ポップアスリートカップの全国ファイナル準決勝の第2試合は、初出場同士の対決に。終始、押し気味に試合を進めたのは、夏の全国大会(全日本学童マクドナルド・トーナメント)ではお馴染みの越前ニューヒーローズ(福井)だった。だが、じわりとペースを手繰り寄せての代打サヨナラホームランで決勝進出を決めたのは、名古屋ドジャース(愛知)。過去に2度、「冬の神宮」を目の前にして予選で涙した、先輩たちの無念も晴らす劇的な勝利だった。
(写真=大久保克哉、鈴木秀樹/文=大久保克哉)
※サヨナラ弾の動画➡こちら
■準決勝2
12月7日◇明治神宮野球場

▽第2試合
越前ニューヒーローズ(福井)
000100=1
000102x=3
名古屋ドジャース(愛知)
【越】黒﨑、納谷-島碧
【名】大脇-成岡
本塁打/後藤(名)
二塁打/島碧2(越)、大脇(名)
【評】前半戦は0対0、ヒットは1本のみだった。名古屋ドの右腕・大脇幸汰は、果敢な相手打線に対して100㎞に迫る速球で勝負。2回には左翼手の三田村柊吾が、背走しながらライナーを好捕などバックもよく守った。一方、越前の左腕・黒﨑大夢は常時100㎞超の速球で、完全試合ペースの快投。3回裏の9人目に与四球で初めて走者を出すも、けん制死を奪い切り抜けた。試合は後半戦で動く。4回表、越前は島碧生の左翼線二塁打から一死三塁とし、四番の5年生・納谷悠聖が右前へ先制タイムリー。その裏、名古屋ドは先頭の一番・若林優真主将が四球から二盗、続く大脇の中越え二塁打で1対1に。6回表に一死満塁のピンチを脱した名古屋ドはその裏、先頭の今村真夏斗が左前打。そして代打・後藤幹太が3球目をレフトの頭上へ。これがサヨナラのサク越え本塁打となった。
〇名古屋ドジャース・蛯澤俊典監督「我々より明らかに強い相手で、先発投手は今まで出会ったなかでもホントにひと握りの素晴らしいピッチャー。序盤は立ち入るスキもまったくありませんでした。それでも選手個々が考えて、四球や盗塁からきっかけを得られたと思います」
●越前ニューヒーローズ・納谷将史監督「相手は打力のあるチームと見てましたけど、バットがみんな振れてましたね。ウチは6回表に1点がほしかった。(連打と犠打で二、三塁から)申告敬遠で一死満塁も想定内で、作戦も考えましたけど、子どもたちを信じて打たせました。結果、打てませんでしたけど、ぜんぜん後悔してないです」
名古屋ドの大脇(上)は61球で1失点完投。越前の黒﨑(下)は3回二死までパーフェクトピッチ

4回表、越前は島碧の二塁打(上)から一死三塁とし、5年生の納谷が逆方向へ先制タイムリー(下)

名古屋ドは、失点をすぐに取り戻す。4回裏、若林主将が四球から二盗(上)、続く大脇が中越えの適時二塁打(下)
5回表、越前は先頭の梶谷來希(5年)が左前打(上)も、続くバントは投前への小飛球に。これを捕球した名古屋ドの大脇が一塁送球で併殺(下)

1対1の6回裏、名古屋ドは左前打の今村(上)を一塁に置いて、代打・後藤が左越えのサヨナラ2ラン(下)

―Pickup HERO―
“代打の神様”再降臨。大会2本目は、自身初のサヨナラ&サク越え弾
ごとう・かんた
後藤幹太
[名古屋ド6年/投手]
3年生から夏の全国大会でプレーし、この「冬の神宮」では2試合で5打数5安打。捕手としても出色のパフォーマンスを披露してきた越前ニューヒーローズの島碧生(「2025注目戦士㉓」➡こちら)は敗退後、こう言って脱帽した。
「最後はすごいバッターでした。打席に立った瞬間から、打ちそうやなというのがありました」

最後のバッターとは、名古屋ドジャースの後藤幹太。1対1で迎えた6回裏、無死一塁から代打で右打席に立つと、レフトへサヨナラ2ランを放ってみせた。飛んだ瞬間にそれと分かる、鋭い出足のライナーが両翼70m地点からのフェンスエリアの向こうへ。目の覚めるような一発だった
「とりあえず、つないで点を取ろうと思ってたんですけど…。打ったのは? インコース。来ると思ってました。サヨナラホームランは? 初めて。サク越えホームランは? 初めて。うれしかったです」


今大会2度目のヒーローだが、無骨な語り口は変わらない。1本目の殊勲打は、前日の西埼玉少年野球(埼玉)との1回戦で放った2ランだった。
0対0で迎えた6回表、二死二塁から代打で登場すると、巨人Jr.の大型右腕・新井一翔から左越えの本塁打。ただし、2回戦までは神宮のフィールドで2試合同時進行で、外野の打球はすべてフリー。後藤の先制2ランも、その裏の西埼玉・新井の同点2ランも、ランニングホームランだった(名古屋ドが抽選勝ち)。

ともあれ、NPBジュニア戦士にも引けをとらないスラッガーがなぜ、試合の冒頭からプレーしていないのか。試合前のノックでは二塁で軽快に動いていたが、愛媛・松山NORTHを6対0で下した2回戦は、ベンチを温めたままだった。
「肘を痛めていて、投げられるようになったのはごく最近なんです。投げられるといっても、まだ距離とか数を限定している段階でして」
教えてくれた蛯澤俊典監督は、後藤の野球センス以上に根気を高く評価していた。結果として、ノースローは5月から半年以上にも及んだ。その期間はボールを握ることなく、下半身中心のトレーニングやランニングに励んできたという。


「気持ちを切らさず、よくここまで来たなと思います。あと、背番号2(藤本勝乃助)も出てないじゃないですか。彼も主力なんですけど、ケガで一塁コーチャーに。出ているメンバーも、出られないメンバーもひとつになってよくやりました」(蛯澤監督)
後藤は出番が訪れるまでの攻撃中は、三塁コーチボックスにいた。そして合間にはストレッチをしたり、投手のフォームにタイミングを合わせたり。神懸かり的な一発は、そういう準備も経て生まれたものだった。
そんな背番号1が、決勝ではいつもより早くコーチボックスから呼び戻されて打席へ。そして二塁守備にも就くことに。果たして、2度あることは3度――。

―Team Inside Story―
6年生ラストステージ。神宮で映えた“猛烈軍団”

第3位
えちぜん
越前ニューヒーローズ
[福井県]
2回戦までの大会初日。複数のタレントとハイパフォーマンスに加えて、「超」のつくアグレッシブ野球で圧倒的な存在感を放っていたのは、福井・越前ニューヒーローズだった。
夏の全国3位も打倒
知る人ぞ知る、実力派のイケイケ軍団。2022年夏の全国デビュー以来、大舞台で数々のドラマを生んできた。12点取られて13点取り返した、2023年夏の全国1回戦(対京都・伊勢田ファイターズ)での空前の大逆転勝利は、今や語り草となっている(リポート➡こちら)。

2025年夏の全国は初戦の2回戦で敗退も、8強入りした木屋瀬バンブーズ(福岡)に序盤2回で8点を奪われながら、中盤で6得点と盛り返していた。そしてこのポップアスリートカップの北信越最終予選では、夏の銅メダリスト、旭スポーツ少年団(新潟)も4対0で破ってきていた。
「ウチは去年、この大会(ポップアスリートカップ)があることを知って、最終的に神宮球場でできるんだったらぜひ、目指してみたいなと。マック(夏の全国大会)で負けてからは、神宮を目標にやってきました」(納谷将史監督=下写真)
芯が太くて、尖りまくっている固有のスタイル。初めてやってきた「冬の神宮」でも、それは不変だった。

下級生たちが我がもの顔でプレーするのも伝統で、沖縄・世名城ジャイアンツとの2回戦では、5年生の四番・納谷悠聖が決勝打(=上写真)。それも二死二塁のカウント3ボールから、初球ストライクを強振しての三塁強襲安打だったが、父親でもある指揮官は平然とこう振り返っている。
「ウチは基本的にノースリー(カウント)でも『待て』はないので。いい球が来たらどんどん打っていけ、というのが昔からのスタイルなので、あのタイムリーも別にみんな驚きはしないし。単純に、いい球が来て打ったんじゃないですか」
根拠を伴うイケイケ
いわゆる『好球必打』も、口先で唱えるだけの安っぽいものではない。各種の打撃練習と実戦でのトライ。これを積み重ねてきたからこそ、一人ひとりの骨の髄まで沁み込んでいる。

三番・三塁の橋本(上)と、七番・中堅の梶谷(下)も5年生。納谷とのトリオで新チームの屋台骨に

大会2日目の準決勝も、マイスタイルを貫いた。八番・中野立騎から3者凡退に終わった3回の攻撃は、わずか5球で終了。だからといって、いちいち大人の干渉はない。また、三番・橋本日々翔(5年)が2つの犠打を決めたように、状況によってはバントもある。
4回表には、先頭の島碧生が初球ストライクを左翼線に運んで2打席連続の二塁打で出ると、続く橋本の初球打ち(遊ゴロ)で一死三塁に。そして四番の監督ジュニアが、カウント2-2から右前タイムリーで先制した。

渡邉結大主将は2回戦で中越え適時二塁打(上)。右翼手の小平湊大は準決勝の初回にファウルフライを好捕(下)
ディフェンス面は、攻撃ほどの派手さはないものの、熟練度と細やかさが随所に見て取れた。例えば2回戦では、先頭打者にライト線を抜かれた際に、投手と左翼手が三塁のバックアップへ動いていた。
要するに、守備はザルでも打ち勝てばいい、という単細胞なチームでもないのだ。そのあたりも伝統であり、練習と経験の賜物。そう指摘するのは、2024年までの田中智之監督の時代からベンチに入っていた納谷監督だ。
「ウチは人数が少なくて、ちっちゃいときから5・6年生と一緒にやってきてる子が多いので、カバーリングとかも自然に身についてますよね。練習試合ではもちろん、そのあたりも厳しく言ってますけど」

左翼手の中野立(上)も二塁手の増永蓮凰(下)も、ボールウォッチャーにならずカバーリングや連係も適切だった

6年生になると毎年のように、世代屈指のタレントに成長する選手が出てくる。このチームでは左腕エースの黒﨑大夢と、受ける島碧のバッテリーだ。
前日の2回戦に続いて準決勝も先発した黒﨑は、開始1球目で自己最速104㎞を計時し、7球目には106㎞へとまた更新。フルカウントからのこの最速球で、2回戦で1本塁打の若林優真主将(名古屋ドジャース)を左飛に打ち取り、波に乗っていった。

黒﨑は左腕の特長も生かしたフォームと快速球が目を引いた

先制直後の4回裏に1対1に追いつかれるも、続く一死三塁からのスクイズを外すと、落ち着いて三走を挟殺した(=下写真)。
二番打者として右へ左へ打ちまくった島碧は、マスクをかぶっても輝きまくった。捕球、送球、フットワーク、どれもピカイチだった。

大舞台を彩る役者陣
出色のバッテリーを含む、越前の6年生たちは、この大会の準決勝をもって卒団していった。もう1試合、決勝までプレーしたかっただろうが、同点の6回裏にサヨナラ2ランを浴びて散った。それでも3年生から神宮でプレーしてきた島碧は、清々しい表情でこう総括した。
「負けた悔しさはあるけど、みんなも自分も打てたし、最後の大会で楽しかった。やっぱり、この神宮とか全国大会にいっぱい出て、いろんな経験ができて、楽しかった」

脚力に長ける伊藤羽琉は2回戦でピンチランナーに。6年生7人全員が神宮でプレーした
一人だけ、涙に暮れたのは最後に被弾した5年生右腕。打線では四番を張る納谷だった。4回途中から登板し、100㎞に迫る速球と時折りの遅球で打者4人を連続で打ち取ってきたが、最終回はアウトを奪えないまま、文句なしの一発を浴びてマウンドに崩れ落ちた。
「めっちゃ悔しいです。先輩たちが『来年あるから切り替えろ!』と言ってくれたんですけど…」

劇的なサヨナラ弾。これを打ったほう(名古屋ドジャース・後藤幹太)が人生初なら、打たれた納谷も初の体験だった。もう言葉が出てこない息子に代わって、父親監督が新チームの抱負を口にした。
「すでに息子がキャプテンで動き出しているんですけど、マック(全日本学童)と、この冬の神宮と、2つの全国を目指して、1つでも上に行けるようにがんばりたいなと思っています」
勝っても負けても、ドラマチック。2026年版、越前の“新劇場”はどういうクライマックスを迎えるのだろうか。新主将が火種を豪雪地へ持ち帰った時点で、序章はもう始まっているのかもしれない。

