毎月、次々と新規アイテムの発売を続けるフィールドフォース。そこまで頑張らなくても……と思わなくもないのだが、そこにこそ、この会社の信念と哲学がある。熱量のあるプレゼンテーションと忌憚のない議論により、無から有を生み出し、それを形づくる。新商品を生み出す過程の中にも、フィールドフォースらしさが詰まっている。
新規商品、毎月3アイテム!
毎月、新商品を最低、3アイテムは発売すること。
これはフィールドフォースの決まりごとだ。社長の吉村尚記はことあるごとに、これを公言しているので、企業秘密でも何でもない。このホームページ内のどこかでも言っていた気がする。
「これも私のコラムで書いていますが、自分の心の中にある考えを言葉にすることで、自分に嘘がつけなくなるじゃないですか。そういう思いも込めて、公言するようにしてるんです。最初に言ったのは、自社のECサイト中心で販売を行っていくことを決めた、2020年過ぎですね。一昨年くらいからは、外に向けても会社の姿勢として、積極的に発信するようにしているんです」
もっとも、実際にはそれ以前から、ほとんどこのノルマをクリアするペースで商品をリリースしてきたので、この言葉は、自分に向けてというよりは、主に社員の奮起を促すための“所信表明”だったのかもしれない。
白熱の開発会議
新商品は、毎週行われる定例の商品企画会議でアイデア出しや議論が重ねられ、発案から試作、修正などを経て、商品化される。
この会議には、本社からだけでなく、各ボールパークで働くメンバーも参加する。現地の商品ユーザーやボールパーク利用者から寄せられたり、依頼を受けた案件などの情報も貴重だ。
この会議では、ほとんどの新商品のアイデア提起に対する、頭から否定的な意見を聞くことがない。基本的には、すべてのアイデアを形にしようという、前向きな意見ばかり。これはフィールドフォースの持つ企業文化といってもいいのではないだろうか。
闊達な意見交換により、驚くスピード感で、次々と商品化が進む。6月にはタイヤ付きネット(FBNH-2021WTなど4商品)、動的ストレッチャー・股関節FDS-77KKS、ボール回収トンボFBK-115Tなどが発売された。7月はすでに動的ストレッチャー・肩甲骨FDS-8080KKK、冷感パーカータオルFCHT-100BLをリリースしており、8月以降のラインアップも決まりつつある。
「大まかに言って、商品の“賞味期限”って、だいたい1年くらいだって話しているんです。どんなに良い商品も、それくらいの時間が経つと、飽きられてしまうことが多いんです」
これが吉村の、これまでの経験からくる実感だという。
例えば、「ダミーくん」
長期にわたり売れている、フィールドフォースの定番商品に「ダミーくん」がある。投手が投球練習の際に、ただキャッチャーミットをめがけて投げるのではなく、打者がいた方が練習になる、ということに発想を得た、打者に見立てた、メッシュ素材の人型の置物である。
見た目も機能もシンプルだが、学童野球や中学野球はもちろん、プロ野球投手の練習風景の中にも「あら、こんなところにもダミーくん」というほど、多くの場所で見かける、つつましくも頼りがいのある、ベストセラーである。
「現行のダミーくんは4代目ですね」
デッドボールを受け流せる仕組みにしたり、身長を調整できるようにしたりと、何度も改良を重ねながら、現在も「ダミーくん・スラッガー」として活躍中である。ダミーくんもまた、「100点満点の商品はない」という吉村の信念を体現している商品のひとつといっていいだろう。
タイプで分けると……
これまで、フィールドフォースが作ってきた商品をあらためて見渡すと、フィールドフォースが新規で上市してきた商品には、いくつかのパターンがある。
過去にリリースした商品の弱点を補ったり、新たな機能を加えることでブラッシュアップした「リニューアル型」、まったく無の状態、あるいは他分野の製品から得たアイデアを形にする「新規型」、前記ふたつの形で生まれた商品からヒントを得て、バリエーションとして誕生する「派生型」の商品である。
ダミーくんは、この中でいうなら「新規型」として誕生し、「リニューアル型」としてロングセラーになった商品ということができるだろう。
モンスターウォールから派生
西武ライオンズからの依頼を受け、「壁当て」のために作った「壁」(→製作の経緯はこちら)の構造原理から着想を得て、それを形にすることで、シンプルな構造ながら、メディシンボールをぶつける衝撃をも吸収してしまうという「モンスターウォール」(→開発秘話はこちら)。
これに使われているポリエチレン製のネットは、これまでの格子状ネットと比べ、衝撃吸収力と耐久性に優れた素材だが、これは農業や漁業でよく使われていた、遮光や養生用のネットにヒントを得ているという。
「この素材との出会いは大きかったですね」
と吉村。野球向けに流用するにあたっては、その厚みや繊維の密度を見直してはいるものの、これまで野球に縁のなかった素材にスポットライトを当てたのは、フィールドフォースらしい選択といっていいだろう。
そして、既存のオートリターンネットなどバッティングネットは現在、こちらのネットへの置き換えが進んでいる。
このきっかけになったのは、ボールパーク事業部長・成田雄馬のひと言だった。
「ある日、成田がモンスターウォールに向かって、黙々とバッティングで打ち込んでたんですよ。『これ、バッティング用にも行けますよ』って。そこから、オートリターン用のネットにも使い始めたんです。成田のおかげです」
◇ ◇
もうひとつ、モンスターウォールにも使われているが、軟式ボール用やトスマシン用ネットの支柱に多く使われているのが、グラスファイバー製のポール。
「これはグラスファイバー製ポールを使った、キャンプ用テントを見たのがきっかけでした。しなることで、風などにも強く、耐久性もある。これは使えるんじゃないかと」
ボールの衝撃を受け止めるために、柱を重く、硬いものにするのではなく、柱自体が衝撃吸収性を持った素材にすることで、これまでのバッティングネットに比べ、格段に軽量でコンパクト、持ち運びにも適したものができるようになった。グラスファイバーポールになったことで「モバイル」化したり、リニューアルしたりと、派生的に生まれた商品も少なくない。これも発想の転換から生まれたヒット素材だ。
鹿威しから連続ティー
思ってもみないところから、アイデアが生まれた商品もあった。
「鹿威しって、すごくないですか」
以前、吉村が不意に、こんなことを言い出した。
日本庭園にある、流水で竹筒を徐々に満たすことによりシーソーの原理で上下し、カコーンと音を響かせる、あれだ。
「電気も使っていないのに、一定の間隔で音が出る。あの動き、何かに取り入れられないかと思うんです」
そんな会話からしばらくすると、「連続ティー・テニスボール専用」FBT-500RTの試作品が出来上がっていた。バットでストッパーをチョン、と下げると、ゆっくりとボールが「雨どい」状のレールをつたって落ち、下に設置した小型トランポリンで跳ね、ちょうどいい高さに来る。2球目以降はボールの重さとシーソーの原理で、セットしたボールが自動的に連続で落ちてくるのだ。自分の「間」で待って、うまく「タメ」を作ってそのボールを打つという、風流ながらも理にかなった練習ができる佳作商品だ。
「電気を全く使わず、こんなことができる。昔の人の知恵ってすごいなあ、と思いながら作りました」
吉村は楽しそうに、そう話すのだった。
唯一無二の存在に
こうして次々と作られるフィールドフォースの商品の多くは、唯一無二の存在だ。
もちろん、それぞれの商品自体が革新的であり、「痒いところに手が届く」ものであることから、多くのヒット商品が生まれてきた。
が、ヒット商品に対し、後発の類似商品が生まれるのも世の常。徐々にではあるが、ネット上で、フィールドフォースの売れ筋商品の類似品を見かけることが多くなってきた。
これまでも、類似品の多い「穴あきボール」をフィールドフォースのトスマシンで使い、思うような使用感が得られないといった相談を受け、フィールドフォースオリジナルのボールを使うよう注意喚起したり、可能なものについては知的財産権を申請・取得するなどしてきてはいるが、それ以上の防衛はできないのが現実である。
強味は、常に新規アイテムを世に送り出してきた、フィールドフォースならではのアイデアと人材、それを形にする「ものづくり力」であり、これまでの生産と販売を通じて培ってきた、人とのつながりといったところか。
「これまでやってきたことを誠実に続けて、ブランド力を上げること。できる限りのことを、こちらからも発信してゆくこと。これまでやってきたことも、いまやっていることも、すべて正解だと思ってますから」──。