バッテリーと三遊間と右翼は6年生で、残る4つのポジションは5年生と4年生で等分。登録メンバーの5人は3年生以下で、実質的には13人で夏の全国2大大会の千葉県予選をそれぞれ制覇してみせた。八日市場中央スポーツ少年団の持ち味は、バッテリーを中心とする堅守と勝負強さ。これらを引き出す指揮官の手法にも特筆するべきものがあった。なお、全日本学童大会マクドナルド・トーナメントに初出場するため、16日の全国スポーツ少年団交流大会の関東大会(最終予選)は出場を辞退している。
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(写真&文=大久保克哉)
スタメン4人は下級生。普段着野球でスポ少も県制覇
全日本学童千葉大会優勝時の6年生は5人。左から富永孝太郎主将、田中功明、伊藤瑠生、石井陽向、宇井貴浩
「夢のような2週間でした」
宇野貴雄監督はこう振り返ったが、選手も保護者も思いは同じであったことだろう。ほぼ同時期に並行して開催されてきた、全国2大大会の県予選をそれぞれ制したのである。
2週間で5戦の強行軍
まずは6月10日、全日本学童予選の県決勝で磯辺シャークスに1対0の勝利で初優勝。守備は学年やポジションを問わず、一様に堅くて勝負どころでミスがなかった。打線は力強い上位に、しぶとい下位がつないでいった。「しっかり守って、得点チャンスでしっかり取るという野球。ふだん言っていること、これまでにやってきたことを、子どもたちがそれ以上にやってくれたという感じ。もう何も言うことないですね」(宇野監督)。
県大会では随所で好守を披露した右翼手・田中。「全国大会でもみんなで守って、打線はつないで、どんどん勝ち進んでいきたいと思います」
創部21年目にして初めて手にした全国切符の興奮も冷めやらぬうちに、会場を移動しての全国スポ少交流予選の県3回戦に(3対0で勝利)。そして翌週末の土曜に準々決勝、翌日曜には準決勝と決勝のダブルヘッダーも勝ち抜いて、2つめの金メダルに輝いた。主将の富永孝太郎は、未知の全国大会をうれしそうにイメージしながら、抱負をこう語っている。
「なんか甲子園(高校野球)みたいな感じで、そこに出られるというのは全国の中でもトップのほうに入っているんだ、ということだと思います。全国でも良い結果を残していきたいです」
2週間のうちに2大会の大詰め計5試合という強行軍。これを実質13人の手勢で勝ち切ったことに加えて、1日2試合目となった決勝(県スポ少)の16対3という圧勝劇は、真夏の全国大会を踏まえても大きな自信の拠り所になるだろう。
コーチから監督となって11年目、チームを初めての全国大会に導いた宇野監督。冷静沈着な言動は選手の模範にもなっているようだ
8月5日に東京・神宮球場で開会する全日本学童大会は、翌6日から最多6連戦となる。酷暑の中で例年、持てる力を発揮できるのは序盤の2回戦あたりまで。3連戦となる3回戦以降は、投手の枚数と能力に加え、心身の持久力の差で明暗が分かれるケースも増えてくる。
「ここで勝つために子どもたちも頑張って来て、自信を持って送り出しているので、私から言うことは何もないです。子どもたちを信用しています」
県大会の最中で宇野監督がそう話していたように、大一番でそれぞれ緊張している選手たちに指導陣がプレッシャーを上塗りするようなことがない。目の前の結果で一喜一憂しないし、観客までハラハラするようなシーソーゲームでも背番号30はベンチの奥で静かに仁王立ちしたまま。そしてフィールドの選手たちは、自ら守備のタイムをとってマウンドに集まるなど、主体的に野球をしている姿が見受けられる。
⇧安定した三塁守備の石井は、マウンド度胸も満点。「ボール係とか頑張ってくれる人たちの思いも胸に、全国ではみんなで一丸となって戦います」⇩遊撃手・宇井は堅実な上に守備範囲も広い。「全国はまず初戦を大事に勝ってから。個人的にはヒットをいっぱい打ちたいです」
独特のウォームアップ
「練習は厳しい」と選手は口をそろえるが、本番(公式戦)では大人からストレスをやたらに与えられることがない。要するに、精神面から疲弊して自滅していくような心配はないだろう。
相手がどうのこうのではない。自分たちが突き詰めてきたことをそのまま発揮すれば勝てる。6年生からはこういうコメントが複数聞かれたが、“ゴーイング・マイウェイ”は指揮官が率先しているように見受けられた。
たとえば、全国8強の実績もある磯辺シャークスとの決勝。背中に「30」と入った上着に宇野監督が袖を通したのは、試合前シートノックの直前。それまではTシャツ姿で選手たちのウォーミングアップを遠巻きに眺めていた。その意図とは?
「グラウンドに入ったときから、勝負は始まっているなと思ったんですよ。シャークスさんは格上ですし、声を出してボールもバンバン投げていました。ウチは集合場所で体を動かしてきたこともあるんですけど、あえて焦らずに。いつも通りに自分たちのアップをすればいい、と。そういう狙いでユニフォーム(上着)も着ずにいました」(宇野監督)
対戦相手も学年も関係ない。個々でやるべきことに取り組んでいたウォーミングアップ
ウォーミングアップがまた独特だった。よく見る軍隊方式のものではない。外野の芝の上に散った選手たちは各々に手足を動かしながら進んだり、走ったり、戻ったり。それも160㎝超の富永主将から、背番号17の1年生・嶋根蓮人まで例外なく。また、一団の近くには大人の目や声はもちろん、姿すらもなかった。
「アップの内容や方法はコーチ陣からも提案があって、今の自分たちでやる形になりました。去年の6年生が4人しかいなかったんですけど、彼らが見本を見せてくれていたので今年にそのまま引き継がれています」(同監督)
子どもへの深い造形
全国初出場を決めた直後、指揮官の目は潤んでいた。コーチから監督となって11年、自らの悲願成就による感涙ではない。目の前で喜んでいる選手たちと、共有してきた時間や出来事の数々に自ずと思いを馳せたのだという。
「1年生から始めた子もいるし、いろいろ辛い思いをした子もいるし、一時はもう野球から離れようか、となった子も…。ホントにいろんなことがあった中で、ここまで続けてきてくれた子どもたちに感謝。こんな日が来るとは予想もつかず、信じられなかったですね、ホントに」
「練習は厳しい」と語る指揮官だが、公式戦では選手を信頼して背中を押すような声掛けが印象的
選手個々の内面にも気を配りつつ、ハードワークで確固たる野球を確立。そして本番では、その実践のために最大限の注意を払う。そんな指揮官に象徴される、指導陣の造形のなんと深いことか。「ゴールデンエイジ」とも言われる小学生の心身をいかに尊重しているのか、チームの公式ホームページにある文言からも十分に読み取れる。
大人のエゴイズムや偶然、勢いだけでは決して辿りつけない夢舞台。それが伝統の夏の全国大会である。