全日本学童マクドナルド・トーナメントの群馬県予選会。決勝は玉村ジュニアベースボールクラブ(伊勢崎市)が、韮川レッズ(太田市)を下し、秋の新人戦、4月の選抜大会に続く県3冠となり、2014年の創立以来初めての全国切符も手にした。一方、2018年に続く銀メダルとなった韮川は、7月24日からの高野山旗(和歌山県)へ。ほぼワンサイドとなった大一番だが、ヒーローもグッドルーザーも輝いていた。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング。優勝チームは「全日本学童大会」のコーナーで追って紹介します

優勝
=初
■決勝
◇5月31日 ◇上毛新聞敷島球場

◇第2試合
玉村ジュニアベースボールクラブ(伊勢崎)
101303=8
000002=2
韮川レッズ(太田)
【玉】竹之内-小湊
【韮】岡本、竹田、石戸谷-竹田、岡本、竹田
本塁打/小湊(玉)、竹田(韮)
二塁打/野口、山本(玉)
【評】四球、敵失、犠打、四番・小湊煌月の右犠飛で開始早々に先制した玉村が、以降も優位に試合を進めて完勝した。玉村は3回に三番・野口虹斗(5年)の二塁打と敵失で加点。続く4回も小湊の2点タイムリーなどで5対0まで引き離すと、6回にまた小湊が3ラン。守ってもノーエラーで、打たせて取る5年生右腕・竹之内翔真が完投した。一方、四球やミス絡みで失点を重ねた韮川だったが、5回に青木庵がチーム初ヒット。6回裏には一番・佐藤真晟が中前打、三番・竹田一翔が左越え本塁打で一矢を報いた。
〇玉村ジュニアベースボールクラブ・髙木謙監督「感無量です。竹之内がよく投げました。ウチには後押ししてくれるOBや保護者がいて、頼れるコーチもいて。子どもたちは役割がわかっていて鼻が利くので助かります」
●韮川レッズ・長谷川陽志監督「正直、力負けです。決勝でも場慣れしている玉村さんに対して、ウチは緊張しっ放しで。技術の差もだいぶあるなというふうには感じました」
1回表に先制犠飛の玉村・小湊は4回に2点タイムリー㊤、6回に3ラン。その前を打つ5年生の野口は3回に二塁打㊦など2安打1打点


玉村は先発の竹之内(5年)㊤が4安打2失点完投。守っては無失策で、4回には6-6-3併殺も決めた㊦


6回表、守る韮川は1-2の返球でスクイズを阻む㊤。その裏、三番・竹田が左越え2ラン㊦
―Pickup Hero―
先制、中押し、ダメ押し。すべて四番のバットから

第1打席のライトへの先制犠飛は、両翼70mの特設フェンスがあれば、超えていたかもしれない。第3打席は遊撃手の頭上へ2点タイムリー。そして第4打席は、右中間を鋭いゴロで抜いてのランニング3ラン。まさしく“四番の働き”でVの立役者となった。
「うれしいです。冬にバッティングを強化したり、守備も練習してきて、チームも仕上がってました」

1回に右へ先制犠飛㊤、6回に右中間へ3ラン㊦

小湊煌月は、4年生の秋に五番・捕手で関東新人戦に出場。中前打を放ったほか、マスクをかぶっても上級生に劣らぬ動きをしていた(=㊦写真)。そして1年後の昨秋の新人戦も、群馬大会を制して関東大会へ。

小湊のほか松本咲斗主将、室岡京、竹田隼に、5年生の野口虹斗と萩原瀧皇の計6人は、レギュラーとして2度目の関東新人戦だった。当然、優勝を期していたが、1回戦でラウンダース(山梨)に完敗してしまう。
112kmを投じた相手エースを前に、打線は手も足も出ず。四番の小湊も追い込まれてから105㎞、106㎞をそれぞれ空振りしての2打席連続三振に。
「悔しかったけど、相手ピッチャー(伊藤誉=「2026注目戦士❷」➡こちら)の球が速くて、コントロールも良かったので打てなかったです」

でもその経験が、冬場の鍛錬の大きなモチベーションに。6年生になると、その肩は敵を抑止するレベルにまで成長。この全国予選の準決勝と決勝は、相手の盗塁企図がゼロだった。5年生エース・竹之内翔真との息もぴったりで、2試合連続で完投勝利へ導いた。
「全国大会でも絶対優勝をめざして、がんばります。打って守って、玉ジュニらしい試合をしたい」
上背はまだそこまでないが、風格すら漂う四番・捕手。8月の全国デビューを楽しみにしているのは、本人や身内だけではない。
―Good Loser―
「切り替え」が生んだヒット&スマイル

背番号4の女子。右打席に立つ渡邉知春からは、にわかに高揚や喜びが読み取れる。
「バッティングは自信を持っています」
決勝は4回まで沈黙した打線にあって、5回裏にレフトへクリーンヒット(=㊦写真)。チーム2本目の安打で好機を広げた。後続が倒れて無得点、渡邉はそのままベンチに退き、6回表の二塁守備は中山眞汰に譲った。

実は前日の準決勝。八番・二塁で先発していた渡邉は2回の守りで送球ミスがあり、直後に交代した。一死二塁からの遊ゴロで二走を塁間に挟むも、ボールを保持した渡邉が三塁へ悪送球。ここから3点を失ってしまうことに。
だが、イニング中にフィールドを退く渡邉は気丈だった。肩を落とすでもなく、前を見据えてベンチへ(=㊦写真)。
「すぐに自分で切り替えて、次はミスをしないようにというふうに考えました」

長谷川陽志監督は当然、彼女のそういうパーソナリティも理解している。また決して、懲罰的な交代ではなかったという。
「内野陣が不安気な顔を見せていたので、ちょっと流れを変えようという狙いがありました。彼女へのペナルティという意味合いは、まったくありません」
その場で指揮官からのフォローがなくても、渡邉は自ら前向きになれた。おそらくそれも、翌日のヒットを生んだ一因だろう。
「弟(颯斗・3年)がチームに入りたいというので、私も一緒に入りました。4年生の始めくらいでした」
ハイレベルな同級生たちに比べて、野球キャリアは圧倒的に劣る。それでもチームに欠かせぬピースとなっており、守備は数を重ねるほど伸びるだろう。

常に活躍する選手などいない。ミスもあるし、ベンチを温めることもあるのが野球。そういうなかで、3つ下の弟にとっての“良き手本”になれているのではないか。水を向けると「はい!」と笑顔で返した渡邉は、7月末の上部大会(高野山旗)に向けて、ひと言。
「チームを救うような大会にしたいです」
―Team Inside Story―
創部9年。つややかな新興軍に秘む無限の可能性

➡高野山旗2026出場決定
韮川レッズは昨夏、スポーツ少年団の全国大会(エンジョイ!軟式野球フェスティバル2025)に初出場している。
「去年もそうでしたけど、走ってかき回すというよりは打って点を取るチーム。バッティングがものすごくいいですね」
長谷川陽志監督(=㊦写真)がそう話したのは、夏のもうひとつの伝統の全国大会、全日本学童マクドナルド・トーナメント初出場に王手をかけた後だった。

群馬ワールドウイングスとの準決勝は、9対7で勝利。3回を終えて6対6、双方で計13本もの長短打が飛び出した。そのゴングを打ち鳴らしたのは、トップバッターの佐藤真晟から岡本大和主将、竹田一翔へと続くトリオだ。1回表に続いて2回表も、彼らの3連打が得点に結びついた。

準決勝で先頭打者三塁打㊤の佐藤は、2回に中前打㊦と、打線を波に乗せた

投げては岡本主将と竹田の右腕2枚に、左の石戸谷瑠位が、いずれも100㎞前後の速球で真っ向勝負。守っては遊撃手の佐藤が、華麗に打球をさばいてみせる。左翼手の小林洸斗(=㊦写真中央)は、両翼99mのフェンス際まで飛ばされた超特大飛球をキャッチ。激戦の終盤に明暗を分けたのも、守備力だった。

「ウチは内野もノックで鍛えていますけど、外野は高い長い距離の打球をいつも練習しています」と話した長谷川監督は、コーチ陣への感謝も忘れない。
「私はふだんからがノックもしないですし、全体を見て『こういう目的でこういうことをやろうか』とコーチたちに伝えるだけ。それをコーチたちが考えて実践してくれて、意図もかみ砕いて選手たちに伝えてくれるので、非常に助かっています」

首脳陣の役割分担は、試合中もはっきり。イニング中の背番号30は、ベンチの端でフィールドをじっと見据えている。攻撃のサインは出すが、選手たちへの指示やアドバイスの大半は29番の君和田隼平コーチ(=㊤写真㊧)と、28番の五十嵐清コーチ(=同㊨)が行っている。
「こういう体制は、当初からですね。ずっと変わっていません」(長谷川監督)
人格者に白羽の矢
群馬県の太田市。韮川レッズは、直線距離で1㎞強の韮川小と駒形小を拠点とする。韮川小は明治維新から間もなくの開校で、150年もの歴史がある。
チームの創立は2018年。それまでそこで活動していたチームが解散し、路頭に迷いかけた親子たちで新たに現チームを立ち上げた。そして指揮官として白羽の矢が立ったのが、以前に父親コーチをしていた長谷川監督だったという。

持ち前の打力を存分に発揮した準決勝は、指揮官も時折り笑顔㊤。決勝は終盤まで一方的にリードされたが、言動は落ち着いていた㊦

これからの時代も、学童野球でまず求められ、チームや子どもをしかるべき方向へ導いていくのは、こういう人格者だろう。満56歳の長谷川監督は、実績や肩書きや年の差だけで人を服従させるような輩ではない。選手たちは表情も豊かで、野球や勝負に自ら没頭している様子も端々からうかがえる。


激勝(=㊤写真)の翌日、「小学生の甲子園」をかけた大一番は、別のチームになったかのように精彩を欠いた。それでも指揮官は鎮座したままで、完敗後は「力負け」と脱帽。特定の名前やミスをあげつらうことはなかった。
「相手の玉村(ジュニアベースボールクラブ)さんは、ノーブル(県新人戦)も選抜(春季県大会)も勝たれていて、決勝も場慣れしてましたよね。技術の差もだいぶ感じましたし、特に守備はウチよりも数段動けていました。高野山旗(7月24日開幕)まで、バッティングは継続しながら、状況判断をしっかりして動くという守備を練習していこうかなと考えています」

決勝で先発した岡本主将㊤は遅球も使い、三番手の石戸谷㊦は速球で押した。ともに苦しんだが、最後まで懸命に腕を振っていた

投打に捕手の三刀流のキャプテン、岡本大和は「ちょっと苦しかったです」と決勝のマウンドを振り返った。4回途中まで投げて5失点も、自責点は2。守るバックのミスが響いたが、仲間を追い込むような言動はなかった。
「自分を信じてバットを振ってこい!下を向いてても、打てないよ!」
ノーヒットの打線に、指揮官が奮起を促したのは4回の攻撃前だった。この回には死球の走者を一塁に置いて、四番・石戸谷が内野ゴロ併殺打も、打球はバットの芯で捉えたものだった。

そして5回には青木庵がライト前へ弾き返し、一塁へ頭から飛び込んでチーム初ヒット(=㊤写真)。
「いつもは、どこに打てばいいかとかを考えるんですけど、あの打席は絶対に打ってやると思っていて、コースの球に自然に反応しました」(青木庵)
0対8と水を開けられて迎えた6回裏。最後の攻撃で、自慢のトリオも気を吐いた。まずは佐藤が中前へテキサス安打。続く岡本主将は二飛に終わるも、三番・竹田が左越えのランニングホームラン(=㊦写真)。

だが、反撃もその2点止まり。あまりの悔しさで、ナインは涙も出なかったようだ。
春の県選抜大会に続いて、全国予選も決勝で玉村に敗北。しかも今度は、ぐうの音も出ない完敗だった。表彰式が終わっても、佐藤は「自分もエラーしたし、めっゃ悔しいです」と己に腹を立てていた。岡本主将は辛うじて、夏に向ける言葉を発した。
「この大会は強いチームもいっぱいいて、勝つのが難しい大会でした。決勝の内容は反省して、みんなで焦らずにプレーしてミスを減らして、ちゃんと確実に勝つチームを目指したい」
つややかな赤がよく似合う新興軍は、躍進の最中。豊かなパーソナリティも有能なタレントも、まだ続々と台頭してくることだろう。


