かつて当欄でも取り上げた「軍手ボール」が完成した。7月中旬、まもなく発売となる。「穴あきボール」に続いて、学童野球の練習風景を一変させるエポックメイキングな商品になりそうな予感だ。素材選定と仕様確定まで、試作を繰り返したボールの出来上がりはいかに──。
思わぬ事実発覚で開発は再スタート

「音が出ない」「飛ばない」「適度な打感がある」という特徴を生かし、学童野球の練習用ボールとして開発を始めた「軍手ボール」。前回、開発決定の記事(→こちら)を公開した後も、フィールドフォース社長・吉村尚記は引き続き、素材の決定や工法の確立のために奔走する日々が続いた。
前回の記事で「これは!」と注目した「中国の競技用お手玉」が、製作コストのために見送りになったのだ。

「実はあのボール、一つひとつ手作業で編みあげたもので、単価がえらく高くつくことが分かったんです」
と吉村。大量生産品ではなく、一つひとつが手編みの、いわば工芸品とでもいうべき趣をもつ製品であることが分かったのだ。
残念ながら、たくさん使ってナンボの「軍手ボール」には不向きといわざるを得ない。
話は振り出しに。再び、理想の軍手ボールを作り上げるべく、考え続ける日々が始まったのだった。
ヒントは内にあり
そうして、あらためて1から製法を見直す中で、突然、吉村の脳裏に浮かんだヒントがあった。
「『音が出ない』…。そういえば、ウチにはそんな製品があったじゃないか」
思い浮かんだのは「バッティング用サンドバッグ」FBSB-4343。井端弘和さんとのコラボで生まれた、現在もヒットを続ける、フィールドフォースの看板商品のひとつだ。

吉村が説明を続ける。
「サンドバッグの芯材は衝撃吸収に優れたウレタンフォームですが、それを包む、表面のポリエステルのメッシュ素材も、消音効果が高い優れモノなんです」
このメッシュシートをボールの表面に使ってみてはどうだろう…。
ボール内部には、手作り軍手ボール同様に、衣類など布製品の端切れを詰め込み、表面のメッシュシートを4面張り合わせで縫い上げる。これならば、ごく一般的な製法で球体にすることが可能だ。
早速、試作を依頼すると、出来上がってきたボールはほぼ、想像通りだった。
適度な柔らかさがあり、重量もそこそこ。打っても音はかなり小さい。おおむね、目指していた通りのものが出来上がった。
テストを繰り返しながらアップデート

あとは耐久性だ。もともと、ハードに打ち込むために作ったボールゆえに、課せられたハードルも高い。
千葉県柏市のフィールドフォース本社1階にある多目的スペースで、スタッフの打ち込みによる耐久テストが始まった。
当初の試作品では何百、何千回と打ち込むうちに「布地の縫い目が裂け、詰め物の布地が出てきた」「プリントしたフィールドフォースのロゴがすぐに擦り切れ消えた」といった問題が発生。が、それも幾度となく試作品のアップデートを重ね、打ち込み試験をクリアできるまでにブラッシュアップされたのだった。

最終的には、張り合わせの縫製時に使用する糸を綿からナイロンに変更し、さらに番手を上げて強化。また、ロゴはプリントではなく、ラベルをほつれにくい方法で縫い付けることで完成形とした。
ボールは白と黒、2色を用意した。
商品名は「軍手ボール」です!

こうして完成した「軍手ボール」。
「商品の名称候補はいくつか挙がりましたが、学童野球経験者みんなになじみのある名前に敬意を込めて、『軍手ボール』をそのまま商品名とさせてもらいました。実際には、もはや軍手は使っていないのですが」
と吉村が説明する。
販売は白と黒、2色セットで10球入り2,750円(税込み)とした。
白と黒をセットにしたのは、練習に意味づけをするためのメッセージも込められている。
「2つの色のボールを交互に打つことで、ボールに対する注意力が高まります」
白と黒は、もっともコントラストが高い組み合わせ。投げ手には、2色のボールをランダムに織り交ぜながら投じてほしい、と吉村。
「実際の現場では黒よりも白の方が見やすいですから、いわゆる『コントラスト効果』で白いボールは打ちやすく感じるはずです」
集中力の喚起とコントラスト効果により、より質の高い練習を実現してほしい、との思いが込められているというわけだ。
打撃練習の新たな定番に

創業初期からのベストセラーで、いわばフィールドフォースの代名詞ともいえる商品に「穴あきボール」がある。
多面ある河川敷グラウンドなど、かつては試合前、バットに軽く当てて打ち返す「トス打撃」(ペッパー)程度しか許されなかった現場であっても、穴あきボールを使うことでしっかりと打ち返すことができるようになり、実際にそうした練習に取り組む光景を目にする機会も増えた。
そうした現象も含め、“学童野球の練習風景を変えた”といっても過言ではない穴あきボール。吉村は「軍手ボールには、それを超える存在になってほしいと期待しているんです」と話す。
「穴あきボールは画期的商品ではありますが、弱点もあります。軽いがゆえに、打感が弱く、風などの影響も受けやすいので、投げ手にとってもコントロールが難しい。軍手ボールは、その2点をクリアしているんです」
質量約18グラムの穴あきボールに対して、軍手ボールは約50グラムと、3倍近い重さがある。これが使用時の安定感につながっているのだ。その一方で、軍手ボールの側で、比較して弱点と呼べる点は、これといって見当たらない。
いまや多くのグラウンドで、極めて一般的な風景として認知されるまでになった、穴あきボールを使ったバッティング練習。軍手ボールは、それに取って代わり、新たな学童野球の練習風景の一部となることができるだろうか。