完全試合も遂げたV腕がいた一昨年。そして124㎞を投じるモンスターが躍動した昨年。この直近2年が特別で、今年は例年に戻ったということなのかもしれない。誰もが「怪物!!」と認めるようなパフォーマンスは見られなかった。負けたら終わりの大会ゆえ、埋もれたまま消えた能力もあるかもしれない。しかし、持てる力を本番で発揮することや、チームを勝たせるのもまた実力だ。全50試合のうち18試合を現場で取材した『学童野球メディア』が、個人成績も集計・加味した上で、今夏の夢舞台を彩った俊英たちを紹介していく。第1弾は、投打の「二刀流」で輝いた8戦士。
(写真=福地和男)
(写真・文=大久保克哉)
―投打二刀流❶―
捕手でもスケール大の『三刀流』
なかた・こうき中田昊輝
[広島・安佐クラブ]
6年/右投左打
現場で取材した限りでは「No.1」の本格派投手だった。168㎝58㎞の身体を持て余していない。整ったフォームから右腕を存分に振って投じるストレートは、迫力満点だった。
下位打線はストライク先行で、ねじ伏せる。上位打線やピンチの場面では、スローボールも交えて各打者とじっくりと勝負。投げ終わりに、軸足の靴底がきれいに天を向いているのも特長的だった。
「ピッチャーは佐々木朗希投手(ロッテ)が好きです」
8月の広島県の大会で更新したという最速は118㎞。今大会はリリーフ登板で3つ勝って、聖地・神宮での準々決勝へ。同球場は学童16mの投球距離に合わせた計測システムがないものの、コンスタントに110㎞前後を投げていたと思われる。
同点の5回に二塁打3本で決勝点を奪われて敗北。「勝負したんですけど、甘く入ってしまって思い通りのボールを投げられなかったのが一番悔しいです」と号泣しながら話した。
バットを持てば、左打席から鋭い当たりを連発。1回戦で二塁打2本、2回戦では右中間の特設フェンスの向こうへアーチを描いた。続く3回戦は3打席連続四球も、打ち気にはやることなく、準決勝も好球必打で二塁打と2点タイムリーを放った。
さらには捕手としても出色だった。とりわけ見事だったのは、強肩とフットワークだ。2回戦、3回戦と初回に二盗阻止。けん制とクイック投法に長けていた大深修主将とのバッテリーで、流れを呼んだ。また3回戦では、ライトゴロのベースカバーに入り、一塁悪送球を拾っての矢のような二塁送球で打者走者をタッチアウトにするビッグプレーもあった。
「キャッチャーは甲斐拓哉選手(ソフトバンク)が好きです。これからもピッチャーとキャッチャー、両方でいきたい。夢はプロ野球選手です」
ひとしきり激しく泣いた後は、爽やかな笑顔で聖地を後にした。姉3人に続く、末っ子。中田家でもきっと待望だった男児は、スケール感はそのままに、世代の夢も負っていくことになるのかもしれない。
―投打二刀流❷―
大会No.1リードオフマン
やまだ・たくと山田拓澄
[大阪・新家スターズ]6年/左投左打
1年前の全国舞台も六番・中堅でフル出場、ホームランも放って日本一に貢献したときから「世代屈指」と注目されてきた。投打二刀流にトライして1年、満12歳には長くて重すぎるプレッシャーもあっただろうが、見事にチームの2連覇に貢献した。
「うれしいです。プレッシャーはまぁ、ありましたけど、チームを勝たそうと思って頑張ってきました」
身体そのものの成長期の訪れは、まだこれだからなのだろう。パワーの点では目立った上積みはなし。今大会は5試合でノーアーチに終わった。
「当たりはまぁまぁ、出てきました。打席では別に何も考えずに、来たボールに対応するだけ。サク越え? 無理ですね」
こう繰り返してきて迎えた大一番の決勝で、打棒が激しく火を噴いた。エンタイトル二塁打2本や、フェンス直撃の“シングル”2点タイムリーなど5打数4安打(※5回雨天コールドのため、6回の二塁打1本は記録なしで4打数3安打)で、大勝の立役者に。
トップバッターとしては、大会随一だった。5割近いアベレージに加え、状況によっては四球を選んだり、バントを決めたり。出塁後は前の塁が空いていれば、ことごとく走って7盗塁(三盗4)、100%の成功率だった。投手陣の柱にはなれずも、コントロールが安定しており、毎試合の継投策の中で役目を全うした。
難関私学に通う山田にはその後、新たな道も拓けている。年末の学童球児の祭典「NPB12球団ジュニアトーナメント」に、オリックスジュニアとして出場することに。超ハイレベルの中でも、輝く瞬間がきっとあるだろう。
―投打二刀流❸―
王者にもやり返したインパクト
なかい・ゆうと中井悠翔
[埼玉・山野ガッツ]6年/右投右打
2回戦で消えるには、あまりにも惜しいチーム、そして猛者たちだった。前年王者の大阪・新家スターズをあと一歩まで追い詰めた山野ガッツと、その面々だ。
中でも強烈なインパクトを残したのが、一番・投手の中井悠翔だった。1回表、先頭の山田拓澄(※二刀流❷)に、左中間フェンスの向こうへ運ばれるエンタイトル二塁打を浴びてしまう。
「やっぱり、全国優勝を経験している人にはボクのストレートもぜんぜん通用しなかった。でも『大丈夫』と自分に言い聞かせて、5失点(投球1回1/3)したけど、自分では投げ切ったと思います」
負け惜しみではない。1回戦では3回を無安打に封じたストレートで、前年王者のバットを押し込む場面も多々。だが、運に嫌われて、守備シフトの裏を突かれる形の内野安打やポテンヒットも波に乗れない一因だった。
それでも3点を先制された直後の1回裏、初球攻撃からの二塁打で打線に火をつけた。第2打席は左越えのエンタイトル二塁打。6対5と逆転して迎えた第3打席では、三遊間を鮮やかに破るタイムリーでリードを2点に広げてみせた。
「勝てなかった(逆転負け)のは悔しいけど、自分たちの持ち味は出せたと思います」
やられたまま終わらない。これからの人生でも、きっとそんなしぶとさも発揮しながら大人になっていくことだろう。
―投打二刀流❹―
本塁打と打点の2冠ここにも!
やまもと・だいち山本大智
[東京・不動パイレーツ]6年/右投左打
この選手の著しい成長と投打の活躍がなければ、チームの銅メダルはなかったかもしれない。今大会で特に図抜けていたのは、打撃の飛距離だった。
準決勝まで5試合で4本塁打。これは昨夏に銀メダルに輝いた先輩、阿部成真(多摩川ボーイズ1年)の「6試合3本」(➡こちら )を超えており、今大会でももちろん最多だ。さらに2本の犠飛もあっての「12打点」も同じく大会最多。あのMLB・大谷翔平よりも早く、学童の夢舞台で『打撃2冠』となっている(※個人表彰制度はなし)。
なぜ、こんなにも打てるのか。「自分でもよくわかりません」との返答だったが、写真でも分かるように骨盤が倒れた状態での押し込みがまた謎だった。
一般的には、骨盤が立った状態でこそ左右の腰が前後し、大きなパワーを生むと言われている。だが、これだけの結果を前にすると、そんな講釈も吹き飛んでしまう。今の山本の身体にマッチしたフォームであるというのは、右腕が力強く振られる投法にも共通していた。
―投打二刀流❺―
準決勝で6回無四球完封劇
やまぐち・りゅうと山口琉翔
[兵庫・北ナニワハヤテタイガース]6年/右投右打
軟投派のエクセレント。打たせて取るピッチングの極みだった。準決勝で6回3安打完封勝利。四死球なしで1三振という結果も示すように、剛速球で打者を圧倒するわけではない。
フォームもリリースポイントも安定しており、内外にボールを散らしながら多少の球速差も加えて、凡打の山を築いていった。詳しくは試合リポート『ヒーロー』(➡こちら )にあるが、石橋孝志監督の教えと愛のある放任が招いた快投でもあった。
打者としてはバットの扱いが巧みで、広角にヒットを放った。決勝までの6試合で唯一、無安打だった準々決勝では一死二、三塁でゴロを転がして打点をマークしている。
投打でポテンシャルを十分に示し、銀メダルにも輝いた。数年後、身体も見違えるように大きくなったころを楽しみにしているのは、満74歳の指揮官だけではない。
―投打二刀流❻―
過去Vの名将も脱帽の快投
いちむら・けいしん市村継心
[神奈川・平戸イーグルス]6年/右投右打
1回戦で無四球の6回2失点完投勝利を収めると、2回戦では二塁打2本を含む3安打7打点とバットで勝利に貢献。そして迎えた3回戦が、市村継心のハイライトだった。
相手は過去2連覇の実績がある滋賀・多賀少年野球クラブ。「ツボにはまれば、打順に関係なく誰でもフェンスオーバーする」と辻正人監督は話していたが、その打線を手玉に取った。
緩急と内外への投げ分けで凡打の山を築いて、5回まで散発3安打無失点。大会2度目の完投どころか、完封が見えてきた6回一死で1対1に追いつかれてしまう。球数も既定の70球を超えて降板も、チームは直後にサヨナラ勝ちを収めている。
逆方向への力のない打球が目立った多賀打線について、「一番の理由は相手ピッチャーのレベルが高かった」と名将も脱帽するしかなかった。
―投打二刀流❼―
ここぞで働く「ザ・仕事人」
とみた・ゆうき富田裕貴
[愛知・北名古屋ドリームス]6年/右投右打
3試合で救援して7イニング強を投げて防御率0.00。剛速球はないが、内外へのストレートはなかなかの威力で、ほしいところでストライクを奪えるのも強みだった。そして場面が苦しくなるほど、冷静な投球が冴えまくった。
3回戦の特別延長で敗れたものの、9イニングに渡る名勝負は、この右腕の粘投もあればこそだった(※追って特報予定)
大会打率は2割ながら、バットを持っても頼れる「仕事人」だった。2回戦では敗北まであと一死という土壇場で、レフト前へ起死回生の同点タイムリー。普段はもの静かな主将が、何かを吠えながら一塁へ走る姿が印象的だった。
勝負強さは、今に始まったことではないようだ。現在もマウンドで使っている世界で唯一のマイグラブが、ひとつの証し。4年生に上がる直前のローカル大会「多賀グリーンカップ」でMVPを受賞し、副賞(=下写真)で得たオーダー製のものを愛用。今ではサイズもピッタリだ。
―投打二刀流❽―
無数の見せ場、勇ましき10番
かませ・きよまさ鎌瀬清正
[東京・不動パイレーツ]6年/右投右打
準決勝の6回表だった。結果として夢舞台で投じた最後の1球は、こん身のストレート。最後の攻撃につなげられるように狙ったという、空振り三振を奪うと力強く拳を握った。どこまでも勇ましいキャプテンだった。
投手として捕手として二塁手として、また二番打者として、いったいどれだけの見せ場をつくったことか。チームは2回戦、3回戦と、フィクションのような大激戦を逆転で制してきたが、その引き金は2回戦の4回、再々逆転となる2ランだったかもしれない。この一発を放ったのも、キャプテンだった。
背番号30の実父・鎌瀬慎吾監督も、思わず酔いしれたアーチ。夢舞台での息子の台頭の要因を問うと、こういう答えだった。
「清正は兄2人がいて3番目。2個上のお兄ちゃんたちの代のチームに、幼稚園のころから入れてもらってやってきたので、人より球勘みたいのがあるのかな。あとは、夏前から体が大きくなり始めたところもプラスに働いたと思います」
夢舞台は終わっても、進化は止まらない。9月の東京都王座決定戦の決勝で、「東京無敗」だった船橋フェニックスを大逆転でついに打倒。その決勝打も主将のバットから生まれた。巨人ジュニアの一員として出場する年末の祭典では、モンスターになっているかもしれない。