47都道府県の王者が出場する全日本学童大会マクドナルド・トーナメントは8月11日に新潟県で開幕する。関東地区で最初に代表が決まったのは、群馬県。どちらが勝っても初の全国出場となった決勝は、いつも通りの1点を奪う野球を貫いた新里スターズが、上川ジャガーズを4対1で破り、初優勝を飾った。戦評に続いて、ヒーローとグッドルーザーをお届けしよう。なお、優勝チームについては、『全日本学童大会』の展望コーナーで紹介している。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部、本塁打はすべてランニング
※※全国展望チーム紹介「新里スターズ」➡こちら
優勝=初
にいさと
新里スターズ
[群馬/桐生市]
■決勝
◇5月4日 ◇上毛新聞敷島球場
▽第2試合
上川ジャガーズ(前橋)
000010=1
10012 X=4
新里スターズ(桐生)
【上】細野-横堀
【新】中村、坂田-加藤
本塁打/蓮沼(新)
三塁打/加藤(新)
二塁打/細野(上)
【評】ともに初の県決勝で、どちらが勝っても全国初出場となる。昨秋の新人戦は、新里スターズが県ベスト8。上川ジャガーズは地区予選で敗退も、1年前の今大会で3位となり、その経験者も複数いる。
迎えた大一番は、終盤まで1点を争う展開となったが、明暗は初回から分かれた。先攻の上川は、死球と四番・酒井智奈美の中前打で二死一、三塁と好機をつくるも無得点。対する新里は敵失と盗塁、進塁打で一死三塁とし、三番の5年生・岩田彗真の投ゴロ(=上写真)で1点と、無安打で先制点を奪った。
上川は2回に一死三塁をつくるも、3バント失敗など無得点。3回には三番・細野良太が逆方向へ二塁打を放ち、二死から五番・横堀旭(5年)も右前へ打ち返したものの、ライトゴロとなって1点が奪えない。それでも先発右腕の細野が奮投し、1点差をキープしてきたが、4回にまたミス絡みで失点してしまう。
3回表、上川は細野が二塁打(上)。二死後、5年生の横堀(下)の打球は一、二塁間を破ったがライトゴロに
新里は4回裏、二死無走者から四番・中村銀我が敵失で一塁に出ると、二盗を決めてから五番・塚本大也が左中間へタイムリー。2対0として迎えた5回、粘投してきたエース・中村に代えて、左腕の坂田迅(5年)で逃げ切りへ。
上川打線はその代わりバナを攻め立て、一死一、二塁から細野の中前タイムリーで1点差に迫った。しかしその裏、新里は七番・加藤溜心の右中間三塁打(=下写真)に続き、九番・蓮沼快翔の右越え本塁打で4対1と突き放した。
最終6回表、上川は準決勝で2本塁打の長谷川蒼生が先頭で四球を選び、九番の4年生・矢端末嵐もよく粘って一塁へ歩く。しかし、後続が倒れて万事休した。
〇新里スターズ・田上健次郎監督「ウチの子たちはめちゃめちゃ成長しているし、上川の石原監督とは交流もさせていただいているので、駆け引きも楽しみにしていました。これまで悔しい思いもしながら、いっぱい練習したことが優勝につながったと思います」
●上川ジャガーズ・石原武士監督「ミスが複数出てしまい…ちょっともったいない部分もありましたけど、これが本来の姿というか、逆に準決勝までよくミスが出なかったなというのが正直なところです。それでも細野が良く投げて、接戦に持ち込んでくれました」
―Pickup Hero―
決めた右ゴロ!効いた2ラン!九番・右翼で存分の存在感
蓮沼快翔
[新里6年/右翼手]
プロ野球のようなヒーローインタビューがあったとすれば、間違いなく、この選手もお立ち台に呼ばれていただろう。
九番・右翼の蓮沼快翔。攻守にわたる大手柄で優勝に寄与した。決勝戦の文句なしのヒーローだ。
まずは守備で魅せた。1点リードの3回表、二死二塁のピンチで相手のゴロ打球が一、二塁間を抜けてきた。ライトを守る蓮沼は、バウンドを合わせながらのチャージで捕球するや、一塁へ正確な送球でライトゴロに(=上写真)。同点の危機を脱し、首脳陣からハイタッチで迎えられた。
そして九番の蓮沼に、第1打席がやってきた。場面は3回裏、無死一塁。悪くても一走を進めておきたいところだったが、バントの空振りとファウルで追い込まれてから、空振り三振してしまう。
この打席については試合後、しばらくの無言から「よく覚えていません」と蓮沼。しかし、最後の空振りからは、何とかバットに当てて転がそうとの意図がうかがえた(=下写真)。
結局、その3回の攻撃は無得点に終わるも、1点差に迫られた直後の5回裏に、バットで挽回するチャンスが巡ってきた。スコアは2対1で、状況は一死三塁。初球でまたもバント(セーフティ)をファウル、2球目は見逃しストライクで早々に追い込まれた。並の九番バッターなら、前打席の失敗もよぎって身を硬くしただろう。だが、蓮沼は頭を切り替えたという。
「もうバントという作戦はないから、打ってランナーをかえすしかない。ピッチャーはアウトコースが多めだから、外を狙っていく」
狙い通り、深く踏み込んで外角のボールを叩くと、白球は浅めにいた右翼手の頭上を超えて天然芝の上を転々。これで蓮沼は長駆生還し、貴重なダメ押しの2ランに(=下写真)。
「相手ピッチャーはアウトコースにビタビタだったので、『とにかくベースに近づいて立って、詰まってもいいから強気の踏み込みだぞ!』と、試合中にずっと言ってました。それを蓮沼が、見事にやってくれましたね」(田上健次郎監督)
当のヒーローは、8月の全国大会の抱負をこのように語っている。
「他の県の九番バッターに負けないようなプレーをしたいです」
本番までまだ時間がある。打順が上がっている可能性もあるが、持ち味とスタンスはきっと不変。いつどういう状況でも、やるべきことを明確にして、思い切りプレーするはずだ。
■Good Loser
――準優勝――
若いチームが1年前の「銅」を超えて「銀」に輝く
[群馬/前橋市]
かみかわ
上川ジャガーズ
➡高野山旗出場決定
上川ジャガーズが大躍進したのは、昨年度のことだった。現在は中学1年生となっている6年生8人を中心に、チーム記録を次々と塗り替えていった。
秋の新人戦で初めて群馬県の王者に輝き、年が明けての選抜大会も制して県2冠に。ただし、V候補の筆頭と目された、全日本学童大会の県予選は準決勝で涙。それも終盤で大逆転負けという、ショッキングな内容だった(リポート➡こちら)。
「去年のあの子たちと比べたら、今年はぜんぜん力が落ちます。ホントに、比べるのも可哀想なくらい」
キャリア20年超の石原武士監督(=上写真)が、そう語ったのは前日の準決勝に勝利した後。確かに、前年のようなサイズ感と迫力は欠いている。昨秋の新人戦は前橋市大会で敗退。今年は6年生が5人で、スタメンのうち3人は5年生、1人が4年生だった。
決勝で3四球を選び、唯一の得点をマークした九番の4年生・矢端末嵐(上)は、前年のエース・伶有の弟。右翼を守る5年生の武居颯太(下)も、昨年は兄・敦人らをベンチから応援していた
若いチームだが、なかなかの仕上がり。準決勝は野手7人がノーミスでバッテリーを助け、攻めては小刻みに加点し6対3でものにした。
1年前の県準決勝でもプレーしていた、一番・冨田一平主将は初回に先制の口火となる左前打など、2打数2安打1四球2盗塁の活躍。イニングの先頭で2本のランニング本塁打を記録した、六番・長谷川蒼生は「いつもはそんなに打てないけど、パワーはあるので当たれば飛ぶと思います」と振り返っていた。
そうした派手な活躍の陰で、二番・今井優音(5年)が2犠打、八番・矢野結花(=下写真)が1犠打。いずれも、その後の得点に結びついていた点も見逃せない。指揮官はこうも話していた。
「力はないなりに戦い方もいろいろと考えて。バントとかもホントによく決めてくれるし、この大会は一人ひとりがパフォーマンスを発揮してくれていると思います」
ところが、翌日の決勝は若さが出てしまったのか。「全国大会」を目の前にして、別のチームのように守りのミスが相次いでしまった。それでも冨田主将と同じく、前年からレギュラー組のエース右腕、細野良太(=下写真)が本領を発揮した。
相手の指揮官も絶賛したように、アウトコースへの制球が出色。失策絡みで1回と4回に1点ずつ失うも、辛抱強く投げ続けた。
「仲間がエラーしても、全力で投げ切って勝とうと。それだけ思っていました」(細野)
さすがに疲れてきたのか、5回には長打を浴びて計4失点となったが、自責点は2で完投している。5年生の捕手・横堀旭(=下写真)とのコンビで、二盗を阻んだシーンもあった。
「ウチはあの子(細野)が抑えてくれないと試合にならない。よく投げてくれたと思います」と石原監督。
2回には一死三塁から3バント失敗など、攻撃でもフラストレーションをためてきたが、三番を打つ細野が気を吐いた。3回には右翼線へ二塁打。そして4回には、一時1点差に迫る中前タイムリーを放ってみせた。
「優勝したかったので、すごく悔しいです」
敗北後は感情を吐き出した細野だが、試合中は冷静そのものだった。指揮官もまた、思い通りにいかない展開で激昂することもなく、試合後は選手たちを労う姿もあった。
「みんなよく頑張ったと思います。去年の徳島(阿波おどりカップ)でも良い経験をさせてもらいましたし、今年もこれ(県大会)で終わりじゃないので、高野山やJA(8月の県大会)に向かって、また頑張りたいと思います」(石原監督)
決勝は守備のミスが相次いだ中で、遊撃の冨田主将はすべての守備機会を無難にさばいた
手痛いミスや敗北を引きずらない。切り替えと立ち直りの早さは、チームの伝統になっていくのかもしれない。1年前は準決勝敗翌日の3位決定戦を制し、出場権を得た8月の阿波おどりカップで2回戦まで勝ち進んだ。
今年の全国予選は、その先輩たちを超える銀メダルに輝いた。そして7月末に和歌山県で開幕する、高野山旗の出場権を初めて手に入れた。ナインを代表して、細野が意気込みを語っている。
「高野山でも良いピッチングをして、ヒットもいっぱい打って、てっぺんを獲りたい」