全国出場しているから偉いのではないし、保護者の当番制がないから尊いわけでもない。大人の暴言や怒声ゼロは当然として、不自然な笑顔で取り繕うでもない。とにかく、学童野球チームの本分とは本来、これではなかろうか――。そのように、えらく納得させられるチームが山梨県にあった。創設者でもある監督のインタビューに始まり、今回で3本目となる練習動画まで、シリーズでお伝えしてきたラウンダースだ。昨秋の関東新人戦で際立った、細やかな野球と勝負強さ。その秘訣を探るべく、3日間の密着取材で見えてきたのは、あるべき今と未来にもつながる理想郷と育成メソッドだった。
(動画&写真&文=大久保克哉)
とことん野球をやれる理想郷。何をするかより、いかにやるか――賢い手法で心も育んだ先にある勝利
Series lineup
【勝負強さのヒケツ】
動画=全4本計39min
❶監督インタビュー『元国体V腕!!公私で指導する智将に訊く』➡こちら
❷打撃の体系的指導と基礎スキル習得&改善ドリル』➡こちら
❸ムダ球なしで8人稼働!!実戦練習』➡こちら
❹効率的な守備強化と名物練習』➡こちら※New

「仲間になりたかった」
ラウンダースには、父母会や保護者の当番制がない。また専任の指導者は2人だけ。それでも感心するほど、練習が機能的に行われているのは、指揮官の機転と引き出しに加えて、「全力コーチ」たちのサポートがあるからだ。
「全力コーチ」とは、グラウンドに入る選手の父親たちのこと。指導はしないが、打撃投手やノッカーや球拾いなどを黙々とこなす。その数の多さと保たれた秩序は、平日の屋内練習(動画❷➡こちら)でも顕著だった。

全力コーチたちは指揮官の指導内容や意図も理解した上で練習をそれぞれ手伝う。「教えたいことがあれば直接ではなく、まずは私に話してくださいと伝えています」(日原監督)

もちろん、その任務は義務や強制ではない。野球の経験も技能も不問で、毎回の顔ぶれも違う。
背番号29の益田陽介コーチが、週末ごとに参加予定者を集計して指揮官に伝え、その頭数も踏まえた最善の練習メニューが弾力的に組まれていく。こういうシステムが確立したのは、ここ3年のことだそうだ。

ネーミングも着想も、日原宏幸監督(=㊤写真)による。「全力コーチ」とプリントされたTシャツが、同監督から全家庭にプレゼントされたのが事の始まりだった。
「お父さんたちとの距離をなくしたかったし、そういうの(Tシャツ)があると入りやすいかなと。私は監督だからって別に偉いわけでもないし、同じ大人として、子どもたちに野球を楽しく伝えてもらいたい。そういう仲間になりたかったので。今でもホントにみなさん、よくやってくれていて、ありがたいです」(日原監督)

現役時代には社会人軟式で日本一にまで上り詰めた日原監督。好きな言葉は「全力」で、2012年に立ち上げたラウンダースでも、よく用いているという

全力コーチの一人、矢部誠二さん(=㊦写真)は打撃投手なら軽く200球はいけるというツワモノ。次男の聡二郎(現中2)は、2024年の全国出場メンバーで、三男と長女は在籍中だ。そんな矢部さんが幼い次男を伴い、初めてラウンダースの門を叩いた当初の感激を、きのうのことのように話してくれた。
「もう驚きでしたね。ボールを1つ捕るところから、こんなにも教えてくれるのかと。自分も中学硬式までやりましたけど、そんなの教わったことない、ということまで細やかに。これがホントの野球なんだなって、しみじみと感じましたし、それは今でも変わりません」

指導陣のコミュニケーションも密。㊦写真右から日原監督、益田コーチ、奥山嘉紀コーチ

益田コーチも、始まりは「全力コーチ」だった。強豪私学高まで野球をしてきた同コーチも5年前、当時2年生の息子・有羽(現中1)とラウンダースの一員になった際に、同様の感慨が生じたという。
「こんなにちゃんと野球をさせてくれるのかと、びっくり。入ったばかりの息子とか下級生にも時間を取って、打たせてくれたりするんですよ。それが大事な大会前でも変わらないので『監督、メインの子たちの練習を優先してください』と言っても、『いや、これがオレのやり方だから』と」(益田コーチ)

人の目があろうとなかろうと常に「全力」の奥山葵登主将は、行動でも言葉でも集団を動かせる。さすがに、ここまで頼もしいリーダーの台頭は毎年のことではないという

今年の6年生は13人。背番号4の小玉翔太(=㊦写真)は、昨秋の関東新人戦(準優勝/リポート➡こちら)はベンチを温め続けた。小柄だが身のこなしが巧みで、捕る・投げる・打つのすべてが基本に忠実。また、いかにも練習にハマっている様子が見受けられたが、理由をこう話してくれた。
「うまくできないときに、監督がちゃんと教えてくれて、上達を感じられたときがうれしいです。例えば? サードをやっていて速い打球が苦手だったんですけど、『まずはグラブの面をボールに向けてごらん』と。それで怖さを忘れることができて、だんだん反応できるように…」

学童界の希望の光
保護者の当番制がないことを得意気に喧伝したり、大人の怒声罵声の有無だけで「楽しい」と「厳しい」とを区分したり、はたまたそれで居直ったり。
末期的とも言える風潮が広まる学童球界にあって、ラウンダースが“希望の光”に思えてならないのは筆者だけだろうか。彼らの日常は、大事なことを見落としがちな昨今の滑稽や虚無を浮き彫りにしている気がしてならない。

とことん野球ができる。指導者は子どもに寄り添って野球を教え、快適に存分に全員に野球をさせている。学童チームとして、本来は当たり前の本分に、あらゆる知識と経験と創造力、情熱にマンパワーも投入している。それがラウンダースの最大の特色であり、魅力である。
だから、どの子も自ずと夢中になって、成長が加速する。創設14年で2回の全国大会(全日本学童マクドナルド・トーナメント)出場もその結果であり、その順序がひっくり返ることは今後もありえないだろう。

山梨大会決勝で逆転サヨナラV㊤。6年ぶり2回目の全国出場を果たしたのは2024年のことだった㊦
※2024県決勝リポート➡こちら

日原監督の指導は、子どもたちが決めた年間目標に根差している。そして子どもの特性も利用し、練習は質と量とを絶妙なサジ加減で調合しながら、計画的にまた段階的に行われている。
全国区の強豪チームだからと、崇高で珍しい内容を実践しているわけではない。高価な器具類が潤沢に備わっているわけでもない。それでも節々に、賢い仕掛けが見て取れる。選手の一人ひとりに、いかに効率的に効果的に野球をさせているか――こういう視点で練習動画を視聴いただくと、気付けることが多々あるはず。

1球すらもムダ球がなく、投球ごとに8人が稼働する実戦練習(動画❸➡こちら)は、革命的とも言えるほど斬新だ。あるいは、ノッカー3人で同時進行する守備練習(動画❹➡こちら)。ノッカーの数と配置の妙は動画内で解説済だが、選手たちの配置もミソ。球拾いや声出し係は皆無で、各ポジションにほぼ3人ずつ割り振られていることで、程よいペースで全員に順番が回ってくる。
屋内の打撃練習(動画❷➡こちら)では、指揮官が「どう?」と、選手たちの声や反応を確認しているのも印象的だった。勝っているから、結果が出ているからって同じ方法だけに終始しない。生身の人間、一人ひとりの個性や持ち味とも向き合う指揮官は、より良い方法を常に模索しているという。
そうして大人とのコミュニケーションも日常的にあるせいだろう、どの選手も自分の考えや意見を自分の言葉で話せる。このあたりは、過去の大会レポートでも、お分かりいただけるはず。

練習後のグラウンド整備も、道具類の片づけも選手が自分たちで。ボールが1個でも足りなければ、全員で探し回る㊤。練習序盤の基礎動作㊦はその後の練習にリンクしていた

大人の怒号はおろか、感情的な言動が一切ない。それでもなぜ、このチームの選手たちは野球が巧みで、またこんなにも勝負強いのか――。今回の訪問取材のメインテーマがその謎解きだったが、答えは「ラウンダースの8割、9割と言えるくらい大事にしている」(日原監督)という名物練習に集約されていた(※動画❹)。
内野のダイヤモンドを使っての、ボール回し20周。これに制限タイムがあり、達成するまでエンドレスというものだ。「全国制覇」という大目標を掲げる今年の代は、新チームの始動時に2分20秒からスタート。そう簡単にクリアできるタイム設定ではないし、ワンミスが命取り。失敗が続くほど心身は削られていく。それでも毎月1秒ずつ、着実に更新。進歩が可視化され、集団がよりまとまる。

ストップウォッチを手にする指揮官は、このメニューのときばかりはクールな鬼に徹している。「達成できないから『もうやめていいよ』という前例をつくってしまうと、どこかでまた甘えが出てしまうかも。だから、成功するまで終わりません」(日原監督)
その分、タイムクリアにもつながる技術的なヒントは、毎回の基礎練習に散りばめてある。また多くの下駄を選手たちに預けており、仲間同士で声を掛け合ったり、考えや意見をぶつけ合う場を設けるなども自由。このメニューでは、指導陣が行動を指図することはない。
こうして公式戦にも近いプレッシャーのなかで、各々がベストのプレーを心掛けながら、目と耳と口も使って仲間を信じて助け、全員で成功へと向かう。むろん、捕る・投げるのスキルも底上げされていく。こういう日常があるから、大きな大会でも変に萎縮したり空回りせず、力を発揮できるのだろう。

たかがボール回し、されどボール回し。ありふれた練習メニューでも、やり方次第でモチベーションも成長の度合いも跳ね上がる。まして、経験値の低い小学生たちが主体的にやるのだから、プラスの波及効果も計り知れない。
幼児対象の体操教室も生業とする日原監督は、そのあたりも計算づくのようだ。
懸念されるとすれば
さて、今夏の日本一は達成されるのか。有力な候補であるのは間違いないが、未知数でもある。そもそも、全国出場(2年ぶり3回目)も約束されたわけではなく、まずは山梨予選を勝ち切らなくてはいけない。
スポーツである限り、勝ち負けはついて回る。そういう目先の結果がどうあれ、ラウンダースの繁栄と躍進は続いていくことだろう。そこに日原監督と、その理解者たちがいる限り。
懸念されるとすれば、選手が増えて組織が肥大したときに、アットホームな今日のムードや、1人あたりの野球の質と量が担保されるのか、ということくらい。でもそれならそれできっとまた、新たな手法が編み出されていることだろう。リアルに予想できる近未来のまたいつの日にか、再訪をさせてもらいたいと切に願っている。

【野球レベル】全国大会出場クラス
【活動日】土日・祝祭日=9時~17時(低学年半日)、水・木=19時~21時
【規模】学年3~10人、全体35人
【組織構成】5・6年生チーム/1~4年生チーム/運営面も監督が担い、保護者の組織と当番制なし
【創立】2012(平成24)年
【活動拠点】山梨県山梨市
【スタッフ】代表兼監督=日原宏幸/コーチ=益田陽介、奥山嘉紀
【選手構成】合計36人/6年生13人/5年生10人/4年生2人/3年生6人/2年生2人/1年生3人※2026年4月20日現在
【全日本学童大会出場】2回=2018年3回戦/2024年2回戦


