いよいよ代表決定に向け盛り上がりを見せる、第97回都市対抗野球大会の東京都2次予選。全試合がネットでライブ配信されているが、今年はフィールドフォース社長・吉村尚記、同社員でもある茨城ゴールデンゴールズ(茨城県稲敷市)監督の片岡安祐美の二人がその解説を務める(担当は別々の試合)。はたして、それぞれどんな解説をするのか──。
社会人野球、応援します!
フィールドフォース・吉村に、その依頼が舞い込んだのは、突然のことだった。
「東京都二次予選の第1代表決定戦、(元NTT東日本野球部監督の)飯塚智広さんがライブ配信で解説することになっているんですが、吉村社長も一緒にいかがですか?」
今回、東京都2次予選を盛り上げようというイベントにフィールドフォースが協力したのは、当欄でも既報のとおりだが(⇒こちら)、ネット配信の試合解説とは…。
「冗談なのかと思ったら、まさかの本当でした。いやぁ、一体、何を話せばいいのか…」
吉村はそう言って、苦笑するばかりだった。

「学童野球応援隊」からの広がり
フィールドフォースは2006年、練習環境に恵まれない、現代の学童野球選手を応援するための練習用品やギアを開発・販売する会社として創業した。当初は、いってみれば、学童野球選手「だけ」を応援してきた会社だ。
「それが今では、その上の中学、高校どころか、社会人野球やNPBなどプロ野球球団やプロ選手にまで向けた製品を作らせていただいています。会社を始めた頃を思うと、想像もしなかった変化です」
吉村がしみじみと振り返る。
「すべては人との出会いとつながり。ご縁ですよね。変化を恐れるつもりは全くありませんが、不思議なものです。ある意味、驚きの連続です。ひとつ言えるのは、これまでどんな出会いもつながりも、大切にしてきたことは間違いありません」
学童野球はつまり、すべての野球文化の「底辺」であり「すその」。その底辺を支えるために続けてきた仕事が、結果的にすべてのカテゴリーにつながっていた、ということはいえるのかもしれない。

社会人野球とのつながり
吉村と社会人野球とのつながりは、少し特殊かもしれない。
吉村と高校時代からの旧知である飯塚さんとの関係については、吉村が自身のコラムで解説している(⇒こちら)。その飯塚さんは社会人野球選手として活躍されたばかりでなく、チームの監督を務め、都市対抗野球の優勝監督にまでなった。加えて、現在では社会人野球にとどまらず、高校野球のテレビ・ラジオ中継においても、高い人気を誇る野球解説者の顔を持つ。
飯塚さんと吉村、二人の関係性と、そこから有機的につながる人脈。様々なカテゴリーの野球関係者と知り合い、関係を深めてきた吉村だが、社会人野球については、特別な感情を持っているという。
「ある意味、日本における野球文化の、象徴ともいえるものだと思うんです」

都市対抗野球はもちろん、社会人野球の大会は基本的にトーナメントで競われる。
現在ではワールドベースボールクラシック(WBC)や、2028年に復活するとされるオリンピックの野球競技にも各国のプロ選手が参戦するようになり、ハイレベルなトーナメント戦を楽しむことができるようになった。
社会人野球の試合には、それらとも通じる空気感がある。
「プロ野球は基本的にリーグ戦ですから、負けても次がある。社会人野球は負けたら次がない。その意味では、これも日本独特の文化といえる、高校野球に近いかもしれません。でも、格段にハイレベルです。そんなレベルの選手、チームによる、負けたら終わりのトーナメントですから、ほかとは違う面白さがあります」
もうひとつの特徴は、チームの多くが企業のシンボル的存在であることだ。
「選手たちは自分の所属する会社の看板を背負い、そんなシビれる試合に臨む。そして、同じ会社の仲間たちが、同僚でもある選手たちに声援を送る。そうして醸成される連帯感や団結力も、日本独特の感性だと思いませんか? それらの企業に、実際に身を置く人たちにとってももちろんでしょうが、そうでない野球ファンにとっても、その一体感にはゾクゾクさせられるものがあります」
プロ野球にもなく、高校野球や大学野球にもない、独特の面白さ。社会人野球の魅力は、日本野球そのものが持つ趣ともいえないだろうか。
日本独特の文化、大切にしたい

社会人野球には、プロ、アマチュアというカテゴリー分けとは別次元の、唯一無二の独特な世界があるのだ。
「ただ…」
吉村が続ける。
「寂しいことに、フィールドフォースも付き合いが深い、東京のセガサミー野球部が今季限りで廃部になります。社会人野球全体を見回しても、決して明るいとはいえないニュースは多い。でも、残していきたい文化であることは間違いない」
そのためにできることは──。
「まずはその面白さを、できる限り広く伝えていくことだと思うんです。興味を持ってもらえれば、その戦術、メンタリティーなど、たとえば学童・少年野球の指導者や選手たちにも、響くところは多々あるはずです。今回、協力させていただいた盛り上げイベントもそうですし、解説も同じで、そのきっかけづくりのお手伝いができるなら、という思いはあります」
とはいえ、野球解説など門外漢ともいえる吉村にとっては、不安も大きいようではある。
「完全なる素人ですからね…。何をしゃべったらいいのか、皆目、見当がつきません。私ができるのは、飯塚の昔の暴露話くらいですよ。…まあ、それでいいか」
そう笑う吉村だが、高校野球中継でも分かりやすく、面白く伝える解説でおなじみの飯塚さんとのコンビによるダブル解説が一体どんなものになるのか、興味深くはある。
片岡安祐美の場合

片岡の場合、今回の解説のオファーはフィールドフォース社員の立場ではなく、クラブチーム・茨城ゴールデンゴールズの監督としてである。
これまでもプロ野球中継のゲストで呼ばれたり、応援解説なども経験があるというだけに、もはや“本職”に近いものがある彼女ではあるが、最近では、思うところもあるようだ。
「それほど多くの経験があるわけではありませんが、これまで解説の仕事というと、プレーヤーとして、監督として、自分の経験や知識に基づいて、適切な言葉選びや発信をしなければと、肩に力が入った感じで臨んでいたんです」
女子プレーヤーの第一人者として、自ら道を切り開いてきた立場でもあるだけに、「間違えられない」という気負いのほかに、「なめられてたまるか」といった部分もあったのだろう。
だが、最近では、その考えも変わってきたのだという。
「もっと私なりに、余計な力を入れずに野球の面白さを伝えられたらいいんじゃないか、と思うようになったんです。解説者というよりは、一野球ファンとして、という立場に近いかもしれません」
彼女がこれまで歩んできた道、そこから学んできたことは、逆にいうなら、彼女にしか経験できなかったことばかり。野球解説も、おのずと彼女にしかできないスタイルがあるはず。新たに始まる、「片岡安祐美スタイル」の解説を楽しみにしたい。
◇ ◇
飯塚智広さんと吉村が解説を担当するのは、6月29日、午後6時開始予定の東京都2次予選、第1代表決定戦。片岡が担当するのは、7月1日午後6時の同第3代表決定戦。
どうぞお楽しみに──。