁(不)
二塁打/寺田(船)
交流もある両チームが、稀に見る好勝負を展開した。2回までは、先発した両右腕が快調に飛ばしてともに0封。2011年以来14年ぶり2回目の全国出場を目指す国立ヤングスワローズAは、本格派右腕の山崎央月(=上写真)が規定の70球に到達する6回一死まで、2安打1失点という完璧に近い投球をみせた。
だが、先手を取ったのは、3年連続の全国出場を期す不動パイレーツだった。3回表、一番・田中璃空主将が中前へ両軍通じての初安打で出ると、続く寺田悠人の中越え二塁打で先制のホームイン。対する国立はその裏、先頭の八番・町田賢汰朗が二塁打で出ると、続く宮下瞬が確実に送り、ボークで1対1とする(=下写真)。さらに4回裏、四球から二盗と進塁打で三塁に進んだ岩本虎太朗を、六番・小林倫太朗が左前打で迎え入れた。
2対1で国立リードのまま、不動は最終6回表も一死走者なし。だが、ここからドラマチックな逆転劇が始まった。国立はエースが70球で降板すると、この時を待ってました、とばかりに三番・竹中崇が右越えの同点ソロ(=冒頭写真)。ベンチのお祭り騒ぎも収まらぬ中で、続く四番の5年生・間壁悠翔がレフトへとんでもない飛距離の勝ち越しソロ(=上写真)で逆転に成功する。さらに北條佑樹と木戸恵悟の連打で1点、一番・田中主将の2点打(=下写真)で6対2までリードを広げた。
その裏、不動は3番手の山田理聖が3人斬りで逃げ切り。土壇場の大逆転で全国出場と決勝進出を決めた。
―Good Loser―
涙のナインに指揮官は胸を張り、
「今ある力はすべて出せた」
くにたち
国立ヤングスワローズ
[国立市]
先制されて、すぐさま同点に追いついて、さらに勝ち越し。勝利まであとアウト2つのところまで、全国区の強豪を追い詰めた。1試合を通じてミスがあったとすれば、一塁走者のけん制死2つのみ。
国立ナインは、ハツラツとした表情や姿があちこちで見られた。写真は二塁手・清水
「ちょっとボール球が多かったけど、ピッチングそのものは思い通りにできました」
こう振り返った本格派のエース・山崎央月は6回途中まで1失点。その投球もお見事だったが、降板後に逆転された中で、守る外野から発していた声もナインの士気を高めていた。
「こっからだ、こっから!」
4年生の秋に東京4強入りして以降は、起伏に富む日々を過ごしてきた面々だ。土壇場で逆転されたそばから、下を向くような軟な体質ではない。この試合で光ったのも、エース1人だけではなかった。
遊撃を守る小兵の宮下瞬(=上写真)が俊敏な動きでゴロを捌けば、三塁手の町田賢汰朗はフェンス際のファウルフライを好捕(=下写真)。二塁手の清水升爲も堅実な守備でエースを盛り立てた。
守りのハイライトは1点リードで迎えた5回表だった。二死三塁のピンチで迎えたのは、50mを6秒台で走るという一番の左打者・田中璃空主将。その父親でもある不動パイレーツ・田中和彦監督は「最も確率が高い」と、セーフティバントを敢行したが、三塁手の町田が完璧な処理で一塁アウトを奪ってみせた。
攻撃のハイライトは1対1で迎えた4回裏だった。
不動の正捕手・山田理聖の強肩は、東京でもおそらく随一。その二塁送球を見た相手ベンチはたいていが、「盗塁」というカードを捨ててしまうほど。だが、国立は四番・岩本虎太郎が四球を選ぶと、次打者の3球目で二盗に成功。打席の吉川陽壱主将は意図した空振りでアシストした後、進塁打(二ゴロ)で一死三塁をつくる。そして小林倫太朗が、レフトへ一時勝ち越し打(=下写真)を放った。また続く5回には、得点はならずも、町田が三盗を決めている。
「負けて悔しい気持ちもあるけど、ちゃんとやり切った。力は出せました、いつもより」と、宮下は振り返った。敗北を見届けた杉本敬司監督は挨拶後、相手側の一塁側ベンチ前まで自ら歩を進めてきて、不動の指揮官と熱い抱擁を交わして言った。
「負けた相手が不動さんで良かった」
すると勝利監督の目に涙。敗れたほうの監督はフィールドを出てのミーティングで、さっきまで泣いていた選手たちにこう切り出した。
「今みんなが持っている力を今日は全部出せたと思います。6回にホームランを打った相手の三番、四番打者が素晴らしかった…」
■準決勝
1年前の決勝と同一カード。
不動がリベンジで全国決める
◇郷土の森野球場
◇C面第3試合
船橋フェニックス(世田谷)
000010=1
11032 X=7
不動パイレーツ(目黒)
【船】前西、中司-佐藤
【不】岡田、寺田、岡田、木戸-山田
三塁打/北條(不)
二塁打/北條(不)
※試合評とチームストーリーは、当メディアで追って特報します
■府中市民球場の結果
【準々決勝】
(文京)レッドサンズ7対0昭島クラブ(昭島)
(江東)越中島ブレーブス10対0小平小川ベースボールクラブ(小平)
【準決勝】
(江東)越中島ブレーブス9対5レッドサンズ(文京)