フィールドフォース社内にちょっとした衝撃が走ったのは、半年ほど前のことだ。女子野球の第一人者であり、「茨城ゴールデンゴールズ」の監督でもある片岡安祐美さんがフィールドフォースに入社したのだ。これまでも井端弘和さんのパートナーシップ契約のほかにも、野球教室開催やボールパークを利用した撮影などでは、多くの著名選手とのかかわりがあったフィールドフォースではあるが、社員として入社となれば、話はまた別。半年が過ぎた、現在の状況は…。
子どもたちのきっかけになれたら
「鎌田さんの教えのおかげかも!」
片岡安祐美がニコニコと笑顔を浮かべている。プロ野球(NPB)のペナント戦で始球式を務めた数日後のことだ。
「写真を見たら、今までの始球式で一番、きれいなフォームだったんです!」

聞けば、フィールドフォースが主催する夏休みの野球教室で子どもたちに教えるために、「私は内野しかやったことがなくて、野手投げだから」と、ピッチャー出身の営業企画部長・鎌田侑樹にピッチング指導のメニューについてレクチャーを受けたのだという。
「体の使い方、球速を上げるにはどうしたらいいか…。勉強になったんですよ」
この夏、片岡は小学生、中学生のための強化練習やマンツーマンレッスンを千葉・柏市、仙台市、東京・足立区のボールパークで受け持った。
「私自身も子どもの頃に、いろんな野球教室に連れて行ってもらったんです。自分も、子どもたちが野球を楽しいと感じ、好きになるきっかけになれたら、と思っていて」
今回は夏休みの臨時クラスではあったが、片岡が講師を務める野球教室はどれも人気だった。
まるで「水を得た魚」

「片岡安祐美さんが会社に入ったんだよね?」
現場でも、そんな話題になることは多い。ただ、多くの場合、続くのは「といっても、名前だけみたいなものでしょ?」という反応だ。
いやいや…。
週に3、4日は出社している上に、上記の始球式のように、他の仕事で会社にいない日にも彼女から業務メッセージが届くことがしばしば。週に一度の商品開発会議のメンバーでもある。
がっつり会社員なのだ。
もっとも、今もゴールデンゴールズの監督であり、芸能活動も続けている。何足のわらじか分からない状態の片岡だが、千葉・柏市のフィールドフォース本社も、彼女の主戦場であることは間違いない。

何年も前から、片岡はゴールデンゴールズの監督として、東京・足立区のボールパークを練習で利用することがあった。
その頃から彼女を知る、ボールパーク事業部長の成田雄馬は「最初は、とにかくエネルギーがすごい人だなと思った記憶があります」と出会いを振り返る。「その彼女が入社して同僚に。どうなるかと思っていましたが、ものすごいスピードでみんなとなじんでいて、驚くばかりです。彼女のタレント性も、まったく嫌味になっていない。すごいと思います」
すでに片手間というよりは、「水を得た魚」のような働きぶりなのだ。
「子どもたちに野球を教えるのも、やりたかったことのひとつだし…」
片岡が楽しそうに話す。
「鎌田さんと打ち合わせて食育の動画を撮ってもらい、今泉(翔太)さんと一緒に野球教室で子どもたちに教えて、WOMEN'S FORCEの女子選手向け企画やイベントでは岩上(艶)さん、(田中)真未さんと一緒に。どれも私ひとりでは、取り組むのが難しいことばかりなんです」
彼女の仕事ぶりを見ていると、これまでの野球人生で得てきた、豊富な知識や経験のアウトプットの場として、フィールドフォースを選んだのだろうと感じる。
それだけにとどまらず、初めての会社員生活で、現場での反応や、他の社員とのコミュニケーションや共同作業を通して生まれる新たな経験も糧に、片岡はさらに次のステージへと歩みを進めているようでもあるのだ。
気づけば彼女にのせられて…

フィールドフォース入社を目指すきっかけは、所属事務所の事情により、独立したタイミングだった。
「この機会に、新たなことに取り組みたい、と思ったんです。野球の仕事で」
片岡が振り返る。
「中学生になった甥っ子が野球をしていて、熊本の実家や、妹の家にフィールドフォースの製品がいくつもあったんです。それまで、ゴールデンゴールズの練習でボールパークを使わせてもらったことはあったんですが、あらためて、こんなふうに少年野球を応援するメーカーなんだ、と認識して…」
フィールドフォースには、日本代表チームで一緒になって以来、20年来の付き合いがある、企画開発課長の小林夏希がいる。その小林に連絡、相談し、社長の吉村尚記と面接の運びになったのだった。
片岡から連絡を受けた小林は「それまでと同じように、ゴールデンゴールズの練習場利用の相談かと思ったので、とにかくびっくりしました」と振り返る。「話を聞いて、一切の迷いなく“もし一緒に働けたらうれしい”と思いました。私の中ではずっと変わらず、自分が中学生で、片岡さんが高校生だった頃から、JAPANチームで下っ端としてお世話になってきた“身近な頼れる先輩"なので…」
現在、育児休暇中の小林は「復帰後、新しい取り組みを一緒にできることがすごく楽しみなんです。知名度があり、ハイレベルな選手向け企画に強い片岡と、女子学童選手やスターター向け企画が得意な小林で、WOMEN'S FORCEを盛り上げていけたらと思ってます」と、一緒に働く日を心待ちにしている。

そして、面接をすることになった吉村は…。
「付き合いの長い小林が勧める人物。心配はしていませんでした。最初に会ったとき、片岡さんには『面接ではなく、雑談だと思って話して』と言ったんですよね。彼女は話もうまいけど、人の話を聞くのもうまい。気づけば、彼女にのせられたのかな、私の方がいろいろ話しているような面接でしたね」
そう言って笑うのだった。
「野球に対する彼女の思いも伝わったし、場の空気を一変させるような魅力のある方だと感じました。女子野球のパイオニアでもあり、修羅場をくぐってきた強さを感じます。そして、前向きで失敗を恐れない姿は、わが社の社風にも合っている。私も見習うところは多いですね。…ちょっとほめすぎですかね」
驚くべき速さで会社になじんで

そうして、片岡はフィールドフォースの一員となった。
WOMEN'S FORCEで共に活動する事も多い、経理課の岩上は「小林さんと仲がいいという話は聞いていたので、彼女と同じく元気な方なんだろうなとは思っていましたが、それだけにとどまらず、パワフルな方」と片岡を評する。「私自身は真逆なので、思いを行動に移す彼女の力には、本当に驚きます。それも雑な感じはなく、自分の考えをしっかり持っている。尊敬できる方です」
鎌田は食育関係の動画撮影で彼女と作業することが多い。「自分からは遠いところの人というイメージでしたが、実際に会ったら、そんな感じはまったくない。いるだけで、その場を明るくできる方」と言い、「動画撮影に関していえば、被写体としてもプロ。本番になると入るスイッチのようなものがあって、参考になるところは多いですね。撮ってる側としても、彼女に気付かされる部分があるんです」。
野球教室で行動を共にすることも多い今泉は「最初は“えっ、あの片岡さんが。まじか”と思いましたよね」と回想する。「実際にお会いして一緒に動いてみると、隣で教えている自分が情けなく思えるほど元気。それだけでなく、子どもたち一人ひとりに丁寧に向き合い、引き出しがとにかく多い。選手として、指導者として一線級で活躍してきた経験の豊富さがにじみ出ているというか。とにかく参考になるし、刺激をもらっています」

再び片岡本人──。
「自分にとっては初めての会社員の経験で、すごく楽しいんです。たとえば今泉さんと一緒に子どもたちに教えるときには、教え方の違いに学びがあるし、野球経験のない岩上さんや真未さんと一緒に取り組むWOMEN'S FORCEでは、ずっと野球しかしてこなかった私の“当たり前”がそうではないことにも気づかされたりして、それも新鮮で楽しい」
彼女自身は女子プレーヤーが少ない中、男子中心の野球観の中で育ってきた。
「髪型も、基本はずっとショートカットで。髪を伸ばしたのは、成人式とか妹の結婚式とか、特別な時だけでした。今は女子野球選手もチームも増えて、以前とは違います。女子野球の盛り上げを考えたときには、野球だって“カワイイ”を求めていい。野球がもっと楽しくなる発信を続けていきたいですよね」

すでに彼女発案の子ども向け企画「THANKS FORCE」が進行中で(→こちら)、グラブ工房では「Glom」ブランドで女子選手向けの「片岡安祐美モデル」製作も進む。
デスクでノートPCをカタカタと操りつつ、会議で仲間たちと意見を交わしつつ、トレードマークの大きな声で冗談を言い合いつつ、同僚たちに新たな気づきや刺激も与えながら、今日も会社員・片岡安祐美はアップデート中だ。