第45回全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント茨城県大会は、茎崎ファイターズ(土浦市)の3年連続12回目の優勝で閉幕した。楠クラブスポーツ少年団(結城市)との決勝は8対0の5回コールド。2ケタ安打に被安打2の無失策と、ほぼ満点に近い内容だった。その絶対的な王者へも好戦的なスタイルを貫いた楠も、無失策など特質すべきチームだった。茎崎は11日開幕の全国大会に出場するが、準Vの楠もその後の予選を突破し、本日8日開幕のスポーツ少年団の全国大会(エンジョイ!野球フェスティバル)に初登場する。
(写真&文=大久保克哉)
※全国展望チーム紹介「茎崎ファイターズ」➡こちら
優勝
=3年連続12回目
くきざき
茎崎ファイターズ
[土浦市]
準優勝
くすのき
楠クラブスポーツ少年団
[結城市]
■決勝
◇6月22日 ◇ノーブルホームスタジアム水戸
▽第2試合
楠クラブスポーツ少年団(結城)
00000=0
3221 X=8
茎崎ファイターズ(土浦)
※5回コールド
【楠】直井大、三宅-阿部孝
【茎】百村、石塚-佐々木
本塁打/佐々木(茎)
二塁打/佐藤、柿沼、山﨑(茎)
【評】5回でコールド決着ながら、ともに無失策で合計5つの四死球も、すべて散発だった。茎崎ファイターズの10安打に対して、楠クラブスポーツ少年団は2安打と、この差が結果に表れたものの、決して退屈しない1時間強の勝負が繰り広げられた。
1回表の守りを6-4-3の併殺(=上写真)で終えた茎崎は、その裏に五番・佐々木瑠星の3ランで先制(=冒頭写真)。がっちりと握った主導権を、その後も手放さなかった。2回の守りでも同様の併殺を決めると、その裏は手堅く攻める。無死一、二塁から一番・宮下陽暉が送りバントを決め(=下写真)、内野ゴロと三番・石塚匠主将の右前打で5対0とした。
楠の先発右腕・直井大流は、失点しても四死球連発はなく、各打者と勝負した。援護したい打線は3回表、九番・山森光成が逆方向へチーム初安打(=上写真)。だが、茎崎の5年生右腕・百村優貴(=下写真)に、どうしてもあと1本を許してもらえない。
その百村に始まり、野苅家快成(=上写真)、九番・柿沼京佑までの下位打線3連打で3回に2点を加えた茎崎は、4回表の途中から石塚主将がマウンドへ。四番打者との力と力の勝負の軍配は、楠の小倉光士朗に上がり、中前へのクリーンヒットに(=下写真)。しかし、楠打線は以降の出塁がなく、4回裏に佐藤大翔のタイムリーで8対0とした茎崎が、3年連続12回目の優勝を遂げた。
〇茎崎ファイターズ・吉田祐司監督「守りからリズムをつくって、つないでつないで点を取っていく。投手もよく投げてバックもよく守って…この大会を通じて、ウチらしい野球で進めることができたので最高です」
●楠クラブスポーツ少年団・浅田陽介監督「秋に2回戦で負けた県大会に戻ってこようと、みんなで頑張ってきて最後に最高の相手とやれましたが、一歩も二歩も追いつけませんでした。ただ、チーム最高成績ですし、まずは満足。子どもたちを褒めてあげたいと思います」
―Pickup Hero―
“なめるなキケン”小兵の巧打者、外野オーバーもあり
かきぬま・きょうすけ
柿沼京佑
[茎崎6年/左翼手]
この小さな左バッターをなめると、相手はチームはえらい目に遭う。決勝もチームの10安打のうち2本は、柿沼京佑がマークしたものだった。
2安打ともセンター方向へのお手本のような打撃。2本目の打球は外野手の頭上を超える二塁打となり、走者2人を迎え入れた(=下写真)。
「長打力もついてきた? はい、少しは。平日練習の成果もあると思います」
名門チームの顔のような存在ではないものの、打席でも外野守備でも兼ねてからキラリと光るものがあった。共通しているのは「巧みさ」で、バットスイングは素直でシンプル。守備では打球への反応もアプローチも的確で、レフトもライトもこなせる器用さと野球知識がある。また、自分の考えや気持ちを素直に言葉にできる。
「日ごろの練習から真剣に取り組んできて勝てた。みんなで取れた県優勝なので、すごくうれしいです」
チームの平日練習は、春休みからほぼ無休で続いている。名門のトップチームの恒例ながら、「キツい!」と多くの選手が漏らす。柿沼もその一人だが、こうも話してくれた。
「キツいときは、ボクはみんなの顔を見るようにしています。みんなでやるので乗り越えられてきたと思います」
平日練習もやり遂げ、自信の根拠を増していよいよ全国舞台の新潟へ。「打って守って、チームに貢献するプレーをイメージして全国大会に入りたいと思います」
―Good Loser―
好戦的スタイルを貫徹。初の県準Vで躍進終わらず
くすのき
楠クラブスポーツ少年団
[結城市]
さすがはファイナリスト。いや、全国大会で見るようなハイレベルなチームだった。決勝は0対8の5回コールド決着ながら、3年連続の全国大会を決めた勝者・茎崎ファイターズにとっても、貴重な1試合となったことだろう。
逃げる野球はしない
まず目についたのが、大きくてパワフルな上位打線だ。序盤に喫した内野ゴロでの2併殺も、打球の強さが災いした面もある。クリーンヒットは四番・小倉光士朗の中前打1本に終わったが、一番・岡部颯太はスタンドインの特大ファウルも(=下写真)。
「…今日はあんまり自分の力を発揮できなかった。茎崎さんにはたくさん良いバッターがいたから、自分もそういうバッターになりたいです」
憮然と話した小倉は、ヒット1本で満足するような打者ではない。決勝は2打席しかなく、1打席目はファウルも2球あってのフルカウントから四球を選んだ。
他の打者たちも同様に、ボール球は見送りつつ、若いカウントからストライクを強振していた。3回には逆方向へチーム初安打、5回には右飛で最後の打者となった、九番・山森大成の打席内容もそうだった。
「彼らには先があるから、逃げる野球は覚えてほしくないというのが、ウチのコーチ陣も含めた考えなんです」(浅田陽介監督=上写真)
尊い理念と指導の成果は、投手陣からもうかがえた。先発した直井大流(=下写真)は、序盤から痛打されたものの、右腕はよく振れていて球速も時には3ケタに。失点が重なっても自暴自棄とならず、自分のボールを丁寧に投げ続ける背中に「1」の番号がよく似合っていた。
4回から登板した三宅寛汰も同じく、好戦的だった。2投手をリードした阿部孝弘主将は、このように振り返っている。
「打たれたことに関しては、相手が上だったなと思うしかないです。コールドで負けちゃったけど、自分たちのできる限りはやったから、あまり悔しくないです」
二番手の三宅はまた、1回裏の遊撃守備でヒット性の鋭い打球をさばいてアウトにしている(=下写真)。三塁手の水澤晴斗も、捕手の阿部も然り、きれいに腕を振って強いボールを投げる選手が多く目についた。それは、結果のノーエラーとも無縁ではないだろう。
積み上げた信頼
そもそも、ここまでのレベルとなった要因はどこにあるのか。浅田監督が真っ先に挙げたのは「経験値の高さ」だった。
「この子たちは上級生が1人、2人と少なかったので、必然的に低学年のころから試合はたくさん経験しているんです。ぜんぜん野球を知らなかったので、そこを教え込むのは苦労しましたけど、捕る・投げる・打つは、みんなそこそこできるんじゃないかなと思います」
上はマスクをかぶる阿部主将、下は三塁手の水澤
選手とベンチの大人たちの接点からうかがえたのは、信頼や絆の深さだ。終始、主導権を奪われる展開でも、指導陣から怒号や突き放すような言葉は聞かれず。選手たちは人の目を見て話を聞き、フィールドでは最後までファイトし続けた。
「子どもたちの能力や個々の頑張りを信じて、それを少しでも鼓舞できればと思って、常に取り組んでいます」(浅田監督)
聞くほど、知るほど、さらに引き込まれるようなチームが、意外にも過去の最高成績は県ベスト4。それを超え、決勝まで駒を進めた今回の躍進のきっかけは、県西地区の県予選1回戦にあったという。
「それまでどうしても勝てなかった、古河プレーボール(古河市)さんという素晴らしいチームとあたりまして、一丸の戦いで初めて勝つことができた。ここからチームがよりまとまり、1試合ごとに成長してきた感じですね」
浅田監督は就任3年目で、6年生の右翼手・那月の父。コーチを含めると11年の指導キャリアがある。
「来年? もちろん私はチームに残ります。わが子は卒団していなくなりますけど、6年生の弟たちも下にまだいますし」
初の銀メダルで「満足」と口にした指揮官だったが、チームの躍進は終わっていなかった。
県準Vで出場権を得たスポーツ少年団の関東大会を勝ち抜き、全国大会(エンジョイ!野球フェスティバル)出場を決めたのだ。全日本学童大会に並ぶ、夏の伝統のメジャー大会は本日8月8日から、三重県で始まる。