【東京都第1代表/2年ぶり3回目】船橋フェニックス

2026.07.31 |更新日:2026.07.31 2026プレビュー
【東京都第1代表/2年ぶり3回目】船橋フェニックス

 磐石や鉄壁でないのが逆に、魅力にすら思えてしまう。それはきっと、底知れぬノビシロと、突き抜けた強さのせいだ。破天荒でサイズ感もスケール感もハンパないのに、ヘタに尖らず、気負いは端からない。全国最多の941チームが加盟する大激戦区「東京」を制したチャンピオンは、真夏の6日間を一気に駆け上がる可能性も十分に秘めている。

(写真&文=大久保克哉)

デカい、強い、明るい!!型破りな都の王者が、時代の寵児となるか

ふなばし

船橋フェニックス

[東京都世田谷区/1971年創立]
2年ぶり3回目

初出場=2023年
最高成績=ベスト16/2024年

【全国スポ少交流出場】
なし

【都大会の軌跡】
1回戦〇14対1品川ブルーレーシング
2回戦〇8対1府ロクスポーツ少年団野球部
3回戦〇9対2二小ジャガーズ
準々勝〇8対6東村山3RISEベースボールクラブ
準決勝〇9対5用賀ベアーズ※レポート➡こちら
決 勝〇8対3レッドサンズ※レポート➡こちら

歌わない踊らない

 運動と休息に栄養と睡眠――子どもの発育に必須の要素は、広く知られている。かつて少年野球の雑誌を編集していた筆者は、「睡眠」における専門家も複数取材してきた。
 それによると、睡眠で肝心なのは質と量(主に時間帯と継続時間)で、どちらにも深く関わるのが「安心」。慢性的な極度のストレスや疲労、心に波風が立ったままの入眠は、質と量を大いに妨げる――。


 世の野球人や学生の指導者が、そこまで学べているかというと甚だ怪しい。どこかの強豪高校の受け売りで、大量の白米を小中学生に無理やり食べさせたり、日常から高圧的な言動でストレスを与えまくっている大人たちは、きっと知らないし、知ろうともしない。
 そしてこれは、現場で取材をしてきた筆者の経験則だが、そういう指導者が率いるチームは例年、小柄な選手が多い傾向にある。

新人戦、全国予選、都知事杯の「東京三冠」となった2024年の船橋は、全国3回戦まで進出した

 さて、船橋フェニックス。“東京無双”でNPBジュニアを6人輩出した2年前と同様、今年も相当な大型のチームである。
 睡眠の知識は定かでないが、選手たちの「安眠」を妨げるような指導陣の言動はゼロ。試合や1日の終わりの、くどくどとしたミーティングもなく、岡本隼人監督は解散前に決まってこう口にするそうだ。
「心身健康で、また週末に来てくれればいいから!」


岡本監督は江戸川区の葛西ユニオンズ、小・中は私学の佼成学園でプレー。小6時には176㎝72㎏の超ビッグサイズだったという

 6年生12人の半分は、幼稚園からの幼なじみ。三塁手の岡本悠人と、捕手の石黒信匡主将の父親同士も、園児の親として出会い、野球経験者であったことから意気投合してゴルフ仲間に。そして息子らが年長のときに、親子で地元・船橋の門を叩き、園の友人らがそれに続いた。

四番・捕手の石黒主将は攻守の要。送球動作はコンパクト、バットスイングは力強い


 岡本の父が、学年チームの監督になったのは2年生のとき。すでに4年生チームでも活躍する選手が複数いて、日本一という目標は当初からそれぞれの胸にあったという。
「幼稚園からずっと一緒の6人に、後からいろんな仲間が加わって、見事に調和がとれている。この子たちの最大の武器は、明るさと仲の良さですね」(岡本監督)
 平日の水曜と金曜は、前監督の森重浩之コーチが学校校庭での全体練習をみているが、あくまでも自由参加。野球を含む塾通いや、親子で独自に特訓している5・6年生も多いという。


 そして各々、健康体で集まった週末にチームは結束して戦うが、学生野球にありがちな、戦前の歌ったり踊ったりがない。勝てば全国出場が決まるという都準決勝でも、「東京第1代表」をかけた決勝でも、穏やかなムードがベンチを包み込んでいた。「気合い入れろ!」「絶対勝つぞ!」などの掛け声は、どの口からも発せられない。
 代わりに、外野のフィールドで適度な輪になり、留意点などを最終確認(=㊦写真)。選手たちは敬語を使い、途中で天然素材の121㎞左腕・大野凌駕が笑いを誘ったり。そしてキャッチボールに入るのが、試合前のルーティンだった。


 それらには賛否もあろうが確実なのは、野球を経験してきた大人たちの経験則と固定観念に縛られていないこと。また子どもたちは、変に洗脳されていない。そしてそれで勝ってきていることも、外せない事実である。

中堅手兼投手で二番打者の大野は、守・投・打・走のすべてが怪物級。陽気な天然キャラでも愛される(※2026注目戦士で紹介予定)

上がり目と脆さの同居

「試合前にああやってダラ~っとできるくらいの子たちなので、こっち(指導陣)もピリピリしない。まぁ、キミたちが普通にやれば、普通に勝てるんじゃないの、というところ」
 そう語る岡本監督はかつて、杉並区の強豪私学・佼成学園高の主戦投手として鳴らした。この6月13日、午前中に全国予選の決勝、夕方から都知事杯の開会式があった日は、そんな指揮官に特別な想いが生じていた。


「高2の夏に背番号1をつけて負けたのがここ(全国予選決勝の府中市民球場)で、高3夏に負けた八王子(スリーボンドスタジアム)で午後から開会式。なので実は、今日は朝からちょっと個人的な楽しみも…」
 むろん、私的なその想いは口外されていない。公私もわきまえ、選手の主体性や人間性を尊重する岡本監督のスタイルは、「イロハから学ばせていただいた」という高校時代の恩師、藤田直毅監督の系譜を汲む。

岡本家の一粒種、悠人は2歳から父の手ほどきを受けてきた。安定した三塁守備と勝負強い打撃で東京制覇にも貢献


「オレがこうやってきたから、オマエもやれ!」というゴリ押しは皆無。正義感の塊で研究熱心な指揮官は、引き出しも多い。
 ただし、技能や知識を1から10まで子どもに詰め込むというよりは、各々の特性とタイミングを見計らって適宜に。そのゴールも全国大会や卒団ではなく、教えきれないことも過分にあるという前提が育成のベースかもしれない。選手個々とのやりとりから感じられるのは、大人側の“ゆとり”である。

一番・投手兼中堅手の森下は、大野と双璧の”未来モンスター”だ(※2026注目戦士で紹介予定)

「監督はみんなを尊重してくれるので、好きなことができます」と話す森下貴斗は古株の一人で、ホットな急成長株でもある。全国予選決勝では球場のフェンスを直撃する先頭打者アーチに、最速119㎞の剛速球で度肝を抜いた。
 その二刀流選手に象徴される、この半年の著しい進化とチームの上がり目は、結果からも読み取れる。同じ世田谷区には、4年時に東京王者となっている用賀ベアーズがおり、船橋は5年秋まで全敗だったという。

勝てば全国が決まる準決勝の1回表。船橋はバント安打と二盗の大野が、三番・倉持怜央の右前打㊤で生還して先制㊦


 初めて用賀に勝ったのは昨年12月。それを含めて、学童ラストイヤーは4戦3勝1敗という対戦成績で、全国予選の準決勝で対峙した。そこでは特筆ものの好勝負が展開され、船橋が勝利している(※リポート参照)。


 約1カ月後の7月19日、両軍は都知事杯の決勝で再びマッチアップ(=㊦写真)。そしてこれを制した用賀はやはり、相当な実力者だった(※後日、リポート予定)。東京二冠を阻まれた船橋は、安易なミスも散見され、全国予選のパフォーマンスにもほど遠かったが、それもひとつの色だろう。


 ハマるとめっぽう強いし、ツボの間口は広がり続けている。半面、攻守とも鉄壁ではなく、意外な脆さも顔をのぞかせる。時には手痛いミスも出る。でも指揮官の明るさは、常に変わらない。
「試合中のミスで怒ることはないですね。それよりタイムを取って、『おいおい、ポンコツ、やらかしたな~』みたいに笑かしにいきますね。ミスに対して何か言ったところで、別に結果が覆るわけでもないし、それはそれとして『次、頼むな!』という感じに声を掛けますね」(岡本監督)


 現に、ミスした選手が次のプレーで挽回した場面を、筆者は複数見ている。例えば、全国予選決勝で失点につながる悪送球をしてしまった捕手・石黒主将が、次の同様の場面ではその反省も生かして走者をアウトに。


 また同じく決勝の特別延長で、代走に起用された5年生の岡田咲玖(=㊦写真)は、ベースコーチを信じ切れずに挟殺された。
 その後、6年生たちがバットで決勝点をもぎ取り、「サク!(岡田)、ミスがチャラになって良かったなぁ」と指揮官に冷やかされた岡田は、都知事杯の準決勝では同様の場面に代走で登場し、今度は確実に本塁へ生還したという。


「岡田は5年生チームのキャプテンなんですよ。彼にとっても来年のチームにとっても、次につながる、ものすごく良い経験が2大会でできたと思います」(岡本監督)
 個々の成長もチームの進化も、30番の大きな背中があればこそ。何でもかんでも杓子定規に突き詰めず、子どもに完璧を求めていない。そうした奔放さが“遊び”や“ノビシロ”を無限にしている。それが今年の船橋の、最大の魅力ではないだろうか。

全国予選決勝では相手の送りバントに対して、あわや1-6-3併殺というプレーも平然と。投手は森下㊤、遊撃手は若月柊哉㊦

今夏、感情が沸点に!?

 身長165㎝を越える、森下と大野のツインタワーを筆頭に、大柄でパワフルな選手が多数。機動力も備えており、テキサス安打と内野安打と犠牲フライが、長打のお釣りのようについて回るのも特長だ。

全国予選決勝では六番・佐々木翔瑛が2ラン㊤。準決勝では七番・髙橋亮馬が左翼線へ二塁打㊦

 対戦相手は戦前から萎縮したり、空回りや自滅するきらいも見受けられる。一方で船橋の面々は、横柄な態度で相手を威嚇したり、小ばかにして笑ったり、大差リードをいいことに抜いて走ったり、という“子どもの勘違い”が見られない。
 そのあたりは2年前に全国16強入りした、猛烈なタレント軍にも共通しているので、チームの伝統なのだろうか。あるいは過去には、そういう時期も経て学習してきたのかもしれない。ともあれ、全国予選決勝でもダメ押しタイムリーなど勝利に貢献した五番・岡本はこう話している。
「自分たちは単純にみんな野球が好きで、相手が強くても弱くても関係ないくらい、思い切りやれています」

髙橋冴優と若月の二遊間㊤は息もぴったり。髙橋冴は何でもできる八番打者㊦

 2年前のチームと決定的に異なるのは、足技やバントも絡めるなど攻め手の幅が広いこと。小技の類いはベンチの指令100%ではなく、選手が自ら実践することも多いという。
「フィールドに入るまでには、細かいミーティングもするし、試合中はタイムで細かく確認することもありますけど、現場ではある程度は選手の判断に任せてます。この半年をかけて、それがきっちりとチームの形になってきていて、全体的にすごい成長を感じます」(岡本監督)


 優勝の瞬間からマウンドへ一斉に駆け寄り、抱き合い飛び跳ねながら天に一本指を突き立てる――。船橋ナインは全国切符を手にしても、東京第1代表を決めても、そういうありがちな喜び方をしなかった。
「東京で優勝は確実と思ってたし、目標は全国制覇なので」(大野)、「まぁ、みんなそういうのはあまりやりたがらないので」(石黒主将)と理由はそれぞれだが、戦前のリラックスムードにも合点のいく、幕切れの絵だった。


 でもさすがに日本一となれば、沸点に達した感情が露わになるのかもしれない。またその夜ばかりは、「安眠」はできないだろうと思われる。
 青春の思い出の球場、東京の空に舞った指揮官は、こう断言した。「全国大会までに、細かいことを付け焼刃的にするつもりはないです。このままみんな、体調万全で入れればいい」。また石黒主将は、不敵にこう言ってニヤついた。
「全国は東京代表として出るので『うわぁ、やべぇ、船橋が来たよ!!』みたいな、みんなからイヤがられるようなチームにしたいです」

【都大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6    石黒信匡
⓪6    髙橋冴優
①6    岡本悠人
②6    森下貴斗
③6    佐々木翔瑛
④6    髙橋亮馬
⑤6    倉持怜央
⑥6    若月柊哉
⑧6    浅沼光貴
⑪6    髙橋飛湧我
⑰6    大野凌駕
⑱6    小池拓海
㉛5    岡田咲玖
㉜5    近藤 丞
㉝5    出口大和
㉞5    平野巧真
㉟5    中川晴貴
㊱5    三島滉晴
㊲5    浦田智久
㊳5    團 祐雅
㊴5    市川陽悠
㊵5    大塚真輝
㊶5    深瀬怜大


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