【2025注目の逸材】
なつやま・しゅん
夏山 淳
[京都/6年]
いせだ
伊勢田ファイターズ
※プレー動画➡こちら
【ポジション】捕手
【主な打順】四番
【投打】右投左打
【身長体重】139㎝40㎏
【好きなプロ野球選手】近本光司(阪神)、近藤健介(ソフトバンク)
※2025年5月5日現在
「冬の神宮」ことポップアスリートカップくら寿司トーナメントの全国ファイナル決勝で、全国2冠の新家スターズ(大阪)をついに打倒。初出場初優勝を遂げたのは、昨年12月22日のことだった(リポート➡こちら)。
京都の伊勢田ファイターズは、同年夏には伝統の全国大会、全国スポーツ少年団交流大会にも出場している。また、主力だった6年生(当時)のうち数人は、その前年(2023年)の夏に「小学生の甲子園」全日本学童大会マクドナルド・トーナメントでもプレーした。
要するに、チームは2年連続で“夏の夢舞台”を経験。その両方を知る6年生たちが、卒団前の冬に全国の頂点に輝いた、ということになる。そしてそのV戦士たちのラストイヤーで唯一、レギュラーを張り続けた5年生(当時)がいた。それが夏山淳だ。
昨年末、1学年上の先輩たちと「冬の神宮」初制覇。当時5年生の夏山は写真上の右から5人目、下は同2番目
元気なムードメーカー
イケイケの兄貴のような指揮官と、個々のハイレベルが印象的だった昨年末の「冬の神宮」にあって、夏山はマスコットのような存在だった。具体的に言うなら、元気ハツラツの愛らしいムードメーカーだ。
なんといっても目を引いたのが、人の心を溶かすようなスマイル。「(笑顔は)意識はしてません。うれしいとか楽しいとかで、勝手にそうなります」と本人も話していたように、ごく自然な笑顔が周囲の空気もパッと明るくする。プラスの感情がそのまま表れるような所作も含めて、前向きで躍進するチームを象徴しているかのようだった。
もちろん、プレーでも全国優勝に貢献した。全4試合、五番打者でスタメン出場し、三塁か右翼を堅実に守った。
最も際立ったのは打撃だ。140㎝に満たない小兵にして、上級生が投じるボールを左打席から難なく外野へ運ぶ。その打力について、夏山はこう語った。
「ピッチャーのボール(軌道)に対して、レベルに振ると、確率も上がるし打球も勝手に強くなる。監督に教えてもらったことを生かせていると思います」
1回戦では「夏の神宮」で準優勝していた、北ナニワハヤテタイガース(兵庫)から1安打を放った。続く2回戦は0対3で迎えた2回裏、先頭で打席に立つと、やや高めのボールを力強く引っ張ってランニングホームランに。この一打で火がついた打線は、3回にかけて試合をひっくり返している。
第2打席は好機で四球を選んだ夏山は第3打席、三塁打を放つとベンチから代走を送られた。ヘルメットをかぶって三塁へ走ってきた俊足の同級生・松倉駿と笑顔でハイタッチを交わし、小躍りするような足取りでベンチへ。そして先輩たちや指導陣から、次々と労われては満面の笑みを浮かべていた(=上写真)。
「野球はみんなで打って盛り上がる、みんなで守って盛り上がる。そういうところが好きだし、自分が活躍するだけではなくて、人に任せられるところはしっかり任せたいと思っています」
大会2日目に入り、掠れてきた声でそう話していた。準決勝と決勝は無安打ながら、決勝でライトゴロが1本。それ以外にも、ライトやセンターへ弾き返した打球があった。
投手交代による布陣変更に伴い、三塁または右翼を守って4試合無失策。三塁守備ではピンチでも一塁送球が安定していた
とにかく、全国舞台でも十分に存在感を示した。下級生であることも踏まえれば「閃光」に違いない。そんな夏山について、幸智之監督(=下写真)は大会中にこう評していた。
「野球が大好きな子。身体はまだ小さくて、どちらかというとシャイなほう。上級生もいるし、ガーッとはっちゃける感じでもないけど、思っていることも持っている芯の強さも、もすごくあるなと感じています。来年はあの子にキャプテンをしてもらうつもりです」
自然体でいられる土壌
冬の神宮のスタンド。試合と試合との合間に夏山の母・知美さんを尋ねると、これまた自然なゆとりの空気をまとっていた。我が子に熱が入るあまりに周りが見えなくなるとか、一挙手一投足が心配で見ていられないとか、保護者にありがちな様子がまるで感じられない。
そして、5年生ながら上級生に溶け込んでプレーし、自分の言葉でしっかりと話せる息子への教育方針を問われると、穏やかにこう言って笑った。
「親がちょっとアホ過ぎたら、子はちゃんとなりますやん。そんな感じ、ですかね(笑)。お父さんも優しいし、厳しい教育は何もしてません。妹もこんなんで(笑) 。あの子は、人や人と話すのが好きみたいですね。家ではそんなにワーッとは喋ったりもしませんけど」
母の背中に隠れるようにしていた夏山の妹は、兄のことを問われると、はにかみながらも「優しいし、好き」と微笑んだ。父は学生時代にサッカーをしていたという。こういう一家だから、長男であろうとも野球も練習もまるで強制されていない。
「1年生の9月くらいに野球を始めました。学校の友だちがチームに入っていて、ボクもやりたいなと思って」(夏山)
5年生になると先述のように、伊勢田で1学年上のチームでレギュラーとなり、夏の全国スポ少交流で全国デビュー。冬のポップアスリート杯で優勝を果たすと、新たな1年への抱負までをこのように語った。
「全国大会だから緊張するとか、ミスしたら6年生に迷惑かけるというプレッシャーとか、そういうのはありませんでした。6年生と一緒に勝つ!という気持ちだけ。来年は自分たちも全国大会に出て、日本一になりたいです。そういうチームを、プレーとか声で引っ張っていきたいです」
京都121チームの頂に
迎えた1月、予定通りに幸監督から主将に指名された夏山は、ほぼ経験のない捕手へとコンバートされた。そして左腕エースの藤本理暉らを好リードし、3月に開幕した京都府の春の大会で優勝を果たした。
※捕手の写真は家族・チームからの提供
この大会の正式名は、中信杯全京都学童軟式野球春季大会。府内では「全京都」として認知されている、由緒のある大会だ。連盟傘下の大半が参加する巨大トーナメントに、今年は121チームが参加した。
夏山ら6年生は7人の伊勢田は、全7試合のうち6試合が完封勝ちで、失点はわずかに1点。堅守と勝負強さで県王者に輝くと、主将は感極まって泣いたという。
同じ宇治市の岡屋スポーツ少年団との決勝は、1対0のサヨナラ勝ち。0対0の6回裏に、三番・藤本が一死から左中間へ三塁打を放つと、続く四番・夏山がカウント3-1からのエンドランで確実にゴロを転がし、優勝を呼び込んだ。
「プレッシャーがかかる場面で、ちゃんとゴロを打てたので。その安心感と優勝のうれしさで、涙が勝手に出てきました」
夏山はこの大会で右中間へ2本塁打。四番の重責もきっちりと果たしている。急造の捕手については、指揮官は「ボチボチというか、まだまだですね」との評価。しかし、冬の神宮を制したときの森田颯真主将(現中1=上写真右)も、ラスト1年からのトライで堂々たる正捕手となった成功体験がある。
「キャッチャーは難しいです。ブロッキングとかの技術もそうだし、試合中はいつも全体を見てみんなに声掛けとかもするので。でもその分、やりがいがあります」
こう語る夏山は目下、捕手スキルの向上に余念がない。個別練習では、バウンドする投球を体で受けて目の前に止めるブロッキングを中心に猛特訓。自主練習では素振りのほか、より速くて強い送球を可能とするために、握り替えやステップの動作を反復しているという。
「選手が全力を出せるようなアプローチ」を常に心掛けているという幸監督。夏山主将にはそういう面でも全幅の信頼を寄せている
方向性を示して教えるべきをしっかりと教えつつ、ないものねだりはしない。これも幸監督流の指導のようだ。目一杯に奮闘中の夏山に対して、さらに望むことはないと言い切った。
「背伸びすることなく、彼(夏山)の中で責任感を持って必死にやってくれています。何でも率先してみんなを引っ張ってくれてますし、声掛けを含めて積極的に取り組んでくれている。特に何も変える必要もないし、このままやってくれたら伸びると思っています」
等身大の尊さ
いよいよ今週末の5月10日からは、大目標の「小学生の甲子園」出場をかけた最終予選、府大会が始まる。
「絶対勝ちます!」「全国制覇します!」のような気負った常套句を発しないあたり。夏山の等身大は、新たな責任や役目を負っても変わることがないようだ。
「チャンスは1回だけなので、しっかりと思い切ってプレーできたらなと思います。いろんな責任を持ちながら、笑顔でもいたいなと思っています」
それができれば、結果は自ずとついてくる、ということのようだ。母・知美さんの言葉が思い返される。
「あの子はコレをしよう!と思ったら結構、こだわりが強いというか、できるようになるまでやる、というタイプみたいですね。将来も自分でがんばるところまでいってくれたら、それはそれで母としてうれしいなと思っています」
では最後に、夏山が描いている個人の夢を紹介しよう。
「中学は硬式野球に行って、高校からスカウトがくるくらいの選手になって、高校生になったら、プロからもスカウトをもらって。阪神の選手になって、メジャーリーガーになりたいです」
やはり、どこか、味がある。
(動画&写真&文=大久保克哉)