各地の全国予選に向けた試金石。第21回東日本少年野球交流大会は、1都8県の32チームによるトーナメントを3月の最終週から3日間で消化した。今年は初日が雨天順延で日程がスライドしたことで、途中棄権(不戦敗)もいくつか。また、決勝以外は複数会場で同時進行するなか、学童野球メディアは1回戦で2チームに着目した。いずれのチームも大会後、地区予選を突破して全国最終予選出場を決めている。両チームのリポートを中心に、トピックスをお届けしよう。
(写真&取材=大久保克哉)
※2回戦以降も順次、特報します
勝っても負けても“応援される”ワケ
国立ヤングスワローズ
[東京・国立市]
■1回戦
桜学園ベースボールクラブ(茨城)
000000=0
02012 X=5
国立ヤングスワローズ(東京)
【桜】坂本、東郷-大津
【国】山崎、長嶋-岩本
三塁打/吉川(国)
小柄だが機敏な身のこなしに元気と笑顔も印象的だった国立の遊撃手・宮下瞬
参加32チームのうち、「小学生の甲子園」全日本学童マクドナルド・トーナメントに出場実績があるのは14チーム。そうした過去の実績に加え、近年の動向や新チームの戦力や勢いなども加味すると、1回戦の屈指の好カードは不動パイレーツ(東京)対吉川ウイングス(埼玉)。次いで、この一戦だった。
躍進チームの激突
合併発足から7年目の桜学園ベースボールクラブ(茨城=下写真)は、咋秋の新人戦で県4強まで大躍進。「県大会は恐怖を感じるような場所ではない」と大﨑将一監督が語ったように、選手たちの生き生きした表情と迷いのないプレーぶりが印象的だった。
一方の国立ヤングスワローズ(東京=写真上)は、AからDまで4チームで活動する人気のチーム。現6年生たちの代は、4年時に東京ベスト4に。昨年の全国予選は1学年上の代とともに挑んで都8強、5年生だけのBチームで挑んだ都知事杯も8強まで勝ち進んで注目された。
咋秋の新人戦は都1回戦で敗れたものの、このチームの魅力は成績ばかりではない。選手のパフォーマンスを引き出そうという指導陣と、主体的に野球をしようという選手たちの取り組みが斬新で、取材者でなくとも思わず肩入れしたくなる。
昨年の都知事杯以降も「国立はとても良いチームでした」「すごく良い雰囲気で野球をしている」などの評判が、筆者の耳にも時折り入ってきていた。実際、応えきれないほどの対戦オファーも届いているという。
仲間だから応援する
国立ナインは試合前のシートノックを先に終えるとベンチ前に並び、桜学園のシートノックへ前向きな声を発していた(=冒頭写真)。各ポジションへ順番を知らせる声に始まり、打球に応じて「前!」「バック!」などのアドバイスがあり、好プレーには「ナイス!」など口々に。それも指導者に厳命されて、仕方なくやらされているという感じはゼロに等しい。
「野球は仲間がいてできることで、試合も相手がいてくれて成り立つ。これから真剣勝負をする相手でも、大きく言えば同じ野球仲間ですからね。リスペクトがあっていいし、そういう意識がないのであれば、個人競技をすればいい」と杉本敬司監督(=上写真)。
実は、そうしたスポーツマンシップに基づくシートノック時の取り組みは、千葉県の柏市で10年以上も前から行われてきている。そして同市の豊上ジュニアーズが全国区の強豪となるにつれて、同様の取り組みが千葉県の内外に広まりつつある。
千葉県柏市の2023年春季大会より。相手チームのシートノックで声掛けをしているのはビクトリージャガーズ
杉本監督が率いる国立の現6年生チームもまた、豊上と2年前に試合をしたことがきっかけだったという。指揮官が再び語る。
「ウチのシートノックのときに、豊上の子たちが温かい言葉をどんどん掛けてくれたんです。初めてのときは驚きましたし、うれしかったし、子どもたちに聞いても『うれしかった!』と言うので、じゃあ良いところはマネをさせていただこう、と」
試合前のシートノックについては、解釈も目的も方法もチームそれぞれ。国立は先を急がず1球ずつを丁寧にこなしており、既定の時間ギリギリまで忙しなくやる感じではない(=上写真)。落ち着いて試合に入ることを最優先にしているからだという。
「やっとそのあたりもチーム全体に理解され、浸透してきたかなと思います」と杉本監督。慌てない、動じない立ち上がりにも、その効果が見て取れたようだ。
1回表の守りでは、振り逃げで許した走者をけん制で刺した。その後、桜学園の四番・原田祐太主将の左翼線ヒットなどで二死一、二塁のピンチに。ここも落ち着いて後続を断って無失点で切り抜けると以降、相手打線を無安打に封じていくことに。
最速110㎞に迫る本格派の山崎。マスクをかぶっても非凡な投力がチームの武器に
先発した右腕・山崎央月(=上写真)は、最速110㎞手前の本格派だ。西武ライオンズの通年スクールのアドバンスクラス(専門指導のコースで、セレクションあり)にも入っているとあって、球が速いだけではなく、フォームもバランスがとれていて美しい。
この1回戦は4回まで投げて1安打無失点、4四球があったが本塁は踏ませなかった。つまりは要所を締める、エースらしい投球だ。試合後に本人はこう話している。
「今日はボール球が先行で四球もあって、完璧という内容には遠かったです。でも、うまくいかないときの切り替えとか、人に当たらないとか、そういうところも監督に教えもらってきているので」
作戦成功率10割
投手が粘れば、流れはやってくる。国立は2回、4回、5回と効果的に加点した。
2回裏、五番・岩本虎太朗の中前打などで一死二、三塁から、濱田藍の投前スクイズで一気に2者が生還(上)。二死無走者から八番・今泉昇がファウルで6球粘る(下)など、下位打線もしぶとかった
好機を広げる足があり、得点を確実にする連係と小技もある。スクイズなど攻撃の作戦はすべてが成功した。かと思えば、四番の吉川陽壱主将(=下写真)が左打席から豪快に右越え三塁打、三番の山崎は逆方向へ犠飛など、上位打線のパワーも光った。
「今日はピッチャーがちょっと制球に苦しみましたけど、要所を抑えてくれましたし、攻撃面はだいぶ、うまくいったかなと思います」と及第点を与えた杉本監督は試合後しばらく、桜学園の大﨑監督と談笑していた。
一塁守備の巧みなミットさばきでも仲間を救った吉川主将は、試合後にこう語った。
「強いチームがたくさん出ている大会に初めて参加したので緊張もしたんですけど、思ったより自分たちの野球ができて、練習通りの作戦も決まって良かったと思います。全国制覇を目標に掲げているので、この大会でもっと自信をつけていければと思います」
国立は翌週の2回戦で、昨夏の全国8強の平戸イーグルス(神奈川)とシーソーゲームを展開した末に5対6で惜敗。だが、手の内も知り合う強敵と互角に戦ったチームはその後、国立市の予選を制して全日本学童東京大会出場を決めている。勝っても負けても応援されるチーム、愛される面々の集大成とも言える大勝負は、いよいよ今週末の11日から始まる。
両軍通じて初安打を放った桜学園の四番・原田主将(上)。先発した5年生左腕・坂本新之助(下)は、安定した投球フォームと身体のバネも光った
2010年以来の日本一も!?盤石の東北王者
常磐軟式野球スポーツ少年団
[福島・いわき市]
■1回戦
常磐軟式野球スポーツ少年団(福島)
11対0(4回コールド)
宗道ニューモンキーズ(茨城)
※常磐は地元の公式戦出場のため2回戦を辞退。大会規定で宗道の不戦勝扱いに
福島の常磐軟式野球スポーツ少年団といえば、「小学生の甲子園」全日本学童の最多出場記録(23回)と1回の優勝(2010年)を誇る、国内随一の名門。夏のもうひとつの伝統の夢舞台、全国スポーツ少年団軟式野球交流大会は過去12回の出場で3回の優勝がある。
貯金を得た1年間
昨年の全日本学童予選は、福島大会準優勝。同じいわき市の好敵手・小名浜少年野球教室に決勝で惜敗し、3年連続の「小学生の甲子園」出場は夢と消えたものの、6年生がわずか2人のチームで大健闘したと言えるだろう。だが、指導陣も選手たちもシーズン当初から、最上級生の少なさを言い訳にせず、当然のように夏の全国を目指してきたあたり。名門のプライドも大いに感じさせた。
1年前の東日本交流大会は6年生2人で初戦突破。優勝することになる茎崎ファイターズ(茨城)と2回戦で大接戦を演じた
若いチームで奮闘してきた下級生たちは、「経験値」という貯金も生かして咋秋の新人戦で最上位となる東北大会で優勝(5年ぶり7回目)。「常磐の新チームは例年以上に堅くて強い!」との評判は、南の関東にまで届いてきていた。
そして茨城県開催の今大会で、真偽のほども明らかに!? 初日が雨天順延された今年の最終日(当初の予備日)は、常磐は地元・福島で大会があることから、1回戦のみの出場に。それでも開始からアクセル全開で、“東北王者の実力”を見せつけた。
先発全員安打
1回裏、中前打で出た二番・西本魁人主将は二盗に失敗するも、機動力と小技を絡めた伝統の攻撃スタイルは変わらない。三番・村田琢真が死球から二盗、三盗を立て続けに決めると、四番・上遠野晃大が左翼線へ先制タイムリーを放った(=上写真)。
2回には先頭の山崎彪馬が中前打から2盗塁で三進すると、一死後に九番・齋藤慶季がスクイズ(内野安打)を決めて2対0に。そして迎えた3回に、4本の長短打に敵失と5四死球など、打者13人で7得点し、大勢を決した。
2回にスクイズを決めた九番・斎藤(上)は3回に右中間へ3点三塁打。三番・村田は2四死球に右越え三塁打(下)
投げては四家蒼陽から西本主将、佐藤英介(=下写真※3投手上から順)と、甲乙つけがたい本格派の右腕3枚で完封リレーを達成。また、4回裏に山崎の犠飛で10対0とした直後、八番・奥山煌都に中前打が生まれて先発全員安打に。さらに代打・小川将生に続いて、竹森大翔も代打でバントヒットを決め、6年生12人が全員出場しての11安打11得点の大勝となった。
打線は切れ目がない。走力も高く、体格にも恵まれた上位は外野オーバーも期待できる。守備は内外野とも鍛えられており、穴が見当たらない。堅守も伝統だが、西本主将(または四家)と奥山の三遊間の堅実さ、右翼の齋藤の守備範囲は全国でもトップクラスだろう。2010年以来2回目となる「小学生の甲子園」制覇もありそうな盤石ぶりだ。
4回裏、七番・山崎の右犠飛(上)に続く、八番・奥山の中前打(下)で先発全員安打に
OBでもある天井正之監督は試合後、こう話している。
「塁に出たら一死三塁をつくって1点ずつ。その野球ですよね、それしかない。6年生たちは(レギュラーで)実質2年目ですから、打つ・打たせないはある程度はやれる。あとは、この場面は粘りどころとか、相手はどう来られたらイヤなのかとか、状況をより深く読めるように教えていきたい。まずは全国(出場)を決めて、あとは全国で勝てるような練習をやりたいなと思っています。こっからです!」
大会終了の翌週、常磐は全日本学童のいわき支部予選を1位通過し、県大会出場を決めている。
開催地・小美玉市の美野里スラッガーズは、1回戦で全国区のSNSベースボールクラブ(山梨)に敗北。それでも大会中3日間、早朝の7時前から会場のゴミ拾いなど運営面にも尽力。「いつもお世話になっている球場を、みなさんに気持ちよく使ってもらいたい。選手も保護者もそういう理解と協力をいただいています」と皆川大樹監督
2度の全国出場があるオール東海ジュニア(茨城)は、1回戦で長野のTeamNに快勝。先発した本格派左腕・秋野銀介の球威が目を引いた