「小学生の甲子園」こと高円宮賜杯第46回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント。その埼玉県予選大会は6月6日、さいたま市のレジデンシャルスタジアム大宮で準決勝と決勝を行った。決勝は一昨年の大会覇者・山野ガッツ(越谷)が吉川ウイングス(吉川)を下し、2年ぶり2度目の優勝を果たした。山野は8月7日から愛媛県で始まる全国大会、吉川は8月8日から神奈川県でのコントリビュートカップ第49回関東学童に、それぞれ県代表として出場する。
(本文&写真=鈴木秀樹)
※記録は編集部
■決勝
6月6日◇レジデンシャルスタジアム大宮
▽第3試合
山野ガッツ(越谷)
016200=9
012203=8
吉川ウイングス(吉川)
【山】吉岡、渕川─塩見、吉岡
【吉】松浦、西田、玉井─安保
三塁打/中村(山)佐々木2、西田、阿部(吉)
二塁打/塩見(山)玉井、松浦進(吉)
【評】山野は2回、四球の冨田真平が盗塁と渕川拓馬のバントで三進、遠矢雄志のスクイズで先制。吉川もその裏、四球と5年生の佐々木稜晟の左中間三塁打で同点とした。しかし、山野は3回に二死走者なしから三番・吉岡泰平の安打、塩見理人の左越え二塁打で勝ち越すと、さらに秋山侑輝の左前適時打、渕川の右前打、中村翔の右翼線を抜く2点三塁打などで加点し、この回、一挙6得点。その裏、吉川に2点を献上も、4回には島村力翔の安打、秋山、冨田の適時打などで2点を加えた。追う吉川は4回裏にも2点を返すと、5対9で迎えた最終6回裏には、佐々木、阿部稜央、西田陸翔の5年生3人がそろって三塁打を放つなど、一打同点まで詰め寄ったが、あと一本が出ず、山野が逃げ切って勝利を収めた。
虎視眈々! 2年越しの悲願なる

優勝
=2年ぶり2回目
ゲームセットのその時まで、どちらかといえば険しい表情で戦況を見守っていた山野ガッツ・瀬端哲也監督が、満面の笑顔で、飛び跳ねるようにベンチを飛び出し、コーチらと抱き合った。
「いやぁ…そんな簡単には勝たせてもらえません!」
そう言いながらも、ニコニコだ。
「ウチはロースコアゲームで勝てるチームではありません。吉川さんも素晴らしい打線ですが、打ち合いなら負けない、という自信をもって戦うことができました。こんな展開になってくれたのは、すごく大きかった」
そんな指揮官の強気発言を後押しする事実もあった。
「この大会では初戦から、一度も相手にリードされることなく、戦いきることができたんです」
そう言った後で、瀬端監督は「あ、違うな」と訂正した。
「間違えました。(上藤沢ライオンズとの)準決勝では初めて先制されて、追いかける形になりました。ただ、ライオンズさんは何度か戦ってきた相手だったので、そこは慌てずに戦えたんです。逆転されると弱さが出るチームですが、常に先手を取って戦えたことで、この結果を手にすることができたんでしょう」
先手必勝。その中でも、逆転され、追いかける展開に一度もならなかったことが、優勝できた一番の要因だという。

△力投が光った先発の吉岡は準決勝に続く登板だった

2回表、遠矢のスクイズ㊤で冨田がかえり㊦先制

地区代表44チームが出場した今大会のトーナメント表で、吉川ウイングスが左端のチーム番号「1」、東松山野球スポーツ少年団(東松山)が「5」、熊谷グリーンタウン(熊谷)が「8」、そして新人戦王者の西埼玉少年野球(飯能)は「10」に並んだ。
優勝候補と目されたチームの多くが、トーナメント表の左側4分の1に集中したのだ。
そんなトーナメント表の反対側、右側4分の1あたり、チーム番号「35」を引き当てたのが山野だった。有力視されるチーム同士が激戦を繰り広げるのを横目に、着実に白星を重ね、勝ち上がってきたのだった。
「自信はね、正直、あったんです」
瀬端監督が語る。おどけた口調ではあるが、迷いは感じられない。本音なのだろう。
「打線は力があります。五番打者までは安定しているし、大会では下位打線に入った選手も調子良く打ってくれていました」

3回表、二死無走者から吉岡㊤、塩見㊦の連打を足掛かりに6得点

あえていえば、前週の準々決勝ではむしろ、中軸がおとなしかった印象だが、この日は上位から下位まで、満遍なく結果を出していた。
「とくに今日は、冨田が良かったですね」
この日、六番に入った冨田は、送りバントを決めた準決勝の第1打席以降は安打、安打、決勝も四球、四球、安打と全打席出塁している。
準決勝も決勝も、山野は長打による派手な得点よりも、バントも含め、打線をつなぐことで得点を重ねている。「打ち勝つ」といっても、必ずしも長打に頼るわけではない。それが今年の山野打線の特徴ということになるのだろうか。
ナインだけでなく、応援団もこれ以上ない歓喜に沸く中、喜びの中にも冷静に、孫山知幸主将は今年の山野をこう評し、胸を張った。
「ボクたちの打線の良いところは、みんながカバーし合って、つなげられるところなんです」

2回裏㊤、3回裏㊦と、内野ゴロからバックホームで吉川の三走をタッチアウトに

瀬端監督が続ける。
「守備は2年前よりも固いんじゃないかと思います。とくに外野は良いと思います」
確かにこの日も、打たれることはあっても、失策がらみの失点は皆無。むしろ、決勝ではホームでの補殺を2つ記録しており、“打ち合い”と言いながら、見方によっては守備力も勝敗を分けた、ひとつのポイントになっていた。
ただ、唯一、投手陣には一抹の不安を感じていたようだ。主戦である渕川拓馬(=写真㊦)が前週まで、故障で登板できなかったためだ。
「その渕川がようやく間に合い、今日は投げることができました。これが大きかった。安定感という意味では、彼以上の投手はいません。ウチはほかにも、今日も投げましたが、吉岡と塩見が投げます。2人とも力のあるボールを放ります。ただ、ひとたび崩れると、なかなかこちらに戻ってきてくれない」
指揮官はそう言って笑うのだった。
決勝は最終回、吉川打線にあと1点まで迫られ、なおも同点の走者を三塁に背負うピンチだった。マウンドには4回から登板の渕川。エースではあるが、先発よりもリリーバーとしての登板が基本だ。

「あそこで渕川を代える気は全くなかったです。あの流れで投げ切れるピッチャーは、ウチには彼しかいない。剛腕投手がいるわけではありませんし…。彼があそこで打たれるのだったら、仕方がないと割り切っていました」
そんな指揮官の信頼は、渕川本人にも伝わっていたのだろう。「最後はちょっと焦ったけど、開き直って、集中して投げることができました」。渕川のボールを受け続けた吉岡も「最後は、最悪、打たれてもタイブレーク。必ず勝てると思っていたので、焦りはなかったです」と、過度に気負うことなく戦いきった。
タイブレークになろうとも「打ち合いなら負けない」(吉岡)という自信が、山野ナインの精神的な支えとなっていたのだろう。どの選手に聞いても、「絶対に勝てると思ってました!」と、その自信は揺らぎない。周囲からのダークホース扱いなど、どこ吹く風だ。
「(全国大会で2回戦惜敗に終わった)2年前のチームに何かが足りなかった、とは思ってないんです。だからこそもう一度、しっかりチームを作って、ウチらしい戦いで、またあの舞台に挑みたいと思ったんです」と瀬端監督。
ある意味、先輩たちの“忘れ物”を取り戻す戦いにもなる、今回の全国大会。全員が自信に満ちた、“らしい”戦いで打ちまくり、頂点を目指す姿が見たい。
すさまじき猛追、成長曲線まざまざ

準優勝
「悔しいですね…」
吉川ウイングス・岡崎真二監督は、まさに「ぼう然」といった表情でつぶやいた。
無理もない。東松山野球スポーツ少年団との3回戦、西埼玉少年野球との準々決勝、そしてこの日の準決勝と、これ以上ない、理想的な形で勝利を収め、決勝までコマを進めてきたのだ。愛媛行きの切符は、手が届くところにあったはず…。
「ここまで来れただけに…。悔やまれます」
2回の大量失点が大きく響く展開ではあったものの、最終回にも佐々木、阿部、そして西田が三塁打を放って猛追。最後まで、どちらに転んでもおかしくない流れだったことも、大きすぎる敗戦のショックにつながったのだろう。

3回裏、一死三塁から適時打を放った安保主将が適時打㊤。最終6回裏二死、松浦が生還して1点差に㊦

主力の半数近くが5年生であり、今秋の新人戦、来年の全国大会まで活躍が見込まれる。そして今回も、全国への切符は逃したが、準優勝チームは8月のコントリビュートカップ関東学童大会への出場権を手にする…。
ねぎらいも含めた、周囲からの声掛けにうなずき、頭を下げる岡崎監督ではあったが、すぐに気持ちを切り替えるには、逃した魚は大きすぎる。
抜群のキャプテンシーを発揮し、扇の要でチームを引っ張ってきた安保凱翔主将も言葉を詰まらせ、ぽつり、ぽつりと話す。
「悔しいです…。…3回表、ビッグイニングになってしまいました。あの回(の6失点)を3点くらいに抑えておけたら…。…打撃もみんな、良くなっていたけど、決勝は緊張もあって…」
それでもキャプテンらしく、やがて前を向いた。
「この悔しさを忘れず、悔しさを力にして、これからの大会に全力で臨んで、勝つしかないと思います」

岡崎監督が今季の吉川のこれまでを振り返る。
「去年の秋、新人戦は県大会の1回戦でコールド負けして終わったんです。相手は(後に大会準優勝する)熊谷ウイングスさんでした」
その悔しさを胸に、秋から冬場のチームづくりに励んだ。
「戦えるかな、というところまで来るのには、例年よりは少し時間がかかりましたが、3月の東日本交流大会あたりです。その頃から、チームの状態も上向きになってきました」
そうして開幕を迎えた、全国出場を懸けた戦い。
今大会では準決勝まで、全試合で異なる投手が先発した。
「投手陣はみんな、よく自分の個性を発揮して頑張ってくれましたね」
打線のつながりも見事だ。6年生たちはもちろん、二番の西田陸翔、四番の玉井颯音、六番の佐々木(いずれも決勝の打順)と、絶妙に配置された5年生たちも、そろってチャンスに強く、長打まで期待できる好打者だ。

2回裏、5年生の佐々木が同点三塁打㊤。同じく5年生の西田が最終6回裏、センターに適時三塁打㊦

「決勝も後半の粘り、最後まであきらめない姿は素晴らしかった」と岡崎監督。「5年が見せ場を作ったし、6年も意地を見せてくれました」
春先からチームが描き始めた成長曲線は、今も上向きのままだ。
今大会での躍進が決して偶然やラッキーだけでなかったことは、この決勝の翌日に始まった、もう一つの県大会「県学童大会(兼GasOneカップ埼玉大会)」において、緒戦で早くも再戦することになった山野をタイブレークの末に3対2で下してリベンジを果たし、最終的に準優勝を果たしたことを見ても、間違いないだろう。
8月には関東No.1を懸けた戦いも控える。今なお急成長中の吉川がどんな戦いを見せてくれるか、楽しみにしたい。