チームのあり方と、ありのままが案内されている、竹園ヴィクトリーズの公式サイトには「優勝」や「全国出場」などの喧伝がない。「野球って、おもしろい!」のキャッチに続くのは、年間日程や各家庭の関わりなど世の親たちが真に知りたいだろう情報で、ことごとくツボを押さえている。全体練習は日曜日のみで、土曜午前を自主練習に。「平日もやるとなると『強くなくちゃ!』とか、どうしてもそうなりやすいので、毎年の目標は県大会出場なんです」。実直に語る指揮官は今夏、初の全国大会でも“無欲の勝利”を掲げるという。新たな潮流が、愛媛県での夢舞台から広まっていくのかもしれない。
(写真&文=大久保克哉)
※県決勝リポート➡こちら
成績にコミットしないパイオニア。“無欲の勝利”を夢舞台でも

竹園ヴィクトリーズ
初出場
【全国スポ少交流出場】
なし
【県大会の軌跡】
1回戦〇6対1城南ニューキッズ
2回戦〇7対0桜学園ベースボールクラブ
準々決勝〇13対3嘉田生野球スポーツ少年団
準決勝〇6対2日立ベースボールクラブ
決 勝〇8対7豊ナインズ
初々しさと心強さと
就任7年目。56歳の指揮官が初々しく空に舞った。創立42年目のチームにとっても、初めてのことだったのかもしれない。
「胴上げは? えっ、そんなのやっていいんですか。でも、どこで?」
つい10分ほど前のインタビューでは逆質問していた背番号30が、選手たちに一斉に取り囲まれ、スタッフや保護者らの男手で舞った。水戸市の夏空に3回――。

「いやいやいや、怖かったです、はい。思った以上に高くて(笑)。胴上げなんて人生初かな。ホントに子どもと保護者の団結力が今年の強さでしたね。感無量です」(小泉隆監督)
何もかも初めてとは思えない、手際の良さ。ひとつのことに大集団がパッと入る足並み。虚空で注文通りに、カメラへ視線を投げる誠実さと、つつがのないムード。
全国大会初出場を決めた後のイベントは、竹園ヴィクトリーズの組織力と勝因を象徴しているようだった。

6点差を跳ね返しての逆転サヨナラで県決勝を制すると、小泉監督は人目もはばからずに泣いた。これも指導者となって初だったという。
「まさかまさかね、あんな展開だったので。正直ね、『みんなが悔いなく頑張ってくれればいいや!』と言いながらも、こっちもプレッシャーが掛かってたので(笑)。今日の決勝が雨で順延されたら、あと1週間がイヤだなぁと思っていたのでホッとしました」

全国初出場を決めると、選手にも指導陣にも涙が。㊦写真は小杉康夫コーチ(左)と松田真一コーチ(中央)

全国最終予選の茨城県大会。土曜日に準決勝、日曜日に3位決定戦と決勝を予定していた週末は、数日前から「大雨」の予報だった。実際に金曜から雨が降りだしたが、やや小康状態となった土曜に、3位決定戦を組み込む“ウルトラC”を発動。
そして晴れて迎えた日曜の決勝戦で、竹園がミラクルを巻き起こした(※詳細はリポート参照)。

個の能力と努力と経験と
「今年はたまたま、実力のある子、努力する子が集まったのもあるかもしれません。平日は活動してないので、各自の練習というのも勝因ですね。それとやっぱり、優勝したいという、子どもたちの気持ち」
小泉監督は野球以前に、人として模範である。その言葉には謙遜も修飾もない。

息子の在籍時は父親コーチだった小泉監督は、親子で卒団して1年後、新指揮官に迎えられて7年目

「チームもみんなも熱い気持ちで全国を目指してきました」と、主将の松林晃徳。四番・捕手の吉田結乃助は「チームで心をひとつにして、みんなで声を掛け合って連携して戦えたから、優勝できたと思います」と落ち着いて話した。
現6年生は13人。この世代は低学年のころから県下に名を轟かせ、完成度の高い野球で数々の優勝旗やメダルを手にしてきた。ただし、個人の能力と主体性に任せきりで勝ち続けられるほど、高学年の野球は甘くない。

松林主将㊤は好救援に2ラン。四番・吉田㊦は適時二塁打など2安打1四球で、それぞれ県制覇に貢献

茨城県のレベルだって、そんなに低くない。
ここ20年ほどは、全国出場2ケタの茎崎ファイターズを中心にほぼ回っているが、同チームは県内のチームとも切磋琢磨し、全体の底上げにも寄与。低学年大会を主催したり、県外の強豪チームも招いての独自大会を軌道に乗せたり。

3月の東日本交流大会では東京・不動パイレーツと対戦。6年女子の野口琉桜にもヒットが生まれた㊦

「全国予選の試金石」と位置付けられる、春休み中の東日本交流大会は23年の歴史がある。竹園は昨年から招かれており、今年は東京勢初の「4年連続全国出場」を期していた不動パイレーツに、1回戦で3対8と敗れ、2日目は交流戦へ。本気で全国をうかがうチームとの実戦は、多方面でプラスに作用したことだろう。
「ホントにものすごくいい経験になっています。茎崎さんをはじめ、いろんなチームの方々にも感謝したいです。ただ、ウチは茎崎さんみたいに全国に毎年出るようなアレもないですし、今年はたまたまいろんなことが重なって。運もそうですし、いろんな人のご協力もあってのことで」(小泉監督)

個々の能力と努力に良質な経験。さらに外せない勝因は、指揮官のマネジメント力だ。とりわけ、大事な一戦で選手のパフォーマンスを導く術に長けている。
そのベースは、一人ひとりへの理解と愛情だろう。決勝戦の『ふたりのヒーロー』(※レポート参照)誕生秘話でも、それは読み取れる。

「できる力は持っている。ただ、それを本番で出すのって、子どもにはなかなか難しいことですね。失敗を繰り返して、いいところでちゃんとプレーできるようになる」
小泉監督がふと漏らしたのは、八番・右翼の小杉透真の渋い活躍に話が及んだとき。この選手は、決勝の2回裏に内野安打で打点を稼ぎ、4回表の一死三塁のピンチでは失点と引き換えにライトゴロを決めた。打球へのチャージから一塁へのロングスローまで、すべてがパーフェクトだった。

県決勝の2回裏、一死三塁で八番・小杉がバスター打法からセンターへ抜けそうな二塁内野安打。これで3対6に

「積極的にいこうという気持ちで、1個のアウトを取りにいきました」と振り返った小杉は、頭も回るようだ。打席で多用するバスター打法については「ボクはタイミングを取るのが苦手で、よく遅れてしまうので。バスターだと合わせる時間が短くなって、その分、ミートしやすいです」。
そんな小杉を「緊張しいなんですよ」と断じた指揮官は、こう続けた。「昨日(準決勝)の彼は、前に出るか出ないかという打球にポーンと頭を越されたのが2回くらいかな。間違いなく緊張して力を出せてなかったので、『今日はどっちにしたって最後だから、思いきりやれや!』と。そしたら見事にやってくれました」

投手兼遊撃手の小泉は三番も打つ三刀流。身体能力も光る元気印だ

決勝で先発のマウンドに立った小泉裕紀は、いきなり強力打線につかまったものの、最速105㎞の速球主体で押し続けた。「5点差勝負だと思って、何点取られても諦めない気持ちで向かっていきました」。そんな勝ち気な右腕は2回、連打で5点目を失ったところで遊撃守備へ。その際、小泉監督はこう声を掛けたそうだ。
「今はちょっと(相手打線が)オマエの球に合っちゃってるから。一旦は代えるけど、まだ40球(残る球数は30球)。気持ちは切らさないように準備はしておいてな!」

二番手の松林主将が、自己新を115㎞に更新しての快投を続け、試合は5回でタイムアップ。仮に6回や特別延長戦までもつれていれば、小泉がタフに働いてくれたことだろう。
逃げ口上ではなく
野球の完成度はもともと高い。昨秋の県新人戦の準決勝、雨天下で再逆転勝ちしたときには「野球を知っている子が多いです」と、小泉監督は初対面の筆者に。ノーミスではなかったものの、攻めては三盗あり、スクイズあり、長打あり。守っては満塁のピンチで併殺など、状況判断と共通理解の浸透がうかがえた。

昨秋の県新人戦準決勝は、全国区の水戸レイズと激戦に。4回表の吉田㊤の左前タイムリーが決勝打、ダメ押し2点タイムリーの佐藤拓士㊦は2回にスクイズも決めていた

加えて、下位打線もアグレッシブ。「バットを振らないと、手が縮こまっちゃう」(同監督)と、カウント2ボールからでもストライクを強振する姿も。その後、県の新人戦王者となって関東大会へ進出。そこでは優勝することになる、神奈川・清水ヶ丘ジャイアンツに1回戦で1対4で敗れた。
あれから約7カ月、全国出場に王手をかけたチームは、攻守のパフォーマンスが総体的に引き上がっていた。戦い方はより堅実となり、先述の小杉のバスター打法のような新たなトライも。

全国予選では外野の守備範囲と内外野の連係もキラリ。左から遊撃・小泉、中堅・松田、二塁・佐藤、右翼・小杉
「ひと冬を越えると、ピッチャーも球が速くなって、しっかりとコースにも投げてくるようになりますので。初球からトントンと打てるような感じじゃない選手にはバスター打法を勧めたり、状況によっては送りバントとか。そのあたりはちょっと、工夫させてもらいました」(小泉監督)
決勝の5回裏。1点を追う攻撃の無死一、二塁から、バント安打を決めた齋藤陽太は、頭から飛び込んだベース上で派手に吠えていた(=㊦写真)。この五番打者は、6点ビハインドの2回には反撃の口火となる、タイムリー二塁打を左中間へ放っていた。


「バントは自分のアイデアで自らも生きようと? いえ、送りバントのサインでした。チームのためなら別にそれでいいかなと。みんなでつないで点を取って、みんなで守って勝つことができて、うれしいです」
その齋藤がつないだ直後、六番・松田晴のバットから逆転サヨナラ打が生まれている。また4回裏、1点差に迫る松林主将の2ランも、九番・皆川聖翔が確実に犠打を決めた後に生まれていた。

県決勝の4回裏、先頭の中川和真が左前打㊤。一死後、皆川はきっちりと送りバントを決めた㊦

「(2回で)6点リードされて、一気に逆転は無理でも、ちょっとずつ返していこうということで。『必ずチャンスは来るから!』と言い続けたんですけど、子どもたちがホントにしっかりと動いてくれたと思います。感謝ですね」(小泉監督)
決勝の相手、豊ナインズには昨秋の県新人戦決勝でも逆転勝ち。最終回に1点差を追いつき、特別延長戦を11対7でものにしている。その成功体験が、落ち着きと粘り腰を招いた側面もあるだろう。

ともあれ、昨年まで3年間は茎崎ファイターズの天下だった茨城県の学童野球に、新たな歴史が刻まれた。「平日練習をしていない」が敗者からではなく、勝者の口から語られたことにも大きな意義がある。
全体練習の量や時間だけにとらわれず、チームのあり方と人々のやり方によっては、最難関の全国大会「小学生の甲子園」にも出場できる。それが実証されたという意味では、学童球界にも新たな1ページかもしれない。

「新しいチームが全国に出る。その先駆けじゃないですけど、そういうふうになれて良かったなとは思います。茨城県の代表ということを胸に持って、一戦一戦をしっかりと戦っていきたい。子どもは目標を持たないとおもしろくないので『優勝!』と言う子もいるでしょうけど、私とすれば今までと同じで一戦一戦を…無欲の勝利? はい、そういうことです」
県王者となって、泣いて驚いて、ひとしきり語った後。30番はにんまりと微笑んだ。
【県大会登録メンバー】
※背番号、学年、名前
⑩6 松林晃徳
⓪6 野口琉桜
①6 齋藤陽太
②6 吉田結乃助
③6 松田 晴
④6 中川和真
⑤6 小杉透真
⑥6 小泉裕紀
⑦6 皆川聖翔
⑧6 佐藤拓士
⑨6 松木宥慶
⑪6 石川結李
⑫6 長谷川優星
⑬5 大久保幹太
⑭5 村松 丈
⑮5 髙野 圭
⑰5 玉虫惠悟
⑱5 坂本 圭
⑲5 石川結敦
⑳5 加藤翔大
㉑5 野口翔太郎
㉒5 宮本彩生