全国最多の900チーム以上が加盟する、東京都の全国出場枠は「2」。できることなら、一枚の切符を半分にして双方へ。第46回全日本学童マクドナルド・トーナメント都大会の準決勝第1試合は、そう思いたくなるほどのスケール感とスリルに満ちていた。「世田谷区対決」でもあった一戦に勝利した船橋フェニックスは、2年ぶり3回目の全国出場が決定。敗れた用賀ベアーズは、6日後に開幕した都知事杯で4強まで勝ち進んでおり、同じく4強にいる船橋と、7月19日の決勝で再激突する可能性がある。
(写真&文=大久保克哉)
※記録は編集部。本塁打はすべてランニング
■準決勝1
6月6日◇郷土の森野球場

◇C面第1試合
船橋フェニックス(世田谷)
130014=9
000401=5
用賀ベアーズ(世田谷)
【船】森下、大野、森下、大野-石黒
【用】佐藤、岡田-大和
本塁打/森下(船)、鵜入(用)
三塁打/大野(用)、石黒(船)
二塁打/髙橋亮(船)、常永(用)
【評】二番・大野凌駕のバント安打と二盗、続く倉持怜央の右前打で先制した船橋が、前半戦の主導権を握る。1回裏の守りを4-6-3併殺で終えると2回表、七番・髙橋亮馬の二塁打と髙橋冴優のバント安打で無死一、三塁に。ここでスクイズは失敗も、敵失と倉持の中犠飛で4対0とした。風向きが変わったのは4回。用賀は二番手の右腕・岡田大和が二死二、三塁のピンチを脱するとその裏、四球と四番・常永悠斗の左前打で無死一、二塁に。そして救援した船橋の大型左腕・大野から、五番・大野時生がライト頭上を襲う三塁打でまず2点。さらにバッテリーミスで1点、九番・早川和輝の適時打で4対4とした。だが、直後の5回表に、船橋は四番・石黒信匡主将の右越え三塁打と六番・佐々木翔瑛の中犠飛で勝ち越し。6回表には森下の3ランなどでリードを5点に。用賀はその裏、八番・鵜入瑛登が右中間へ本塁打。さらに二死一、二塁から三番・岡田もセンターへ大飛球を放つも、中堅手の森下がキャッチし、マウンドの大野が天高く飛び跳ねた。

船橋は1回表、倉持の中犠飛㊤で先制。裏の守りでは4-6-3併殺を決めた㊦


用賀は4回裏、岡田が四球㊤、常永が左前打。そして大野が右越え2点三塁打㊦から、暴投で生還


4回裏、1点差に迫った用賀はなお、渡辺の右前打㊤から二死二塁として、早川が右翼線へ同点タイムリー㊦


追いつかれた船橋は5回表、石黒主将の三塁打㊤と佐々木の犠飛で勝ち越し。続く6回、森下の3ラン㊦が決勝打に

―Pickup HERO―
“怪物級ツインタワー”に続く、頼もしき仕事人

サイズと投打走のパフォーマンスは、もはや高校生の域に近いツインタワー。森下貴斗と大野凌駕の一・二番を筆頭に、破壊力も満点の船橋フェニックス打線にあって、いぶし銀の光を放っているが、三番の倉持怜央だ。

2回には中犠飛を放つ(=㊤写真)など、もちろんパンチ力もある上に、状況に応じた打撃に小技もできる。
「タカト(森下)とリョウガ(大野)がいつも塁に出てくれて、後ろにはノブ(四番・石黒信匡主将)とかがいてくれるので、自分はアウトになっても、できるだけランナーをかえせるように」
常にそういう意識でいるからだろう、どの打席も落ち着いている。ベンチのサインや指示にも「はい!」と、ごく自然に出る返事は、己の準備と指揮官の思惑との符号を示すシグナルのよう。

1回表、一死二塁では逆方向のライト前へ転がした(=㊤写真)。流れも引き寄せた先制タイムリーは、こういう狙いの果てだった。
「フライを上げたら、ただアウトを増やすだけなので、なるべく流すことと、ゴロで内野を抜けたらいいなと」
しっかりとボールを呼び込みつつ、浅めのテイクバックから確実にミート。プロセスも見事に意図に沿っていた。6回には送りバント(=㊦写真)で、イニング4得点目(記録は野選)をアシストした三番バッターは、全国大会に向けての抱負をこう語っている。
「自分が出るのが最優先じゃなくて、ランナーがいたらかえして、いなかったら次につなげるようなバッティングをしたいです」

―Good Loser―
「大東京に用賀あり!!」黄金世代のエポックメイキング

第3位
準決勝は、同じ世田谷区同士の対決。互いに手の内も知り尽くすことが「噛み合う」勝負を助長した面もあるだろう。だがそれを差し引いても、双方のハイパフォーマンスは大激戦区「東京代表」を決するに値するものだった。
外野の打球はフリーで、ランニングホームランが1本ずつ。それ以外にも、両翼70mの特設フェンスがあったとすれば、ダイレクトで越えたと思われる打球が、両チームで数本はあった。

併殺や中継プレーも主導した遊撃手の常永悠斗は、四番打者として3打数3安打㊤。三番・岡田は、ファウルの打球も鋭かった㊦

大飛球の数が多かったのは船橋フェニックスだが、守る用賀ベアーズの外野陣がことごとくそれを好捕、または適切な中継プレーで本塁生還まではさせなかった。パワーで上回る船橋に対し、用賀は周到に対処。それはまた守備に限らない。
船橋投手陣の満点の球威を逆手にとるような、逆方向へのミート打法も随所に。そうした「パワー対リアクション」の構図が、スリリングで熱い勝負に拍車をかけていた。

左翼手の平尾大地㊤は、シュアな打撃で2安打。中堅手の藤熊恭士㊦は、フライ捕球からの本塁好返球も

「身体能力の高い選手が多いので、外野守備も楽しくできるように、やってきたつもりです」と、用賀の村上太郎監督。よく汗をかいた外野陣のなかでも、右翼を守る鵜入瑛登の守備力は突出していた。

好守連発の右翼手・鵜入㊤は、6回に右中間へ本塁打も㊦

その鵜入は最終6回裏、5点を追う攻撃で右中間へランニングホームラン。さらに敵失と四球で二死一、二塁として、三番・岡田大和がジャストミートした打球はセンター方向へぐんぐん伸びていく。
本塁打なら1点差、でなくても2点差には迫る長打コースだ。マスクをかぶっていた船橋の石黒信匡主将も「最後は岡田クンにとらえられたので、(外野を)越されたかなと思いました」と脱帽する当たり。だが、50mを6秒7で駆ける中堅手・森下貴斗がその大飛球をスーパーキャッチ。これで幕が下りると、村上監督は唇を噛んだ。
「(岡田は)完璧なバッティングだったんですけどね。あれだけ外野も深いところに守られているので…」

パワーvs.リアクション
ただ力任せに、投げて打って走って守ることがスケール感ではない。後先も考えず、各自の好き放題の野球で「東京ベスト4」まで勝ち上がれるわけもない。
用賀の先発・佐藤傳修は、3回4失点も自責点は1点。2回には自らの好フィールディングでスクイズを阻み、味方のミスで失点しても乱れず、3回は3者凡退に。二番手の岡田も粘り強く投げた。6回には4対9と引き離されるも、続くピンチを1-6-3併殺で切り抜けている。

佐藤㊤は右の本格派。大和主将とのバッテリーで2回にはスクイズを阻止㊦

準決勝第2試合の開始が迫っており、選手たちのコメントを拾えなかったが、用賀ナインの「諦めない!」姿勢は最後までうかがえた。それも象徴する圧巻の一打が飛び出したのは、4回裏だった。

あと1本が出ないまま、0対4で迎えた攻撃。岡田の四球と四番・常永悠斗のヒットで無死一、二塁とすると、船橋は大型左腕の大野凌駕をマウンドへ(=㊤写真)。大野は6日後の決勝で121㎞(球場表示)をマークすることになるが、そのスーパー左腕の初球を、五番の大野時生がライト頭上へ弾き返した(=㊦写真)。
「気持ちがないと、なかなかあそこまで振れないと思います」と指揮官も絶賛した一打は、走者2人をかえす三塁打に。そしてさらに4対4と、一度は試合を振り出しに戻してみせた。

用賀の大野は今大会の3回戦で、逆転サヨナラ二塁打も放っていた。相手は昨秋の新人戦王者、レッドファイヤーズだった。
「5回まで1安打に抑えられていた打線が、最終回によくつながって。今日の相手(船橋)のことはみんなよく知っているし、ピッチャーの失投もミスも少ないので『いい球が来たら逃さないように』という確認をしてました。そういう面では、今日もホントに選手たちが頑張ってくれたと思います」

村上監督は「ただ」と言って、こう続けた。「4回に同点にした勢いで一気にいきたかったし、いけなかったことが最後のああいう展開に…野球の流れというんですか」。
同点直後も、指揮官は勝負に出ていた。二死一塁で一番・大和結星主将がフルカウントになったところで、エンドランを敢行。結果はファウルで、次の1球で見逃し三振となるが、ここはマウンドのスーパー左腕を称えるべき内容だった。
4年時に東京を制覇
「小学生の甲子園」にはあと一歩、届かず。1978年創立の用賀は、スポーツ少年団の全国大会(エンジョイ!野球フェスティバル)を含め、夏の2大メジャーの全国大会に出場歴はまだない。
しかし、今年の6年生たちはチーム史を次々と塗り替えてきた。2024年の秋に、4年生以下の東京王者を決するジュニアマック(マクドナルド・ジュニアチャンピオンシップ)を初制覇。5年時の昨年は14人でBチームを編成して各大会に挑み、全国予選の都1回戦と2回戦で2ケタ得点(3回戦敗退)。続く都知事杯の本大会にも出場した(優勝した不動パイレーツに1回戦で敗北)。

今年1月の交流大会では滋賀・多賀少年野球クラブ(9大会連続の全国出場決定)と引き分け㊤。3月の東日本交流大会㊦では、関東新人戦王者の清水ヶ丘ジャイアンツ(神奈川)を下している

最上級生となって迎えた昨秋の新人戦は、都3回戦で深川ジャイアンツに8対9で敗れるも、新春のナガセケンコー杯では決勝で船橋を下して初優勝。そして迎えたのが、この全国予選だった。
小学高学年生は、心身が成長する時期と度合いのバラつきが著しい。そういうなかでも、これだけ安定した実績を残しているのは、指導力と個々の努力の賜物ではないだろうか。
大目標の「全国出場」は逃したものの、仕切り直しの都知事杯フィールドフォーストーナメントでも、レッドファイヤーズを返り討ちにするなどベスト4まで勝ち進んできている。また同じく、トーナメントの反対側の山では船橋も勝ち上がっており、準決勝(7月12日)次第では、世田谷同士の頂上決戦となるかもしれない。

船橋の岡本隼人監督は、全国予選の決勝も制して「東京第1代表」の座に就いた際に、こう漏らしていた。
「用賀さんはやっぱり強かった。ホントは決勝でやりたかったですね」