第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント東京都予選会の準決勝。郷土の森野球場での1試合は、昨年の決勝と同一カードとなった。どちらが勝っても、3年連続の全国出場となるが、負ければ夢は幻となる。さて、運命の一大決戦、内容と結末はいかに。なお、別会場で同時進行した準決勝のもう1試合は、越中島ブレーブス(江東区)がレッドサンズ(文京区)に9対5で勝利し、9年ぶり2回目の全国出場を決めている。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
※※上位4チームのインサイドストーリーを追って掲載します
■準決勝
◇6月7日 ◇郷土の森野球場
▽C面第3試合
船橋フェニックス(世田谷)
000012=3
11032 X=7
不動パイレーツ(目黒)
【船】前西、中司-佐藤
【不】岡田、寺田、木戸、高浦-山田
三塁打/北條(不)
二塁打/北條(不)
東京の全国出場枠は「2」。準決勝の勝者が、その切符の一枚を手にする。奇しくも1年前、両チームは決勝で相対して好勝負を展開し、船橋が9対6で逆転勝ちしている。その一戦でもプレーしていた選手となると、不動の田中璃空主将(=上写真※三塁打)のみだが、双方の現6年生の多くはベンチで大一番を見届けていた。
新チーム始動以降、彼らの対戦は1度きり。昨年の12月1日だった。大田、世田谷、目黒、品川の近隣4区で開催している城南カップの決勝で対決し、船橋が8対1で勝利して優勝。不動の田中和彦監督にとっては、ショッキングな内容で尾を引く1敗だったという。
「大田スタジアム、素晴らしい球場でやらせてもらったんですけど、自分たちの良いところをひとつも出せずに、チンチンにやられましたからね。船橋さんは新人戦でも東京で準優勝、ウチは1回戦負け。ホントにもう、夢のような存在でした…」
対策バッチリで攻略
2回目の邂逅。当日はそれぞれ、準々決勝を戦ってきていた。船橋は第1試合で4回コールド勝ち。16安打4本塁打21得点と打線が機能したことに加え、背番号1の前西凌太朗(=下写真)は未登板。エース右腕を温存できたことは、決勝を迎える上でも大きな安心材料となっていたことだろう。
第2試合だった不動は、大いに冷や汗をかいた。6回表の攻撃を迎えた時点で、1対2のビハインド。国立ヤングスワローズの本格派右腕・山崎央月を打ちあぐねて、1安打に封じられてきたが、同投手は既定の70球に達して5回で降板。すると最終回、この時を待ってました、とばかりに、竹中崇と間壁悠翔(5年=上写真)の連続ホームランなどで逆転勝ちした。
船橋のエースか、不動のミラクル打線か――。東京の“横綱対決”とも言えた第3試合、準決勝は午後1時半に始まった。そして結果として、流れと結果を大きく左右したのは、初回の攻防だった。
先攻の船橋は3連続四球で一死満塁の好機も、1-2-3の併殺で無得点に終わってしまう。大ピンチを脱した不動は、得意のパターンで先制することになる。一番の田中主将が右前打で出てから一死三塁とし、三番・竹中の内野ゴロ(=下写真)であっさりと1点。
1回裏、一死三塁から竹中の三ゴロ(上)で、三走の田中主将が生還(下)。不動が早々と先制して主導権を握った
「船橋さんはホントに良いチームなので、これ以上ないくらいの対策をしてきました。こういう攻撃をしてくる、こういう守備もある、ピッチャーのうまさというところも全部叩き込んで練習してきたことが、結果につながったのかなと思います。攻撃はもうシンプルに、初心にかえって」(不動・田中監督)
不動はチームNo.1の飛ばし屋、山田理聖が2回の先頭打者で、ボール3から三ゴロ。だが、これを咎めるようなベンチではないし、どの打者も果敢で迷いがなかった。それも、相手投手の球速の幅や配球パターンが頭に入っており、状況の把握や狙いも明確だったからだろう。一死後、北条佑樹が左中間へ三塁打を放つ(=下写真)と、続く5年生の八番・上田廉は明らかなゴロ打ちのスイング。結果、緩いゴロが前進守備の二遊間を抜けていき、スコアは2対0に。
2回裏、不動は北条の三塁打(上)と、5年生・上田の中前打(下)でリードを2点に
荒れ球とスーパープレー
リードをもらった不動の先発・岡田大耀(=下写真)は、2回、3回と3者凡退で切り抜けた。この右腕は準々決勝ではラスト2回を無安打投球。準決勝の先発は、当日を迎えた時点で指揮官から告げられていたという。
「ボール球が多かったのは、緊張とかではぜんぜんなくて、調子があまり良くなかったからだと思います」(岡田)
与四球は初回の3つだけだが、以降もボール3が何度か。適度なその荒れ具合が、かえって船橋打線を後手に回らせ、微妙に歯車を狂わせていったのかもしれない。
「特に『待て』のサインを出しているわけでもなかったし、『良い球をしっかり打ちなさい』という指示はいつもしています」
船橋の森重浩之監督は試合後、そのように話したが、この一戦で1球目のストライクをスイングした打者は皆無。2球目のストライクも見逃した末の凡退が目立った。序盤からビハインドとなり、ボールをよく見極めて次打者へつなごうとの意識も当然、あったのだろう。不動が二番手の寺田悠人にスイッチした4回には、四球で久々に走者を出したものの、内野フライで帰塁が遅れて併殺に。そうこうしているうちに、ダメを押されてしまった。
4回裏、不動は四球と北条の二塁打で無死二、三塁とし、八番・上田がスクイズに成功。なおも九番・市原稜が中前打タイムリー(=下写真)で4対0とした。船橋はエースを諦めて、中司彗太をマウンドに送るが、対策バッチリの不動の攻撃は終わらない。田中主将のバント安打が敵失も誘って5点目が入った。
どうする、前年王者。このまま、相手のいいようにやられてしまうのか。
ミスか、スーパープレーか
遅まきながら、船橋が反攻に転じたのは5回表のことだった。
先頭の六番・桜井翠が、全力ランで内野安打(=上写真)。泥くさく生まれたチーム初安打に、後続も続いた。長野隼也が右前打(=下写真㊤)、高橋泰生は中前打(=同㊦)と、3連打で1点を返す。ところが、この後にまたも同様の走塁ミスによる併殺など好機を逸すると、裏の守りでは二死無走者から連打と3連続四球で2点を献上してしまった。
「まぁ、ひどかったですね。こんだけミスしたら、負けちゃいますよね」
船橋の森重監督は試合後、らしからぬ内容に憮然。ただし、走塁ミスのうち飛球での帰塁の遅れという初歩的な2つは、守る不動の茂庭大地(=下写真)のスーパープレーでもあった。
ライトとセカンドの中間あたりへ、ふらふらと上がった小飛球。通常なら、ポテンヒットの可能性も高い。しかし、身体能力に長ける二塁手の茂庭は、それを追ってきてことごとくグラブに収め、即座に矢のような一塁送球で併殺に。一塁走者とすれば、打球が飛んだ方向は背後で目視しにくかった上に、ハーフウェーの近くまで出たのは定石通り。結果、刺されたことよりも、仕留めた茂庭を大いに称えたいプレーだった。
「この(プレッシャーや緊張の)重さはヤバいですね。寺田クンも最後は手が縮こまっちゃうくらい。点差はあるけど、なかなかこうストライクが入らないという怖さ。彼にはまた1つ、成長につながる経験ができたと思います」
不動の田中監督がそう話したように、7対1と大きくリードして迎えた最終6回表に、寺田は連続与四球で降板。そこから3投手をつぎ込むことになる。
船橋は佐々木暦望の中前打で満塁とし、押し出しと高橋の左安打で2点を返す。ところが、ここでも走塁にミスが出てしまい、3アウト。唐突な幕引きとなった。
〇不動パイレーツ・田中和彦監督「ホントに子どもたちに感謝です。この1週間は、ご飯も食べたのかな、というくらいに考えに考えてきました。戦わせてもらった国立さん船橋さんの分まで、トーナメントのこっちの山の代表として決勝に勝って、優勝して全国へ行けるように、あと1週間、しっかりまた練習して臨みたいなと思います」
●船橋フェニックス・森重浩之監督「この大会に勝たないと意味がないというなかで、一番ひどい試合をしてしまった。わかっていても同じミスをしちゃう。しょうがないですね。ここまでの得点差は想定していなかったけど、流れを失って差が開くと、相手は大胆に攻めてきますから…」
―Pickup Hero―
“恐怖の七番打者”三塁打、二塁打、左前打
ほうじょう・ゆうき
北条佑樹
[不動6年/左翼手]
下位打線の始まりに、こんな強打者がいては、相手バッテリーはたまらない。不動パイレーツが掲げる‶超攻撃“の象徴と言えなくもないのが、七番を打つ北条佑樹だ。
この準決勝は両軍を通じて唯一の3安打。それも左中間への三塁打(=下写真)に始まり、左翼線への二塁打、そして最後の3打席目は左前打。もう1打席あってホームランが出れば、サイクル安打達成だった。
「楽しい大会でした。毎朝5時くらいからみんなで練習してきたことが、勝利につながったんだと思います」
全国出場に向けての仕上げの段階でも、努力を積み重ねてきた。迷いのない打席とフルスイングは、その自信に加えて、状況の把握と狙い球を明確にすればこそではなかっただろうか。
「全国でも超攻撃と超走塁と、守備でも良いプレーをしていきたいと思います。一番の持ち味? バッティングです」
両翼70mの特設フェンスがない中で、左翼で数多くの打球を処理し、守備の安定感も増してきた。特設フェンスがある8月の夢舞台では、守備の負担も軽くなる分だけ、打撃での存在感をより増すことになるだろう。
―Good Loser―
打線に火をつけた五番打者。最終回に意地の中前打
ささき・こよみ
佐々木暦望
[船橋6年/一塁手]
船橋フェニックスには、右のパワーヒッターが複数。中でも佐々木暦望は、一時は四番も張っていたように、勝負強さが秀でている。
準決勝の第1打席は併殺打に終わったものの、同日の準々決勝の第1打席は、左翼線へ先制の2点二塁打を放ってみせた(=下写真)。
「初回のチャンスで点を取れないと、そのまま0点で続くことが多くなっていたので、あの打席はそうならないように。ちゃんと的を絞って打って、次につなぎたいと思いました」
こう振り返った佐々木のチーム初安打から、打線に火がついて16安打21得点の猛攻につながった。しかし、続く準決勝はチーム全体で併殺と手痛い走塁死が3つずつ。3点を奪うのがやっとだった。
「悔しいです。足りなかったのは走塁の判断力です」
第3打席では中前打(=下写真)を放った佐々木だが、大目標としてきた全国の夢が破れ、さすがに肩を落とした。だが、1週間後の3位決定戦で、四番に入った佐々木は第1打席で快音を響かすことになる。