【2023注目の逸材】
中根裕貴
なかね・ゆうき
※投球・打撃の動画→→こちら
【所属】茨城・茎崎ファイターズ
【学年】6年
【ポジション】投手、一塁手、左翼手
【主な打順】四番
【投打】左投左打
【身長体重】150㎝36㎏
【好きなプロ野球選手】柳田悠岐(ソフトバンク)
※2023年7月25日現在
コンパクトに畳まれた左の腕が、しなりながら振られていく。速球も遅球も安定したコントロールは、被弾やバックに失策があっても乱れない。この2年あまりで左打席からサク越えを6本。軽やかな身のこなしと50m走7.2秒のスピードは、外野守備での決定的な美技にもつながっている。
2年ぶり10回目の全日本学童大会出場を決めている茎崎ファイターズの、さすがはエースで四番。粒ぞろいの6年生6人の中でも、中根裕貴は頭ひとつ抜けている感がある。
全国出場を決めた県大会決勝は、4回途中のピンチから救援して胴上げ投手に
ところが、吉田祐司監督は「今年のチームはホントに力がない」とやや渋い顔。看板選手の中根についても「もともと、そんなにすごい選手ではなかったんですよ」と、思わぬことを口にする。2019年には全国準Vの実直な指揮官の言葉にはいつも嘘がないから、実際にそうだったのだろう。
「ヘタに背伸びせず、身の丈に合ったピッチングができるのが中根の良いところですね」(同監督)
5年生を前にいばらの道へ
父は元球児で、母は元バレーボール選手。姉に続く長男として生まれた中根は、就学前の年長から野球を始めた。「楽しいだけでした」。
それが一変したのは4年生の終わり。全国に名の通るこのチームにやってきてからだった。野球のレベルも知識も、個々の能力も意識も段違いのなかで、相当に揉まれたようだ。
「覚えることとかいろいろあって、みんなに教えてもらったりしたけど、かなり大変でした」
自らも望んだ道を引き返すわけにはいかない。中根は覚悟を決めて、一人で自主練習に励むようになったという。素振り、壁当て、シャドーピッチングなど平日は毎日約1時間。「エースになりたい! 勝ちたい! という気持ちでずっとやっきてました」。
驚くような球速はないが、緩急と左右に散らす技巧で冷静にアウトを重ねる。きれいなフォームは自主練の賜物だ
本格的に投手になったのは5年秋の新チームになってから。積み重ねてきた努力が実を結び、エース格として新人戦の県大会優勝、さらに関東大会準優勝を遂げた。
「野球の魅力? みんなで協力して勝ったときの喜び」
6年生になって迎えた勝負の6月。左腕は絶対的なエースとして、また勝負強い四番打者として、全国予選の県大会優勝に大きく貢献した。
「最高にうれしかったです。全国大会に出られるのはワクワクします。1本はホームランを打ちたい」
「ふだんから練習しているので、強い気持ちで投げられるところが自分の持ち味です」
個人の夢はもちろん、プロ野球選手になること。「どんなボールでもフェンスオーバーできる選手なので」、柳田悠岐(ソフトバンク)が好きだという。
「このまま二刀流でレベルアップしていきたい」
一本足打法にバットヘッドの重みも利したスイング。「初球から甘い球を打つのが持ち味」だが、場面によっては犠打も当たり前に
いつも物静かで、プレーと背中でナインを引っ張るタイプ。懸命に質問に答えて練習に戻っていったエースを眺めながら、指揮官がまた口を開いた。
「まだ三振とかを狙って投げられるまでのピッチャーじゃない。そういうのができるようになってくると、もっとピッチングが楽しくなってくるはず。今度の全国が野球人生のMAXになるのか、その先にもっと伸びていくのか、そこはわからないですけど、中根には積み上げてきたものが確実にあります」
厳しくも温かい檄は、夢舞台のマウンドに立つ背番号1の胸に刺さることだろう。折れない「茎」はできている。あとはいかに葉を広げて、どういう花を咲かせるのか――。
(取材&文/大久保克哉)