1981年の第1回大会から数えて43回目の今夏。高円宮賜杯全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメントは、大阪・新家スターズの初優勝で閉幕した。開幕1カ月前から、およそ2カ月半にわたって特報してきた当コーナーもこれがラスト。記録面を含めて大会を総括し、また来年の夢舞台に備えたい。高校野球の甲子園の比ではない難関。学童野球の全国出場は「一生の宝」にもなり得る栄誉である。
(写真・文=大久保克哉)
※個人の記録一覧は最下部、タップで拡大できます
10年前と変わらぬ構図
新家スターズが全国の登録9842チーム(2022年度)の頂点に輝いた。1回戦から決勝まで全6試合、大きなビハインドや厳しい劣勢がないままの戴冠だった。大阪勢の優勝は2年ぶり13回目。こちらもぶっちぎりの記録となる。
「学童野球の監督は、どんなに勝っても謙虚に、謙虚に、ですわ」
新家・千代松剛史監督は冗談めかして笑ったが、戦術面も含めて攻守走のすべてが鍛え抜かれていて穴がなかった。とりわけ光ったのが、どの打順からでも得点できる攻撃力だ。
初Vの新家(大阪)は6試合で21盗塁。走者は梅本陽翔。タッチする遊撃手は大会3本塁打の不動(東京)の小原快斗
力の差があれば、打ちまくる。戦力拮抗なら、打って出ると犠打ではなく、足技で無死または一死三塁の状況をつくり、確実に1点を重ねていく。こうした野球は全国大会では珍しくないが、今夏は太刀打ちできる相手がいなかった。
ベスト8のうち5チーム、ベスト4のうち3チームまでを関東勢が占めた。これは前年を超える史上最高の「大躍進」だった。しかし、関西勢を中心とする手練れの野球を凌駕した、とはお世辞にも言えない。
準優勝の不動パイレーツ(東京第2代表)は、今大会最多の6本塁打。3位のレッドサンズ(東京)の藤森一生は、最速124㎞をマークするなど突出した個の能力があった。しかし、王者の地盤を揺るがすにはいたらず。むしろ、戦術面や試合運びの点で差を見せつけられてしまった。
レッド(東京)の124㎞左腕・藤森一生は銅メダルの原動力になった
こうした西と東の構図や格差は、少なくとも10年前から大きく変わっていないのが実情だろう。今夏はまた、戦術にも長ける有力チームが序盤戦で消えたことが、新家独走の一因になったとも思われる。
多賀少年野球クラブ(滋賀)、常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)、中条ブルーインパルス(石川)と、過去のV経験組がそろって2回戦で敗退してしまった。
2021年準Vの北名古屋(愛知)は順調に初戦突破も、続く2回戦で涙
今年の常磐は伝統の堅守に打力も備えていた。0対1で敗れた2回戦では、終盤に同点スクイズもありえた場面で強攻も無得点。「今年はバッティングをがんばってきたので、仕留めてくれると信じていました」と天井正之監督は潔かった。
好機を迎えてのタイムで、呼び寄せた打者・走者と交わした笑顔が信頼を物語っているようだった(下写真)。期待に応えられなかった6年生たちも、野球人生はまだこれからだ。
合併や統合から全国へ
今大会からベンチ入り登録選手の数が25人(従来20人)に増えたが、この枠を満たしたのは6チーム(11.8%)に過ぎなかった。また、6年生が9人以上いたのは25チーム(49%)で過半数割れと、選手減少の余波がこうしたところにも見て取れた。
大会最少の選手13人で3回戦まで進出した香川・丸亀城東。写真右から日本貴浩監督(右)、正捕手の長男・廉人(中央)、3年生で正遊撃手の次男・賢伸(左)
山梨県は小学校単位のチーム編成が伝統だが、立ち行かない地域も出ているという。甲斐市では約半数の5校(チーム)が統合して「甲斐ジュニアベースボールクラブ」として3年前に船出。今夏は6年生18人(大会最多)で全国8強まで躍進した。「試合中はどんどん会話をしなさいと言っています」と小澤大生監督。指示待ちではない選手たちのハイスキルが光り、2回戦では2021年準Vの北名古屋ドリームス(愛知)も下してみせた。
50m走7秒フラット。甲斐(山梨)の九番・向井光来は、犠打もヒットにしてしまうスピードが際立った
「笑顔でやらなければ、良いプレーもできない」と和田久雄監督が語る菱・境野フューチャーズ(群馬)は、子ども会が母体の2チームが2011年に合併して誕生。「子どもたちの未来が明るく輝くように」(同監督)と、3年前から現チーム名に。全国初陣では8安打11盗塁(三盗3)の10得点で勝利。「二盗はサインです。凡フライでも二塁まで全力走とか、走塁面は力を入れてきました」と、成果が表れた内容に指揮官も満ち足りた表情で語った。
53や88など、菱・境野の選手は背番号も好きな番号を自由に
長野県の野沢浅間キングス(下写真)は、全国出場実績のある浅間スポーツ少年団と野沢少年野球クラブとの統合初年度で、いきなり全国1勝。6年生14人で鍛えられた外野守備やスイング力、戸塚大介監督の落ち着いた采配も印象的だった。
「ウチは子どもに考えさせる野球をふだんからやっているので、大人がああだこうだ言わなくても、きっかけさえ与えてあげればできる子たちなんです」(同監督)
個のレベルも二極化!?
「個」に目を転じてみると、数年に1人いるかいないかのようなスーパースターの台頭があった。前述の124㎞左腕、藤森一(レッドサンズ)だ。
写真提供/洋野ベースボールクラブ
岩手・洋野ベースボールクラブの金原跳(上写真)は、1回戦から3回戦にかけて8打席連続安打。しかもそのうち2本が本塁打と、とんでもない快挙もあった。大会最多の3本塁打を放ったスラッガーは3人。その1人、阿部成真(不動パイレーツ)は準決勝で完封勝利(下写真)と、二刀流で大活躍した。
そうした突出したタレントが出現した一方で、昨年に比べて全般的にスケールダウンした感じも否めない。それは記録面からもうかかえた(※ページ最下部に一覧表)。
昨年はコロナ感染による不戦勝(不戦敗)が2試合あって、今夏より少ない48試合で本塁打は43本。完投した投手は7人(完封3)いた。それが今夏は本塁打が29本、完投はわずかに2人(完封1)と、大きく数を減らしている。
50試合で本塁打は29本生まれた。写真は1回戦でソロアーチの佐賀・川副の福地滉真
チームと選手の数の推移、野球の質や勢力図の変化とともに、こうした個人の記録も追っていく必要が今後もあるだろう。
全日本学童大会は「小学生の甲子園」とも呼ばれる夢舞台だ。「学童野球メディア」は来たる1年後の夏も、高校野球の各メディアにも負けない準備と熱量で特報をしていく所存。2カ月強、拝読をありがとうございました!