今治市営球場で行われた3回戦第2試合では、初出場の南瀬谷ライオンズ(神奈川)が2023年から2連覇していた新家スターズ(大阪)と対戦。元王者を破り、8強入りを決めた。
(本文&写真=鈴木秀樹)
■3回戦
◇8月10日◇今治市営球場
▽第2試合
衝撃の3発vs驚異の追い上げ
[神奈川]初出場
南瀬谷ライオンズ
300022=7
300003=6
新家スターズ
[大阪]5年連続6回目
【南】村瀬、馬場、音村-山尾
【新】長尾、井上-西村
本塁打/古川、橋元、馬場(南)
二塁打/馬場3、古川、山尾(南)、井谷、井上、藤田、西村(新)
【評】南瀬谷ライオンズは1回表、古川泰輔が初球を右翼特設フェンス越えに運ぶ先頭打者本塁打を放つと、二番の橋元涼、三番・馬場壮輝もこれに続き、先頭から3者連続本塁打。しかし、新家スターズはその裏、先頭の藤田蓮介が敵失で出塁、続く井谷陽輝主将、井上桜介の連続二塁打で2点を返し、田中悠翔の適時打で同点に追いついた。2、3、4回を両軍ともゼロで終え、迎えた5回表、南瀬谷は馬場の左中間二塁打を足掛かりに、敵失と5年生代打・濱田虎我の適時打で2点を勝ち越し、最終6回にも古川、馬場、山尾燈汰による3本の二塁打でさらに2点を加えた。新家は6回裏、四球と西浦大貴の安打などで二死ながら一、三塁の好機を得ると、井谷主将、井上、西村禅の連打で3点を奪ったが後続が倒れ、南瀬谷が逃げ切って勝利を収めた。
―On-the-ground report―
大舞台を楽しむ、勝者のメンタリティ

南瀬谷は1回表、先頭の古川㊤、二番の橋元㊦が連続本塁打


三番・馬場も続き三者連続弾に㊤ 馬場はこの日、その後も二塁打3本で4打数4安打の活躍㊦

「(試合開始を告げる)サイレンが鳴ってるうちに打ってやろうと思って、思い切りいきました」。試合開始からわずか3秒。南瀬谷ライオンズ一番・古川が初球先頭打者本塁打を左サク越えに放つと、「さっきの1本で、今シーズンの通算ホームラン数で古川君に追いつかれたので、ボクも思い切り振ったらバーンって行っちゃいました」という橋元、さらに「昨日全然打てなかったので、今日こそチームの役に立ちたい!と思って打ちました」という馬場の打球も特設フェンスを越えた。
先頭から3者連続本塁打。一報を聞いた大会委員長の全日本軟式野球連盟・小山吉男専務理事も驚きの声を上げた。
「社会人でも聞いたことがない。間違いなく大会初でしょう」
ド派手な幕開けとなった一戦だが、もちろん、このまま終わるわけもなかった。
相手は試合巧者の元王者・新家スターズ。3本塁打で手にした3点のリードはその裏の3失点で、即座に消えてしまった。
その後は互いにゼロ行進。5、6回に2点ずつを追加し、再び優位に試合を進めるはずが、最終回には1点差まで詰め寄られ、なおも二死ながら二、三塁のピンチ。一打サヨナラまで考えられる場面ではあったが、これをしのいで逃げ切ってみせた。

「やばいっすよね。何なんですか、いったい!」
試合を終えた渡邉記章監督が第一声、興奮冷めやらぬ様子で、いつもの明るい表情を崩すことなく、そう口にした。
「あの粘り強さ。なんちゅうしぶとさ! 新家さんは本当に強い」
自軍の勝利はそっちのけで、相手の驚異的な追い上げに大興奮の様子。全国大会ならではともいえるギリギリの戦いを、むしろ楽しんでいるのだ。
そんな指揮官のメンタリティがベンチ全体に伝わるのだろう、ホームラン3選手の会話からも、「最後はとにかく、甘いコースに投げないことだけを考えていました」と振り返るエース・音村星茶(=下写真)の笑顔からも、プレッシャーよりも、大舞台の独特な緊張感をポジティブに受け取り、力に変える気持ちの強さが伝わってくる。

だからこそ、3点差から即座に同点とされた初回も「追いつかれてしまった」ではなく「勝ち越しを許さず守りきった」となり、最終回、新家の猛攻も同点、逆転のピンチではなく、勝っているのはこちら、とプラスに捉えることができるのだろう。
南瀬谷野球、全開だ。
「いやほんと、やっぱり全国大会ですね。出てみて、戦ってみて初めて分かる、すごさがあります」
渡邉監督が続ける。
全国でも屈指の激戦区といえる地元・横浜で常にもまれながら、上位を争い続けてきた南瀬谷を率いる指揮官にとっても、想定外の連続だったようだ。
「初回に3本(本塁打が)出たこともあって、先発の村瀬(嘉泰主将)と調子の良い馬場の2人で、この試合なんとか行ければ…と思ったんですが、甘すぎました。最後は温存しておきたかった音村星茶を使わざるを得なかった。彼(音村)には悪いことをしてしまいました」
そんな総力戦を制して、8強入りを決めたのだ。
初回の本塁打攻勢だけで終わっていたら、逆転負けを喫していた可能性も低くない。勝負を決したのは、全員でつないで重ねた、終盤の4点だ。
「勢いももちろんですが、ゼロが続く中、全員のつなぐ意識が得点につながりました。成長なのかな。県大会の時にも増して、頼もしさを感じますね」
渡邉監督は目を細める。

5回表には代打・濱田㊤の適時打で、二走の井村琉がこの回2点目のホームイン㊦

そんな指揮官の思いを知ってか知らずか、先頭打者本塁打の古川は冷静だ。
「ベスト8まで来ることができました。うれしいけど、浮かれてる場合じゃない。全国制覇なんて大きなことは言わずに、まずは次の試合に勝つこと、ベスト4に入ることを目指して全力で戦います」
馬場も続く。
「新家さんが強いのは知っていましたが、最後の追い上げは本当に怖かった。ここから先も簡単ではないことは分かっているので、一戦一戦、全力で戦うしかないと思っています」

次はいよいよ、メイン会場の坊っちゃんスタジアムに舞台を移して準々決勝に臨む。
渡邉監督にも、南瀬谷ナインにも気負いは見られない。
「全てが勉強。またとない経験です。ウチは初出場だし、とにかくすべて全力で。相手が引くくらいの熱量で行こうと。新家さんも、最初は驚いたんじゃないかな…。自分たちの力を出すことに全力を尽くすだけですよ」
「全力疾走」「全力発声」を掲げ、モットーの“声で日本一”に恥じない戦いを続ける南瀬谷。“プレーでも日本一”に一歩ずつ、近づいている。
―Good Loser―
元王者の貫禄見せるも届かず

三者連続本塁打の衝撃が冷めやらない1回裏、その騒ぎを打ち消すように、“らしい”積極攻勢で、即座に同点に追いついてみせた新家スターズ。
再び4点のビハインドを背負った最終回も、怒濤の連打で1点差まで追い上げ、さらに一打逆転というところまで詰め寄った。
あと一打が出ずに無念の敗退とはなったものの、“新家ここにあり”の意地を見せた戦いだった。
この試合、イニングの先頭打者を抑えたのは最終6回表のみ。1回から5回まで毎回、南瀬谷の先頭打者に出塁を許しながらもギリギリのところで守り切り、2、3、4回をゼロでしのいで接戦に持ち込んだ守備の固さもまた、百戦錬磨の新家ならではといえるだろう。

1回裏無死、井上の適時打で井谷主将が生還㊤。五番の田中は左前に同点打㊦

3年前、一昨年と大会連覇した新家。昨年大会は前年優勝枠で出場し、新家同様に過去2度優勝の実績を持つ強敵・多賀少年野球クラブ(滋賀)に初戦負けを喫した。
出直しとなった今年、激戦の大阪大会を勝ち抜いて、府代表の座を獲得し、再びこの舞台に戻ってきたのだった。
「大阪大会も必死でした。とにかくひとつ、ひとつ。(前年優勝枠で出場の)長曽根(ストロングス)さんに負けて準優勝ではありましたが、自分たちの力で勝ち取った全国大会の出場枠。そして、ベスト16まで来ることができました。選手たちはよく頑張ってくれたし、よく成長したと思います」
吉野谷幸太監督はここまでの道のりを振り返り、そして感謝を口にした。
「ボクは何もしてないんです。小林(武)コーチ、松下(広紀)コーチに支えてもらってここまで来ましたし、選手の父母も本当に協力的だった。ボクは連れてきてもらったようなもんです」

先発の長尾奏音㊤は2回から3イニングを無失点で切り抜けた。最終6回、西村が1点差に迫る2点適時二塁打㊦

戦いを終え、吉野谷監督は整列した選手たちと、その父母にも一礼。ベスト8にはあと一歩、届かなかったものの、王者の貫禄と、鍛えられた緻密な野球を披露し、今年の大舞台を終えた。
6年生は卒業までに残された大会へと向かい、5年生以下は来年の全国大会に向けた、新たな歩みを始める。
「まずは継続。過去の成績を過剰に意識することなく、これからも一つひとつ、全力でやっていくだけですね」
吉野谷監督は自分に言い聞かせるようにそうつぶやき、激戦を繰り広げた南瀬谷・渡邉監督と言葉を交わした。
「最後の追い上げ! 勝ってる気が全くしなかったですよ」と渡邉監督。
「いやいや…ウチのピッチャーがここまで打たれるとは思いませんでした。よう打ちますねえ。強かった!」と吉野谷監督。
互いの健闘をたたえ、「勉強になりました」「ありがとうございました」──。
全国大会でしか出会えなかったであろう2人の指揮官はがっちりと握手を交わし、再会を誓うのだった。
