「満を持して」、というわけではない。まずはスタートを切った。そして、そこに大きな意味があることは間違いないのだ。
フィールドフォースがアメリカ向けに立ち上げたECサイト「Baseball Samurais」。運用開始から半年弱が経過したが、反応は上々だという。その狙いと現状、そして今後の展望は。FIELD VOICEでは、Baseball Samuraisの奮闘の軌跡をリアルタイムで追いかけ、不定期連載で報じてゆく──。
瞬く間に売り上げUP!
「TRAININGS」、「GLOVE」、「LEARN」……。羽織袴を身に着け、バットを振り下ろす「侍」と、紅と白のグラブのメインビジュアルの上にメニューが並ぶ、Baseball Samuraisのトップページ。白、黒、赤を基調に、商品写真も文字のフォントも統一され、フィールドフォースの日本向けサイトに比べても、スタイリッシュな印象だ。
https://baseballsamurais.com/
「ビジュアルもそうですし、日本らしさみたいなところで、全体のコンセプトやブランドイメージといった部分は、しっかりと固めてから出したいな、という思いはありました。日本の(フィールドフォースの)サイトは学童野球選手向けの商品が情報量多く並ぶ、楽しいページになっているんですが、それとはまた違った方向性で、写真をメインに、情報もシンプルにして、見やすいインターフェイスで、商品一つひとつをしっかり訴求していきたいなと」
EC事業部門を統括する営業企画部長・鎌田侑樹が説明する。
「実は(ページがシンプルなのは)まだ全体が完成しているわけではなく、日本で売っている、すべての商品を載せられていない、というのもあります。全商品、日本で売っているものはすべて載せたいのですが、一つひとつの商品のページをしっかりと作りこんでいきたいという思いもあって。でも、形にはなってきたのかなと思います。あとは中身を充実させてゆく、というところですね」
アメリカ向けECサイト立ち上げの構想は、2年ほど前から話題としては上がっていたという。具体的に話が進んだのは、この1年くらい。それでも、鎌田にとっては唐突に感じられたようだ。
「まあ考えてみれば、以前からあった話ですし、円安が進んだタイミングで、当然といえば当然の話なんですが……」
海外に向けたEC事業展開のサポート実績が充実している会社を探し出し、コンサルティングなど支援を依頼するところから始め、サイトの構築、一つひとつの商品ページの作成と、徐々に、しかし急ピッチで形にしていった。鎌田の手腕が光るスピード感だ。
SNSでの広告展開により、まずは集客。
「広告を出すと、きっちり人が来てくれるんですよね」
これがSNSのターゲティング広告の力なのだろう。もちろん、ページに来てくれたからといって即、すべてが売り上げにつながるわけではないのだが、Baseball Samuraisはまだ開始から半年ほどでありながら、目に見えるほどに、その売り上げを伸ばしている。
「協力会社の方も驚いているくらいです。その方は、当社の商品力が要因なのだろうとおっしゃってくれてますが……」
まだ半年ほどだが、毎月、売り上げが数倍に伸びる勢いなのだという。
「ただ、ずっとこの調子で伸び続けることはないでしょうから、これからどう、さらに幅広いお客様に来ていただくための施策が必要になってくるでしょうね。リピーターも増やしていくことができれば、なお良いですよね」
現在はサイトのすべてのオペレーションを鎌田ひとりでこなしている。
「もう少し、受注から発送まで、決まった形で対応できる仕組みを作ることができれば、ほかの人にも手伝ってもらえるようになるので、それまでは頑張ります」
鎌田は表情を引き締め、そう言った。
人とつながり、躊躇せず一歩を踏み出す
社長・吉村尚記のフィールドフォース米国進出に懸ける思いのほどは、昨秋の訪米や、それに至る経緯をつづった、このあたりの社長コラムに詳しい。
https://www.fieldforce-ec.jp/blogs/president_column/president_22
まだ先の話かもしれないが、吉村が将来的な展望として考えているのは、Baseball Samuraisの展開にとどまることなく、ゆくゆくはアメリカ国内にも拠点を置いての事業展開。とはいえ、そのためにも、Baseball Samuraisでどれほどアメリカのマーケットを開拓できるのか、というのは大きな指標となるはずである。
「アメリカ進出自体は、以前から考えていましたが、去年、実際にアメリカに行って、野球の施設や練習風景を見て回ることができたことで、より具体化されたというか。大きなモチベーションにはなっています」
吉村が昨年の渡米当時を振り返る。
「それまでは、フィールドフォースの既存商品も、そのままではなく、アメリカ仕様に作り直して売り出す必要があるだろうか、などという考えも持っていました。漠然とではありますが。しかし、実際に現地で選手たちに使ってもらったときの反応がすごく良くて、『とくに仕様を変えなくとも、商品はこのままで行けるではないか』との思いを強くしたんです」
そして、それを裏づけてくれているのが、立ち上げ以来、国内と同じ仕様の商品ラインアップで売り上げを着実に伸ばしている、Baseball Samuraisの存在だ。
「私が考えていた以上に、我々が提示してきた野球の練習法が普遍的なものだということなのか、あるいは、思っていた以上に、本場アメリカでも、日本野球に対する注目度が高まっているのか……」
これらの事象以上に、吉村が強調するのは、人と出会い、信頼関係を築いていくことの重要性だ。
「実は、アメリカ訪問自体も、個人宅での練習場施工をきっかけに知り合った方との関係性の中で実現したんです。僕にとっては、すべて人との出会いや、お付き合いさせていただく中での信頼関係から始まっていること。すべてご縁です。こういうつながりは、常に大切にしたいですよね」
日々の仕事に全力で取り組むことで、新たな出会いが生まれ、それが新たな展開を生み出すきっかけとなる。フィールドフォースを創業して以来、吉村はそんな経験を数多く重ねてきたのだ。
「それが大きなヒントや、次の展開につながるきっかけになる。アナログな世界ではありますが、改めてそんなことも思うんです」
常にアイデアあふれる新商品を作り続けること。必要な時には、勇気を持って踏み出す一歩に躊躇をしないこと。人とのつながりを大切にすること。そして、初心を忘れないこと。吉村にとっては、すべてが必然であって、すべてが同じ直線の延長線上にあるということなのだろう。
メイド・イン・ジャパンのグラブを世界に
フィールドフォース創業前には、アメリカをはじめ海外での仕事経験も多い、会長の大貫高志。想定以上に早い段階から活気づいているBaseball Samuraisの展開には注目しているが、中でも、グラブに対する思い入れは強い。
かつては海外でグラブ製造の現場を飛び回り、ときには営業との間に入って、米国用品メーカーのバイヤーと交渉を行うこともあったという。グラブ市場の変遷にも詳しい大貫が目指すのは、「Made in Japan」グラブの復活である。
かつて、アメリカで使われたグラブの多くが日本製だった時代があった。
「奈良県あたりが、革製品の生産地として有名だったんです。品質も高かった」
当時、安価で高品質な日本製の革製品は評判が良く、世界に名をはせていたのだ。その後、時代を追って、とにかく生産量が求められる中で、革製品は工賃の安い台湾、フィリピン、そして中国へと、主たる生産国が変わっていった。
しかし、大量生産、大量消費の時代を経て、現在では、こだわりのオリジナル商品やオーダーグラブにも光が当たるようになっている。
「安い製品を大量に作って売り、大量に消費する。日本も一時、その流れにのまれてしまったことがありました。日本が誇るべき文化でもあった“ものづくり”が、海外との経済競争の中で、その価値を落としてしまったんです」
だからこそ今、すべて日本製の革、芯材、糸といった材料を使い、フィールドフォースが誇るグラブ工房で加工し、仕上げる商品を世に送り出したいのだ、という。
「完全にメイド・イン・ジャパンのグラブです。グラブももちろんなんですけど、大げさに言えば、日本の野球自体を、ひとつの文化として、その意義を発信できたらいいと思うんです。いまでは多くの日本人選手がメジャーリーグで活躍している。日本で野球が育つ土壌であり、環境であり、そうしたすべてを」
究極の目標はまだ先にあり、そして壮大だ。
ゴールは未定。今後の進化に注目
鎌田と吉村と大貫、Baseball Samuraisをオペレートし、見守る3人の視点には、多少の違いがある。その中で、3人が共通して口にするのは、「現状では、ゴールは決めていない」ということだ。とくに鎌田は、サイト上の製品ラインアップを急ピッチで充実させることで準備を整えつつ、現状を見守り、今後の展開を考え続けている。
いまはSNSで広告を見た人がサイトを訪れ、気に入ったショッピングをしている段階だが、今後はサイトを訪れる客層の足取りも変わってくることだろう。
「国をまたいでの買い物となると、お客さんにとって不安要素もあると思います。そうした不安を解消できるようなサイトにすることも考えていきたいですね」
公開から半年足らずで、まずまずの売り上げを計上するまでになったBaseball Samurais。その注文の傾向に、特徴的なことはあるのだろうか?
フィールドフォースの看板商品といえる、トスマシンが一番人気なのは、日本国内と変わらないが、グラブの注文数が堅調なのだという。「それだけで、傾向が分かるわけではないんですけど、特徴的ではありますね」」と鎌田。今後、Baseball Samuraisがどのように変わってゆくのか──。その進化にも注目していきたい。