6月25日にスタートしたプレビューは開幕までに10本。8月の新潟での大会中、そして閉幕後のリポートは、これで23本目となる。約4カ月に渡ってお届けしてきた、第45回高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントの大特集もついにラスト。主なリザルトとともに大会を総括し、来たる2026年の活躍も期待される5年生20人も紹介しよう。「小学生の甲子園」とも称される伝統の夢舞台は来年夏、四国・愛媛県で開催される。
(写真=福地和男、大久保克哉、鈴木秀樹)
(文=大久保克哉/編集長)

本塁打が半減
打球部が別素材の複合型バットのうち、一般用(大人用)の使用が禁止となって、初めて迎えた全国大会。新ルールの影響は、如実に表れた。両翼70mの特設フェンスを超えるサク越えアーチ、本塁打の数が激減。その理由は「飛ぶバット」が使えなくなったことに他ならない。
当メディアでは大会中、現地からの1回戦リポートで「本塁打75%減」と、著しい傾向を伝えた。最終的に、大会中の本塁打はほぼ半減したことが明らかとなっている。
昨年は39本の本塁打が、今年は18本と約54%減。試合数が昨年は50試合、今年は52試合と微増でも、この数字だ。複数の本塁打を放った選手も、昨年の6人から2人に減った。

不動の田中は3試合で8安打。そのうち3本が本塁打、4本が二塁打だった
昨年は個人の大会最多本塁打は、ベスト4に入った不動パイレーツ(東京)の山本大智で4本。今年は同チームの田中璃空が、3回戦敗退(計3試合)ながら3本塁打と、驚異的な成績を残している。
開幕を前に、全国常連の名将たちからはこのような声が複数聞かれた。「学童用のバットでも複合型なら、十分にホームランにできる」「バットの芯に当たれば、大人用じゃなくてもサク越えする」。予選までの経過を踏まえても、バットの新ルールの影響はさほどなし、との見解が大勢。展開する野球も変わらない、という声もあった。
いざ、フタを開けてみると、影響は大ということに。もちろん、1年で結論づけなくてもいい。当メディアでは来年の第46回大会でも、各種の成績も踏まえてリポートしていく予定だ(※2024年総括➡こちら)。
ノーアーチでVの要因
「一発」とも表現される本塁打は、試合の流れや展開を変えたり、勝負を決めることもままある。それが激減するなかで、1回戦からノーアーチのまま、長曽根ストロングス(大阪)が優勝したのは偶然ではないだろう。
もっとパワフルな打線は、他に複数あった。けれども、個々の選球眼を含む打撃スキルと勝負強さ、1点を奪う戦術の幅と精度において、この王者の右に出るチームはなかったように思われる。

Vチームの成績でも驚異的なのは、3つの三盗を含む「23盗塁」だ。その数と成功率10割は、昨年まで連覇を遂げた新家スターズ(大阪)を上回る。対戦相手に隙や盲点があれば、走って進塁するのは当然として、犠打も使いながら一死までに走者を三塁に進め、確実に得点する。
四球、二盗、捕逸(三進)、二ゴロと、開始から12球で先制した決勝戦が象徴的だった。敗れた伊勢田ファイターズ(京都)の正捕手で主将の夏山淳は、試合後にこう話している。
「やっぱり長曽根さんはとても強かったです。初回の入りから勢いがあって、確実に1点を取ってくる」
同じく敗退後に脱帽したのは、準決勝でサヨナラ打を浴びた旭スポーツ少年団(新潟)の小柳有生だ。この選手は大会屈指の大型右腕で、最速は110㎞を超えるが、3点リードの最終6回裏に、3本の長短打を浴びて涙した。
「途中でスローボールも合わされたので、驚きしました。でも、ボールを置きにいったらフォアボールになってしまうので、全力で全部いったらまた合わされて。最後はスローボールでいったら打たれました」

筆者もそのラストイニングを、バックネット裏のほぼ正面から撮影していて、ほとほと感心した。マウンドの大型右腕は、各打者のアウトローへきっちりとボールを集めていた。しかし、少しでもコースを外れると見逃され、タイミングを外してもファウルに。長曽根の打者は、タイムリー二塁打やサヨナラ打を放った上位陣だけではなく、八番の5年生・山田蒼や九番の畑中零生も同じことができていた。
パワーは劣るとされていたが、二塁打16本もやはり、前年までのV2王者を超える値。一定以上のスキルと対応術を有する9人が並ぶ打線は、文字どおり「線」となっていた。それゆえ、いつどこからでも得点できる。6試合をしぶとく勝ち抜いた一番の要因は、そこではなかっただろうか。
大会常連チームや過去の日本一チームを前にすると、蛇に睨まれた蛙のようになりやすいのが、小学生かもしれない。あるいは、走者一、二塁から一走が意図的に飛び出して送球を誘い、三塁を陥れるなど、全国大会では15年以上前から見られる罠にまんまとハマり、より萎縮してしまうきらいも。

初出場ながら、地元の新潟で銅メダルに輝いた旭スポ少ナイン。大型右腕は対戦相手の脅威だったが、総体的に能力が高く、野球をよく知っているチームだった
長曽根に対して、6チームが戦って盗塁企図が合計「2」というのは、いかにも寂しい。だが決勝では旭スポ少の塚田晄人主将が、5回に二盗を決めた。また準決勝では伊勢田のエース左腕・藤本理暉が、長曽根打線につかまって2回途中7失点で降板も、各打者の内角も果敢に攻める投球をしていた。メダリストにはやはり、それだけの理由があった。
過去2回優勝の多賀少年野球クラブ(滋賀)は、戦力の層の厚さと試合運びで抜けていた。2回戦で前年王者の新家を、3回戦では2019年王者の東16丁目フリッパーズ(北海道南)を下すなど、至難の山を勝ち上がって3個目の銅メダルに輝いている。
子どもの夢を守らねば
高い目標を掲げてガチンコで取り組むチームと、そうでないチーム。学生野球では全国的に、この二極化が進んでいる。また「小学生の甲子園」では近年、野球レベルの二極化も顕著だ。今年は本塁打と得点が大きく減り、スコアに反映されにくくなったものの、レベルの差は大会序盤で見て取れた。
大半のチームが、宿泊を伴う長期遠征となり、負けない限り毎日1試合が続く(最多6連戦)。大会にはこういう特質もあり、初出場組がもろいのは致し方ないのかもしれない。例年どおり、今年も初出場は約半数の27チーム(全体53チーム)。そのうち、3回戦まで駒を進めたのは6チームで、いずれも父親監督ではなかったのは偶然だろうか。

福岡から初出場の木屋瀬バンブーズ(上)は、個の高い能力と巧みな試合運びで8強入り。青森から初出場の弘前レッドデビルズ(下)は堅守をベースに3回戦進出

また、近年は顕著だった関東勢の躍進は、今年は見られず。最高成績は、豊上ジュニアーズ(千葉)のベスト8だった。それでも、名実ともにV候補に挙げられたチームが複数。ひと昔前まで蔓延していた「脆さ」、きれいな散り様を前提とした戦いぶりは、ほとんど影を潜めたように思われる。
さて最後に。日本唯一の「学童野球専門」メディアとして触れておきたい。フィールドで懸命にプレーする小学生を前にしての、ベンチやスタンドの大人たちの、心ない言葉とその応酬について。
今大会では一部だが、それがエスカレートした試合もあった。投手の投球動作開始からは動揺を誘うような声を発してはならないというルールがあり、審判団からの注意もたびたびあった。
「言った、言わない」とか、「向こうが先に」とか、「そんなつもりはない」とか、「誤解だ」とか。そんな水掛け論や大人の屁理屈は犬も食うまい。筆者は別の会場にいたが、そこに居合わせたという第三者のある指導者は、こう漏らしている。
「何らかの手を打たないと、また来年、同じことでもっと揉めると思いますよ」
また別の指導者からは「問題は全国大会だけのことではない!」との指摘も。地元の大会やローカル大会では、応援席からの口汚いヤジが今も珍しくない。直接に罵る言葉ではないにしても、相手選手にプレッシャーを与えるような言動、未成熟な心を逆手に取るような陰湿な声掛けや応援もあるという。

学童野球はプロ野球ではない。野球上がりの保護者の余興でもないし、背番号をつけた大人の私欲を満たすためのものでもない。もちろん、メディアのものでもない。また、この全国大会は、昭和の時代から少年少女たちの「夢」であり、大きな憧れであり続けている。ここに出場したという事実は一生の誇りで、がんばった自分の証しや新たな活力にもなる。そうしたものを、大人のエゴで汚していいわけがない。
問われているのは、大人たちのモラルではないだろうか。今よりもさらに厳正で細かいルールに縛られるのか、どこの子どもにも人として胸を張れる模範となるのか。後者のような分別のある大人であれば、投球動作の前であろうと後であろうと、人にストレスを与えるような言動はするまい。
「夢舞台」に登場したチームが、地元に帰っても良き手本となる。成績や試合運びや戦術や技術だけではなく、すべてにおいてリスペクトされ、また誰からも愛される。学童球界のあるべき未来とは、そういう草の根から始まってもいいのではないだろうか。
当メディアも襟を正しつつ、その一助となるべく、全力で走り続けたい。これからも。
■2026夢舞台の主役は!?
5年生カタログ20
※一部の写真は予選のものです



















